82.騒ぐやつ
「大変だあああああああああああ!!」
朝、起きてからしばらくツリーハウスでボケっとしていると、ローダーが叫びながら向かってきていた。
どうせ大した事ではないのだろうから、ゆっくり梯子を下り、足首をひねりながらそばへと向かう。
「なんなんだよ騒がしいな」
「おま……のんびりしすぎだろ。ていうかエルテは?」
「起きてすぐどっか行ったぞ。10分くらい前かなぁ」
ああそうかと別に深くは追及せずに続けた。
「じゃあとりあえずお前に言うけどな、ていうか真面目に聞けよ。あのな、シャングローで暗殺事件があったんだ」
さっぱり意味が分からなかった。
「えぇ……またかい。ていうか暗殺者ギルドは解散したんだからおかしくない?」
「実際起きてるんだからしょうがねぇだろ。また大事になったら嫌だし、ちょっと調べないか?」
軽く言うが、そんな物騒なことに首を突っ込むのは御免である。
なぜなら怖いからだ。
関わらないようになんとか誘導できないか。
「別に俺らが気にすることは無いだろ。お父さんが心配なら警備つけとけばいいだろ」
「あー、うー、いや、まあそりゃそうなんだが。でもよ、暗殺者組合じゃないなら、余計に正体不明で何が起こるか分からないってことだろ? 対処できるように色々調べときたいんだよ」
どうにも説得できそうもない。
ローダーは―ーついでにエルテも―ー非常に頑固なので困る。しかしヘリックス自身、説得力が無いのも自覚していた。
なので説得は諦めた。
「うーん、もうー。じゃあさっさと面倒ごとは終わらせて飯代稼ごうぜ。ちょっと待ってろ……これでよし」
地面にメモを残して調査に乗り出した。
『街に行ってます。 by俺』
◆◆◆◆◆◆◆◆
情報収集をするにはどこに行くのが良いのか。
実のところ迷うほどツテは無い。シャングローでは冒険者ギルドか古着屋か食堂ぐらいしか通っていないのだ。
「で、聞くの忘れてたけど誰が殺されたんだ?」
「ああ、それな。ほら、市長が新しくなっただろ。その対抗馬だった人だよ」
全くぴんと来ない。人となりが分からないのはもちろんのこと、市長はすでに変わってしばらく経っているのに、何故今になって暗殺する必要があるのか。
「あ、その顔。全然分かってないだろ」
「いやいや当然分かっていないぞ! でも、本当に暗殺なの? ただの痴情のもつれとかの可能性は?」
それは分からないがと歯切れが悪く言った後にローダーは続ける。
「普通の殺人、それこそ知人や家族が犯人ならすぐに捕まってるだろうし、やっぱ依頼されて殺されたんじゃないかと思うんだよ俺は」
「思うって? つまり勘?」
「うっ……とにかく調べるぞ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
古着屋に行き店主と店員に話を聞いてみる。
「殺人だなんて怖いわよねー。早く捕まらないかしら」
食堂を何件か周り話を聞いてみる。
「いやーおっかないわ。物取りならよくあるけどねー」
労働者組合に行き受付の人に話を聞いてみる。
「は? 何言ってるんですか? そんなこと衛兵にまかせといたらいいですよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「結果、情報、無し」
「いやまあ予想はしていたんだが……」
心当たりをすべて回るも何も分からなかった。
2人して組合の机に突っ伏し愚痴る。
「というかその辺で話聞いて都合よく劇的な発見とかあるわけないじゃんドラマじゃあるまいし」
「お前はたまに分からんことを言うな……。だがまあその通りだよなぁ……。どうするかな」
衛兵に知り合いでもいればいいのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。
「あんたたちこんなところにいたのね」
「あ、エルテ」
いつの間にやらエルテが机の横から見下ろしていた。
「書き置き見てきたのか」
「あんた、もうちょっと分かるように書いといてくれない? というかどういう状況なの?」
実はかくかくしかじかとローダーが説明すると、エルテはすぐに答えた。
「ここで分からないんだったら、いっそのことドゥマに行ってお父さん経由で組合とか衛兵とかから情報集めたらいいんじゃないの? 結局のところはお父さんを守りたいんでしょ? そうすれば面倒がなくていいじゃない」
「おお」
「それでひと月くらいして、特に何も見つからないんだったら暗殺じゃなくてただの殺人てことでいいんじゃない? その間に犯人捕まるかもしれないし」
椅子を蹴飛ばしローダーが立つと勢い込んだ。
「そうだな、それでいこう。今から馬車に乗れば日が暮れるまでには着くだろ! 行くぞ!」
当然馬車代はローダーが出すんだよな?
俺は金がないぞ。
一人で頷き早々に組合を出ようとしているローダーを追いかけ、ふとエルテに聞く。
「ていうかエルテは調べるの反対しないんだな」
組合を出ながらエルテは答えた。
「だって困ってるんでしょ?」
次回投稿は7/19(日)にします。




