2話
自然と閉じていた目を開けるとそこはさっきと変わらず真っ白な空間だった。
あれ? と不思議に思い、周りを見渡すと他の三人はすでにここにはいなかった。
しかし、説明をしてくれていた男性は変わらずそこにいた。
「まだ、君が選んだものについての説明がまだだったからね。これについても大枠は説明するけど、細かい説明はなしで、すぐに転生してもらうからね」
そういや説明がまだだったな、流れ的にそのまま転生させるかのかと思った。
まぁでもそういう特別扱いはしないということか。
「君の能力は、名前はレヴィアタン、リヴァイアサンとも言うね。最強の生物とも言われているあれだね。まぁそんな大層なものではないんだけどね。簡単に言うと、水系統特化型の能力って感じかな、生まれ方が特殊だからその説明は必要なんだよね」
なんか、それってすごい能力なのではないのだろうか。俺もインドア系の人間だからそういう話は読んだりしているが、リヴァイアサンといったらすごく有名どころだろう。
「生まれ方なんだけど、水から生まれて、そのまま実体ができるまで水の中を彷徨う形になるんだよ。基本的には身体が水なんだよね。その時の意識は希薄になるから問題はないし、身体が水だから他の生物に襲われる心配もないよ」
え? 身体が水? 水の中で生まれるというのはまぁわかるが、身体が水と言うのはどういうことだろうか。
「君の能力は水が集まって出来たような身体になるんだよ。正確には少し違うんだけど、でも安心していいよ。実体が出来たら、陸上で動くことも出来るし、それこそ普通の人間のように暮らすことも出来るから」
つまりなんだ、俺の身体は水ではあるが、時間が経って身体が出来上がれば人間のように生活が出来るようになると。なるほど、言っていることはわかるのだけれどそれが自分だと思うと、いまいち反応に困るな。
「使命とか、特に何かをしろというのはないから、自由にやっていったらいいよ」
使命とかはないということか。でもさっきまで一緒にいた男は面倒になりそうなことをしそうで嫌だな。
「よし、それじゃあ説明したことだし、転生して貰おうかな」
ほんとに説明少ないな。他の人たちにも説明がなかったから平等ということでしょうがないのだろうけど。
「じゃあ、いってらっしゃい」
男性がそう言うと、再び視界が真っ白になっていき、何も見えなくなっていった。
気が付いた時にはすでにこうなっていた。
眠くて頭が働かないというか、何も考えたくないという感じの曖昧な表現しかできないが、まぁそういう感じの感覚だ。
一回起きて何も考えられず、二度寝したいと思うときの感覚に近いかもしれない。
何も出来ず、何も考えず、ただその流れに身を任せ漂っている。
そんな感覚の中どれだけの時間を過ごしていたのか、長かったのか、それとも短かったのかはわからないが、だんだんと意識がはっきりしてくるのを感じ始めていた。
少しずつだけれど、鮮明に自分がどんな人であったのかということがわかっていった。
自分の過去、どういったことがあってここにいるのかということも思い出していき、それから今の自分のことも自然と理解していった。
誰に教えられたわけでもないのにわかっていくというのは、不思議ではあったがそういうものなのだろうと、考えることが出来た。
自分の身体というものはなく、何も出来ず、ただ考えることしかできない。こんな状況だというのに慌てることもなく、驚くこともなく、この状況を理解していた。
だからか次に何をしていくべきなのか、ということも冷静に考えることが出来る。
そして、今はまだ自分の身体はなく、周りの水と一緒にただ流れていくことしかできないが、もう少ししたら自分で身体の形を決める必要があるというのもわかった。
身体かー、今までと同じというのはせっかく転生したのだから変えて違うようにしたいところではあるな。
問題は何でもありということか。言ってしまえば、人の形をとらなくてもいいということだ。
基本的には俺の身体は水なので、どんな姿でも動いて生活していくことは出来る。猫でも鳥でも植物でも何でもありである。
まぁ元が人間なので人の形にするつもりだけど、人と言っても色々あるからな。
性別や年齢、体格、細かいところまで考えるときりがない。
一つずつ気に入ったものにして決めていけばいいか、時間はたっぷりあることだし。
まずは性別かな、前の世界では男として生きてきたのだから次は女として生きていくというのがいいと思ったのだが、実際に女になってどんな行動をしていけばいいのかということを考えると、慣れている男の方がいいのではないかと思ったりもする。
でもあれか、そもそも俺は人間ではなくなったのだから、そういった細かいことは考えなくてもいいのかもしれないな。
人に当たり前のように必要な、食事や排せつが必要かどうかもわからないし、身体が水なのだから身体を洗うというのもしなくてもいいのかもしれない。
まだ出来上がる身体のことまではわからないが、その可能性は大いにあるだろう。
そう考えると、別に男だろうが女だろうが関係なさそうな気がするな。
ということで、性別は女にしてみることにする。どっちにしろ簡単に変えることが出来るのだから試してみて、だめそうだったら男に変えればいいのだし。
次は年齢かな、どのくらいの年齢であればいいのだろうか。
子ども過ぎてしまったら、あるのか知らないけど施設に引き取られたり、お金が稼げないという問題も出て来そうではあるけれど、大人にしてもこの世界の知識は俺にはないから周りに変に思われる可能性も十分にあり得る。
そうすると、その中間あたりがいいのだろうか。こっちの成人の年齢もわからないがある程度であれば、ごまかすことも出来るであろうしそこらへんは適当かな。
大体、中学生くらいであればいいだろう。そのくらいであれば一人で行動していても問題ないと思う、というか思いたい。
前の世界のような生活水準であれば、その年齢でもだめだけど、よくある異世界の生活水準であれば、問題なく行動できるであろう。
んでもって、次はその容姿かな、女子だからな、胸はあっても邪魔かな。
見るのはいいけど、自分の身体だと動くのに邪魔だと思う、慣れていないだけに余計に思うと予想できるので、必要ないだろう。
まぁ形から入るという言い分もあるので、自分が女性というのを意識できるように、全くないのではなく少しあるかなってくらいでちょうどいいと思う。
後は細すぎず、太くなり過ぎず、調整をして身長は小さめでいいだろう。
髪は長すぎず、短すぎずということで、肩にかかるくらいでストレートにしておこうかな。長いと邪魔だし、短いのもそれはつまらないしな。
さて、重要な顔に移ろうかね。
一番重要と言っていいほど大切なところであろう。すべてがここで決まると言っても過言ではないかもしれない。少なくとも第一印象はここで決まるよな。
どんな感じがいいか。かっこいい系や可愛い系など大きく分ければそんな感じになるが、それでも色んなタイプがいるからな。難しいな。
ああでもない、こうでもない、と色々いじって試しているのだが中々決まらない。
まぁ時間はあるのだからゆっくり決めればいいのだけれど。
そうこうして悩んだ末に出来たのが、小さな顔で凛としていて、でも可愛らしさを感じることが出来る、傑作と言っていいほどの上出来の顔になった。
まさに理想の顔と言っても過言ではないであろう。他人からの目なんてどうでもいいので、俺の感想になってしまうが予想ではほとんどの人が可愛いと思う顔になっていると思う。
自分の趣味が多く入ったのは否定できないけれど。
さてと、これで俺の肉体が出来上がった。肉ではないか。
身体が出来たのであればこの水の中とはおさらばしたいところではある。
流石にこのまま水の中で暮らすのは退屈すると思うし、早く陸に上がってこの世界がどんな世界になっているのかということを知りたいからな。
そうと決まれば陸へ目指して、進もうと思うがこっちの世界では生まれてこの方、陸を見たことがなく、どの方向に行けばいいのかわからないという問題がある。
まぁ適当に進んでみて、確かめればいいと気楽に考えていればいいか、焦っても見つかるというわけでもないし、早く陸に上がりたいとは思うけどやりたいことは何かと聞かれてもなんだろうと考えてしまうからな。
気長に何をしたいかを考えながら、流れに任せ、時にはその流れに抗って移動していくことに決めたのだった。




