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異世界で楽しむ100通りの死に方  作者: アラニン
第三章 王国編
64/113

64.勇者のお仕事

朝。迷って遅れてもいけないので、すぐに中央広場へ向かう。

まあ迷いませんでしたけどね。ものすんごい人がいるから。


たどりついた王都の中央広場。人で埋め尽くされた広場には、囲むように背の高い建物が立っている。

どこであいさつがあるのかと近くの人に聞いてみれば、見えている頭一つ出たホテルのバルコニーでするらしい。でっかいホテルだ。フクロウ亭より部屋代高そう。

人が多すぎてそのホテルのバルコニーが見える位置が確保できない。バルコニーに人が立てば身体の一部くらいは見えるかなぁ。見えるといいなぁ。


「これもうすぐ時間なのかしら。こんなに人がいるんだから」


まだ何時間も先、ということは無いだろう。ここを離れると間に合わなくなるかも。だけど立って待っとくのもなんだよなぁ。

あ、閃いた。


「近くの店に入って時間潰すのはどう? 始まってもすぐに分かるしいいんじゃね?」


「そうね。じゃあ……」


良さげな店を探す。人が多くて探しにくいぞ。


「なんか布屋? 仕立て屋? があるよ。あそこに入ってみない?」


いいね。今まで中古の服しか買ってないし、じっくり服とか見たことなかったし。なんなら水で流したら簡単に汚れが落ちるやつとかないかな。


ガラス窓の付いた扉を開くとチリチリと鈴が鳴る。

他にお客さんはいないみたいだ。入るなり店のおばちゃんが言ってくる。


「ありゃ、ウチから見るのは止めてもらえます? どうせ聞こえんしわやでしょ」


「あ、いや、服見たいんですけど」


「ええ、そりゃ悪いね。どうぞ御覧になって。でも私もお二人を見たいからねぇ」


「いやすみません。早めに終わらすんで」


話が付いたので店を見る。

色々な生地が壁に丸めて並び、店の中央の棚にはマントやローブなどの上着、装飾のないシャツやニットの服が置かれている。

こんな日じゃなければ静かで落ち着いた店なんだろうな。


エルテはボトムスを見ている。

俺もズボン欲しいな。すぐ汚れるし。


「ちょっと聞きたいんですけど、汚れが付きにくくて洗いやすいズボンって無いですか?」


「そうねー。洗うのは綿が一番よね。でも汚れも付きやすいわよね。濃い色にしちゃえばいいわよ。汚れ自体が付きにくいのなら、やっぱ革ね」


革ですか。蒸れそうだし手入れが面倒そう。脂とか塗らないといけないんだろうな。それに冒険してたら直射日光浴びてガビガビになるし濡れたら臭そう。


「何か魔法的な便利で何かそういった何かないんすかね」


「えー、贅沢ねー。あるにはあるけど高いよー」


「ちなみにおいくら?」


「自動修復付与のズボンなら3ピンクゴールド」


「うわ」


これは無理ですね。

無難に綿のズボンとシャツを買おうかな。シャツは頻繁に血濡れになるし赤に近いほうがいいだろう。ズボンは濃いめの色で……青系だとローダーと被るから暗い灰色にするか。ちょっとチェックみたいに見える布の組み合わせになっててオサレ。


「洗濯に使う石鹸とかもあるんすか?」


「はいこれ。モゴの種の皮入りの灰よ」


まさかの粉末。それにモゴってなんや。

しめて4ゴールドと85シルバーでした。畳んでカバンにねじ込む。カバンがパンパンやぞ。


「私は雨具が欲しいんだけど……」


「じゃあこの長めのマントはどう? なんなら形と色をお好みで作るわよー」


やっぱ仕立ててくれるのか。


「でも用事のあと戻ってくる予定ってあるっけ?」


「そうね。私たち冒険者なので次にいつ来れるか分からないし、これにしますね」


そのまま見せてくれた亜麻色のマントを買うことにしたようだ。油がしみ込んでいて水をはじくらしい。いいね。

エルテは買ったマントをカバンに器用に着せた。その手があったか。いやでもシャツはともかくズボンは着せれないしな。


買い終わると外がにわかに騒がしくなってきた。始まったかもしれないから出るか。

ノブに手を掛けるが、


「あれ?」


「どうしたの?」


「いや、ドアが開かないんだよ」


扉の前に人がつっかえて出れなくなったみたいだ。どうしよう。

おばちゃんが裏口を調べている。


「あらまー。裏にも人がいっぱいよ。困ったわね」


閉じ込められた。なんてこったい。


「どうしようないわねー。もう中から見る? 買ってくれたから特別よ」


やったぁ。


ご厚意に甘えて、一緒に二階に行って窓から見ることにした。

店の二階は住居になっているみたいで、観覧する場所はリビングだ。質素だけど、室内と窓際に花がある。花ばっかりだなこの街。

窓を開けるとホテルのバルコニーがよく見え、そこには騎士みたいな人が立っていた。司会してんのかな?


「それでは聖女様よりご挨拶です!」


わーわー!


聖女ってなんじゃ。そんなのもいるのか。腹黒そうな響きですな。

すぐに白い衣装に身を包んだ若いブロンドヘアの女性と、ちょっと豪華な衣装を着たあつしさんが出てきた。


「こんにちは。わたくしが聖女ヴィスレです!

 皆様方は怪物の噂でさぞかし不安をお持ちになっていることでしょう。ですがご安心を! 魔物共は勇者様が倒してくださいます! 魔王をも倒した、歴代勇者様の中でも類を見ないほどに秀でた勇者様です!」


わーわー!


自分で聖女って言うのか。役職だから恥ずかしくないとかなのかな。

あつしさんはゆっくりと左右を見ながら手を振っている。昔の政治家みたい。


「勇者様は本日出立致します。すぐにまた平穏が訪れます! 我々は凱旋式の準備をしましょう!」


「キャー、かっこいー!」「なんて美しい方なんだ」「いよっ! 次期国王!」


次期国王?

ていうか、いよって掛け声だれだよ。いつの時代だよ。


そしてあいさつは終わったようだ。あつしさん喋ってないやん。

まあいいや。人も減ってきたのでお礼を言ってからお店を後にする。


さて、俺たちに出来ることはもうないし博物館に行くか。博物館がある方角へ進みながら話す。


「勇者ともなると色々な仕事をしないといけないのね」


「大変そうだけど、すげぇ人気だよな。俺にもスーパーパゥワーがあれば崇め奉られ新品のズボンを買うことが贅沢なんて思ったりしないのに」


本当羨ましい。


「不死身も十分スーパーパワーじゃないか?」


「うお!?」


後ろから突然話しかけられ二人で声をした方へ振り向くと、でっかいフードを被ったミラージュさんがいた。

この人いつも唐突に現れるな。


「なんなんすか一体」


「えっとね。……ここじゃ周りがうるさいから移動しようか」


たしかに騒がし過ぎて聞き取りにくいよ。

熱気冷めやらぬ広場を後に移動する。



ミラージュさんについて行くとフクロウ亭だった。


「あ、フクロウ亭。今日は部屋空いてるのかな」


「泊まりたいのか?」


「せっかくだし……」


「まあ聞いただけだけどな」


なんでい。奢ってくれたりはしないのか。


「まあいいもの持ってきてくれるよ。ホテルの人が」


ほんとかな?

みんなでロビーの窓際の席に座る。


「で、そんなことより、なんか用なんすか?」


「あー、それそれ。それなんだけどね。あいつ一人じゃ心配だし一緒にゾンビ退治しない? 報酬はあいつが払ってくれると思うよ」


え、どういうことなんだ。

エルテも意味が分からんみたいだ。


「ちょっと待って。勇者一人で行くってことは無いんじゃないの? 兵士とか仲間とかいるんじゃないの?」


「ゾンビなんだからやられたら奴らの仲間入りだろ? だからなるべく少人数で行くのさ。当然勇者は強いから一人で行く」


「いやその理屈はおかしい」


「まああいつは変身しとけば噛まれる心配はないから絶対うつらないんだよ。つまり仲間はいらないってことよ」


「いやじゃあ俺らを誘う意味が分からん」


「ようするに面白そうだから見に行こうってことさ」


「危ないのに何で誘うんですかね……」


思考回路がおかしいと思う。


「どうせ受けようと思ってたんだからいいじゃない。お金も出るんだし」


「いやそれこの人が勝手に言ってるだけだろ」


「バレたか」


「バレるも何も自分で言っとるやん」


とか話してたらホテルの人がホットチョコレートのようなものを出してくれた。

う、うまい……。なんだこれは。上品な甘さと芳醇な香りが口と鼻と胃に広がって脳はエンドルフィンに満たされる。やばい。甘いものなしで生きていけない!


「討伐は今夜だから夕方には出て先回りするぞ。まだ時間あるからな」


なんか決定してるじゃん。みなさんごり押しが過ぎますよ。


「博物館は帰ってからでもいいわね。準備しましょ。ごはんも食べていきましょ」


胃に物がある状態でゾンビに会ったら吐く気がするんだけど……。

でも行くまでに空腹で倒れても嫌だし食べるけどね。

んじゃ食べて英気を養いましょ。


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