84.そんなことよりメシ食おうぜ
今夜はローダーの実家で寝床を借りることになった。
ローダーの父親は評議員なので何かを知っているかもしれないし、警告もしておきたいので自然この形になる。
まあ俺としては贅沢出来れば何でもいいんですけどね。
その家は嫌味でない程度に豪華で質素さもどこかに感じさせた。小さな庭と清潔にされた調度品。使用人が数名だけいる。
そして当然夕食をご馳走されることになった。やったぜ。
「で、明日組合長に会うことになったんだ。親父は何か知ってるか?」
「いやぁ、さすがに他の街のことまでは知らんなぁ。ドゥマはあれから平和で特に問題もないしな」
「うーん、本当かよ。ちゃんと調べてみた方が良いんじゃないか?」
などとローダーが会話しているのを横目に豆のスープを飲む。大きめの豆とすりおろした豆との触感の差が面白い。もちろんうまい。
キレイなテーブルに綺麗な食器、燭台、そして美味い料理。最高だぁ。
すっかり堪能していると料理人兼給仕の男性が料理を運んできた。
「メインディッシュは『シカ肉のソテー~リンゴソースを添えて~』です」
綺麗に肉が盛り付けられた皿がみんなの前に並べられた。焼いた肉にソースがかかっている。すごぉい。
「これが例の行商人から仕入れたという新種のシカか。さてどんな味かな?」
「え? 新種のシカ?」
「ああ。最近北部で獲れるようになったらしいぞ」
それって……。
みんな一斉に気付いたらしくローダーが立ち上がった。
「待てえええええええぇぇぇ! みんな食うの待て! じゃあヘリックス毒見よろしく」
「え? なんで俺が毒見して当たり前みたいに言ってんの?」
「でも食べるんでしょ?」
「おう!」
自分の命は羽よりも軽く、食い気の方が勝っているのは当然であった。即決だ。というかあまりにもうまそうだからもう我慢できねぇ!
かつてないほど素早いナイフさばきで肉を小さくしてから口に入れる。
入れた瞬間、ヘリックスの全身に衝撃が走る。
「な、なんといううまさだ! シカ肉の表面はしっかり焼けているのに内側は信じられないほど軟らかい! そしてリンゴソース! 生で食べると微妙だったあのリンゴがさっぱりした酸味とほのかな甘さになっている! 極めつけにこのソースと肉が組み合わさった時の絶妙なハーモニー! 信じられんうまさだ! 料理人は天才だ!」
「いや感想は良いから。毒があるの? 無いの?」
もぐもぐとたっぷり咀嚼して、鼻に抜ける香りを時間をかけて堪能してから飲み込み、数秒経ってから言う。
「あれ? そういえば平気だな。うまいし毒がないし。もしかしてこれ実は別のシカなんじゃごばべっ!!」
ヘリックスは吐きながらテーブルに突っ伏した。
「やっぱり毒じゃないか。親父、行商人から仕入れたって言ってたが誰からなんだ?」
ローダーが椅子に座りなおして冷静に聞けば父親も冷静に答えた。
「ふうむ。前から取引のある馴染みの行商人なんだがなぁ……」
「そいつを探し出して問い詰めないと!」
「まあまあ、別に悪意があったとは限らんだろう。買い付けたのは料理長だし、あちらも毒だと知っていて売ったとは分からんぞ? たまたまではないか?」
「なに呑気なこと言ってんだ! 死んでたかもしれないんだぞ!」
息子に鼻息荒く言われると評議員である父親は観念したように答えた。
「まあそれもそうか。この肉の危険性をみなに知らせた方がいいかもしれないな。じゃあ手紙でも回そうかな。ちょっと失礼するよ。君たちは……メインディッシュは無くなった上にこんなことになって申し訳ないが、他の料理でも楽しんでてくれ」
そして料理長と使用人たちと共にパンクリオン評議員は食堂を出て行く。
部屋には3人だけが残された。
「いやー、びっくりした。まあ美味かったからいいんだけど」
「うわ! こっちがびっくりしたわ! 急に生き返んな!」
びっくりしたことにびっくりされてそれにびっくりしたヘリックスは無性に腹が立った。
「はあ? なんで生き返ったら驚くんだよ。どうせ死んだときには驚かないんだろ?」
「な、なに? そんなことは、ないぞぉ」
しどろもどろになったローダーにエルテは呆れた。
「そんなことどうでもいいじゃない。明日ロロクに会ったらこのことも伝えて関係あるか調べましょ」
そう言ってからバスケットに入ったパンを3個連続で食べその流れのままスープを飲んだ。
それをなんとなく見た後、キョロキョロと周りを見回したヘリックスが急に気付いたように言った。
「ところで毒の無いメインディッシュは出てこないの?」
そんなヘリックスの望みなど誰も聞いていなかった。
次回は8/9(日)更新します。




