18話
掃除を終えて帰って来た俺たちは、まずギルドマスターのところへと行くことに決めた。
屋敷に何が足りなくて、何が必要なのかを伝えなければならない。行くのはいつもの俺、ユア、マリーの三人だ。
他の人たちはギルドから借りた道具の後片付けや子どもたちの面倒を見ていた人たちに帰って来た報告、そして夕飯の準備をやるらしい。
まぁ伝えに行くと言っても、屋敷の方で必要なものを紙に書いて、リストにしてあるのでそれを渡しに行くという感じではあるけれど。
そしてギルドマスターのところへと行き、少し話をしてから部屋を出た。夕飯まではまだ時間があるということなので、一旦部屋へと戻ることにした。
俺とユアはマリーと部屋の前で別れ、自分たちの部屋へと戻って来た。
扉を開けると、部屋の中には気まずそうな顔をした、リカルドの姿があった。
「ただいま」
「おかえり」
出来るだけ気にしていないような声で言ったつもりだが、上手くいったかはわからない。その後は話すことなく微妙な空気となり、静かになってしまった。ユアも少し気まずそうにしていた。
今日やってきたことを話さないといけないとは思ったが、まぁ俺からは話すのはなんか癪なので、話しかけられるのを待つことにする。
話しかけたいような顔もしていることだし。
「今日はすまなかった。ギルドにいた女性たちにレヴィたちが何をしていたのかを聞いたんだ」
「まぁ一日くらいいいんじゃない? リカルドも昨日から私たちがあそこに住むことが出来るようにしてくれたみたいだったし、別に掃除くらいは自分たちで出来るから問題なかったよ。それよりも本当にあそこに住んでも大丈夫なんだろうね?」
「ああ、それは大丈夫だ。あそこら辺を仕切っているトップのやつに話を付けてきたから問題ない。とりあえず、昨日から今日までどんな感じだったのか説明するよ」
それからリカルドが話したのは、俺たちを分かれてからの話だった。
まず、あの地域を仕切っているトップの居場所を聞き出すために、情報屋などを使って色々と聞き出したらしい。
なんでもリカルドはこの街の裏のことであれば、少し話が出来る奴らがいると言っていた。
そしてその後は聞き出したところで、穏便に実力行使で乗り込んでトップのところまで行き、話をしてきたということだった。
俺はどこが穏便になのかはわからなかったが、突っ込んではいけないような気がして、黙って聞いておくことにした。
そのため比較的早く話を付けることが出来たということだった。
しかしなぜ早く終わったのに、今日の朝に酔って帰って来たかというと、話し合いが終わりギルドに帰ってくる途中に昔からの知り合いにばったり会ってしまって、夜も遅い時間だったこともあり明るくなる頃に帰ればいいかと思って、一緒に飲むことになったということであった。
そして気づいた時にはすでに、空が明るくなっており、その知り合いともまた飲もうと言って分かれて、ちょうど帰って来たのがあのタイミングだったとか。
「流石に今この時に、飲んで帰って来て、何もしなかったというのはまずかったと思っている。本当にすまなかった」
「いや、確かに飲んで帰って来た時は少しイラっとしたけど、まぁリカルドにも付き合いとかがあるわけだし、落ち着いたらそういうこともしてきていいと思うけど」
「明日からはしっかりと、やるべきことをやっていくつもりだから」
「うん、ああ、でもマリーにもしっかり話しておいた方がいいよ。心配してたみたいだからね」
「わかった。後で話してくる」
その後は俺たちが今日してきたことをリカルドに話した。まぁ屋敷の掃除をしてきたというほかないのだけれど。
「もう夕飯の時間か、それなら後でも仕方ないか。それじゃ、ユアはお腹を空かせてもう限界のようだし、夕飯へと行きますか」
そして俺たち三人は部屋を出て、いつもの食べる部屋へと移動した。
その後は今までにない少し気まずい食事をすることとなったのであった。主にリカルドとマリーの間にだけであったが。そんな中でユアだけは食べることに一生懸命になっており、気にした様子はなかったのだった。
食事を終えた後、リカルドはすぐにマリーに話してくると言って行ってしまった。
俺とユアはいつも通りにシャワーを浴びて部屋へと戻った。
そして今日も今日とてユアは部屋に戻ると、ベッドへと入りすぐに眠ってしまったのであった。今日の原因は、間違いなく屋敷での掃除や草むしりが理由であろうことは容易く推測することが出来た。
明かりを付けるのも面倒なので、このまま暗いままにしておいた。
しばらくすると、リカルドが部屋へと戻って来た。
「おつかれさん」
俺がそう言うと、リカルドは反対のベッドへと座って顔を下に向けていた。
「久しぶりに説教されるという体験をした」
「あはは、そっか。説教されたんだ」
思わずリカルドの言葉に笑ってしまった。そして起こしてしまったかと、ユアの方を確認してみたが、起きる気配はないようで安心した。
「笑うことでもないだろう」
「いや、だってそんな声で説教されたなんて言われたら、笑ってしまうよ。それにマリーも遠慮が無くなったのかと思うと嬉しくてね。どこか昨日までは遠慮しているような感じがしていたからさ」
「そうだったのか。今日はなんというか全く遠慮がなく、言われたな」
「そっか、そっか。それは良かった。私たちは野良の住処の仲間たちなんだし、言い換えれば、私たちはもう家族みたいなもんでしょ? だったら遠慮なんていらないし、みんな言いたいことを言えばいいのさ。まぁ親しき中にも礼儀ありという言葉もあるけどね」
「家族か、そうかもしれないか」
「そうそう」
暗い部屋の中でリカルドの表情までは見ることは出来なかったが、それはそれでよかったのかもしれない。俺もなんか言ってて恥ずかしくなってきてしまったし。
その後は俺もリカルドも話すことなく、夜が更けていくのであった。
朝になり、リカルドが起きて、ユアも起き出した。そしてこの日はいつものようにリカルドが朝食を持って来てくれた。
「やっぱりこうでなくちゃね」
「なんだ? 俺をそんなにこき使いたいってことか?」
「まぁそうとも言うかもね」
冗談はそこまでにしておいて、今後の予定を立てていかないといけない。
「今日は何をしようか?」
「そうだな。今日はランクCの四人がいるだろ? そいつらに何か簡単な依頼をしてもらいに行きたいと思っている」
「依頼に? それはもう少し落ち着いてからでもいいんじゃない?」
「いや、俺たちのクランは冒険者稼業での収入しかないから、できるだけ早く鈍っていた腕を慣らして行かないとだめだと思ってな」
冒険者のことは俺は全くわからないからな、リカルドがそうした方がいいというのであれば、そうなのだろう。
「そっか、考えがあるのなら、私は別にいいけど。それなら私たちは今日の方は何をする?」
「俺たちは必要なものを買いに行こうと思っている、大きいものはギルドに任せればいいが、そこら辺の店で買えるものであれば俺たちが買った方が早いだろう。そして出来るだけギルドから早く出て、あの屋敷に住もうと思う」
「まぁ確かにいつまでもここにいるわけにもいかないからね。うん、わかった。でも買い物の時のこととかはちゃんと考えないとだめだよ。まだマリーたちは男性を怖がっている様子だから」
「わかっている。移動は基本馬車にして、店内もレヴィが一緒であれば大丈夫だろう」
「そりゃあ、私も気にかけるけどさ」
そうして近々引っ越すことを決めて、それぞれがこれからの生活のために動いて行くのであった。
そして準備に明け暮れる日が二日ほどが経った。




