62.三代目
町を歩き始めて数分、いきなり知らない兄さんに話しかけられた。
「旅の人よ、ここは三代目勇者が生まれ育った偉大なる町プッピルンなのだよ。三代目勇者の伝説は知っているか?」
「伝説って?」
「よくぞ聞いてくれた!」
ここぞとばかりに意気込み話し始める兄ちゃん。
「三代目勇者は最後の真の勇者で、偉大なる力を持っていた勇者なのだ! 昨今の召喚されたまがい物の勇者とは違うのだよ!」
へえ。真ってなんだ。偽とかいるの?
「なんだと!? この原理主義者め!!」
急におっさんがあらわれた! なんなんだ!?
「む!? なんだ貴様!!」
「私は公同勇者教の司祭だ! 旅の人! このようなまがいものの話に耳を傾けてはいけませんぞ! 現在の国教は召喚された勇者様を基礎とする公同勇者教なのですよ!」
「なんだとこの新興宗教のゴミめが! お前らは権力のために異世界人を勇者に祭り上げているだけだろうが! 真の勇者とはこの世界より生まれ、この世界に選ばれたものなのだ!!」
「ふざけたことを言いなさるな! そのようなオカルト、いや、邪教の考えなど捨て去るのが現代の文明社会に根差す人の在り方というもの!」
「えーっと……」
なんか面倒臭いので、言い合っている内にこっそりその場を離れた。
ちょっと歩いて王都寄りの宿に退避。やる気も削げたので今日はここに泊ろう。
「いやー、びっくりしたわねー。みんな熱心なのね」
なんで異世界で宗教の派閥争いとか見なければいかんのじゃ。嫌な感じよ。
まあ嫌なことは忘れてごはんにしましょ。立派な食堂が付いている宿屋なので食堂を探す必要はない。
今日の夕食は鳥ひき肉のあんかけがかかったペンネっぽいものだ。うまい。
「で、あんたはどっちが正しいと思うの?」
えっ。忘れようとしてたのに。
「わかんね。どうもこうも、それぞれが勝手に言ってるだけだろ」
「うーんたしかに」
まあよく分かんないからよく分かんないけどな。
ともかくスライスしたカブが入ったスープを飲む。うまい。
「ちょっと面倒だけど勇者のことを調べるなら……勇者教……も、調べるべきなのかしら」
「すっごい嫌そうだな」
「そりゃそうでしょ」
そうですね。
そんなことより豪華にもデザートとして付いてきた干しモモ的なものを食べる。うまい。
「なるべく狂信者に会わないように調べるしかないんじゃない? 図書館とか資料館とかあればそこに行くとか」
「あんたにしては賢いわね。それでいきましょ」
お腹もいっぱいだし今日は寝ましょ。うまかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
翌朝。宿の人に三代目勇者のことを聞いてみると、案の定記念館があるらしく場所を教えてくれた。
そこに向かうと店がやたら集中している。土産屋や甘味処がいっぱい。ここも観光客スポットなのか。
そしてたどり着くは記念館。看板と横断幕が掲げられ、それにでかでかと書かれた文字は
『三代目勇者コルケイン 記念館』
レンガ造りの建物は何色ものペンキで彩られ品性が足りていない。いや、著名な芸術家がデザインしたとか言ったら芸術だと思うかもしれない。
「うーむ」
何とも言えない気分。中は大丈夫なんだろうか。
「迷っても仕方ないし入りましょ」
エルテの言う通りなので扉をくぐり入場料を払う。48シルバー。
エントランスにはどでかい銅像が座していた。プレートには『三代目勇者 コルケイン像』と書いてある。
でっかい像だな。3メートルくらいあるんじゃないか。どうやって建物に入れたんだろう。
それはともかく建物の奥に進み、壁に展示された資料を読む。明らかに美化されているであろう絵付き。
『コルケインはこのプッピルンにて生まれ幼少期を過ごした。子供の頃からその類まれなる運動能力を用い町の人々を助けていた。』
「三代目勇者は肉体派だったみたいね」
「エルテみたいだな。ほとんど勇者じゃん。よかったな!」
エルテはぴたりと止まった後、ゆっくりと振り向いた。
「もしかして、馬鹿にしてるの?」
「滅相もございません」
殺意を感じたのですぐさま謝罪ムーブしたら許してくれた。
そして次の展示物へ行く。
『王国歴613年。コルケインは評判の良さから勇者として召集された。勇者となったコルケインは兵を率い、勇敢に戦い、魔王軍に何度も勝利した』
そうなんだ。すごいね。
だが次のパネルでは
『王国歴617年。魔王と対峙したコルケインは惜しくも敗れた。しかし多くの魔族を倒していたので魔王軍は力を失い、長く平和が訪れた。』
「負けてるじゃん」
「いや十分すごいでしょ。魔族をボロボロにしてるんだから」
「そうですよ! 3代目勇者様は偉大なのですよ!」
「うわあああああああ!!」
いきなり後ろに昨日のヤバ兄ちゃんがいる! こわい!
「やはり偏見無く純粋に物事を見ることができる旅の人こそ真実が分かるのだな! ダーチの勇者こそが真の勇者だと分かっただろう!」
こちらのことなぞ気にせずに続け、自分のことのように胸を張る。何故に張り切ってるんですかな。
「君たちもそう思うだろう!」
目にも肩にも拳にも力を入れて言ってくる。周りの人たちは目を合わそうとしていなかった。この町の名物で慣れているのかもしれない。
「どっちもそれぞれ良いじゃん勇者だしいいじゃんお互い尊重でいいじゃん」
一人なら対処できるかもと思ってちょっと適当に言ってみたけどどうかな。
だが狂信者兄ちゃんは静止してこちらを見ている。エルテは見比べている。
何も反応がないと怖い。ちょっと身構える。
「たしかに……そうだな。勇者様はいずれも素晴らしい」
落ち着いたみたいだ。よかった。
「でも私は3代目が一番好きなのでそこだけは譲れん。まあ君たちも頑張ってくれよ。そして気を付けたまえ。今、この王国では召喚された勇者を崇拝することが是とされているのだ。下手なことを言わないようにな」
そう言うと去って行った。何なんだ一体。
周りは何事も無かったように展示物を鑑賞していた。落ち着き過ぎじゃないすか。
「いつもあんたが怖いって言ってるの馬鹿らしいと思ってたけど」
エルテは大きくため息をつきながら言った。
「流石に私もあれは怖いわ」
悪い人ではないけど怖いね。
しかし王都は大丈夫なんだろうかなぁ。もっと変人が多そうだけど。




