1話
基本不定期です。
確か、俺は昨日までは、いつも通りの代わり映えのないつまらない生活を送っていたはずだ。
朝起きて、学校へと行き、家に帰ってくる。毎日同じように。
それが今、俺の居る場所はそのいつもの生活とは全くと言っていいほど、かけ離れた場所にいる。
ここには柱や天井、壁と言った室内であれば当たり前のようにあるものはなく、しかし外ということでもない。
ただ何もない真っ白な空間だ。もちろんこんな場所には見覚えはなく、自分がなぜここにいるのかというのはわからない。
そして気になるのはここには俺だけではなく、俺と同じような状況なのだろう。そんな人たちが俺の他にも三人いるということだ。俺を含めて、男二人に女二人の四人がこの空間にいる。
なぜ、同じような状況ということがわかるのかは、服装がおそらくだが寝るときの格好になっているということだ。
もちろん俺はそうだし、他の人もパジャマっぽい服装をしているのでおそらくはそうなのだろう。
それに俺と同じような年齢だろうと予想できる、全員高校生くらいの年齢であろう。
ただ童顔だったり、大人びて見えていたりした場合はわからないのでその場合はどうしようもないが、間違ってはないと思う。
一緒のこの空間にいるのだから話をしてみて、これはどういったことなのか情報交換でもしたいのだけれど。そう上手くはいかないらしい。
それにしても何もない真っ白な空間なのにどこか不思議と安心感がある。他に人がいるのが理由か、もしくは他に理由があるのかはわからないが、普通だったら不安に押しつぶされてしまってもおかしくないと思う。
さて、これからどうなるのやら。ずっとこのままというのは困るのだが、誰か来て説明してもらいたいのだけれどな。
というか、うるさいから早く静かにさせて欲しい。
俺が周りの人たちと会話せずにこんなにも冷静に考えることが出来るのには、ここにいる他の人たちに理由がある。
俺が人見知りを発動しているだけではなく、それ以前の問題なのだ。
「なんで、私はこんな場所にいるのよ‼」
「さっさと誰か出てきて、チートな能力を渡して転生させろよ!」
とまぁ、このようにずっと騒がしくしているのだ。
最初は俺も動揺して、わけもわからず叫び出しそうにもなったが、先にこんな騒いでいるやつらを見ているとこっちとしては不思議と冷静になってくるものだ。
もう一人の女子も俺と同じなのか静かに座っている。
まぁ確かに寝て起きたらこんな場所にいるのはわけがわからないという気持ちはわかるが、もう少し大人しくして欲しいなと正直思う。
男の方はまた違う感じだが、まだそうとは決まったわけではないのに。いや、確かにその気持ちはわからなくはないけどさ。少しは不安に思ったりはしないのだろうか。
とにかく説明するなら早く来てして欲しいものだな、うるさくって仕方がない。
「あんた何を言ってるのよ! 何が起こっているのか、ここがどこなのかわかるなら説明しなさいよ!」
「あ? 知らねぇよ。つか、何掴んでんだよ!」
あーあ、とうとう二人での喧嘩になりそうだな。異世界転生ものの話などを知っていなければそう思うのは当たり前だよな。
こんなわけもわからない状況なのに嬉しそうにしていたら、頭のおかしいやつか、何か知っているやつかというように思うのが普通なのだろう。
そんなことを考えているうちも二人はさらに喧嘩腰になっていき、いつ殴りかかってもおかしくないような雰囲気になっていた。
その間にもう一人の大人しくしていたもう一人の女子は二人の側から離れて、こちらの方に避難してきたようだ。
まぁ絡まれるのは面倒そうだもんな。
「ねぇ、止めないの?」
その女子は近くまで来たと思ったら、そう言ってきた。
「いや、あれに何を言っても無駄だろ。男の方が手を上げそうなら止める必要もありそうだけど、その心配はなさそうだしな」
そう、男の方も喧嘩腰にはなってはいるが手に力を入れている様子もないし、少し馬鹿にしているようで手を上げるというのはなさそうであった。
見下しているような感じが、さらに火に油を注ぐ行為だと思うのだがね。
「ふーん、まぁどうでもいいんだけどね。うるさいからさ」
「女の方は今にも殴りそうな勢いだけど、それは男の方にも非があるからな。ほっといてもいいだろ。というか関わって飛び火されるのは嫌だからな」
「確かにね」
この女子はあまりしゃべらないのかそれっきり話すことはなかった。
それでも近くにいて、離れないのは不安という気持ちがあるからであろうか。その気持ちはわかる、俺もあるからな。
騒がしい声を聞きながら過ごしていると、ふとその騒がしい声が無くなった。
それに疑問を持って、騒がしかった二人の方に顔を向けると二人の近くに、一人の男性が立っていた。
いつからいたのかはわからないが、おそらくこの男性が俺たちをこの場所に連れてきたことはなぜだか分かった。
そして、さっきまで騒いでいた女子がその男に掴みかかろうとした時、不思議な感覚が襲った。
なんというか不安だった気持ちが和らいでいくというか、なぜだか安心できるような感覚であった。
さっきまでも安心感のようなものを感じていたのだが、今はそれ以上に安心できるというか。落ち着くというのであろうか。
「まぁまぁ、落ち着いて。これからちゃんと説明するから、ね」
その男性は柔らかい笑みを浮かべ、言ってきた。
「突然だけど、君たちにはこれから今まで居た世界とは違う世界へ生まれ変わってもらう。もちろん、その世界で生き残れるような能力は渡すから安心して欲しい」
その言葉を聞いて、もう一人の男子は小さくガッツポーズをしていた。表情もわかりやすく変化していたがそんなに嬉しいのか。どういった能力で、どんな世界かもわからないのに。
「早速だけれど、君たちにはこの四つの中から選んで転生してもらうよ」
そこにあったのは、勇者、魔王、竜王、そして?、の四つであった。急に何も説明しないで能力の話を話していくのか? まぁ前の三つはわかるが?ってなんだろうか。
「気になることもあるだろうけれど、順に説明していくよ。選べるのはこの四つの中からだけど同じものを選ぶことはできない。つまり、ここの四人がみんな違うものを選ばないといけないというわけだね」
それぞれ一人ずつ選ばないといけないわけか。そうなると誰がどれになるかを決めるのは問題になりそうだな。
「これらはクラスという形で能力を得ることが出来るんだけど。まず、勇者は人族で高い魔力量で身体能力も高く、まさしく物語でよく見る勇者って感じだね。そして、魔王は魔族でこれも勇者と同じように物語でよく見るような魔王であっているよ」
まぁ勇者と魔王はこういう話をあまり多く読んでいなくても想像は付きやすいだろう、二人は争うものというイメージは良くないがわかりやすい。
魔王も悪いイメージだが、それも自分次第で変えることは出来るだろうし。
「竜王は獣族でこれは、竜の特徴を持っている人という想像の仕方をしてもらうとわかるかな。強い肉体を持っていて、空を飛べるのが特徴だね」
なるほど、竜王は竜そのものではなく、竜の獣人という感じなのか。鱗などが付いているのだろうか、まぁこれも想像できるな。
「最後に?だけれど、これは選んでもらうまで話すことはできない。どんな種族なのか、能力なのかは選んでからのお楽しみということだね」
何もわからないというのが一番怖いのだけれどな。魔力量だとか竜だとか言ってはいるからどんな感じの世界なのかは想像することはできるが、そうなるとどんな種族になるかはとても重要になってくるだろう。
それに想像していた世界と違うということも起こる可能性は大いにあるが、それは気にしても仕方がない。良い世界であることを祈るばかりだ。
「こんなもんかな、他のことはその世界で育ちながら教わっていくといいよ。基本的には赤ん坊から育ってもらうからね。じゃあ早速選び方だけどそれぞれなりたいものを頭に思い浮かべてもらって、そして被ったらくじ引きで決めるってことで」
なんか決め方が適当な気もするが、というか俺たちの思考がわかると言っているのと同じなのではないか? もう何でもありだな。
まぁ従うけれどさ。そうだな、勇者と魔王はなんか面倒そうだよな。王とか役目とかある感じで、それに従わないといけないようなイメージだからな。
竜王が一番好きに生きることが出来ると思うし、竜王でいっか。?は怖いので遠慮したい。
「うんうん、分かったよ。残念ながら魔王がそっちの男の子とそっちの女の子で被っちゃったね」
どうやら、俺じゃない男と俺に話しかけてきた女子が被ってしまったらしい。なんか男の方がすごい顔で睨んでるな。俺が睨まれているわけではないがとてもうざい。
「じゃあ、くじで決めようか。二人ともこっちに来て、引いてね」
いつ準備したのかはわからなかったが、男性の手にはくじがあった。そういえば、みんな黙っているがどうやら話すことが出来ないようである。
話そうとする、ということが出来ないようだ。まぁ確かに話せるようになったらうるさいだろうからな。少しこの男性のことが怖くなったが、どうにかするというわけではなさそうなため、大丈夫であろう。
そして二人が引いた結果だったが、どうやら喜びようから男子の方が魔王になったようだ。目に見えて、女子はへこんでいるな。
「じゃあこれで決まったね。ん? 他にはないのかって? ないよ。この四つ以外は選ぶことが出来ないんだ。残念だけど諦めてくれ。まぁこれで?も埋まったことだし決定でいいかな」
まぁそうだよな。何になるかわからないというのは不安だし嫌だよな。
でもな、そんな泣きそうな顔をしているのを見たらどうにかしてやりたいと思うのが男というものではないかと思って来てしまうんだよな。
俺は男性の方を見て、伝えることにした。こっちの考えていることはわかっているようだし、これで伝わるだろう。
すると、男性はこちらの方を向いて、笑みを浮かべた。
「本当にいいのかい? そうかい、それなら彼女に聞いてから判断することにしようか。どうやら、そこの彼が交換してもいいと言ってるがどうする?」
へこんでいた女子はその言葉を聞いて、驚いた顔でこちらを見てきた。声を出すことはできないため、俺は笑顔で頷いて見せた。
それを見た女子は男性に向かって何か伝えているみたいだった。
「ん? 本人が変わってもいいと思っているのだから、あまり気にするようなことではないと思うのだけど、君も変えてもらいたいと思っているのだし交換するのがいいと思うけどな」
おそらくは俺に申し訳ないとか思って、このままでいいとか言ったのだろうな。気にしなくていいのに。
俺としては勇者や魔王は国だったり、周りがうるさく言ってきそうな立場だと思ったから選ばなかったし、竜王もそういうのはありそうだったけど、一番マシかなって思ったから選んだだけで、特にこだわりはなかったからね。
何になるかはわからないという不安はあるけど、他の三つを見るとそれほど変な奴にはならないだろうと思ったのも大きいが、分からないこそ少しわくわくしている自分がいることは否定できない。
男性の説得の効果があったのか、こちらを向いて頭を下げてきた。それに対して俺はまた笑いながら頷いて見せた。
「よし、決まったわけだし、早速転生してもらうね。さっきも言った通り、その世界のことはそこで生活をしていきながら知ってもらうつもりだから、私からは何も教えないよ。それじゃあ、君たちが良い活躍をすることを祈ってるよ」
その言葉を聞くと、すぐに視界が真っ白になって何も見えなくなっていった。