61.王道の王国
「やっぱり勇者のこと調べたい」
ある日、料理の下ごしらえをしている最中、エルテが唐突に言いだす。
シャングロー近くの森の、微妙に改築したツリーハウスの側。
草木は萌えやわらかい日差しが降り注ぐ。冬も終わりに近づき暖かくなってきた。だけどもまだまだ寒いよ。
「それってすぐ? もうちょっと暖かくなってからじゃダメ? 王国ってここより北だし寒いと思うんだけど」
「な、なによそんなに勢いよく聞いてきて。王国に行くのが嫌なの?」
「嫌ではない、ん、だーけーど」
なーんか乗り気になれない。いつか誰かが王国を悪く言っていたような気がするからなぁ。いつだったか。あれ? 王国が悪いんじゃなくて魔族が悪いんだっけ?
「おいおい、王国って魔族領に近いだろ? 大丈夫なのか?」
ほんとだよ。肉食動物でもひーこら言うのに魔族とか怖い。RPGなら終盤で出るやつじゃん。対面したら勝てないし逃げることも出来ないよきっと。
「なんか、あんたって、いっつもなんでも怖がってない? そもそも魔族領が近いって言っても魔王もいないし王国内ならそんな危険な魔族なんていないわよ」
用心に越したことは無い。万が一ということもある。魔族の残党がいるかもしれない。
だが俺の心配などよそにエルテは意気込む。
「とにかく! 王国に行って勇者のことを調べたいのよ。あと魔族も。だから行きましょ、明日にでも」
明日っすか。早いなぁ。
だがローダーは首を横に振っていた。
「いや俺は行かないぞ。怖いし。あ、魔族じゃなくて王国民が怖いんだけどな」
ローダーも嫌なのか。でも人間が怖いとはどういうことなのか。
「なんで王国民が怖いの? 変な祭りとかあるの?」
「いや、なんかこう……選民思想というか……そういうやつでな。勇者を呼べるから偉いみたいな風潮があるんだ。だから苦手なんだよ」
まじか。行く気無くすやん。そんなのはお断りでお気楽な国を欲する所存です。できれば獣人まみれで。どっかにそういった楽園は無いのでしょうか。
「国民とかどうでもいいわよ。私は勇者のことが知りたいだけなんだから。じゃあヘリックス、準備しましょ。多少寒くてもあんたは死なないんだから関係ないでしょ」
「あれ?」
自然に俺も行くことになっている。何故でしょうか。
でも魔族怖い以外に断る理由もないしな。ファンタジーといえば王国だしな。一見の価値あるよな。行くか。怖いけどな。
ということでエルテと二人だけで王国に行くことにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
王国へは直通の馬車が出ていた。共和国のシャングローから王国の一番近い町まで乗り継ぎ無し。
クッション付きの幌付き馬車、しかも窓ありでちょっと良い馬車だ。ケツが痛くない。
でも車を引くのは馬ではなくウナゴだ。2匹が並んでどっしどっしと車を引く。かわいいしかっこいい。
しばし揺られながら景色を見る。森だ。すごく森だ。
鳥は鳴いてるし、角が生えてないシカもいる。角なしなら狩るの楽だけど角も売れるからなぁ。悩みどころですな。
特にやることも無いので話でもしようかしら。
エルテを見ると暇そうにしていた。
「そんでー、王国に行ったら勇者の何を調べるの?」
「そうね……それぞれの勇者の人となりを調べるのがいいのかしら。何かいい案はある?」
エルテがちょっと考えてから言うんだけどね。ちょっと困りますな。
「うーん、いや、そもそも何を調べたいのかが分からないと案も出ないんだけど」
ああ、と、いまさら気付いたような声を出す。
「ほら、前に言ったじゃない。私は勇者みたいになりたいって。正直、今のままじゃ勇者には遠いかなって思うから。勇者のことを調べたら近付けるかもしれないじゃない?」
本当に目指していたのか。
まあ勇者の地位を目指してるわけじゃな無いなら簡単だろう。とっておきの方法を教えてあげるか。
「よし、それならすぐに達成できるぞ! いいか、よく聞くんだ。自分は勇者だ、そう声に出して信じるのさ」
「なめてるの?」
「いやすみません」
めっちゃ睨まれてしまった。でも冗談じゃなくて本気なのになぁ。
「まあ、あんたには期待してなかったし、いいんだけど。とりあえず王国に付いたら歴代勇者のことを調べるってことにしましょうか」
「はいそうですね」
相変わらずの評価だけど特に異論はありませぬな。なぜなら天才は凡人には理解されないと知っているからだよ。ふはは。
と、急に馬車が止まった。何事かと思ったら、ここが国境らしい。要塞とかは無くって、木製の子やと柵だけがある。王国と共和国は仲がいいのかしら。安く無い馬車台に入国の手続きの手間賃も含まれているので馬車の人が手続きをしてくれる。
「乗客の身分証明書と入国料を」
ギルド証を御者に貸すと、国境警備の人が確認をして返してくれる。
「はいどうぞ」
楽々ですね。すぐに馬車は動き出す。
こんなに入国が緩くて平気なんですかね?
その後も道中は何も起こらず、半日ほどで王国の町に到着した。
帝国と違い重装備の兵士はいない。
「ここが王国の玄関口、プッピルンだよ」
「わー、すごーい! 特に何もない!」
面白い名前のくせに、町自体は面白みのないザ・ファンタジーの田舎であった。木造の宿屋兼酒場と、民家と、ちょっとだけお店がある。田舎感がリンバナナに近いわ。いやリンバナナの方が田舎だわ。
「じゃあ日が暮れる前に情報集めましょ」
とりあえずはやる気満々なエルテについて行くのだ。




