65.ゾンビアポカリプス
肉と葉っぱ入りのサンドイッチを食べてから討伐の準備をする。
といっても日帰り予定だから野営の道具はいらないし、水と包帯ぐらいでいいかな。
ところで、ミラージュさんはゾンビと言っていたけれど、この世界の不浄者ってやつが俺の知ってるゾンビと一緒か分からないな。
というわけでエルテに聞いた。
「不浄者っていうのは動く死体で、生物に近いのから、どうやって動いているのか分からないようなほとんど骨だけのものまで様々なの」
つまりゾンビだけでなくスケルトンもいる、知ってる通りのアンデッド全般のことだな。
「それで、噛まれたりしたら呪いがうつることがあるから注意が必要なわけ。でも完全に呪いがうつる前なら治せるから。そのために必要なのは」
と、言われるがまま聖水をいくつかと聖印を2つ買う。ひねりが無さすぎる。意味あるのかこれ。
「聖水は感染してすぐにかぶれば治るし、不浄者にかけたら溶かすことができるの。聖印は不浄者が見たら距離を取るから便利なの」
なんだイージーモードじゃん。楽勝ちゃうのこれ。なんでみんな大変なことみたいに騒いでたのかな。
勝った聖印を見てみると、重なった3つの丸が下部でくっついたデザインとなっている。花丸の花びらが無いみたい見た目。どのへんが聖なのか全く分からない。まあ元の世界でもただの十字が聖なる印だったしそんなもんかな。
エルテはそれを首にかけた。
ミラージュさんも見てる。というか手に取って見てるぞ。そこまで意匠も凝ってないだろうに何をじっくり見るのか。
しばらくすると飽きたのか、俺に渡してから言う。
「目的地は大森林の北西部だから。じゃあ行くぞ」
ミラージュさんが先導し、俺たちも続いて行く。
大森林は王都を出て西にあるらしい。
出発した時にはすでに日は半ばほど沈み、森に着くころには足元が見えなくなっていた。懐中電灯があればいいけどそんなものはもちろんない。
「ミラージュさん灯り持ってないの?」
「え、君らが持ってくるんじゃないのか」
何やってんだ。暗闇の森の中を進むとか危なくない?
ローダーがいれば灯りが出せるのにな。何気にあれ便利だったんだな。
「まあ私は夜目が効くから、くっついてくれば大丈夫だよ」
そういうので言われるがままくっついて歩く。
危なげなくズンズン進んでいく。めっちゃ見えるんだなこの人。
暗い中しばらく進んだ後、倒木に腰掛け一休み。水をちょっと飲み水筒を片付けるついでにカバンの中身をチェック。聖水はズボンにくっつけとこう。他には特に大事なものは入ってないけど、汚れたら嫌だし、戦う時はどっかに置いておこうかな。
「あんた盾を出しておかなくていいの?」
「え、なんで? まともに使えないのに」
「いや、そんなに堂々と言われても困るんだけど……。とにかく無いよりはマシでしょ」
そうかなぁ。まあ用意しとくか。
カバンからガビガビの盾を取り出す。ていうかいつのまにやら革が半分くらいもげてる。ほとんど木じゃん。役に立つんかこれ。
「あれ? ヘリックスさんにエルテさん。どうしてここに?」
後ろからの声に振り向くと明るい。
あ。あつしさんじゃん。ランプを持ってやってきたみたい。
「この二人は私が誘った。丁度会えたのは一本道だからだろ。別に不思議なことはないな」
「えーっと、ツッコミどころが多いけどまあいいや。今から帰るほうが危ないだろうし」
そうだね。ほぼ闇だし。
こんな中帰ったら迷子になるしコケるよ。
「二人とも、危ないから僕たちから離れないようにしてね」
「私も戦えるわよ」
それを聞いたあつしさんはエルテを見た後、間を置いてから俺を見る。そして無言でミラージュさんへ向き直る。何か言いたかったのかな? 主に俺に。さっぱり見当も付きませんなぁ。
「その、じゃあ、みんなで倒そうか。で、一応ゾンビについてだけど、指導者というか主というか、そういうのがいて、そいつを倒したらゾンビたちも滅びると聞いたよ。まあつまり、大群と戦うよりそいつを探したほうが早いんじゃないかなと僕は思ってるんだけど」
なるほど。一点突破作戦ですな。
「リーダー倒したら終わりとか本当に楽ちんじゃないですか。さっさと終わらせて帰って寝ましょ」
「そう一筋縄ではいかんだろう」
だがミラージュさんに水を差された。えー。
「なんでぇ?」
「自分が狙われるのが予想出来るのだから、見つからないように距離を取って襲ってくるだろうな」
そうだねぇと言いつつあつしさんが補足する。
「それに、その指導者は夜行性らしいから、無防備になる夜明け前に引っ込むと思うよ。ゾンビが多い間に探して倒すしかないんじゃないかな」
「えーっと、つまり?」
「なるべく早い時間から始めて、夜が明ける前に終わらせるつもりでいないといけないってことでしょ」
まじで。
「てかミラージュはそのゾンビの主的なやつを知らないの?」
「いや知らんし。全然この世界のこと詳しくないし」
「そうなんだ」
もうすぐ戦うとなるとやっぱ怖いけど、あつしさんは魔王倒したとか言ってたし大丈夫だよね。二人で行くよりかは安心だよね。だ、大丈夫。
休憩を終え出発。
みんなで進み、森を抜けると崩れた建物のある空間に出た。
辺りには崩れた家や崩れた塀や崩れた石像が崩れまくっている。ゾンビに滅ぼされたんだろうか。怖さが天井ですよ。
「うーん、この辺って聞いてるんだけどな。姿が見えないね」
生き物の気配もない、静寂。こわいなぁ。ゾンビは親切にうーうー言ってくれるのかな? スケルトンもカタカタ言うのかな。黙って忍び足で近付いてきたりしないよね?
「奥に行っても危ないし、いったんこの辺で周りを確認しようか」
あつしさんは崩れた壁の上にランプを置く。その周りだけ照らされるが何もなさそうだ。ついでに俺とエルテもカバンを置いてから周りを見る。
「なんか臭くない?」
周りを見ていたエルテが言い出す。ちょっと分からない。
あつしさんがクンクンして周りを探している。
「おい、あっちに何かいるぞ。ゾンビじゃないか?」
言われた方を向くと、遠くに不自然な動きで近付いてくる人型の物体が見えた。
「マジっぽい」
「じゃああっちの方に操ってる奴がいるってことね。行きましょう。ヘリックスが灯りもって」
まさかの荷物持ち。いや戦えないからむしろ当然な役回りだけどさぁ。
そして灯りを持つということは先頭に立つということで。
「私が後ろを守るから気にせず進んでくれ」
いやミラージュさんが先頭行って欲しい。怖い。
仕方なしにおそるおそる進むと、前に見えるゾンビが5体くらいに増えていた。
「なんか増えてるわね」
「うん……。でも言う通りあっちにいると思うからもうちょっと進もうか」
さらに近づく。
なんか地面がデコボコしているな。ていうか踏んでるところがグラグラしているような。
ていうかうめき声が聞こえるような。
「ちょっと! 足元!」
エルテが叫ぶから見ると地面から手が生えてきていた。
「うが! なんじゃこりゃ!」
急いで踏みつけてから下がる。
エルテは抜刀しあつしさんは素早くスーツ姿に変身した。ミラージュさんは後ろすぎて見えないけど身構えたのかな。
オオオオオオオオオオオオオオオォォォ…………
辺りにうめき声が木霊する。声に反応して集まってきたみたいだ!
すぐにエルテは上半身まで這い出てきていた足元のゾンビを叩っ斬る。前に見えていたゾンビもこっちに走ってきた。
俺もいそいで近くの石壁の上にランプを置いて盾を構え備える。
こんどは左右からガチャガチャ聞こえる。何かと見ればスケルトンが集まってきた。
「ぎゃああああああ!! めっちゃ湧いてくる!! なんじゃこりゃ!!」
森の奥から地面から、どんどんゾンビとスケルトンが襲ってきた。際限ないのか!?
「すごいなー。ここは昔、戦場だったらしいから、その時の死体なのかな」
ってミラージュさん何呑気にしてんだ!
「ちょっと! とにかく周りのヤツを倒さないと囲まれるわよ!」
エルテは剣を振り、ゾンビをどんどんバラしていく。やっぱり強い。
さらに聖印の効果か、ある程度以上ゾンビたちは近づかないみたいだ。
しかし増える方が早く分が悪い。そのうえスケルトンには剣は効きにくいようで、たちまち周りは骨だらけになる。
俺は盾で押し返したり払いのけたり逃げたりしたが、攻撃手段が無いから数は減っていない。
そうだ。盾を使えばいいかも。
左腕に通していた盾を前に持ち直し、構える。
「これでもくらえー!」
思いっきり殴りつけてやった。ガビガビの盾でも打撃武器にはなる。
殴ったスケルトンは形を保てず崩れていった。というか腱も無いのにどうやって動いてるんだよコイツら。
あつしさんも素手で殴ってスケルトンを砕いている。強い。ていうか拳で戦うのか。勇者なのに剣は使わないのか。
「ミラージュ! 指導者見つかった?!」
「そうだなぁ……。ていうか指導者ってどんなやつなの?」
「今それ聞くの!?」
こんな大惨事の時に聞くのかよ。あらかじめ聞いとけよ。
いやでもちょっと待って! これは言い忘れたあつしさんが悪いのでは? 少なくとも気付かなかった俺は悪くないよね。
「えっとね! 聞くには強力な悪霊みたいなオバケらしい! 白くてデカい!」
「レイスってことでいいのか?」
「ちょっとレイスが分かんないから合ってるか分かんない!」
エルテとあつしさんが一生懸命死体と戦っている中、ミラージュさんは呑気に歩き回ってボスを探す。急ぎもしないのか。
うわ脚掴んでくるやつがいるし。もう! 足元を殴って、横を蹴って。エルテは斬って、あつしさんは粉砕して。
でも数は一向に減らない。やっぱボス倒さないとだめだこれ!
「おーい、こっちだー」
ミラージュさんが叫ぶので、みんなでそちらを確認すると、ギリギリ見える距離に白い影が浮いていた。
なんだあれ。あれがレイスなのか?




