40話
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俺がゴブリンたちを倒すのにそこまで時間は掛かっていないように思えたのだが、それでも俺が戻ってきた時にはリカルドには多くの傷が出来ていた。
やはり俺の援護なしでは厳しかったみたいだ。
一方ゴブリンキングの方は傷ついた様子はなく、体力面でもまだ余裕があるように見える。このまま戦い続けていたらリカルドが負けるのは時間の問題だろう。
「リカルド! こっちは倒し終わったから私も戦うね」
「もう終わったのか!? それは助かる。いや、レヴィはこのまま戻って他の冒険者にこのことを伝えてくれ!」
「何言ってのさ。今私がいなくなったらこれ以上リカルドが耐えられないじゃないか」
「それくらいの時間は稼いで見せるさ。ランクBの意地ってもんを見せてやるよ」
どう考えても俺がいなくなったらリカルドが無事でいるとは思えない。
俺が現れてからゴブリンキングはその動きを止めているが、俺がこの場からいなくなったらまたリカルドに攻撃をするだろう。
そうなればリカルドはすぐに攻撃を防ぐことが出来なくなってしまい、最悪の場合死んでしまうということもあり得る。そんなことは許すことは出来ないので俺の答えは決まっている。
「何言ってんのさ。そんなボロボロの身体で何ができると言うんだ。そこで私が戦っているのを大人しく見ているがいいよ」
「無理だ。俺でも手に負えない相手なんだぞ」
「そんなのやってみないとわからないじゃないか。どっちにしろここでリカルドを見捨てることなんて出来ないから、戦うしかないんだよね」
「だが、、、」
「はいはい。怪我人は黙ってそこで見ていてね」
そう言うと俺はもう構うことはせずに、自分の身体の魔力を高めていった。
するとそれに反応したのかゴブリンキングも同じように魔力を高めていることがわかった。今まで感じてなかったことだが、俺が出来るようになったからわかるようになったのだろうか。
とにかくわかるようになったのは良いことだろう。相手がどのくらいの魔力を高めているのがわかるのは相手の実力がわかるということでもある。
まぁまだ基準がないのでこれがどうなのかがわからないことが少し不満だが、今それを言ってもしょうがない。今後はこのゴブリンキングを基準に考えさせてもらおうではないか。
そのためにもこいつを倒さないとな。
ゴブリンキングが俺と同じように魔力を高めて身体能力を上げていることはわかったのでさっきよりも能力が上がっているということを気を付けた方がいいだろう。相手の実力を見誤ると危なくなる。
てか、リカルドは手加減されていたということか。
そりゃ戦っていても余裕そうに見えたわけだ。
さらに速くなって力も強くなるということだな。それなら俺もさっきゴブリンたちを倒したときよりも魔力を高めていかないといけない。それほどの実力を持っているということだ。
普段どんなに魔力量の低い人でも自然と魔力を身に纏っている。それは生物としては当たり前のことで魔物にもそれが当てはまる。
そして魔力を高めるというのは自分の中の魔力が貯めている場所から引き出して身体全身に広げていき全身に纏っている魔力を高めていく感じなため、その使った分だけ消費していく。
魔力で身体強化をしているので消費していくのは当たり前なのだが、ゴブリンキングはその纏う魔力の量がとても多い。
俺は基本的に魔力の心配はしないで良いっぽいので、気にせずに使っていく。問題はどこまで自分の身体を扱えることが出来るかということだろう。しかしこの差は大きいと思う。俺は気にせず戦えるがゴブリンキングは魔力量を気にして戦うことになる。
魔力を高めていったゴブリンキングは動くことはせずに、そのまま剣をこちらに向けて構えたままだ。俺に警戒しているのか、何か考えがあるのか。
俺としては時間を稼いでも、少しリカルドの調子が良くなるくらいで援軍も来ないであろうし、特に意味はないからどちらでもいい。
周りに他のゴブリンや他の魔物も確認できないし、何かを待っているということは考えられないと思う。つまり俺のことを警戒してくれているということなのだろうな。
さて、本格的な接近戦はこれが初めてなのだが、上手くやれるだろうか。剣術なんか習ったことはないのでただ振るうことしかできない。今まで倒していったのもそれだけで十分だったので考えたこともなかった。
でもそれはゴブリンキングも同じことだろう。剣術なんて習っていたら驚きだし、誰に習っていたんだと聞いてみたくなってしまう。
それならばどちらの方が反応速度が上か身体の扱い方が上手いかの勝負になるだろう。
例えるのであればただの殴り合いに近い感じになってしまうと思う。お互い技と呼べそうなものはなさそうだしな。
そんな予想をしていると、ゴブリンキングの方が少しずつだが間合いを詰めるようにこちらに近づいてきた。
余計なことを考えずに気を引き締めていかないとな。少なくとも剣の扱い方に関してはあちらの方が上のようだ。
俺には間合いなんてわからないので、ゴブリンキングが間合いに入る前に先制攻撃を仕掛けることにした。
俺は水の剣を振るいながらその長さを伸ばしていき、鞭のようにゴブリンキング目掛けて振るった。
しかしそれをゴブリンキングは剣で防ぐと一気に距離を詰めて来る。それに合わせて俺も水の剣の長さを短くし対応した。
俺目掛けて剣を振るうがそれを水の剣で受け止める。ものすごい力だが反応はきちんとできているし、押し負けることもないことはわかったので安心だ。
その後も移動せずにその場で攻撃をしたり防いだりしたがお互いに攻撃が当たることはなく、同じタイミングで一度距離を取ることとなった。
ゴブリンキングの速さにも力強さにも対応できている。しかしそれはあちらも同じようで攻撃が当たることがないということになってしまっている。
さっきリカルドと戦っていた時とは違い常に動く戦い方ではなく、移動せずにその場でひたすら剣を振るというような戦い方になっている。リカルドの方が遅いからそういった戦い方にしていたのだろうか、そうなるとゴブリンキングの方も色々と考えて戦っていることがわかる。
それならばこっちも有利になるように変えられるところを変えるだけである。
俺は定番になりつつある霧を発生させた。これによって普段の周囲の知覚よりもさらに詳細がわかるようになる。さっきもそうだったが、霧を発生させることによって自分が生み出したものだからか普段の水蒸気による近くよりもより分かりやすくなるのだ。
これも以前まではそんなことはなかったので俺も日に日に成長しているということなのだろう。
それに範囲もゴブリンキングとの戦いのためだけの距離しか広げていないのでこれ以上にないくらいにゴブリンキングの動きがわかるようになった。
後はゴブリンキングに俺と同じような探知能力がなければいいのだがどうだろうか。
ゴブリンキングは霧が発生したことでそれを避けようと距離を取ったのだがそれよりも霧が広がっていく速さの方が速く簡単に霧が飲み込んで行った。その後は首を動かして周りの状況を確かめているみたいだった。
その様子からゴブリンキングには俺みたいに見えなくても周りがわかるような能力はないと思われるが、俺たちが逃げていくときに正確に追って来ていたことが気になり少しだけそのことに警戒するのであった。
もしかすると位置はわかるという感じかもしれないからな。そうだったらゆっくりばれないように近づいていって攻撃するということも意味がなくなってしまう。逆に反撃されるということもあり得ることだ。
しかし今の状況は俺に有利なことは変わらないのでこの隙に攻めていくことにする。
俺は一気に距離を詰めて水の剣を振るった。俺の攻撃に反応し防いで見せたがその動きはさっきまでのもとは違い、ギリギリで反応しかろうじて防げたというような感じだった。
これならいけると確信した俺はそのまま引き続き攻めていった。足に腕に胴体に色んな所を攻撃していった。
するとだんだん防ぐことが出来なくなっていったゴブリンキングは少しずつだがその身体に傷を作っていった。
頭などの急所だけは確実に守っていてギリギリで反応して見せて水の剣が身体をかすめているが、ちゃんと攻撃が当たることはなかった。しかしこの様子であれば時間の問題であろう。
奇しくもさっきまでのリカルドとゴブリンキングとの戦いみたいな結果になっていた。今度は傷を受けているのはゴブリンキングの方ではあるけれど。
そして俺とは違って魔力も無限ではない。動きはどんどん悪くなっていき、魔力量も少なってきているのを感じることが出来た。
決着の時も近いだろう。
その時ゴブリンキングが剣を大振りしてきたので自然と俺も一度距離を取る羽目になってしまった。
その一瞬でゴブリンキングは身体の向きを変えて、俺とは違う方へと駆け出していった。
恐れていたことが起こってしまった。その進む先にはまだ満足に動くことが出来ないでいるリカルドの姿があったのだ。




