75.もったいぶり
ミラージュさんは立ったまま間を置いて口を開く。
「元の世界に帰る方法を、サニルタから聞いたんだ」
「え、見つかったんすか!!」
すっかり忘れてたけどあったんだ。よかったね。
「あ、待ってくれ。この方法は1人しか帰れなくてな。悪いんだが、あいつ……あつしを帰してやりたいんだ」
んー、なるほど。まあ妥当ですな。
「それじゃあ頼みたい事って、ヘリックスは帰れないから諦めてってこと?」
「まあ俺は別にいいっすけど……」
特段帰りたいわけでもないし、まあ仕方ないよね。
もしかしたら他にも方法あるかもしれないし。今はいいや。
「あ、いや、それもあるんだが……それとは別でな……」
なんか面倒臭い準備とかあるのかな?
「お、じゃあ何か必要なんすか?」
「……」
「うん、それでそれで?」
「……」
「そうしたらどうした?」
「……」
あれ? 続けてくれない。
「そんなに言いにくいことなの?」
「あー、すまない。ちょっと、頼めそうなのが君らしかいなくて……えーっと……」
「早く言っちゃいなよ!」
「ちょ、急かすなって。分かったから」
ミラージュさんは手で制し、大きく息を吸ってから言う。
「あのな、儀式が終わったら、サニルタを頼みたいんだ」
「はぁ」
「かくまったりとか、そこまでする必要はないんだが、ただ困ってたら助けてやって欲しいんだ。ほら、魔族ってだけでこの国だと迫害されるだろ?」
そっかぁ。
「なんで私を見てんのよ」
一番やりそうだからね。
ということを言葉にはしなかったが、足を踏まれた。痛い。
「ミラージュは帰らないんでしょ? だったらあなたが面倒を見たらいいんじゃないの?」
「あーいや、その、儀式には魔王の魂が必要なんだ。そうしたら私は多分消えるかなんかするからさ。ほら、信用できる人って他に知らないし、どうかな」
「ふーん、なるほどね」
「そんなに俺ら信用してるんすか」
淡白な感じだったから意外ですな。
ひいてはサニルタさんも信用してくれてるということかしら。俺とかめっちゃゴミカスに言われてたけどね。
……ん?
「なんか今おかしくなかった?」
「なにが?」
「えーっと、儀式に魔王の魂がいるって下りがよく分からなかったんだけど」
「あー。たしかに、魂なんて不確かなものを使うとか意味不明だよな。だけど簡単に世界の移動なんて出来るほうがおかしいからな。勇者も魔王も召喚するには犠牲がいるらしいし、命のひとつやふたつは必要なんだろう」
「そう言われればそうよね。むしろ他の異世界人はポンポン来過ぎよね」
「いやいやちょっと待って! そこじゃないから!」
まさかエルテは気付いてないのか!?
「なんなのよさっきから」
「だから! この話の流れだとミラージュさんが魔王ってことになるじゃないか!」
もしそうならおかしいぞ。
魔王は倒されてるっていう話は嘘ってことになるし、敵対しているはずの王国の中枢にまで来てるし、当たり前のように勇者と一緒にいるし、別に魔王っぽい破壊活動とかしてないし。
一体どういうことか説明してもらわないと!
「え?」
「え?」
「えっ?」
あれ?
「何でいまさらそんなこと言ってんの?」
え?
なにこの知らないのは俺だけ感。
てかなんでエルテ知ってるの?
「それより、魔族は魔族とつるむのが一番じゃない。私らじゃなくて他の魔族にまかせたらいいんじゃないの?」
「あー、魔族はもうほとんど残っていないし国も滅んでしまったからな……主に私のせいで」
あれー?
なんかスルーされたし話が変わったしそっちが気になるし。
「え、それって、何やったんすか」
「いやわざとじゃないぞ! 不可抗力だからな! 召喚された後、続く儀式を途中で止めたらなんか爆発して街ごと吹き飛んだんだよ!」
全く意味が分からん。
止めたら爆発とかコントかよ。
そして国が吹き飛んでも生きてるミラージュさん。完全に俺と同類だな!
「あれ? 勇者との争いで魔族は滅んだんじゃないの?」
「いや、私のことでトドメになったというか」
なんだかなぁ。
あ、このことって王様たち知ってんのかな。
結局魔族がいなくなっても魔物がわんさか来るなら脅威は去ってないというかむしろ悪化してるけど知らないと色んな対応が変わるよね。
あつしさんが知ってるなら大丈夫か? そのあつしさんが去るけど大丈夫か? どうせ言っても聞かんか?
なんか色々大丈夫か?
「まあ私たちに出来ることって限られてるけど……。王国から出て魔族って疑われたら異世界人のフリするぐらいしかないわよね」
「え? そんなので誤魔化せる? 角とか尻尾は?」
「異世界人はなんでもありでしょ」
そうかな。そうかも。ワニ人間も受け入れられてるし平気か。
じゃあせっかくだしパーティメンバーに迎え入れちゃったりして。強いし。
だけど多分あっちがお断りだろうな。サニルタさんの中で俺はカースト最下位だろうし。
「あー、それで、なんか質問とか、あるか?」
えーっと。
「別に無いわよ」
俺が考えるより先にエルテが答えおった。
おい! 何かあるかもしれんだろ! 思いつかなかったけど。
「よし、じゃあ決行は明日の夜。西門に集合な。あいつには私から言っておくから。それじゃあな!」




