43.マッドマジシャン
入れ違いになったらいけないので受付で一晩過ごすと、朝の冒険者がまだらにやってくる頃にエルテたちもやってきた。
「あー! どこにいたのよあんた!」
「かくかくしかじか」
「馬鹿じゃないの?」
説明終了したとたんに罵倒とはいつも通りですな。
まあそれはともかく。
「んで、ローダーよ。魔法使いの輩と話してどうなった?」
「ああ。街の真ん中にある魔術連合が依頼を出してるから、それに行こうと思ってたんだ。魔法道具を買うのはそのあとだな」
「ん? 昨日行ったとこがそんな名前じゃなかったっけ?」
「昨日のは魔術師組合。今日行くのは魔術連合」
ややこしいな。
「そんで依頼内容なんだが……、お前に手伝ってほしいんだ」
なんだ改まって。天才の俺にしかできない依頼なのかな?
「内容は?」
「その、魔法の実験、なんだが」
実験……。
「もしや俺しかできん系の人体実験系のヤバイ系のやつ?」
「そう。不死身のお前向きのやつ」
マッドサイエンティストかよ!?
「おいおい、いくら不死身だっつっても痛いし苦しいんだからな! そう簡単に受けるわけないだろ!」
なんで受けると思ったんだ。魔法とかジュージューにされたりビリビリにされたりカチコチにされたりするんだろ!
倫理的にやばすぎるから冒険者じゃなくて魔法使いの方にしか依頼出てないんだろ!
誰か取り締まって!
「そうだよな。悪かった。いくら報酬がいいって言ってもな……」
なぬ。
「報酬がいい? 一体いくら?」
「1ピンクゴールド」
えっ。
「なんだっけそれ」
「144ゴールドでしょ」
えっ?
えっ!?
「やる!」
「えぇ……」
俺とローダーだけで依頼に行きエルテとサピちゃんは別行動となった。
さあ行くぞー。
◆◆◆◆◆◆◆◆
なんと見えていた巨大建造物が魔術連合だった。めっちゃでかーい。
巨大な西洋風の城と球体が組み合わさっている。どうやって建てたのこれ。
というか巨大な球が浮いててそこから水が出てきてる。どうなってんのあれ。
あの球から出た水が街中に流れて行っているっぽいな。あの水はどこから湧いてるんだよ。謎だ。
かつてないほどの超ファンタジー感。今まで魔物とちょっとした魔法ぐらいしか無かったのにすっごいこれ。なんじゃこりゃ。
いつまでも眺めててもなんなので門の守衛に話しかける。依頼を受けに来たことを伝えると人が来て案内された。
着いたのはだだっ広い部屋。道場的な場所なのかな。壁が頑丈そうな素材で出来ててちょっと光ってる。
「壁に魔術防護が展開されてるぞ。維持するなんてすごいな」
ふーん。ぜんぜんわからん。
担当の人が来るまでストレッチしながら待つ。
ローダーは壁をぺたぺた触っていた。
すると扉が開いて人が入ってきた。
『北』って書いてある白い服を着た、白い髪の30過ぎぐらいの男性。
それにフード付きローブを着た人が5人ほど。いかにも魔法使い。
すると白髪の男性が口を開けた。
「やっほー。僕が依頼主の白虎だよーん。よろしこ」
なんだこの軽い人。しかも白虎って。
「こう見えて帝国四天王の一人かつ魔術連合のナンバー3でーす」
まじで? なんかすごい痛々しいけど反抗したらミンチにされそう。
「初めまして。我々は冒険者をしてまして俺がローダー、こっちが今回実験を受ける不死身の転移者のヘリックスです」
ローダーが自己紹介と俺の紹介をする。露骨に俺を強調している。このやろー。
「んじゃー、この契約書にサインしてね。したら契約成立ね」
契約書か。ちゃんとしてるんだな。
なになに。
1.私は本依頼におけるいかなる損害についても補償を求めません。
2.私の親族及び関係者は私が死亡した場合に補償を求めません。
「なんだこの物騒な内容は!?」
「んー、まあちょっと死ぬかもしれないし。あっ、大丈夫だよ! 多分」
絶対大丈夫じゃないやつだ!
「んもー、ここまで来てぐずらないでよー。じゃあ報酬1.5倍にするから」
「よし書いたぞ。始めよう!」
なんかローダーが呆れてる。
お前が選んできた依頼だろ。そして世の中金がすべて!
「ではそこに立って。呪文による魔法効果の違いを調べるから」
言われるままに部屋の真ん中あたりに立つ。
魔法って言ってもローダーみたいなしょぼい魔法だろ。多分平気だよな。誓約書は不穏だけど大丈夫だよな。
念のため服は預けておく。パンイチにも慣れたな。
「じゃあマクン、えーと、紫電で」
白虎が言うと、横にいた見習いっぽい人が構える。
「はい。暗雲這いずり敵貫くは紫電!」
呪文がダサくない……だと!? と思いきや。
「うっ、ぎょえええええええええええええ!?」
鋭い雷が胸を貫いた。
痛いっていうより衝撃で胴体の感覚が無くなって吹っ飛んだぞ。
起きようと思ったけど起き上がれないや。
「うーん、ちょっと細かったな。まあ次行きましょ」
いや、絶賛戦闘不能中なんですけど。今になって胸が痛くなってきたし。
しばらくしたら感覚が戻ってきて何とか立ち上がった。
「じゃあ次は雷竜で」
「はい。疾駆雷竜!」
今度は極太の雷がうねりながら腹に突き刺さった。
「ぐぅおぉぉぉ……」
なんだこの痛みは!? 外見はどうともなっていないのに途轍もない痛みだ。
内臓がめちゃくちゃになったんじゃないの?
CTスキャンしたい。
「あっはははは。おもしろー!」
なにわろてんねん。
こいつやべーぞ。マジでマッドじゃん。マッドマジシャンじゃん。
「じゃあ次はシンプルで」
「はい。雷」
非常にシンプルな雷が伸びてきて全身を感電させた。
「あばばばばばばばばばばばばばばば」
痺れるー!
マンガ的なアフロヘアーになったんじゃない?
そしてなんか肌がチクチクする。やけどしたかも。
「なんかいまいちだねー。じゃあ次は交代。ケッピー」
「はい」
え? もしかしてその横にいる人たち全員するの?
すぐに次の人間が違う順番で3回呪文を唱え、俺は焼けて痺れて苦しむ。
終わったらまた違う術者が来て同じことをする。
地獄の新しい領域かな?
どんな罪を犯したものが落ちるんですかね。
術者5人が代わる代わる魔法をぶつけてきた後、白虎が唸っていた。
「なんか違う。見本見せるからもう一回やり直してね」
「はい!」
やり直すってまさかまた全員する気か?
つーかこのふざけた白いやつも魔法使えるのか。
「らーい」
めっちゃ気の抜ける声を出す白虎。
なんじゃそのやる気のなさすぎる声は。もしかして呪文ですか?
が、強烈な光と衝撃で意識が消し飛んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
あー身体が痛い。気がする。
目が覚めると人々はまとめタイムに入っていた。
「というわけで、呪文でイメージが引っ張られるっぽいからやっぱ臨機応変に適した呪文で行くということで」
「はい!」
熱心に話を聞いている弟子? たち。
こいつらには倫理観とか無いんですかね。
なにげにローダーも一緒になって聞いていた。
「うーむ、勉強になった」
他人事かよこの青いのは。俺使って人体実験とかすんなよ?
「ていうか俺どうなってたの?」
「すごい雷魔法で消し炭になってたぞ。再生するさまがキモかった」
そうなんだ。消し炭でも再生するんだ。やばいな。
俺もやばいし消し炭にする魔法もやばいな。人間兵器じゃん。不死身の限界で消滅してたらどうする気だったんだ。あ、そのための契約書か。マッドだなぁ。
「あ、目が覚めてるじゃん。もう時間遅いし終わりね。じゃあ1ピンクゴールドと1.5倍だから50ゴールド……ん? 違うな。60……ん?」
「師匠、72ゴールドですよ」
「あ、そうか。この世界の数字は慣れないなぁ」
んん? この様子は……。
「あんたぁ、転移者かいな」
「そうどすぅ」
しかも白虎とか言うくらいだから、同じ世界もしくは近い世界の人間か。
世も末だな。
「すみません白虎様、急ぎの話で、暁の夜明け団のことですが……」
急に扉から事務員みたいな人が入ってきた。
何その名前。暁と夜明けで意味がダブってるやん。
「あ、なに? 別に大したことじゃないでしょ」
「いえ、噴水広場に集まって何やら集会を始めていまして」
「それ僕に関係ある? 玄武に回してよ」
やる気無いなこいつ!
帝国四天王(笑)じゃないのかよ!
なんか集団が集会とかデモなんじゃないの? 対応しなくていいの?
てかファンタジー異世界でデモとか嫌だけど。
そもそもなんの集団なんだろ。
「なんだか込み入った話になりそうなので我々は帰りますね。ありがとうございました」
微妙に気になるけどローダーが切り上げたからその場を後にすることにした。




