70.滅びた村
ギルドの人から話を聞き、さらに地図から滅んだ村の位置を確認すると、その村はこの前レイスがいたところよりもうちょっと北側にあるようだった。一応朝に出れば夜までには帰ってこれそう。
翌朝、飲み水と軽食を準備して出発。
踏み固めた道が続いているので歩くのは楽だ。
道を進むと畑がいくつかあり、次第に人の気配が無くなっていく。
しばらくすると石造りの見張り台があった。人はいないようだ。もうこの辺には人が住んでいないからなのか、魔族が滅んだからなのか。
さらに進むと道が消えってしまった。するとエルテが太陽を見、方角を確認して進む。
ていうかこの星の自転の向きって一緒なのかな。それが分かったら俺も方角分かるな。この世界で生きていくならこの世界の物理法則もちゃんと勉強しないとな。面倒くさいけど。
道が無くなってから小一時間ほどでその場所に着いた。
まさしく“場所”だった。構造物の跡すらなく、ただ広がっている平地が、むかし人が手を入れたのかと予想させるだけである。
2人で平野を進むが何もない。本当に、欠片すらない。枯草と枯れ木ばかり。
「どうするこれ。何もないよ」
「そうね」
何かないかとうろうろしていると、妙にへこんだ箇所があり、よく見ると穴もある。脚つっこんだら危なそう。
「なんだこれ。落とし穴かな」
「井戸の跡じゃない?」
「あ、それかー」
そして他には何もなかった。
緑もないし、小動物もいないし、殺風景だなぁ。
土地は良い感じに平らなのに復興させていないのは他にいい土地があるからなのかな。
散策も飽きたし、ちょっと座って休む。
「これ本当になにもないぞ。どうする?」
「たしかにね。ちょっとくらい何か分かるかと思ったのに」
なにも無さすぎて時間が止まっているみたいだ。悪い意味で。虫すら見当たらないもんな。
うーん。
「せっかくだからその、勇者が村を救ったって話教えてくれよ」
「あ、そうね」
聞いといて損はないだろう。どんな話かな。
「それは遥か昔のこと……。魔族が猛威を振るい人々は東の地に追いやられていた。ある村ーーあ、ここのことねーーの外れに魔族が集結し人間を滅ぼそうと画策していた……。それをいち早く察知した勇者ーー2代目らしいわよーーが仲間を連れ魔族の拠点を攻め破壊しこれを阻止した。そして勇者は長く褒め称えられ、村の平和が続いた、そうよ」
ふむふむ、そうなんだ。それでそれで?
待つが続きを言ってくれない。
「え? もしかしてそれだけ?」
「うん」
みじけぇ! 中身ないやん。
「いや、それだけで勇者を目指しちゃうの? 他になんかあるだろ?」
「いや、分かんないけど……。何回も話されたからかな?」
まさか、この話にも勇者の情報がないとは。もう詰みですね。
「もうさ、エルテの考える勇者像を目指すだけでいいじゃん。他にないじゃん」
「それはまあ、そうなんだけど。勇者像があってもそれが本当に勇者なのかどうか確信が持てないし……間違ってたら嫌じゃない」
ふー、やれやれ。
「エルテさぁ」
「な、なによ」
「本当とか嘘とかそんなものは幻想であり虚構すべては自分自身が主観的に見たものを自分の脳というフィルターを介してそれを事実だと思い込んでいるんだけなんだから自身の考えがバイアスによって歪んでいるんじゃないかと考えて止まっていたらいつまでも進歩することはできないんだバイアスを振り切るほどの行動を重ね精度を高めることこそが答えに近付くいや予想よりも良い結果を出すことにつながるんだただ諦めず疑わずに研鑽するのが一番ということさ」
「え、え、ちょっと何言ってるのかが分からないんだけど」
「つまり好きにしろってこと」
「なんか難しいこと言ってた気がしたのにそれだけなの……?」
「なんだよ俺は神じゃないからお告げとかできないぞ」
「いやそこまで期待してないけど……」
なんでい。せっかく親切に教えてあげたのに。
エルテは疲れたのか、はぁーとため息をつく。
「まあいいわ。ちょっと食べてからもう帰りましょう。ここにいても何もないし」
同感。
気持ちを切り替えてカバンから買ってきた軽食を出す。
堅いパンに炒り卵と塩が入っただけのサンドイッチだ。一口食べれば口の中はパッサパサ。
のどに詰まって死んだら嫌だし木筒の水を飲む。
「うごっべっべば」
めちゃくちゃむせた。
「ちょっと落ち着きなさいよ」
バシバシと背中を叩かれる。余計苦しい!
背中の痛みに気を取られている内にむせていたのは治った。
「ぼはぁ……」
「まったく油断するとすぐ死にそうになるんだから」
「いや今のはどちらかというとエルテのほうがヤバ」
「は?」
「いやすみません」
「ちょっと待って。何か聞こえない?」
「え?」
言われて音を探す。
遠くからバキバキと木をなぎ倒すような音が次第に近づいて来ている気がする。
さらに耳をすませばズルズルという音も聞こえ、地面もわずかに振動する。
「な、なんかヤバげじゃない? 隠れよ」
速やかに音の方向から陰になるように枯れ木に隠れる。
次第に音の正体が見えてきた。
「な、なにあれ」
それは超巨大なヘビだった。何メートルあるのか、前に会った爺さんドラゴンの倍は体長がある。上部のウロコは棘状になっており黒光りしている。半開きの口には牙が並び、口の大きさはクマを丸呑みに出来るほどだ。
息をひそめて去るまで待ち、音が聞こえなくなってから顔を出し周りの様子を見る。どうやら完全にいなくなったみたいだ。
「あんなのもいるのかよ。この世界ヤバいな」
「いや、私も見たことないし魔物辞典にも載ってないわよ。なんなのあれ」
え、マジ? 超凶悪な新種を発見してしまったのか。
じゃあ街に帰ってギルドに言ったらなんか報酬とか貰えるかな? ってそれどころじゃないか。
「怖いしさっさと帰ろうぜ。そしてもう二度とここには近づかないということで」
「ま、まあそれはどうかと思うけど、帰るのには賛成」
こわごわと村があった場所を後にする。
しばらく歩き、道がある場所まで戻ってきた。
すると行きに見かけた石造りの見張り台がものの見事に崩れさっていた。近くにはヘビが這ったような跡が王都の方へと続いている。
「本格的にヤバくねーか?」
「本当にヤバいと思う。急いで王都に教えた方がいいと思う」
周りにいないか警戒しながら早足で王都へと帰る。




