11話
ユアも泣き止んで落ち着いたところで、今後の話をすることになった。
まだ全員がそうと決まったわけではないが、子どもたちの帰る場所ないとなれば、どこかで誰か世話をしてくれるところを見つけないといけない。
それに捕まっていた女性たちも、家や働く場を作ってやる必要もある。
その話し合いに俺も入っていいのかと思ったのだが誰も指摘しないし、そのまま話が進んでいるのでとりあえず、大人しくユアと座っていることにする。
一番簡単なのは、子どもたちは孤児院へと女性たちはどこか働く場所を斡旋すればいいということらしいのだがそう簡単には行かず。
問題はこの街では孤児院の数も少なく、その上今もギリギリで生活をしておりとてもじゃないが新しく子どもを入れる余裕がないということだった。
孤児院は教会が経営しているところと貴族が支援しているところがあり、どちらもこれ以上の支援は難しいだろうということを事前に話していたらしい。
ギルドマスターは奴隷商を摘発することを決めた時から相談などしていたのだが、結果は良くないものだった。
そして女性の方は奴隷時代に扱いがひどかったのだろう、男性が近づくことでさえも怖がってしまいとても男の客に接客が出来る状態ではないということなのでお店を紹介してもお店側はほとんどが接客を必要としているため、受け入れてくれないだろうという問題があるということだった。
ある一定の期間まではギルドからも国からも違法取引をしていた奴隷商を潰したことによる支援金も貰えるということらしいのだが、それが尽きてしまったらどうしようもなくなってしまう。
そうなると無理やり働かせるか、戦えない人たちが冒険者になるかという選択になってしまうということだ。
そんな話を聞いていたからだろう、突然ユアがこんなことを言いだした。
「私はレヴィと一緒がいい、一緒にいるの!」
その声は何か良い案がないかとみんな悩んでいて誰も話していなかった静かな部屋によく響いた。
俺はその声を聞いてユアの方を見たが、ユアの顔は真剣で絶対に俺を離さないようにと思ってか強く俺の腕を掴んでいた。
「でも、ユア、私はまだお金を稼ぐあてもないし、ユアのことを養って上げれるかわからないんだよ?」
「一緒がいいの!」
「わかってはいたが、随分と懐かれたようだな」
リカルドはその様子を見て、笑いながらも言ってきた。
「いや、笑い事じゃないんだけどね。私一人分のお金さえ稼げるかどうかもまだわからないんだから、二人分となったら不安しかないんだけど」
「金は冒険者にでもなって、稼げばいいじゃないか。レヴィくらいの強さがあれば普通に冒険者としてやっていけるだろう。なんだったら俺が手伝ってやってもいいしな」
「それなら私も手伝うわよ」
アルターナもこの話に便乗してきた。
「まぁ冒険者にはなろうと思っていたからその話はありがたいけど、でもそうなるとユアだけ私が面倒みるというのは良くないんじゃないか?」
ユアだけ助けても、他の子どもらのことを助けることが出来ないのでは、それでは意味がないということになってしまうだろう。
それを聞いて、二人も黙ってしまった。
そんな中、一人口を開いた。
「リカルド、君のランクと他の戦闘奴隷だった人たちのランクはわかりますか?」
唐突にギルドマスターがリカルドに質問をしていた。
ランクというはギルドでのランクということだろうか。戦闘奴隷はお金で雇って護衛や戦闘での補助をするなど、そう言った役割のもと契約を結んで頼むことが出来る奴隷のことで、そう言うことが出来る人だけがこの戦闘奴隷になる。
つまりは戦闘奴隷は多くの場合ギルドに入っており、ランクで簡単に強さを知ることができそれが値段に繋がっていくことになる。
「俺はランクBで、確か他の奴らはみんなランクCだったと思うぜ。まぁ奴隷だったこともあって正確な戦闘能力はもっと上かもしれないが」
「確かにね。リカルドも前見た時には能力だけ見れば、ランクAでも良さそうな感じだったものね」
なんと、リカルドはそんなにすごかったのか。確かにまとめ役というか、そういう存在だったけど、思っていたよりもすごい存在だったんだな。
「ああ、説明するとだな、ギルドでのランクはF、E、D、C、B、A、Sという順番でランクがあるんだが、Fの方が低く、ランクが上がっていくごとにそれ相応の実力もあるという証明にもなっているんだ」
俺が知らないと思ったのかリカルドはランクの説明をしてくれた。俺の思っていた通りの感じらしく、やっぱりリカルドはすごいことがわかった。
「つまり、リカルドはすごいということだね」
「ついでに私もランクAの冒険者なのよ」
「アルさんもすごいんですね!」
なんとアルターナもランクがAでこの部屋にはすごい人しかいないということになるのか。俺の心の平穏は隣にいるユアだけだよ。
そう思って頭を撫でてやるとそのことが嬉しかったのか腕に抱き着いて来た。この可愛いやつめ。
俺とユアがイチャついている間もギルドマスターは何か考えている様子だった。
そして向かいのリカルドはなぜか呆れたような目をしていて、隣のアルターナは目を輝かせてこちらを見ていた。ん? なぜだ?
「一つ提案なのですが、クランを作ってみるというのはどうですか?」
「クラン?」
クランとは何だろうか。前の世界ではクランという言葉はゲームなどで聞いたことはあるが、それが一緒のものかどうかわからない。まぁここまで来たら想像通りのものかもしれないけれど。
「ランクBが一人、ランクCが四人、そしてレヴィさんも戦えるようですし、建物の管理や子どもの世話は女性方にやっていただければ十分にやっていけるとは思いますよ。もちろん、みなさんの同意があればの話ですが」
「なるほど、クランか」
リカルドは言っていることを理解したようで考え始めてしまった。
「クランというのはね。冒険者が集まって同じ建物で暮らしたり冒険者活動をしたり、後は子どもを引き取って冒険者に育てたりとそんな感じの集団をクランと呼んでいるのよ。今の説明からして男たちが稼いできて、家のことは女性たちに任せるようにするということね。確かにランクがCなら十分に稼ぐことは出来ると思うけど」
「ええ、そしたら女性方も少しは男性に慣れて働けるようになるかもしれませんし、子どもたちも冒険者になるかはわかりませんが普通にお店で働くことも出来るようになりますからね」
「そうね。男性を怖がっていた女性たちも一緒に脱出して来た男たちであれば大丈夫そうだったし、良いリハビリになるとは思うわね」
なるほどね、言いたいことは理解した。一個の集団として生活をして、だんだんと慣れさせたり勉強させて働けるようにするというのが目的なのか。
それなら支援が無くなる前にきちんと生活できるようになれば、困ることもなくなるのであろうな。
しかし、子どもと女性たちにはありがたい話かもしれないが、リカルドを含めた男たちにとってはメリットは少ないだろう。
彼らは自分たちで稼いで、生活していくことも出来るのだろうから。
まぁ俺が口を挟むようなことじゃないよな。そんなことを思っていたら、リカルドが俺の方を向いて、口を開いた。
「レヴィ、お前はどうしたい?」
突然言われ、戸惑ったがリカルドの顔は真剣だったので俺も真面目に考えることにした。
「お金のこととか生活していけるのかとか、心配することはたくさんあるけど、本当にできるようになるのであればクランを作ってみたいかな。だってそれしかみんなを助ける方法はないのでしょう」
「そうか、わかった」
「ああ、でもクランに入るのは本人たちの自由にして欲しい。子どもたちも女性たちも、もちろんリカルドを含めた男性たちもね」
「わかった。それじゃあ、後で聞いてみることにする。ギルマスは一応そっちの方向で進めておいてくれ」
「わかりました」
「じゃあ、女性たちや子どもたちには私から聞いておくことにするわ。レヴィちゃんが話すと考えずに同意しちゃいそうだものね」
「ありがとうございます。お願いします」
確かに俺が言えば助けてもらったからとかそういうことを思って、無理にでも一緒にやると言って来そうではあるからその申し出はありがたかった。
これで一応今後の目処は立ったな。おそらくはこの方向で子どもたちや女性たちの対応をしていくのだろうと思っている。
どうなるかはわからないがとりあえずこの場は解散となって、また改めて話し合いをすることになった。
俺やユア、リカルド、アルターナはギルドマスターの部屋から出て、みんなそれぞれの行くところへと歩いて行った。
俺はユアと一緒に寝ていた部屋へと戻って行った。




