10話
そうして、ユアとリカルドが朝食を食べ終わり、少し休憩してギルドマスターのところへと行くことになった。
リカルドが昨日聞いた話では、いつ来ても構わないということなので、別に急がなくてもいいとリカルドは言っている。
まぁ俺としても用事は早く終わらせたいと思っているし、心の準備は夜から朝にかけて済ませているので、早速行くことに決めた。
ちなみにユアが一緒に行くことになって理由としては。
「それじゃ、私は話してくるから、ユアは待っていてね」
「私も行く」
ユアは俺のことを掴んで、小さな声ででもしっかりと俺の顔を見て言ってきた。
「でもただ話すだけだから、退屈だと思うよ?」
「一緒がいいの」
どうやらユアは俺と離れるのが嫌というか不安なのだろう。まぁ俺としては別に連れていくのはいいのだけれど。
「他のみんなも違う部屋にいるらしいし、そっちに行っててもいいんだけど」
ユアはそれを聞いても首を横に振るだけだった。
どうしようかと、リカルドの方を見ると。
「まぁいいんじゃないか? ユアは大人しいし、邪魔するようにも見えないからな。連れて行っても問題ないだろ」
ということがあってユアも一緒に連れていくことになった。
「じゃあ、話しているときは静かにしててね」
「うん!」
そんなに俺といるのが嬉しいのか、いい笑顔で頷くのであった。
俺の居るこの冒険者ギルドは、外から見た時のように三階建てになっていて、一階部分の天井は高くなっている。
一階にはギルドの本業である、依頼を受けるためのカウンターや、ギルド内で飲み食いが出来るようにと、飲食店が入っている。
そして二階は俺たちが寝ていた休憩室や冒険者をやるために必要な情報などを知ることが出来る資料室などもあるらしい。
冒険者ギルド内は、この二階までは冒険者であれば誰でも入ることが出来るようになっている。
しかしこれから向かう三階からは簡単には入ることが出来ないようになっていて、限られた人や呼ばれた人しか入ることが出来ない。
三階にはギルドマスターの部屋やギルドで扱っている重要なものなど、後は貴族などが依頼をするために来る時に話をするときに使う部屋などもあるらしい。
というか、この世界貴族がいるんだな。ますます、というかこれはもうよくある異世界物と同じような世界観ということで認識していいかもしれないな。
貴族や奴隷、冒険者に魔力まであるからな、獣人などは転生する際に竜王やら魔王があったからわかっていたけど、それだけでは決めることが出来なかったしな。
そう言えば、一緒に転生した他の三人はどうしているのだろうか。
同じ時代に転生させているとは思うが、落ち着いたら情報を集めてみるのもいいかもしれない。面倒なことをやらかしてなければいいのだけど。
とにかく今は、俺たちのことだな。
リカルドの案内でギルドの三階まで上がっていき、一つの部屋の前に止まった。
そしてリカルドがその部屋の扉をノックした。
「リカルドだ」
「どうぞ」
中から男性の声を聞こえ、リカルドはその扉を開けた。
部屋の中には奥の大きな机のところに、初老を迎えたくらいだろうか、そのくらいの男性が座っていた。背筋が伸びていてかっこよく、こんな大人になれたらいいだろうなと思ってしまうほど人だった。
それから手前のソファのところにはアルターナの姿もあった。
「あれ? なんでアルがいんだ?」
リカルドもアルターナがいることは知らなかったようで、少しだけだが驚いている様子だった。
「だって男二人で可愛い女の子を囲んで話すなんて、かわいそうじゃない。まぁでも一人じゃなくて二人だったみたいだけどね」
アルターナは俺のためにここにいてくれるということだった。味方をしてくれるのであれば嬉しいことだな。
緊張はしてしまうだろうし、ぜひとも頼っていきたいところだ。
「とりあえず、座って下さい。何か飲み物を持って来させますから」
初老の男性がそう言うと、ベルのようなものを振って、立ち上がって手前のソファの方まで来た。
俺は音が出ていないことを不思議に思っていると、アルターナが手招きしているのを見えたので、アルターナの隣に座った。
ソファにはアルターナ、俺、ユアの順で座り、向かいにはリカルドと初老の男性が座った。
「まずは自己紹介からしましょうか。私はこのアルンの街のギルドマスターをやっています、ダールと言います。昨日は冒険者たちの代わりに子どもや女性たちを助けていただいたということで、ありがとうございました」
「私はレヴィって言います。私たちが楽に出ることが出来たのは冒険者さんのみなさんがいたことが大きかったですので、こちらこそありがとうございました」
この初老の人がギルドマスターなんだね。しかもこの街の名前も、今初めて知ったな。
まぁ知る機会もなかったからしょうがないんだけど。
年上の人にこうして感謝されると照れるものがあるな。あと少し居心地が悪くなる。
アルターナやリカルドはとりあえず会話を聞くことにしたのか、何も話さないようだ。静かに座っている。
すると、扉をノックする音が聞こえてきた。ギルドマスターが返事をすると、女性が飲み物を持ってきてくれたようだ。
大人は紅茶で、子どもは果実水だそうだ。まぁもちろん俺は果実水の方を目の前に置かれた。
「ありがとうございます」
他の人たちも礼を言い、置き終わるとそのまま女性は一礼して、部屋を出て行った。
「では、早速で悪いが話を聞かせてもらえるかな? 捕まったところから、牢屋へと入れられるところまでの話を頼むよ」
「わかりました。でもまず、私が捕まったのはこの子たちと一緒ではなくてですね。道を歩いているところで捕まったと言いますか。私が捕まった時にはこの子どもたちはすでに捕まっていたんですよね」
「他の子どもらと服装など違うと思ってはいたが、そうだったのか。では、その時からのことでいいので話を聞かせて欲しい」
「はい、では、、、」
俺は道を歩いていたところから、奴隷商に捕まり、あの建物に入ったところを順番に説明していった。
俺がどうしてそんなところを歩いていたのかとか、なぜ馬車の中に子どもたちがいたことがわかったのかとか、どうやって鍵を開けることなく牢屋から出ることが出来たのかとか、そう言った俺の能力など簡単に話すことが出来ないことは伏せつつ、説明した。
説明している間、ギルドマスターは黙って俺の話を聞いてくれていた。まぁいちいち細かく聞いても話が進まないと思っていたからかもしれないが、話しにくくなかったのでありがたかった。上手く説明できているかは別として。
「なるほど、ではレヴィさんはなぜそんなところを歩いていたのですか? 街へ行くにも乗り合い馬車を使うということも出来たでしょうに」
話の途中で聞くことはなかったが、やっぱりというか俺の話が終わると聞いて来た。
まぁ聞かれるとは思っていたので大丈夫だが、普通に考えたら子どもが一人で歩いているのは変だもんな。
「それはお金を持っていなくてですね。この街にもお金を稼ぐために来たんですよ」
「そう言った理由でしたか、わかりました」
あれ? わかってしまったのか、他にも適当な理由を考えていたのに何ともあっけない。いや、そっちの方が助かるのでいいんですけどね。適当に話して矛盾するのもダメだし。
「でも、捕まるという選択肢を取らなくても良かったんじゃないですか?」
「あーそれは、あそこでもし無事に助けることが出来ても、子どもたちの人数や体力面から考えても、街まで辿り着けるかどうかわからなかったので、どうせだったら私もろとも街まで運んでもらおうかなと考えたわけなんですよ」
「そんな危ない真似をしなくても、その場から逃げて街の兵士などに伝えるという手段もあったのですよ? というか次からは何か見つけてもそうしてして下さい」
「まぁ結果、リカルドたちも無事に出られたのだからいいじゃないですか」
「それでもです。ない方がいいですけれど、きちんと通報するんですよ?」
「あー、はい、わかりました」
強く念を押されては嫌です、とは言うことは出来ないよな。ましては年上の偉い人なんかは特にそうだ。
まぁこういうことは滅多に起きるもんじゃないし、大丈夫だろう。
その後も質問に適当に返事をするというのが続き、俺の昨日の出来事で話す内容は終わった。
「話が出来そうな、レヴィさんに子どもたちの居た場所を聞けばいいと思っていたのですが、それがわからないとなると、私が聞くよりもレヴィさんたちが聞いた話をまた私に話していただくという形を取った方がいいですかね」
なるほど、本命はそこだったのか。確かに子どもたちには親や帰る場所があるのであれば、そこに戻した方がいいと俺も思っていた。
この話が出来そうな子どもがここにも一人いるわけなのだが、子どもの気持ちを気遣ってここではなく、別の場所で俺たちが話を聞くのが良さそうだと、ギルドマスターは判断したようだった。
俺はユアの方をちらっと見てみると、ユアの目と目が合った。
俺はもしかしたらと思い、聞くだけ聞いてみることにした。
「ユア、ユアたちが住んでいた場所わかる?」
すると、ユアは顔を下に向けて、その後小さく顔を横に振った。
「そっか、ごめんね。でもきっとユアたちが住んでいた場所を見つけるからね」
俺はユアの頭を撫でながらそう言うと、また横に振って、顔を上げてこっちを見てきた。
不思議に思っていると、その顔は何かを言いたそうで、でも中々声に出ないような、そんな表情だった。
俺はそんな様子のユアを見て、待つことにした。急かしたり、促したりせず、ただ目を背けずにユアが言ってくれるのを待った。
そして少しずつだが、話をしてくれた。
「、、、私たちの村は、もうないの。魔物が村を襲って、来て、みんな、お母さんもお父さんも、私たちに逃げろって言って、、、」
思い出しているからだろう、涙を流しながらも話してくれたユアを俺は抱きしめた。そしてその背中をさすりながら話しかけた。
「そうだったんだね。つらかったね。でももう大丈夫だから、ユアたちのことは私たちが守ってあげるからね。大丈夫だからね」
そう言ってやると、ユアは俺のことを強く抱きしめ、声を出して泣いたのであった。
その部屋にはユアの泣く声だけが、悲しく響いていた。




