22.お金は使うもの
「明日には馬車に乗ってシャングローに帰る?」
馬車は朝に出る便しかない。つまり最短で明日の朝発ってことだ。
そうすると今日中に用事を済ますってことだが。
「俺はいま大金持ちだしなー。なんか買い物したいしなー」
袋を見せびらかす。気持ちがいい。
「うわ、調子乗ってる」
大金持ったら調子に乗るのは当然だよな。
だって大金だもん。みんな見てー。
「取られても知りませんよ。アホなんですかね」
クール受付さんが現実攻撃だ! そうか、強盗がいるかもしれない。
「じゃあ盗られる前に使うぞ! エルテ買い物付き合って」
「ええ……。まあ付いて行かないとまたその辺で死ぬだろうし付いてくけど……」
閉店前に急いでいくぞ! 閉店って何時だろうな?
◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで防具屋に来たぞ。
武器は買っても使えないからな……。
「もうすぐ閉めるから長居しないでくれよ」
どストレートな接客、逆に好きです。
「防御力が上がって脱いだり着たりしやすくてお手入れが楽な防具はありませんか。金ならあるっ!」
「それうざったいから止めなよ」
中身の詰まった布袋を見せるぜ。いえーい。
「じゃあ鎖帷子でいいだろ。ほら」
どじゃらっと、とんでもない重量感がある音と共に金属のかたまりがカウンターに乗せられる。
「いや、これは無理だと思う。重くて動けないって」
「あぁん? 冗談だろ? じゃあこれならどうだ?」言いながらまた何かを出してきた。「胸部分だけの鎖帷子だ」
うわ。防御力が下がった! でも腕とお腹を捨てた分だけ軽くなっている。
うーん、しかし。
「これなら普通の胸当てで良くね?」
「手入れが楽なのが良いって言ったじゃねぇか。服の上から付けられる胸当ては革やら留め具やらの手入れが大変だぞ。鎖帷子なら錆びないように気を付ければいいだけだ」
なるほどそうか。たしかにしょっちゅう壊して修理必要になりそうだし、鎖帷子のほうが便利っちゃ便利ね。
しかしなんか違うんだよな。うー。
あ!
「せっかく異世界なんだから何か魔法生物の革とかウロコで出来た良い感じの服とか無いんすか!?」
天才的ひらめきだ。異世界から来た英雄にふさわし装備ですぞ!
「ああ!? んなもんいくらすると思ってんだ! 安くても20,004シルバーはするぞ!」
「えっ。2万ってことはゴールドにするなら144で割って……」
だー! 暗算できねぇよ!
「少なくとも132ゴールド以上はいるってことね」
エルテも暗算を諦めたな? 分かるからな。
「そういやゴールドの上の単位ってあんの?」
「見たことも無いけど、たしかピンクゴールドだったはず」
何それ。
「おい、どうするか早う決めろや。他に客もおらんし閉めるぞ」
おっと。じゃあどうするか。
「あ、じゃあ鎖帷子の胸部分だけのものと服が一体化してるのとかってある?」
着たり脱いだり楽だしまとめて洗えるじゃん? 俺ってやっぱ天才じゃね?
「あるが……、ちゃんと手入れして乾かさんとすぐ錆びるぞ。ほら、468シルバーな」
結構な値段するね。だが金持ちだから平気。手入れ用の油も一緒に買うよ。
胸部分に鎖帷子が埋め込まれていて、外から見たらただ茶色っぽい服。この上から上着とか着たら分からないね!
早速装備していくかい? とは言われなかったけど着てみる。
お、重い。
「これで死ぬ確率ちょっと減るな!」
「あれ? 今まで心臓やられて死んだことあるの?」
えーっと。
「シカの時かな」
「…………」
微妙な空気に包まれたところで退店。
◆◆◆◆◆◆◆◆
日が暮れてる。何気に長居してたのね。追い出されなかったからなんだかんだ防具屋のおっさんやさしいね。
「ヘリックスって、なんかこう……、あれよね」
突然の奥歯に物が挟まったような発言。
「何なの? ハッキリ言ってちょー」
「じゃあ言うけど体力も技量も無いって、どんな世界から来たの?」
なんだそんなことか。なんで躊躇ったんだ。
「そりゃーどんなも何も、この世界から魔法を引いて科学力を3000倍にした世界だよ」
「科学力がよく分かんないんだけど、魔法無いのは不便そうね」
科学無いほうが不便だと思う。通信とか記録とかどうなってんだろこの世界。
魔法道具も今のところ能力測定器と灯りしか見てないし。
ちょっと待てよ? なんか勘違いされてる?
「あーっと、別に元いた世界の人間が全員俺みたいな貧弱なわけじゃないぞ! 次兄は世界中の山に突撃しまくった超人だからな!」
「山に突撃って……?」
冒険家のうちの登山家、の概念から説明せねばならん。こんな世界じゃ山登りが趣味とかほとんどいないだろうしなぁ。
「危険を感じるとアドレナリンが出て満足感を得るのでそのために死ぬかもしれない山と戦うのが登山家だよ」
「え、余計意味が分からないんだけど」
うーん分からないか。俺も冒険家じゃないからこれ以上説明できんな。
「お金が欲しいわけじゃない冒険者だと思う」
「ちょっと分かったかも」
分かるのかよ。同類かな?
ドゴオオォォン……
「お、なんだこの音?」
右手奥方向から轟音がしたぞ。
「え? あっちってローダーの家だったような?」
「急いで行ってみるか!」
明らかに読める時にルビを振っているのは、字がつぶれて読みにくいことがあったからです。




