57.帰るまでが遠足
帰り道。野営したり野グソしたりして観光地近くの峠越えに差し掛かったところ、ミラージュさんが急に振り返って止まった。
「2日前からつけてるよな。何の用だ?」
え? 何?
みんなで後ろを見ると人が立っていた。
その人は、黒に近い褐色の肌に二本の角。真っ赤な髪は後ろで大きく一つに編み込んでいる。結構な美人さんである。
「なーんか、いかにも魔族って感じの風貌だなー」
「お前、人間風情が失礼ですよ。死になさい」
その人は目いっぱいに眉を吊り上げ指をさして言った。
口悪いなぁ。この世界の教育レベルはどうなってるんだ。全く。
「ちょっと待って。赤い髪に角、尻尾ってもしかして悪魔じゃないの?」
え、そうなの? この世界の悪魔ってこういう姿がポピュラーなの? もうちょっとこう、角がデカくて禿げてて黒い翼が生えて毛深いヤギめいた生物じゃないの?
「悪魔だったら何だって言うんですかこのスケ」
「血を寄こしなさい」
素早く剣を抜き悪魔に向けるエルテ。
うわ。完全にヤバい人だ。
「ちょい待てー! 暴力反対!」
速やかに間に入って止める。倫理観どうなってんのよ。
「なんで止めるのよ。魔族は人間じゃないんだから斬ってもいいでしょ」
「前にヘリックスを斬ってたよな……?」
「まあまあ。とにかくなんで付いてきたのか話を聞いてみようよ。よかったら教えてくれないかな」
あつしさんが優しく言うと、むぐぅと返事をしたきり押し黙った。
待っていても話し始めないのでミラージュさんがイラついてきた。
「黙っていたら分からんぞ。なんとか言ったらどうなんだ」
「あなた様に会うためでむぐぅ」
急いでミラージュさんが口を押さえつけた。
何してんだ一体。
「どういうこと?」
「いや、気にするな。ほらこっちきて」
と、二人で離れてこそこそ話す。なんなんだよ怪しいなぁ。
ほどなくすると、くるりと向き直ってきた。
「そーかそーか! おいみんな。こいつが悪魔の血を手に入れる算段をしてくれるらしい」
急にわざとらしく腕を掲げて言い出す。
「じゃあ3日ほどで届けるから帝都で待ってて。あ、2週間後に王都のフクロウ亭に集合な。それまで暇つぶしてて」
後半はあつしさんに向けて言う。そして二人して山奥へと去って行った。な、なんだこれ。
みんなは混乱しているのに、あつしさんは理解できたらしい。
「ミラージュが用意してくれるって言ってるなら用意してくると思うから、帝都に戻ろうか?」
本当なのかなぁ。
よく分かんないけど分からんことを考えても分からんので町へ進みなおす。
もうここから町までは1日経たずに着く予定だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
観光地の竜の巣まで戻ってきた。1週間ぶりくらいの人里だ。なんか食べたいけど観光地価格で高いから町まで我慢するか。
「あ、この前の人たち。どうでした。竜いました?」
「いたよ」
「いたの!?」
なんでビックリしてんのよ。いないと思ってたのに商売してたのかよ。
おもしろくないから自慢したる。
「これが証拠の竜のヒゲ」
サピちゃんに出してもらって見せる。
すると着ぐるみ軍団がぞくぞくと集まってきて物珍しそうに見る。マジで見たことなかったのか。
「あ、触るのはダメだぞ。とにかく教えてくれた場所に本当にいたから会いたい人はいったらいいよ。隠れてるから注意な」
秘密にしてたわけじゃなさそうだし別に教えてもいいよね。
教えてあげたら面倒になる前にさっさと退散。
そのままウーの町まで速やかに戻りご飯食べてから一泊。
そして朝になるとすぐに馬車で帝都へと帰る。
馬車ってヒマなのよね。ケツも痛いし。景色見るったってただの自然だから見どころもないし。
脚伸ばしたら正面のローダーがチョップしてきた。この野郎。
「ところで義肢造ったらどうする? もう帝国でやりたいことない?」
あー、そうか。いっぱいいっぱいだったけど、みんな用事が終わったのか。やっと共和国に帰るとなるとちょっと感慨深い。
帰る前にやりたいことあるかなぁ……。うーん。
「そうだなぁ。すごい技術とかってのを見たいなぁ。それっぽいのがなかったし」
「は? あったじゃん」
え? あったっけ?
「スルネインの魔法の城はすごかっただろ。売り物も珍しい物がいっぱいだったじゃないか」
「それにダダーク・スネウの鍛冶技術はすごいわよ。この剣は大事にしなきゃね」
ほぇー。魔法はあんまり興味ないし技術は元の世界には遠く及ばないから何とも思わなかったな。
「核融合ぐらいないと全然すごくないしー。ほんとう全然だわー。俺を驚かせて欲しいわー」
「核融合って、何?」
エルテが聞いてくるが、この世界には原子の概念も無さそう。どうやって説明すればいいんじゃ。
「この世界で水素を精製したり真空を維持出来るとは思えないから核融合は無理だと思うよ。天然の核分裂炉ならあるかもしれないけど」
え。誰だ今の。
振り向けばあつしさんだった。あつしさんの世界も技術力があるのか。
「全然意味が分からないけど、無理なら気にしなくていいか」
「アホは放っておいて、せっかくだから帝都で買い物ぐらいしてから終わりにしたいなぁ。盾とか服とかクツとか」
「あんたはまず手入れを覚えなさいよ」
エルテは突っ込んでくるしローダーは無言で脛を蹴ってくるし、ひどくない?
◆◆◆◆◆◆◆◆
「じゃあ僕はすぐに王国に行かないといけないからここで別れるね。みんな頑張ってね」
帝都に着くなりあつしさんとも別れた。
「まだ疲れてるし今日は一日休もうぜー」
などと軟弱なローダーが言うので、今日は働かずにちょっと安めの宿で休むことにした。
ふかふかのお布団。俺が寝床を整えている間に、すでにローダーは爆睡していた。
何にも知らないから呑気なんだね。やれやれ。
ふとドアの方を見ると隙間が空いていた。よく見るとサピちゃんが覗いていた。
怖い。
気付かないふりしてさっさと寝よう。
怖い。
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