8.モンスター退治娘
俺たちは草をかき分け山手にある洞窟へ向かっていた。
そこにゴブリンの巣があるらしい。
やだ……怖い……。
だが銀髪は剣士らしく「ゴブリンくらい何度も倒した」とのこと。
やだ……怖い……。
恐ろしいので俺は風呂敷を持って荷物係に徹するのだ。
武器? なにそれ。
ちなみに銀髪女の名前は『エルテ』だそうだ。
異世界のネーミングセンスがしっくりこず覚えにくい。
いや元々人の名前覚えれないんだったわ。
というわけで洞窟へやってきた。
「松明点けるから持って」
「あい」
エルテが火を点けようとしている。もちろん俺は現代人なので火をつけられません。火打石なんか見たことねぇ!
待ってたら茂みからガサガサ聞こえてきたよ。
狼のトラウマがよみがえってきやがった。ひぇー。
「なんかいるー!」
「はいはい」
エルテが面倒そうに返事をし、なにげなく剣を振るうとちょうど何かが出てきて斬られて死んだ。
うわ。首がほとんど取れてるじゃん。簡単に失われる命。
それを見てみたら、うーん、この緑感。チビ耳長姿は。
「これゴブリン?」
「うんゴブリン」
ファンタジー物で初心者向けモンスターとして有名なあのゴブリンであるが、実際に見たら、無理でしょ。戦闘も見た目も。
身長60cmくらいで、ちょっとしわしわな肌。手足細いくせにこん棒持ってる。凶悪な面は正視に耐えない醜悪さ。血はちゃんと赤だったけど逆にダメじゃん。青とかのほうがモンスター感あってやりやすいよ。
結論。近付きたくないですね。
ていうかね、戦い無理。狼だって無理だし猫でも勝てる気がしねぇ。
不死身だからその点は安心なんだけどね。
などと考えていたら準備完了したらしい。
「火が着いたから持って。入るよ」
持つ。
ところで突入前に周辺の安全確認とかしないんですか。ぐへへな展開になったらどうするんだ!
俺は死なないから網膜に焼き付けられるけど。
いや、逆に俺がぐへへなことをされる可能性が……?
「はよ来んかい」
「すみません!」
中は真っ暗。松明とか無い。ゴブリンは夜目が利くのでしょうな。
ちゃんと前が見えるようにすぐ後ろにくっついて歩く。
べ、別に怖いんじゃないんだからね!
と、急にエルテが左手を挙げて止まった。
前を見たら分かれ道。どっちに行くの?
しばらく待った。待った。
なんか全然動かないんですけど。俺待ちなのこれ?
「えっとぉ……」
「静かに」
いきなり物音がした。足音っぽいけどどっから聞こえているのか全然分からんね。
するとエルテが剣を振った。ちょ! 近いから危ないって!
そして見るとゴブリンが死んでいた。ひょっとしてこの人つよい?
「隅に寄せたら進むわよ。物は帰りに拾うから」
足蹴で壁に寄せて右手に進んでいく。そこは左じゃないのか。
さらに進むよ洞窟を。
行き止まりだぁ。中は誰もいませんよ。
なーんかごちゃごちゃしてる。ぼろ布と木くずがいっぱい。
エルテがまたじっとしてる。もしもーし。
「何もないみたいだから反対行くわよ」
あ、そうですか。プロ特有の思考で動いているんだろうけどよく分からんね。
まあとにかく付いて行って反対側の道に入ったわけですが。
すぐさま大広間だった。今度は10匹ぐらい何かが蠢いている。
「そのままそこにいて。片付けるから」
言うが早いか飛び出して近くから斬っていく。きゃー、戦闘狂よー。
肉の切れる音とだみ声の悲鳴が洞窟に木霊する。夢に出てくるー!
もう俺にできることは立っていることだけだ! 最初からだけどな!
そして片付いた。
いやー、あっという間でしたなー。
「終わりました?」
「終わり。ここには6匹だけね」
10匹いたと思ったがそんなことは無かったぜ! 恐怖で霧が魔王に見える現象。
さて、ルートタイム。広間の中に入って転がっている道具類を見る。
しかし鑑定失敗! 俺には物の価値が分からなかった。
「なんでも包んで。外で見るから」
あ、そりゃそうか。暗くて見えないもんな。適当に集めよう。
そうしていたらエルテが死体になんかしてる。暗くてよく見えないけどなんかしてる。やだ……怖い……。
道具っぽいのを寄せ集め布で包んだあと二人連れ立って外に出た。まぶしー!
早速広げて分別。めぼしいもの無いわ。
なんかの板。なんかの紐。なんかの腐りかけた皮。なんか丸いもの。
今回はハズレだったとのこと。
袋いらないくらい少ない。
俺もいらなくない?
ヤマもオチも無く終わり。本当に付いて行っただけだったなぁ。