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水しか使えない最強生物  作者: 猫宮るな
35/126

35話

 マリーが部屋から出て行って少し経った頃、ユアも目が覚めた。


「マリーは?」


 まだ眠そうで目を擦りながらも、身体を起き上がらせてマリーがいないことに気が付いた。


「もう起きて、行っちゃったよ」


「そっか」


 今までだったらマリーのことなんて気にしていなかっただろう。俺が冒険者活動をしているうちにすっかり打ち解けているみたいだな。


 俺だけを見ていないことは少しの寂しさを感じてしまうが、もっといろんな人と会話をして行って欲しいとも思う。


 矛盾はしているがそれが俺の本心だ。


「さてと、それじゃあ私たちももう起きようか」


 俺はユアを着替えさせてから、部屋を出て下へと降りて行った。


 食堂へ行くと、すでにみんな起きているらしく、会話をしていたり、子どもたちが元気に騒いでいたりと賑やかな感じだった。


 子どもたちももうすっかり元気に暮らしているようで、少し女性たちを困らせている様子も微笑ましかった。


「おはようございます」


 一番初めに俺たちに気が付いたのは、マリーだった。


 すると他のみんなも気が付いた様子で、それぞれが俺に挨拶をしてきた。


「みんな、おはよう」


 それに対して俺も返してから、マリーの方を向くと目が合った。それから俺はからかうように頬をつり上げた。


 だが、マリーは目をすぐに逸らしてしまって、


「すぐに食事をお持ちいたします」


 と言って、行ってしまった。


 それくらい自分で持ってくるのだが、まぁからかい過ぎると怒ってしまう可能性もあるので、任せて素直に座って待っていることにした。


 しかしこう見ると、ユア以外の子どもたちはそれぞれ仲良くしているように見える。


 それに対して、ユアが来てもちらっと見るだけで話しかける様子もこっちに来るということはしない。


 これはユアだけが浮いてしまっていることを意味しているのではなかろうか。


 確かにユアはギルドに居るときもいつも俺と一緒にいたし、この屋敷内でも俺がいるときはいつも一緒にいる。


 これでは同世代の友達を作ることが出来ないのではないだろうか。


 それなら俺が心を鬼にして、ユアと少し距離を取った方がいいのかもしれない。


 絶対にユアは嫌がると思うが、会話する相手が俺やマリーだけというのは良くないことだろうし。どうにかしないといけない問題だろう。


 でも普段俺がいないときには話をしていて、今は俺がいるから話しかけることが出来ないという可能性もある。


 子どもたちとはあまり話すことはなかったし、面倒も女性たちに任せっぱなしにしているので、俺はほとんど交流がない。


 そういった理由で関りのない俺がいるから、ユアに話しかけることが出来ないということも考えられるからな。


 マリーに話を聞いてからでもいいだろう。


 それから朝食をマリーが持って来てくれた。


 俺とユアとマリーの三人分だ。どうやらマリーもまだ食べてはいないのかな。


「あれ? まだ食べてなかったの?」


「はい、一緒に食べようかと思いまして」


「そうなんだね。それじゃ待たせたかな」


「いえ、大丈夫ですよ。私もやることがありましたので、起きてすぐに食べることが出来るというわけではありませんでしたので」


「そう? ならいいけど」


 ああ、そう言えば、リカルドたちはもう行ったのか。そのことも関係しているのかな。


「リカルドたちはもう行ったんだよね?」


「はい。少し前に行きましたよ」


 やっぱりそうだったか。俺も一緒に行きたかったが、それはだめなことなのでどうしようもない。


 今日はとりあえずそのことを考えずにのんびりと過ごすことにしますか。クランのみんなとの交流も大事だしな。


 まずは朝食からだ。ということで三人で食べることにした。


 朝食の内容は、パン、サラダ、スープ、だった。


 パンは固くはないけど柔らかくもないといったもので、すでに慣れたが前の世界のものと比べると劣ってしまうものである。


 サラダは何の野菜かわからないが、野菜の味を感じるもので、苦いというかまぁそんな感じである。


 スープにはお肉が入っていて、これも何の肉かはわからないが、前の世界では食べたことのないものだった。


 全体的にこの世界の今まで食べた食事は前の世界と比べて、劣ってしまうようなものばかりだ。


 品種改良などどんな感じなのかわからないし、俺の舌が慣れていないものだからそう感じてしまっているのかもしれない。けれど、おいしいのだがあともう少しと思わずにはいられないという感じである。


 さてと、食事も終わり次は何をしようか。


 というか今日は何をして過ごそうか。


 娯楽が少ないということもあり、前までは暇なときはユアと話をしたりして過ごしていたのだが、流石に一日それで過ごすというのもきついものがあるだろう。


「何かすることとかない?」


 この屋敷のこともろくに知らないので、聞いてみることにした。


「いえ、レヴィ様はゆっくりしていて下さって構いませんよ」


「それだと暇すぎて、退屈すると思うんだよね。それにみんなが何かしている中ゴロゴロしているのもなんか悪いし」


「そうですね。それでしたら、この二日間ユアがやっていたことを一緒にやるというのはどうですか? レヴィ様もユアがどのようなことをしていたのか気になると思いますし、ユアもレヴィ様と一緒にいたいでしょうから」


「そう言えば、ユアはお手伝いをしているんだよね。それじゃあそうしようかな」


「うん! 頑張ってるんだよ!」


「今日はユアが実際に何をやっているのかを教えてもらおうかな」


「わかった!」


「では、そのようにしますね」


 ということになったのだった。


 話は聞いていたが、掃除をしたとかそういった大雑把なものしか教えてくれなかったのだ。


 食べ終わった食器を片付けて、まず向かった場所は屋敷の裏側だった。


 そこには雑巾がたくさん掛かっており、バケツなんかもそこに置いてあった。


 そのバケツを俺が持ち、井戸へと汲みに行く。いつもはこれはマリーがやっていることだったが、今日はユアと二人でやるということでマリーは手を出さないことになった。


 そして俺の魔法も今回は使わずに行動することにしたのだ。いつもは俺がいないのだから魔法を使ってやってしまっては意味がないからな。


 水を入れたバケツと雑巾を持ち、屋敷に二階へと上って俺の部屋へと入って行った。


 初めは俺の部屋を掃除しているらしい。


 そこまで行くと、マリーは終わったら教えて下さいと言うと、どこかへ行ってしまった。


 ここからはユア先生のお時間だ。


「どうすればいいの?」


「えっとね。まずは机や椅子を拭いていくの! それから壁とかを拭いていくんだよ!」


 俺に教えることが出来ることが嬉しいのか、元気な声で教えてくれている。


 俺はユアの指示通りに一緒に雑巾で拭いていく。


 ユアが届かない場所は俺が拭くことになるわけだが、俺も身長は高くないからな。


 そこは椅子などを使って俺が拭いていくことにした。


 にしても、ユアが拭いていると尻尾まで手と同じように左右に動くので、俺の視線はそっちばかりに行ってしまった。


 一緒に掃除してわかったが、俺の部屋の掃除のことは考えてはいなかった。こうして掃除をしてくれていたのだな。


 とてもありがたいことだ。


 そうして一通り掃除し終えたのだった。


「ん!」


最後にユアが腰に手を当てながら部屋全体を見て大きく頷いた姿を見てしまって、思わず抱き締めたくなってしまったが、そこを何とかこらえておのれの理性を働かせるのだった。


 終わったのでマリーに報告をしに行った。マリーは執務室にいて、何かやっている様子だった。


「見ましたか? あれ?」


 小さな声でユアに聞かれないように俺に聞いて来た。おそらくさっきの腰に手を当てて頷いたやつだろう。


 俺が頷くと、


「毎回やっているのですよ。すごく可愛いですよね!」


「毎回やってるんだ。それはすごく可愛いな」


 俺とマリーが共感していると、ユアは首を傾げながらこちらを見ていた。


 これで午前の手伝いは終わりということで、暇になってしまった。


 何をしようかと考えたが、いつもはマリーのところでぼーっと過ごしているらしく、他の子どもたちと遊んだりはしていないということだった。


 どうもユアの方が他の人と一緒にいるのが嫌ということらしかった。


 今日はいい天気なので、せっかくだから庭で遊ぼうかね。


 そういったことは今までできなかったし、ユアも身体を動かした方がいいだろう。


 何か面白そうな遊びはないかと考えながらも、ユアと外に出た。


 この屋敷の庭は元貴族が使っていただけにとても広く、半分以上が真っ平らな地面になっている。


 それ以外は植物が植えてあったり、畑のようになっていたりと現在ではすでに有効活用しているようだ。


 ここに来たときは全体的に荒れていて、とても遊べるような環境ではなかった。というかまともに歩けるような状態ではなかったのだ。


 それがみんなの努力があって今の整った状態になったのだった。


 さてと、何かをしようか。これで上手く他の子どもたちとも仲良くなれたらいいと思い、良い案がないか考えるのだった。


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