68.銅像まみれ
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西門近くの宿で空いている部屋を取った。夜中に起こされた店主さんはちょっと嫌そうな顔だった。今は反省している。
翌朝。朝ご飯の潰れたイモ入りスープを食べているとエルテがつぶやく。
「勇者が何か分からなくなってきた」
えらく深刻そうだぞ。
「俺なんてなんか魔王倒す人、くらいに思ってたけど、他になんかあるの?」
「いや、だからそれが……分かんないのよ」
困りましたねー。このまま投げ捨てて共和国に帰るわけにもいかんし。
あ、そうだ。
「まだ勇者博物館とやらに行ってないじゃん? 行けば何か分かるんじゃね? たくさんの勇者のことを展示してるんだろうし」
「うーん」
他に思いつかないし博物館に行くことにした、んだけど。
「えーっと、東……、ラー油? 広場? にあるんだっけ?」
「あー……その辺の人に聞きましょうよ」
場所をおもいっきり忘れていた。
なのでエルテの言う通り、その辺の人に聞いて教えてもらった。名前はラージン広場だった。みんな知ってるのね。
人の溢れる大通りを抜け、ラージン広場に着く。この街の中では東のブロックに位置する。広場は結構広いし屋台がある。買い食いしたい。
そして見えている豪華絢爛で人の出入りが激しい巨大な建物。あからさまに勇者博物館だった。
「あそこね。早く入りましょ」
エルテは真っ先に流れに合流する。早い。急いで追いすがる。
中に入っても豪華だった。ロビーには派手な飾りつけが沢山あるけれど勇者に関する物はなさそう。中に入ってからのお楽しみってことですかね?
そして受付で入場料を払うが624シルバーもした。ぼったくりじゃん。1食100シルバーもしないのに酷い。
まあともかく奥に続くアーチをくぐる。
広いホールになっていて、勇者の銅像が中央に一つと壁沿いにぐるりと複数並んでいた。
こんなにいたのかよ。何人くらいいるのかな。
そしてここにあつしさんが追加されるのか。すげぇな。
順番に見ていくけど、しょっぱな連続でおっさんの銅像。普通の人とか印象に残らないし。
魔王軍と戦ったとか、インフラ整えたとか、法を整備したとか書いてるけどおっさんだしな。
いや死ぬ頃には歳喰ってるからなんだろうけどさ。なんかさ。
と、気になる姿の銅像が現れる。
看板を見ると
『6代目勇者 テルトラル
耳長族で穏やかな性格。能力で大寒波から王国を守ったーー』
と書いてある通り銅像の耳は長い。あと美形。
これってエルフだよね? 人間以外お断り、とかそういうことはないのか。
像はなんだか異様にローブを着込んでいて悪の組織の幹部みたいな出で立ちだけど。
さらに進めば、トカゲだ! トカゲまでいる! 9代目勇者はトカゲ人間だ!
『9代目勇者 ラージン=ワーグ
その姿と裏腹に、やさしさと聡明さを兼ね備えた素晴らしき勇者であったーー』
広場の名前と一緒じゃん。このトカゲの人の名前を付けたのか。
それにしてもこんな姿じゃあ怖がられたりしそうだけど、ちゃんと銅像まであるってことは大丈夫だったんだな。ワニさんも普通に冒険者してたしな。意外と平気なんだな。
像はやたら羽の付いた派手な衣装着てて密林の原住民感が激しい姿だけど。
最後に見るのは真ん中にある銅像、それは10代目勇者だった。
『10代目勇者 フュルヒテゴット=デュッケ
現国王である。魔都の位置を探し出し、王国の防衛と内政に力を注ぐ賢王であるーー』
好青年な彫りの深い人物だ。
しかし10代目が今の王か。じゃああつしさんは11代目なんだな。
あれ?
見てきたのを振り返ると、王様になった人となっていない人がいる。
「勇者が国王になる風習って言ってたのに、国王だったり国王じゃなかったりしてる。なんでだ?」
「私に言われても分かんないわよ」
だよね。
にしても勇者が国王になっちゃうって、政治とか出来るの?
やっぱり王と言いつつもお飾りで、実務は他の人がするのかな? 俺が国王になっても何もできない自信があるし。
10代目勇者の背中側のパネルには勇者そのものの説明が書いてあった。
『王国歴108年。異世界からの魔王に対抗すべく、人々も異世界からの勇者を求めるようになった。
召喚された勇者は紙から授けられた能力を持っている。能力は様々で純粋な戦闘能力もあれば、戦い以外の面で人々を助けるものまで色々である。』
オブラートに包んでいるけど、ようするに役に立たない能力もあったってことじゃん。
ハズレ能力で勇者になったら普通に生命の危険だし、理不尽にも疎まれるんだろうな。
だけど歴代勇者すべて抜けることなく展示されてるってことは、まあ、一応勇者としてもてなされはしたのかな? もし無かったことにされてる人がいたら悲しい。
あ、そうだ。
「分かんないことは学芸員に聞いたら分かるじゃん。あそこで説明してる人に聞こうぜ」
そうと決めたならとっとと聞きに行こう。善は急げ。
エルテと一緒に早足で近づく。近づいたところで一気に跳んで距離を詰め話しかける。
学芸員の人は一歩引いた。だが俺はもう一歩詰めた。そして話しかける。
「過去の勇者にエルフとかトカゲとかいるけど、みんな差別せずに勇者として扱ってるんですねー、すごいですな」
「あ、もちろん! どんな姿であろうと勇者様に変わりはありませんからね!」
何事も無かったかのように普通に答えてくれた。
「んで、王になってない人がいるのはなんで? 勇者は王になるって決まりじゃないんすか?」
「えぇ、まあ。それですか」
え、何この感じ。ま、まさか。
「いえ、深く考えてしまう方々もいるようですが、実際は単純な理由でして。先の王様がご存命のうちに、次の勇者様が亡くなってしまったために、たまたま王にならなかったのです」
なーんだ。別に変なことではないのか。
「エルフとかトカゲとか、人間じゃないから王になれなかったわけではないんだな。よかった」
「あー、まあ、そうですね」
あ、あれ? なんか……。まあいいか。
「えーっと、他に何かないかな」
「資料館があちらにありますので、そちらも行ってみてはどうですか?」
と教えてくれたので資料館に行く。
資料館といっても広めの一部屋をそう呼んでいるだけのようだ。
部屋の真ん中には勇者にまつわる服やら盾やらが飾られ、壁沿いに背の低い本棚がある。
みんな本は読む気が無いのか、銅像のある部屋ほど人はいない。
長椅子が備え付けられているので、適当に本を選び、座り読む。
…………。
なんか普通。これまでの勇者の功績とかこの国の歴史とか書いてるけど、勇者自体の何かではないな。
教科書とか辞典読んでる感じで面白味も無い。下手に脚色された伝記よりかはマシかな? 伝記ってありそうなのに無いけどなんでかな。みんな読まないからなのかな。
エルテは先に本を閉じて休んでいた。
「で、どうだった?」
「うーん。その勇者がなにをしたって事実だけじゃダメだと思う」
「というと?」
「何を思って、その行動を選択したのか、それが必要なんだと思う」
えー。それって目の前にその話をしたい人がいないと無理じゃん。
「死んだ人とは話せないだろ。交霊術でもする?」
「今生きてる勇者って考えたんだけど」
俺の冗談も気付いていないのか真顔でエルテは返してくる。
「元勇者の国王に会うしかない」
「へぇ!?」
いやそれ無理無理無理無理!
激しく首を横に振る。振り過ぎてフラフラした。
「そんなん無理に決まってるだろ! 何言ってんだ!」
「ダメもとで行ってみないと分からないじゃない。それとも他に何かあるの?」
無い。
でも怪しまれて投獄とかされたら嫌だし……。
「やってみないと出来るものも出来ないんだから! 行くわよ!」
もう行動力は勇者ですよ。こりゃまいった。
だがまあ止めるすべもないし、いざとなったら全力で逃げよう。
そう決心しエルテについて行く。




