31話
安全な壁の上には居るが魔法や弓矢の撃てる回数が限られていたり、道でゴブリンたちの相手をしている人たちの方は、ゴブリン自体の強さはあまり強くないが倒れていくゴブリンが積み重なったりして、戦いにくくなってしまったり。
そんな小さなことが積み重なっていって、戦っている冒険者たちをだんだんと苦しめる要因になっていた。
しかしゴブリンの数はまだ減っておらず、その数は半分にもなっていなかった。
そんな戦況をみて、俺もゴブリンたちと戦いたくてうずうずしてしまっていた。
「大丈夫ですよ。彼らは強いですから」
落ち着いた様子でギルドマスターは俺に言ってきた。
「いざとなれば冒険者たちを街の中に戻して、門を閉めてしまうということも出来ますからね。もっともそんなことをしたら私が怒られてしまいますが」
安心させたいのだろう。俺の様子を見て、こんなことを言っていることは簡単にわかった。
正直、魔法を使っている冒険者を見ると、俺がやった方が連続して魔法を使うことができるので、もっと多くのゴブリンを倒すことができるはずだ。
それだとその人たちの仕事を奪うことにもなるし、俺の特異性も、もしかしたらすでに手遅れかもしれないが、多くの人に知られてしまう。
俺一人がそのことで大変になるのであれば、仕方がないと思うことも出来るが、俺にはクランの仲間たちがいる。
クランの他の人たちにまで迷惑をかけるようなことはしたくない。
小さな子どもだっているのだから。
「それにこの状況を予想していなかったわけでもないですからね。この街ではこういった魔物の進行は過去にありませんでしたが、他の街ではそういった記録はあるのですよ。そして冒険者ギルドというのは色んな街にありますからね。情報の共有は普段からしていますし、そういった危険なものは特に詳しく報告されるのですよ」
過去にあったことであれば、それを参考にすることも出来るということか。
「しかしまぁこんな森に囲まれているという街は他にはありませんので、今回の報告は詳細に書かないといけないのですよね。そう思うと今から憂鬱ですね。しかもそれに加えてレヴィさんのこともありますから、どうしましょうかね」
「なんかすみません」
「いえ、先程も言いましたが、助かったのは事実なのですよ。それでもこんな若い子がすごい魔法を使ったことを報告しないといけないとなると、信じてくれるかどうか。もうこの際適当にごまかすのも手ですかね。それか誰かの功績にすり替えるとか」
俺のことで面倒ごとが増えていそうで申し訳ないが、そのことを言ってもおそらく否定されてしまうので言うだけ無駄ということになるのだろうな。
俺としては面倒ごとは嫌なので、ぜひともばれることなくごまかす方向で頼みたいところではある。
まぁそこら辺はリカルドに任せておいて、後はなるようになるかな。なるといいな。ということなので今は考えないでおくことにする。
その時道側の冒険者たちの方で動きがあった。
誰かが森の木々ごと倒れているゴブリンや向かって来ているゴブリンをまとめて吹き飛ばしたのだった。
今のはみた感じ風の魔法であろうか。その魔法の強さはすごく、大量のゴブリンたちを風の刃で切り裂いて、木々を巻き込みながら吹き飛ばして行ったのだ。
そのことをギルドマスターに伝えると、
「作戦通りですよ。撃つ場面などは本人たちに任せていましたが、後は我慢比べですね」
「そうなのですか?」
「ええ、冒険者の中では、魔法も使える人でも近接戦闘ができるという人は珍しくありません。レヴィさんのクランの人族の二人もそうですしね。なのでそういう人たちには、倒れているゴブリンたちが戦いの邪魔になってしまわないように、ある程度の間隔で魔法で吹き飛ばしていただくということをしてもらっているのですよ」
「なるほど」
「それでも何発も撃てるわけではありませんからね。周りの状況に合わせて本人の裁量でやっていただくことにしました。その時に森のことを気にしていては、冒険者の安全が守れませんから多少森が無くなってしまっても大丈夫だと許可を出しました」
「そうだったんですね。そのやり方であれば、倒れているゴブリンたちをどかすことも出来ますし、ついでに向かってくるゴブリンも倒せるということですか」
「ええ、その後はもうゴブリンたちがいなくなるのが先か、冒険者たちの体力がなくなるのが先かって、ということになってしまいますけどね」
「壁の上の遠距離の方も何か作戦みたいのはあるのですか?」
「そちらはですね。とにかく魔法や弓矢を撃って倒して行けとしか言ってないので、特にありませんね」
「ないんですか」
どちらにしてもゴブリンたちがいなくなるまで戦えるかが大事になっている。
ギルドマスターと話している間もゴブリンの数は減っていき、すでに半分以上は減っていた。
俺が行くことは許されていないので、祈ることしかできないが頑張って欲しい。
道の方にいる冒険者も交代しながら、上手くゴブリンたちを倒しているようだった。
その中でもいくつかの場所で、派手に魔法を撃っていたり、炎で燃えていたり、積み重なっているゴブリンの数が多かったりと周りとは違った光景をみせているものたちもいる。
この人たちが冒険者の中でもランクが高く、強い人たちだということがわかった。
しかし何というか、みんなゴリ押し感が強くて冒険者というものはみんなこうなのかと思えてくるものだった。
特に最後のは剣で倒しまくっているのはいいが、足場なんか関係ないとばかりに強引に倒して行っている。その人の特徴は角が生えていることだが、きっと知らない人だろう。
うん、そうに違いない。
相手が相手だけにそうせざるを得ないところもあるのだとは思うが、何とも言えなくなってしまう。
そんなこんなで時間は過ぎて行った。
空が暗くなるまでもう少しという頃には、ゴブリンたちの九割が倒されていたのだった。
その日の戦闘はそこまでにすることにして、みんな引き上げて外へと繋がる門を閉めるのだった。
ギルドマスターも途中から指示だしなどの仕事はほとんどなくなり、暇を持て余している感じだったこともあって、俺とずっと会話をしていた。
内容は今日の一連の出来事である。
まずギルドマスターのもとに、東側の奥の森へ行っていた冒険者から大量のゴブリンがこの街へと向かっているという報告があった。
そしてそのすぐ後にリカルドが来て、同じ内容の報告をしたのだった。
それを聞いて、すぐさま冒険者を集めるために鳥を使って北側、西側に出ている冒険者を呼び戻すことにした。
街の中にいる冒険者たちにも呼び掛けて、緊急依頼を出した。
ゴブリンたちはすぐそこまで来ていて、呼び戻している冒険者たちが間に合うかどうかわからないが信じて待つしかなかった。
その間ギルドではギルドで保管している回復薬などの用意をしたり、領主に報告したり、住民に説明したりと忙しくしていたという。
時間が掛かってしまうというのはわかっていたが、俺が押し止めをしているということも知っていたので、焦ってしまう気持ちもあったのだとか。
それでもこういう時のために領主とは以前から話し合っていたこともあって、スムーズに事は運んでいき、何とかゴブリンたちが来る前に準備が整うことができた。
リカルドは冒険者の中でも顔は広い方なので、呼びかけなどの手伝いをしてくれていたそうだ。
いくら途中で会ったクリムとギルに俺のことを頼んだと言っても、心配する気持ちは変わらないようで、ずっとどこか落ち着きがない様子だったとか。
そうしてギルドマスターやリカルドが門のところに移動して、俺と合流できたということだった。
俺が会った時のリカルドは落ち着いているように思えたのだが、どうやら本当は違ったようだ。
リカルドたちが俺のことを気遣ってくれていることに改めて感謝の気持ちを感じた。
すごく疲れた様子で外から無事に帰って来たリカルドたちを出迎えながら、次こそは俺もみんなと一緒に戦いうことを決意したのだった。
でも今だけはその気持ちを抑え、リカルドたちがこちらに向かってくるのを待って、笑顔でこういってやるのだった。
「おかえり」




