42.シンプルなボードゲーム
宿の中身は外見と同じく綺麗ではなかった。
黒く変色した木に支配された内装と汚れたランプ。一緒になっている酒場にはくたびれたおっさんばかり。
本当に同じ街なのか疑うレベルで違うよ。雰囲気が違うよ。
観光客向けに綺麗にしているぼったくりエリアとそうじゃないエリアに分かれているんだろうなぁ。
「では早速宿の主人にギルドの場所を聞くとしましょうぞ」
「あ」
ん? そばにいたおっさんが何か言った。
顔を見たら強盗のおっさんじゃん。
「んな!? なんでいるんだ?」
「俺の服を盗んで着ている貧弱貧乏強盗おっさん!?」
「盗んだ服を着たままのマヌケな強盗とか存在するの?」
目の前に存在しているんだよなぁ。おどろきですな。
「本当に強盗なのか? ならばとっちめねば」
「いやいやちょっと待て。待てよ。お前らも騒ぎは起こしたくないだろう? ここは穏便に行こうじゃないか」
強盗しといて何言ってんだこいつ。
「じゃあどうするんだ?」
「ゲームで勝負しないか? 異世界人が持ち込んだチェッカーというゲームだ。知っているか?」
「あー、チェッカーね。はいはい、知ってるよ。うん。シンプルで分かりやすいよね」
こんなところで名を聞くとは。
「私は名前しか知らないからルールを教えてくれないか?」
「いやー、説明するのが苦手なんだよねー。残念ながら。本当に」
本当だよ。
「知らないやつらに勝っても気持ちよくないから教えてやるが」
おっさんが教えてくれた。ラッキー。
丸い駒を斜め前に移動させて、敵の駒を飛び越したら駒を取れる。取れるときは絶対取らないといけない。相手陣の最奥まで行けたら成れるて成ったら斜め後ろも行けるようになる。
へー。
わからん。
「慣れた人間とルールを知ってるだけの初心者では勝負にならないのではないのか? ハンディキャップとして我ら3人は相談しても良いことにするのはどうか」
なんちゅう提案だ。いや三人寄れば文殊の知恵とは言うがね。素人3人とか意味あるんか。
「何人で掛かろうが俺に勝てるわけないさ。さあとっとと始めるぞ」
いいのかよ。まあ一人よりかはいいか。
二人が頭脳戦が得意だったらなおいいんだけど。
というわけで始まった。
追加ハンデで先手をくれた。
最初はどれでも変わらんだろうから適当に打つ。
おっさんが打つ。俺が打つ。おっさんが打つ。
後ろ二人は黙ってる。
3対1とは何だったのか。
さらに打つ。打つ。
結構進んだね。これ次どうしたらいいのかしら。
「ここは64を右に進むだろ」
「いや左にある33を進めればダブルできるのではないか?」
「それだと次が困るじゃないか。先を読んでだな……」
「先ならこちらを潰さねば成られるのでは?」
しゃべりだしたと思ったらこれかよ。相談じゃ無いじゃん!
「うおー! 後ろでうるさいんじゃい! 俺はこう!」
もう直感で行くしかねぇ。数手先とか読めんし。
ていうか口で言ってたら相手にバレバレ過ぎて意味ないだろ。
「ん? んんん?」
お。おっさんが唸ってる。神の一手だったか。
やっぱ俺は天才だな。適当に打ったんだけど。
本当に3対1とは何だったのか。
「いや、待て待て。そんなわけないだろ。ちょっと待て」
「待ったありのルールであるのか?」
「ハンデあげて負けるとか恥ずかしくないの?」
ゲームで煽るのはやめようね!
でもこれ俺の勝ちでいいの? そんな雰囲気になってるけど。
「でええええい! ゲームなんか関係ない! これはもう俺のもんなんだから返す通りなんぞないわ!」
「開き直りやがったこいつ」
席を立ってわめき出すおっさん。
うーん。このままじゃ埒が明かないな。
「おい、ゴス。なんの騒ぎだ」
ん? なんか後ろのおっさんが話しかけてきたぞ。
「え、いや、なんだ。ゲームしてただけだよ」
「何とぼけてやがる。服がどうとか言ってたじゃねぇか。まさかてめぇ……」
「いや、違うって。まじに何もしてねぇから!」
「てめえ抜け駆けして強盗するたぁどういう了見だ! 盗賊組合は暴力と殺しはご法度だって知らないわけじゃなあるめぇな!」
「ま、待ってくれ。出来心で」
え? どういうこと? え?
一斉に周りの男衆が集まりおっさんを殴る蹴るの暴行が始まる。
うわ。ボコボコにされてる。ちょっと引くわ。
一体何が起こったの?
「盗賊ギルドというものがあると聞いたことがある。まさかここが拠点の一つなのではないか?」
知らずに宿をとってしまった、と落ち込んでいるワニさん。
マジかよおいおい。
そのへんに裏社会ギルドがあるとかいやーん。
そういえば暗殺者ギルドも街のん中に普通にあったな。怖いな。
眺めていたミラージュさんが口を開いた。
「せっかくの服がボロボロになっちゃうんじゃないか? 服剥いでからボコった方がいいと思うんだが」
なに物騒なこと言ってるのこの人。
「たしかにその通りだ」
そして剥がされるおっさん。追加でボコられる。笑うしかねぇ。
「ちょいちょい、もういいんじゃないの? やりすぎじゃないすか?」
「いや規律守らん奴はこんぐらいせんとな。あとで放り出す」
さらに捨てるのか。ひえー。
「すまんかったな坊主。今更で悪いが服を返してもいいか?」
坊主って歳じゃないけどな。極東アジア人は若く見えるんだよね。まあ今はいいかそんなことは。
「いや、おっさん臭の付いた服とかいらないっす。それにすぐボロボロにしちゃうし」
服がダメになるのは俺のせいじゃないけどな。環境がいかんのですよ。
じゃあせめてと金貨5枚くれた。怖いから断ったけどめっちゃ押し付けられたから最終的に受け取ってしまった。怖い。
「盗賊とかなら地理に詳しいんだろ? 労働者組合の場所教えてくれよ」
うわ。こんなおっさんらに聞くのか。怖くないの?
全く遠慮せずミラージュさんがおっさんに聞いたらギルドの位置を教えてくれた。
「俺らのこと衛兵には言わんといてくれよ?」
怖い。
ていうか初めっからその辺の店入って聞いたら良かったんじゃないのか。まあ思いつかなかったし仕方が無いね。
とにかくギルドの位置も分かったことだし行くか。
トカゲさんはもう諦めてここに泊るらしい。すごいな。
「では達者でな。サンショウウオの諸君」
ワニさんと別れの挨拶をして宿を出る。
「サンショウウオって何だろう」
「さあ……」
◆◆◆◆◆◆◆◆
外は真っ暗。さっさとギルドへ行こう。
「あれ? ミラージュさんも着いてくるの?」
「まあなんとなく」
なんとなくかー。まあ気にしたら負けかな。
方向を確認しながら歩いて行く。
夜だし人もほとんどいないね。暗い。
街灯もっと増やせないのかな。魔法の道具だから高くて無理なのかな。
ちょっと進んだら突然ミラージュさんが話しかけてきた。
「元の世界に戻る方法を探してるんだ」
へー。
全然考えてなかった。こっちの方が楽しいし、死ぬ心配ないし。心残りは弟だけだし。
「で、方法とか知らない?」
「いや知らないっす」
「やっぱそうかー」
その反応もどうなの。まあいいけど。
ほどなくしてギルドに着いた。灯りが点いているから開いているっぽい。
「じゃあまたね」と去っていくミラージュさん。なんだったんだ。
まあとりあえず、ギルドで待ってればあいつらに合流できるだろう。うん。
通信手段無いと不便だなぁ。
誤字や間違いがあればご指摘下さい。




