★67.似たもの
歩き始めてすぐ、先頭のあつしさんにランプを返し、後ろをついて歩く。ちょっと離れて最後尾にミラージュさんとサニルタさんがついてくる。
ていうかサニルタさんはいつまでいるの? さすがに街までは来ないよね? 来たら大騒ぎだよね?
エルテはそんなサニルタさんをチラチラ見て露骨に警戒していた。
数分歩くが誰もしゃべらない。
このまま黙って街まで帰るとか気まずすぎて死ぬので、関係ない話でもして気を紛らわしちまおう。そうしよう。
「あつしさん、勇者って召喚されるって聞いたんすけどぉ、召喚されたんすか? どんな感じだったんすか?」
「え? そうだねぇ……」
あつしさんは歩を緩めずに続ける。
「お昼の2時ごろに仕事が終わって食堂で食事してたら、いきなりピカっときて、気付いたら洋風な部屋の中、人に囲まれていたんだよね」
なんかあまりにも普通だな。予想はしてたけど。
「え? なんで仕事終わってんのに食堂にいるんだ?」
ミラージュさんが言ってくる。気になるところそこかよ。
「なんでって……職場に食堂があって開いてるなら行くでしょ? なんか変?」
「いやー、仕事上がりに行くの? それに昼の2時上がりとかホワイトすぎん? 何の仕事してたんだよ」
何だこの会話。俺ら挟んで何の話してるんや。
「なにって……衆議院議員。言って無かったっけ?」
「へぇ!?」
「なんだって!」
「なにそれ」
って、なんでミラージュさんまでビックリしてるの? 元の世界の知り合いちゃうんか。
そして当然エルテは意味が分かっていなかった。制度的には共和国が近いけど、説明が難しいね。
それにしても政治家が勇者とかなんか色々ヤバそう。ていうか人良さそうにみえて本当は腹黒だったのかな。ちょっと怖くなってきた。
「ん? ちょ、というか、あつしさんって名前的に日本人なの?」
「あ、うん。それも言って無かったっけ? ……あれ? ヘリックスさんって同じ世界の人なの?」
「うーん? 同じ日本人の政治家なら名前くらい知ってそうだけど……若いし目立つだろうし」
「ええ? 日本人なの? でも名前がヘリックスって……英語……じゃないの?」
どんだけ驚いたのか、振り向いてまで聞いてくる。名前なんて何でもあるだろうに何が疑問なんでしょ。
「いや、旧中国圏でもなければ英米風の名前なんて普通にウゾウゾいますがな。なんか変すなぁ」
「本当、なんか微妙に噛み合わない気がする……なんだろうね」
どういうことなんだろう。
考えているとミラージュさんが後ろから言ってくる。
「エルフとかトカゲ人間がいるぐらいだし、いくつも他の世界があるんだろ? じゃあ似たような違う世界ってこともあるんじゃないのか? そうすれば同じ日本って国でも全然違ったとしてもおかしくない、んじゃないか?」
あー、なるほど。それなら分かる。にしてもややこしいな。
似た世界は無しにしてほしいわ。どういう法則で転移してんのかもよく分かんないし。まあ考えても分かんないしそれはいいか。
それよりも勇者のこと知りたい。
そのことは置いといて、続きを聞こう。
「んー、で、とにかく気付いた時には勇者として召喚されてたってことでよろし? 勇者なんていいですなぁ」
また前を向いて歩き始めていたあつしさんの返事は、声の調子からして嬉しくはなさそうだった。
「いや、別に良くは無いよ。着いた途端に魔王を倒してとか言って剣を渡されるし。護衛はつけるとかいう割には若くて気の弱そうな人ばかり寄越すから、気の毒だし一人で行くことにしたしね。さすがに軍人をつけてほしかったよ」
わあ。本当に魔王を倒す気があったのか怪しいですな。というか改めて考えると、召喚した人間に危険なことをやらすとか酷いな。
「それにね、この世界では勇者は聖女と結婚して国王にならないといけないんだって。だから聖女さんはめちゃくちゃアピールしてくるんだよ。そんな風習はあまりにも変だと思うんだけど」
は? なんだと。
「うらやまけしからん」
「ん? うん?」
だから次期国王とか叫んでる人がいたのか。
あんな若い娘と結婚できて、王様になるなんてな。好かれてるし周りも万歳ムードとか本当に本当にだよ。
だがあつしさんは乗り気ではないようだ。なんでだ!?
めいっぱい顔で表すと察したらしく理由を言う。
「えっとね、前に言ったから知ってるだろうけど、僕は元の世界に帰りたいんだよね。あの聖女さんには悪いけど元の世界に子どももいるし」
既婚の子持ち!? 同い年くらいに見えるのにな。
でも異世界なんだから浮気ぐらいしても良さそうなのに。勇者として呼ばれるくらいだから人間的にも出来てるんだろうか。えらいな。本当に政治家なのかな? 政治家が誠実なわけないのにな。あつしさんの世界の政治家は誠実なのかな?
「ほーん、そうなんだ。政治家になったり結婚したり、知らない間に大人になったんだなー」
「うん、まあ、えっと、うん」
ミラージュさんが久しぶりに会った親戚みたいな物言いだけど、どういう立場からの発言なんだよ。
そして横にいるサニルタさんは一連の話が理解できていない顔をしていた。ふとエルテを見ると同じ顔をしている。
俺が見比べたので2人も気付いたらしく、同時にしかめ面になる。
なんか面白い。
「って、なによその顔は」
「え? なにがっ」
脇腹に手刀を入れられた。すぐこれだもんな。
「で、僕は召喚されたからわかるんだけど、ヘリックスさんはどうやってこの世界に来たの?」
へ? 俺のこと?
うーん。
謎だ。
「気付いたら野原に立ってましたな。そして強盗に丸裸にされたり狼に食われたりしたけど私は元気です」
「あんたそんなことになってたの」
「精神力がすごい」
呆れられたり感嘆されたりした。まあどうでもいいんだそんなことは。
「他の転移者も大体一緒なんじゃないすか? あ、死にはしてないと思うけど」
「死んでたら生きてないだろ」
そうですね。他の能力だったら1日経たずに終わってたんだな。怖いなー。
そうこうしている内に王都の西門へと近づいてきた。最終的に気まずくなくなって良かった。
今が何時かは分からないが、まだ深夜だろう。多くの兵士が巡回していた。
それを見て、みんなで木陰に止まる。
「じゃあ私らはこの辺で。またなー」
「あ、うん。じゃあね」
ミラージュさんとサニルタさんが去っていく。何でここまでついてきたんだろ。
2人が去るのをーー特にエルテは警戒しながらーー見送り、俺たちは門をくぐった。
街の中も暗かった。街灯が無いじゃん。王城があるらしい方角だけちょっと明るい。
「じゃあ僕は王城に行くよ。できれば君たちもお城で休めればいいんだけど、さすがにいきなりは無理だろうし、ごめんね」
「いいえ結構です」
あまりにも冷たすぎるエルテの対応にあつしさんは苦笑してから去って行った。
突然の出来事にフォローも出来んかった。ちょっと情けない。
「じゃあ私たちは宿に行きましょ」
真夜中、二人だけで宿に向かう。
ちょっと寂しい感じがするね。




