81.嵐の前
「お肉は買い取れませんよ」
ギルドの職員が放ったのは非情なる宣告であった。
カウンターに置かれたシカを指差しながらエルテは抗議する。
「なんでよ!」
「まだ誰も食べておらず安全性が不明ですので。タダでいいなら引き取って処分しますが」
えー、と声を上げるも職員はテコでも動かない。
仕方ないので諦め、討伐と角の報酬だけを渋々受け取る。
片付けようとしているシカを眺めてからエルテは思いついた。
「ただの肉なんだし別に大丈夫でしょ。というわけでヘリックス毒見して」
「は?」
「だよな。ただのシカ肉なんだから大丈夫だろ。お前食えよ」
「は? 毒あったらどうすんだよ」
「だからお前が食うんだろ。ほら、台所借りて焼いて食え」
「まあいいけど」
「いいのか……」
自分で提案しておいてなぜか引いているローダーは放っておき早速焼いて食べようとすると、汚染されると困るからと台所の使用は断られた。
なので建物の裏にある、訓練や手入れに自由に使用ができる広場を借りる。
火を点ける道具は借りれたのでエルテが火をおこし、小さく切った肉片を焼く。
広場や建物にいたギルド員が野次馬に集まり、広場はキャンプ場と化した。
皆が焼けていく肉を注視する。
熱せられた油がちりちりと音を立て煙を上げる。
野次馬がわいわい騒ぎだす。
「良い匂い。これは美味いだろうね。間違いない」
「美味しくても毒が無いとは限らなんじゃ?」
誰かが言い合うが知ったことではない。
ヘリックスは焼き具合を見極め手を伸ばす。
「外野はだまってて! 味さえよければそれでいい! さぁて、そろそろいい感じ。よし。いっただっきまー」
塩が欲しいがそんなものは無いのでそのままかぶりつく。
「うん! 普通にシカの肉で硬いけどおいしい! ぐはっ」
飲み込んだと思えば血と食べた肉を噴き出し倒れた。
「なんの毒かしらね」
「さあなぁ」
周りはざわつくが、エルテとローダーは特に驚きもせず考察をする。そしてヘリックスを介抱する人間はいなかった。
そこへ遠くで見ていたギルドの受付がすすすと近づいてくる。
「あ、毒だと分かったなら利用方法はありますので買い取りますよ。キロ18シルバーで」
ちょっと安くない? とエルテは文句を言いつつも他に選択肢も無いので了承した。
「毒肉とか何に使うんだよ?」
「錬金術師の方々が絞ったり蒸留したりなんかして色々調べると思いますよ」
そう言いながらギルドの職員ははかりを用意する。この世界には電子はかりなど無いので天秤式のはかりを用いる。天秤ばかりを建物の中から出してきて、シカをはかりに乗せれるよう部位ごとに分け、量ったらメモしていく。そして合計して計算しエルテへお金を渡す。
エルテはなんだかんだ言いつつもお金を確認すると、しばらくの食費はありそうだと満足した。
「いやちょっと待てよ! 毒抜きすれば食べれるだろ! もったいない!」
急に叫んだのは生き返ったヘリックスであった。
野次馬たちはこの日一番ざわついた。
ローダー、エルテ、ギルドの職員は動じなかった。
「え? 食っただけでなんの毒か分かったのか?」
「いや分かんないけど」
「毒の種類分からないと毒抜く方法分からないからダメじゃん。分かるまで人体実験すんのか?」
「あ、そっか……つーか異世界だし毒も魔法的ななにかかもしれんし……」
とつぶやきながら明後日の方向を見始めた。
それを見て野次馬たちはざわざわしつつも落ち着き始める。
「ていうかね、毒あるならもっと討伐した方がよくない?」
「そうですねー繁殖してうっかりその辺の人や動物が食べちゃうといけないですからねー。本腰入れて討伐した方がいいですかねー。あ、みなさーん。さっきのシカ見かけても食べちゃダメですよー」
野次馬はその話を聞いたのか聞いてないのか、ヘリックスを奇特な目で見ながら散っていった。
「というか本当に今まで誰も食べてないの? シカ出始めてからそこそこ経ってない?」
「そういや3日前に血を吐いた急患が治療院に運ばれて騒ぎになったけどあれって……」
エルテとローダーは急に心配になり始めた。
「真実は誰も分かりませんねーではー」
などと言いながら建物へと引っ込んでいった職員を3人で見送り、することも無くなったので焚火を片付けてからツリーハウスへと帰った。
次の投稿は6/28(日)にします。




