26話
疲れていたわけではなかったが、四体のゴブリンを倒したこともあり、ちょうどいいので休憩することになった。
そもそもこの身体は疲れるのだろうか。思い返せばこの身体になってからは疲れたと感じることはなかったと思う。
いままで疲れることをしていないということかもしれないが、街へ来る途中なんかはずっと歩きっぱなしだったのだから、少なくともそれだけの体力はあるはずだ。
それに身体の疲れはなくとも、精神的な疲れはわからないのでそこんところは気を付けた方がいいのかもしれない。
でも休憩と言ってもそこら辺の座れそうなところに座るか、地べたに座るしかないのだけれど。
椅子やテントなどの便利なものはまだ持っていないし、持っていてもこの場所ではすぐに動けるようにそう言ったものは使わないのだろうし。
いい場所が見つかると、俺は持っている鞄の中から水が入った水筒をリカルドへと渡した。
この鞄の中には、出かける前に用意した水筒二つと、用意してもらったお昼ご飯が入っている。後はタオルとかかな。
入れている物の時間を止めるという便利な機能は付いていないが、日光に当たることもないので、一日くらい保存食でなくとも問題ないという判断のもと用意してもらった。
こんなちゃんとした食べ物を食べられるのは、冒険者をやっているとそうそうないということだとリカルドは言っていたが、本当かどうか怪しいものだ。
屋台で買ったものとかを入れておけばいいのだし、そこまで難しいものではないと思うのだが。
確かに俺たちだけのために作った女性の手作りという意味では、そうそうありつけるものではないと思うけどね。
休憩中リカルドはずっと何かを悩んでいるようだったけど、めんどそうなので俺は聞かないで置いた。
関わらないで済むのであればそれに越したことはないだろう。ただでさえこれからクランとしてやっていけるのか、わからないのに。
休憩を終わらせて、引き続き森の奥へと向かって進んで行くことになった。
「何か少し変な気がするから気を付けて行こう」
「わかった」
真剣な顔でそう言われてしまったので、俺は素直に頷いた。
森の中を進んで行きながらも、疑問に思ったことがあったので聞いてみた。それに流石にこのままリカルドだけが一人で悩んでいるというのはだめだと思ったのだ。
「この奥でもし何かあったのなら、すでに奥の方に行っている人たちがわかっているんじゃないの?」
「そうかもしれないな。だがもしその手前で何かが起こっていた場合は、そいつらもわかっていないということはあるかもしれない。後は道から離れていた場合か」
「ん?」
「街から南側と東側の中間の森に俺たちは今いるわけだが、道もその間にはないんだ。だからちょうど真ん中らへんは冒険者もそこまで入って行く人たちは少ない。帰るのにも馬車を使って帰るからな」
「なるほど、森は大体扇状に広がっているから、その真ん中のところは他の人も行かないのか」
「そう言うことだ。だからそこで異変が起こっていたとしても気が付きにくくなる」
そう言うことであれば、確かに気が付かない場合もあるのかもしれない。
しかし気にし過ぎるのも良くないだろう。それに俺の探知能力もあるのだ、もし何かあったとしても考える余裕くらいはあるだろう。
まぁこういうことがフラグみたいになることもあるし、考えない方がいいように思えてきた。
「考えても仕方ないし、何か気が付いたら私も言うからさ。気にせずに行ってみようよ」
「そうだな。考え過ぎってこともあるしな」
何か起こりそうで何も起こらない、そんな森の探索を再開するのだった。
「数は三、全てゴブリンだね」
「わかった。魔力に余裕があるのであれば、二体とも倒しちゃっていいぞ」
「了解」
ゴブリンを見つけては、二人で倒すという作業をして、進むこととなってしまっている。
なぜかゴブリン以外の魔物が出て来ることはなかった。
出来ればもっとお金になるような魔物と会いたいのだが、ゴブリンだと魔石しか売ることができないので、あまりお金にならないのだ。
それに魔石の大きさも小さいので、魔石自体の買い取り値段も少なくなる。
数は多いので、集めればそれなりの値段になるだろうが、それでもやっぱり一体で多くのお金を手に入れる方がいいと思ってしまう。
昨日フォレストベアを倒せたこともあってその考えを大きくしてしまうのだった。
それにしてもゴブリンを見つけるたびに、リカルドの顔が険しくなっていってるような気がするのだが、いや気のせいではないのだろうな。
俺としては気のせいだと思いたいのだが。
昨日はゴブリン以外の反応もそれなりにあったのだが、今日は全くと言っていいほど他の魔物がいない。
それから二桁を越えるゴブリンを倒した。出現頻度も奥に進むにつれて、多くなっているような気もする。
俺は落ち着いて話をするためにも、このまま進むのかどうかを聞きたいのでリカルドに話しかけた。出来れば絶対面倒ごとになるので戻りたいのではあるが。
「一回休憩しない? そろそろお昼の時間だと思うし」
「もうそんな時間か。そうだな、休憩しよう」
俺の申し出を素直に聞いてくれたことに少し安心しながら、鞄からご飯を出した。
お弁当の中はパンに具材を挟んだものだった。
こういうところでも食べやすいので、もしかしたら気を使ってこういうものにしてくれたのかもしれない。
リカルドの分は俺のよりも少し大きいみたいで、よく考えて作ってくれていることが容易にわかるものだった。
後でお礼を言うことを心に決めて、口を開けて食べだした。
リカルドの方も食べるときにはきちんと食べるなどのことを前に言っていたこともあってか、考え込んでいたが今は食べることにしたみたいだ。
そうして食べ終わった頃を見計らって、声をかけてみた。
「どうする? このまま進んでみる? それとも戻る?」
俺としてはそんなに不安なのであれば、引き返すというのもありだと思うのだが。というか、俺は戻りたい。
「うーん、確かに戻るのもありだな。しかし本当に何か起こっているのであれば、それを確かめるということもしないのもあれだしな」
リカルドもゴブリンが多い理由を確かめることと、素直に街へと戻ることを悩んでいるらしい。
「この異常も可能性は二つある。森の奥に強い魔物が現れて、森の奥からゴブリンたちが追いやられて出て来たというもの。それとゴブリンが大量に増えていて、その中の溢れ出た奴が浅いところにやって来ている。この二つだな」
「でも前半のだと、他の魔物が見当たらないのは理由にならないんじゃないの?」
「そんなことはない。その強い魔物が獣型の場合、弱い魔物を従えている可能性もある。だから獣型ではないゴブリンしかいないとも考えられる」
「なるほどね。後半の場合は他の魔物がゴブリンの餌になったとも考えられるけど、そんなことできるの?」
「ゴブリンがいくら弱くても、数を揃えれば強い魔物でも倒すことができるだろう。だからあり得る話ではある」
「なるほどねー」
「しかし、これが考え過ぎでたまたま俺たちが見つけることができていないということも無きにしも非ずってところだな」
だからもっと確証を得られる何かを見つけておきたいと思うわけか。
「私としては面倒ごとはいやだから、街に戻ってもいいと思うけどね」
「そうか。そうだな、確かに俺たちが原因を突き止める必要はないからな。ギルドに伝えとけば調査くらいはしてくれるだろう」
ということで。森の探索はこれくらいにして、街へと戻ることにした。
そうして休憩を終えて、立ち上がった瞬間、それは起きてしまった。
フラグをいくつか立てていたからか、お決まりの定番イベントだからかはわからないが、俺の知覚範囲に大量の魔物が入り込んできたのだった。




