63.花の王都
記念館以外に情報は見つからなかったので、もう王都に向かっちゃおう。馬車も出ていたが、王都はこの町からかなり近いらしく、徒歩でも今日中に着けるという話を聞いたので歩いて行くことにした。
今日は曇り空だけどそこまで寒くない。歩いていると汗ばむくらいだ。
「この辺って魔獣出るのかしら。依頼とかあるかな」
また何か斬ること考えてる。ヤバい人だな。
「勇者がいるような国なんだから、しっかり狩られてるんじゃない? 王都も近いし」
「でも前に騒ぎになったクマとか、王国から来てるって話よ」
まじかい。溢れてくるほどクマがいるってこと? デンジャラスランドじゃん。
「じゃあ遭遇したらどうなるの? 逃げるの?」
「クマからは逃げられないから死ぬ気で戦うか、あんたが死んで囮になるしかないわよ」
そっかー。
クマといえば森のイメージだけど、町中にも来る時があるし、ここにも出てくるかも。
もし出てきたら怖いので、周りを警戒しながら歩く。見渡す限りの草原である。
草影から飛び出てきたらどうしよう。怖いな。
だが何も起こらなかった。
歩き続けて王都に近付いてきたが、もうそろそろ着くんじゃない? 今15時くらいかな。
そしてまばらに見えてくる木造住宅と畑。その奥には石の壁。王国っていうくらいだからお城があるのかな? まだ見えないけど。
「なんで街の外に家があるのかしら」
「スラム街的なやつじゃね?」
といっても割と立派な一軒家が多いから、単純に壁の中がいっぱいになったから外にあふれただけかもね。
エルテは何かを考えていたが、あ、と思い出したように声を上げる。
「フクロウ亭ってところに行ってみない? 前にミラージュが言ってた宿」
あー。王都にあるって言ってたな。
「でもお高いんでしょう?」
勇者が待ち合わせに使うくらいだし1泊1ゴールドとかざらでは。
「何なのそれ。まあ行ってみてあんまり高かったら止めたらいいじゃない」
なんかみっともない気もするけどお金大事だからね。臨機応変に行こう。
門に行きそれなりの装備をした門番にギルド証を見るついでにギルドと宿の場所を聞く。どちらも門をくぐってすぐの大通りにあるらしい。
そして門をくぐると地味目な街並みが広がる。窓際に植木鉢や花を吊るしている家が目立った。何かの風習ですかな。
「あ、あそこにあるの組合だね。先に組合に行って依頼見てみよっか」
言われてそっちを見ると、それらしい装備の人々が出入りしている建物がある。
フクロウ亭の場所ももう一回確認したいし、行くか。
金属板が合成されたドアを開きギルドの中へ。ちょっとドアが重いんだけど。なんなのこのドア。
中に入った途端お花。ギルドはむさくるしいはずなんだけど、室内には大量のお花がある。ただよう香りもお花。間違えて花屋に入ったのかな? ファンシー。
でもちゃんと依頼版もあるし受付もあるし冒険者っぽい方々がたむろしているからギルドで合ってるみたい。依頼板を見と依頼がいっぱい張り出されているね。
「わあ。魔獣の討伐が多いじゃん。やっぱ王国は魔物まみれなのか?」
調理設備ないし肉は食べずに全部売ることになるけど、魔獣なら勝手がわかる分、楽だな。
まあ依頼が本筋じゃなくて勇者のこと調べる合間の金稼ぎだから、効率がいいものか、楽で安全なものを選びたいな。
「んー……。あ、これとかどう? 不浄者の討伐」
不浄者? 遥か彼方の記憶の片隅のほこりに埋もれた言葉だな。なんだったかなぁ。
まあ詳しいことは受付で聞けばいいか。
「ってもう暗くなるけどいついくの? 明日?」
「夜に出るんだから今日の夜、ちょっと休んでから向かったら丁度いいでしょ」
え!? 今日の今日で!? ヤル気あり過ぎだろ。俺もう疲れましたよ。
って言いたいけど不死身になってから身体は疲れ無くなってるんだよね。しかし精神は疲れるんだよな。エルテは疲れないのかしら。
エルテはマイペースに依頼を板を持って受付に向かっていた。急いで追いかける。
「この依頼を受けたいんですけど」
受付は若い兄ちゃんだった。依頼の書かれた板を見て、手元の書類を見て、依頼内容を確認している。
「えーと、お二人だけで? 大丈夫ですか?」
「はい。こっちのが囮になるので。ちなみにこれは異世界人で不死身でほとんど不浄者です」
「いや人間だぞ!」
「あーはいはい。異世界人ね。まあ失敗しても二人増えるだけだから大丈夫か」
この人もさらっとひでぇこと言ってやがる。
やっぱ不浄者ってゾンビ的なやつなのかな。
「じゃあこちらに受領確認の署名を……あ!」
「え、なに」
「この依頼には予約が入っていました! 板を外し忘れておりました。申し訳ございません」
おいおいしっかりしてくれよ。
「依頼の予約とかあるの? まあそれはともかく先客がいるなら止めるしかないわよね」
「そうです! 今朝のことです。お役人の方から連絡がありまして、勇者様が巣を滅ぼしてくれるとのことを言ったのですよ! なんと勇者様ですよ勇者様!」
急にハイテンションになったな。情緒不安定なの?
エルテが「なんか危ないみたいね」と小声で言ってくる。俺も危険を感じます。
「たしかに危険な仕事ですが、魔王を倒した勇者様ですよ! 誰しもが勝利を確信し祝賀の準備をしますよ」
勘違いしているようですが危ないのはあなたです。
「しかも明日出陣前にあいさつをするみたいですよ。私も見に行くので組合は人が少なくなるので、依頼がしたいなら今日中に明日の依頼を選んだ方がいいですよ」
みんな嬉しそうに見に行くのか。それに反してあつしさんも大変だな。
「私たちも見に行きましょうよ。どこでするんですか?」
「中央広場だよ。正式名称はアルファジリ広場。七代目勇者にちなんで作られた広場です」
エルテはぶつぶつ言っていた。覚えようとしてるんかな。
俺は全然覚えられないから中央広場ってだけ覚える。ていうか勇者何代目なんだ今。場合によっては酷いことになるぞ。
「じゃあさ、今日はもう依頼しなくてもいいよね。依頼はもう置いといて本筋の勇者のこと調べた方が……」
「うーん、たしかにそうね。勇者のこと調べられる施設とかありますか?」
「勇者様のことを調べる! それならば東第二広場、正式名称ラージン広場にある勇者博物館が最適です。かなり巨大で一日ではすべて見れませんよ! 今日はもう閉まっていると思いますが」
他にも広場があるのか。しかも東の中でも第二なのかよ。絶対迷子になるわ。街の中に地図とかないのかな。
「東の方に行って後はその辺の人に聞きましょうか。んー、あとフクロウ亭はどこにあるんですか?」
「それなら大通りを王城側へ向かえばすぐ右手に見えます。なかなかに大きい宿ですよ。あ、勇者様のごあいさつは明日の太陽が頂点に上る直前の鐘が鳴った時です! 遅れないようにして下さいね!」
怖い。お礼を言ってとっととずらかろう。
速やかにギルドを出てフクロウ亭に向かう。ちょっとゆっくりしたから薄暗くなっている。近かったので真っ暗になる前に着いたが、薄暗くて外観はいまいち見えない。窓から明かりが漏れている。
中に入ると立派なシャンデリア。火でも電気でもないから魔法道具ってやつかな。
観葉植物もあるしタペストリーや銅像もある。カーペットまで敷いてある。高そうな宿だ。大丈夫かな。
「部屋を借りたいんですけど。二人部屋ひとつか一人部屋をふたつ」
「申し訳ありませんが本日は満室です。よろしければ系列店のご案内を致しますが」
なんと。満室なんて初めてだ。まあ普通暗くなってから宿取るとか遅すぎるよね。今まで満室に当たらなかったのが謎よね。ネット予約とか無いし、みんな有名所や近いところで宿取っちゃって需要と供給が合ってないんだろな。
まあともかく長居しても意味が無いので紹介された2軒となりの宿に行き泊る。軽食あり。風呂なし。布団はぺらい。相部屋。
しょぼくない? 金持ってなさそうだから追い払われた可能性もある?
「明日はあいさつ見てから博物館に行きましょ」
「そうだね」
さっきのギルドの人と似たような勇者大好き人間がいっぱいいそうで怖いけど、エルテも行きたいだろうし俺も気になる。
というわけで本日は就寝ですよ。




