92.やる気が無い
「転移者でない四天王とは……厄介な」
「もともと無理筋だった勝算は限りなくゼロになりましたよ。やはり諦めた方が……」
「いや、このくらいで諦めたりはせんぞ。こちらは転移者の数だけは多いからな。仲間の能力を上手く使い、やつとは戦わずに帝国を瓦解させればいいだけだ」
「で、いつまで俺たちこいつらといればいいの」
崩れる塔から這う這うの体で逃げた俺たちと反乱軍は、塔の横にあった水路を沿って、下流にある大きな橋の下にいた。
なんか流れで一緒にいるけどこんなところさっさと去りたいよ。
でもただでは帰れん。サピちゃんが諦めないし、そのせいでローダーも帰ろうとしないし。
もうなんでもいい。おっさんに直接攻撃で諦めさせてやる。
「おっさんマジで反乱なんて止めときなよ。いいことなんて一個も無いよ。民意も大義もないしもう無い無い尽くしだよ」
「そんなものは必要ない。俺は自分がしたいようにするだけだ」
感情も動かさずに一蹴された。
あーだめだ。これ何言っても無駄だ。頑固一徹だ。梃子でも動かぬ鉄壁の守りだ。
だったら仕方あるまい。
「んじゃあ好きにしたらいいよね。おっさん皇帝になれたらいいね! じゃあ俺たちは帰るから」
くるりと踵を返し橋の下から出るふりをするが誰も動かないどころか呼び止められた。
「待ちなさいよ。帝国が荒れたら共和国にも影響が出るからだめよ」
「そうだぞお前サピほっとくのかよ!」
えー。
「じゃあいい案あるわけ? お?」
「い、いや、無いけど……でもさぁ……」
「でもで済んだら帝国軍はいりません!」
なんだよそれとローダーが口をもごもごした。
だが口ごもるだけで何も案は出てこない。
エルテも考えてはいるようだが思いつかないようだ。
ところが俺は自分の言った『帝国軍』で思いついてしまったぞ。
「ようし。じゃあ天才の俺が助けてやるわ。まず初めにここを去ります」
「結局逃げるんじゃねぇか」
「いや違うぞ。つまりだな」
こそこそとローダーとエルテに説明する。
ズタケたちに聞こえたら面倒なことになるかもしれないのだ。
「ま、まじかよ」
「平気なの?」
「大丈夫だって平気平気。というか他に思いつかないし」
まあ確かにとローダーたちは納得した。
ならば速やかにここを去るぞ。
「あ、待った。それはいいけど、どうやって後でこいつら見つけるんだ?」
あ、そうか。解決法見つけても、こいつらが次にどこに行くか分かんないや。帰ってきても誰もいなくなってるだろうな。
「もしかして何か思いついたんですか? どこかへ行くならこれを持って行って下さい」
とサピちゃんが手のひらサイズの星型のような前衛的な形をした石を渡してきた。
「なにこれ」
「魔法道具の一つで片割れは私が持っています。念じれば片割れの方角と距離が分かります」
そういいながら念じるしぐさをすると、石が赤く、特に先端がひときわまぶしく光った。
こちらが持つ石も同じように光る。
「片割れがある方向が強く光って、近いほど赤っぽくなりますので」
「お、すごいじゃないか。じゃあこれは俺が持っとくから」
ローダーは俺から石を奪い取ると、妙に嬉しそうに懐へとしまった。
別にそれプレゼントとかじゃないぞ?
「これをあの人に渡しておけば探す必要無かったんじゃないの?」
エルテの当然の指摘にサピは以上に動揺した。
「そ、そんなことしたら、なんだか、ほら、恥ずかしいし」
なんで?
全然分からんけどローダーだけ渋い顔をしていた。
「まあ別にいいけど……じゃあまた後でね」
そう言って逃げるようにその場を後にした。
反乱軍は追ってはこなかったので安心した。
◆◆◆◆◆◆◆◆
俺たちが向かったのは街の中心、魔術連合の巨大な建物だ。
ここには四天王の白虎がいる、はず。
つまり俺の作戦とは四天王に手伝ってもらうということだったのだ!
すごい単純だけど一番効果的だよね。
さっそく守衛に面会したい旨を伝える。
「仕事ですか?」
「いや、ちょっと個人的な話が……」
「え、個人的に!? 会いたい!? 正気ですか!?」
え、何この反応。
「私は止めましたよ!」
なんか含みがありまくるが通してくれた。
広間で待たされる。キレイな家具と壁紙。窓からは水の流れる庭園が見えた。部屋にいても水の音が聞こえる。
ほどなくして白虎がやってきた。ものすごくダルそうだ。
「えーっと、誰だっけ? 何の用事? いま色んな石に雷を当てて、どんな色に光るか調べてたのに」
「え? なんでそんなことしてんの」
「いやヒマだし」
ええ……。
みんなドン引きし、ローダーが思わず突っ込む。
「おいおい。ヒマって、いま反乱軍が発生してること知らないのか? のんきにしてていいのかよ」
「えー、それって僕の仕事かなぁ。玄武あたりがなんとかしてくれるんじゃない?」
なんという他力本願。
しかし四天王にしか何とか出来そうにないから来たんだ! 他の四天王はどこにいるか知らないし、こいつを説得するしかない。ちょっと難しそうだけど頑張らねば。
「いやいやちょっと待ってくださいよぉ。困ってんですよこっちも。知り合いが反乱軍にいるから止めて助けようと思っているんですよ。知ってる情報なら教えますし手伝えることなら何でもするんで助けて下さいよぉ」
全力で下手に出るぞ。さすがに聞いてくれるだろ。
白虎の顔色をうかがうと変わらずダルそうな顔だった。
「えー、面倒臭いしー。……あれ? そういえば黄龍が始末しに行くって言ってたような気がしたけどー」
「それならもう来たわよ。でも全く解決しなかったからここにお願いに来てるんじゃない」
エルテが親切に教えると白虎は少し考えて何かひらめいたように急に言った。
「ほーん。よく分かんないから他の人に回すわ」
考えるのが面倒になったらしい白虎は唐突に部屋を出て行った。
「え? 逃げた? え?」
「国家転覆してもいいのかあいつは……」
ローダーとエルテは困惑してるけど俺は白虎の気持ちちょっと分かるよ。
でも能力あって地位があるくせに呑気に生活しているのは許せないよ。その余裕をちょっとこっちに分けて欲しい。
などと文句をぶつくさ言いながら置き去りにされた俺たちが座ったままでいると、外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「整地も出来て一石二鳥ですのに何故文句を言われなければならないのでしょうか」
「急に壊したら迷惑なうえ、結局反乱軍も逃がしているじゃないか。勝手な真似はやめろ」
そして扉が開く。
入ってきたのは黄龍と玄武だった。黄龍は先ほど見たように緊張感が無く、玄武は以前見たように厳しい顔つきだ。
「あ、反乱軍! 潰しますよー!」
「すぐにそうやって暴力行為をしようとする。お前が暴走して問題が解決した試しなどないだろうが」
俺たちが抗議するよりも早く玄武が黄龍の襟を掴んだ。しかし黄龍は意に介さず謎のポーズをとっている。
玄武は気にしても疲れるだけとでもいうように、すぐに視線をこちらに向けた。
「で、君らが反乱軍の内通者か」
「いやあんたも間違ってるよ! 正しくはただの知り合いで」
「細かいことは良いじゃない。とにかく反乱を止めさせたいのよ。首謀者のズタケの能力が厄介だろうけど、あなたたち四天王が集まればすぐに制圧できるでしょ? やってよ」
「えらく簡単に言ってくれるな。そもそもやつらが今どこにいるかが分からんのだが」
「場所が分かる道具ならこいつが持ってますよ」
ローダーを生贄のように差し出すとめちゃくちゃ焦っていたがどうでもいいな。
「ならば場所は分かるか。だがすぐに作戦を実行はできない。お前たちは作戦までこの建物で軟禁させてもらう」
「え」
「スパイの可能性があるからな。この建物からは出さないし、監視もさせてもらう」
「複数人のスパイが一緒に来るとかナンセンスですよ。玄武さんはアホですねー」
「お前に言われたかない」
玄武が襟を後ろに強く引き締め上げるも黄龍はへらへらしていた。
いやそんなことより俺らは気が気じゃないよ。
「えーと、つまり俺らはどうなるの?」
「白虎が開いてる部屋を用意してそこにいてもらう。で、白虎はどこに行ったか……。あ、先ほど言っていた道具……魔法道具は貰うからな」
黄龍をそのへんに放してローダーに迫る。焦っていたローダーは観念したように大人しくなり、うやうやしく石を差し出した。
こいつ権力に弱いな。白虎にはタメ口だったくせに。
そして小声で「せっかくサピに貰ったのに」とか言ってる。いやそれプレゼントじゃないだろって。
「じゃあお前たちの処遇は白虎にまかせる。白虎……うん……まあ言い聞かせてまかせるから白虎の言うことをよく聞けよ……白虎の……うん……とにかく逃げようとするなよ」
めちゃくちゃ含みがありながら玄武が去って行った。
再び俺たちは部屋に残された。なぜか黄龍も残された。
「大変なことになったな」
「そうね。でも解決しそうだからよかったわよ。最悪会ってすぐに私刑もありえたわけだし」
「ですねー。帝国の懐だなんて緊張ちゃったけど、やっと休めるってわけですね。じゃあちょっとお昼寝でもしましょうかー」
最後は黄龍が言い、言うなりソファーを占領して寝始めた。
「なんで仲間みたいに話に入ってんだよ!?」
見張りで残されたとばかり思ったのになんだろうこの人。
なんだろうこの国。
次の投稿は11/29(日)にします。




