78.帰還の儀
あつしさんの立った小さな円を中心にして、直径30メートルほどの円状に骨やら魔石やらを置いていく。
サルニタさんは、その円よりも外の、これまた魔石を置いた直径1メートルほどのスペースに立つ。
ミラージュさんはその隣に棒でざっと書かれた円形のスペースに立つ。
俺たちはさらに外側、何もないところで立って周りを見張ることにした。
もう真夜中は過ぎているかな。
「これでいいはずです。では始めます」
「よし、後は頼んだぞ」
本当に、去ってしまうんだな。犠牲無しは無理なのかな。
他に方法があるならサニルタさんが教えてくれてるだろうし、どうしようもないのかな。
「海と陸と空と三相一体の神に願う」
なにやらぶつぶつと呪文らしきものを唱える。
「始まりの令に従い還りし道を造れ」
すると魔法陣が光り始めた。すごい。
めっちゃ魔法! って感じ。派手だねぇ。
あつしさんも興味津々で周りを見ている。
が、サニルタさんは魔法陣を見つめたまま呪文を止めて言い始めた。
「お伝えしなければならないことがあります」
なんだろう。
「魔王というものは、召喚されただけではなれません。召喚後の儀式を中断したために、あなたは魔王になれませんでした。故に現在魔王は存在しません」
え? いきなり何? なんで今になって言うの?
儀式を途中までしちゃってるやん。先に言ってよ。
「ん? 魔王じゃないなら魔王の魂じゃないってこと? だったら失敗するんじゃないの?」
「はあ!? おい待て、失敗するならあいつはどうなる!?」
焦るミラージュさんだがサニルタさんは冷静に返した。
「大丈夫です。失敗はしません。幸いにも先の儀式の失敗のお陰で、この地には歴代魔王の魂の欠片が残っております。そちらを使用致します」
「あら。じゃあミラージュは無事ですむのね」
なんだ。それなら初めから言ったらいいのに。
ミラージュさんめっちゃ覚悟してたんじゃないの?
無駄に心配して損したね。
「それじゃあ、なぜ帰還の儀を渋ったんだ? もしかしてまだ何か隠しているのか?」
「そうですね」
表情を変えずに続ける。
「私が消えます」
「は? なんで」
「この地に残った魔王の魂の欠片だけでは足りません。なので魔王と血のつながりのある者の魂、つまり初代魔王の直系の子孫である私の魂を使うのです」
へ? ちょっと理解が追い付かなくなってきた。
視界の隅で、並べていた石が一つ消えるのが見えた。
「いやいやおかしいだろ。それだったら、お前がこの儀式をする理由なんてないじゃないか」
「あなたを還すことも出来ましたが、絶対に首を振らなかったでしょう。なので黙って勇者を送るのが最善だと考えました」
「いやそれは……どうでもいいから、いますぐ止めろ」
「もう儀式は始めましたので止めれません」
どうすりゃいいの。止めるべき? でも失敗してもだめだし。
と、力づくで止めようとミラージュさんが動く。が、円から出ない。
いや、出れない?
「そこから出れませんよ」
「待って」
「これでいいのです。あなたを呼ぶよりも前から、魔族は滅んでいたも同然でした。我々の争いに巻き込んだ、これがせめてもの罪滅ぼしです」
光が強くなってきた。
また一つ、石が消えた。
「あとは新たな召喚の儀を起こさせないようにするだけです。残った魔族と人間のみなさま、お願いいたします」
そう言い、こちらに礼をする。
その顔は、笑っていた。
「みんなー! ありがとうー! ミラージュ、ありがとー!」
今までのことが聞こえていないのか、あつしさんは手を振りながら大声で言った。
辺り一面ひときわ大きな光につつまれた。
収まるとサルニタとあつしさんは消えていた。
「……成功したのかしら」
周りを確認するも、静かで暗く、どうも分からない。
だけど儀式に使った道具も消えてるし、成功している、はず。だよな。
「はっはははははは!」
突然笑い声が響く。
な、なに!?
慌てて見ればミラージュさんだった。
「大成功じゃないか! あいつは帰ったし、魔王はそもそも存在しないし、みんなが望む通りになった。そうだろ? 問題はないし、もはや何も必要なこともない! なあ!」
エルテも俺も、何も言えなかった。
「……2人ともありがとう。さようなら」
夜明けが近づく薄明りの中、ミラージュさんが去っていくのが見え、エルテと二人残された。
気付けば俺たちは手をつないでいた。




