104.それを壊すなんてとんでもない!
「お菓子、お菓子」
スキップなんてしながら俺たちは石碑へと向かっていた。
裏庭に行けば円形の下り階段があった。そこを降りていき、手入れがあまりされていない下草の多い道を歩く。塀と木に囲まれた突き当りは少し開けており、真ん中には剣を上に向けたようなモニュメントがあった。
「これが召喚装置なのか?」
「大事なもののはずなのに、なんか雑な感じね」
確かに、普通の記念碑にしか見えないし、苔は生えてるし石碑の目の前まで草まみれで、ろくに手入れされてないように見えますな。
「で、どうやって壊しましょうか。いきなり勇者の剣で叩くっていうのもね。まあたぶん剣は壊れないと思うけど心配だし様子見したいのよね」
なんでも切れる剣とかいいながらヘビは切れなかったもんね。
「んー、じゃあ……おいローダー。乾燥させたら脆くなるんじゃないか? やってみてくれよ」
むーと自信無さげに呻いたあと「乾燥」と唱えモニュメントに魔法をかける。しかしあまり変化は見られない。魔法によって乾燥した苔がちょっと落ちたぐらい。
「やっぱこんぐらいじゃ変わらないかー。もっと上位の魔法使いならなんとかなったのになー下級魔法使いだからなー残念だなー」
「おい泣くぞ」
知ったこっちゃない。それよりもあと出来ることといえば水かけるだけだし、意味ないよな。魔法でどうにもならんならもう剣でしばくしかない。
「んじゃエルテさん、やっちゃってください」
さっと石碑を示すように手をかざしエルテに道を開ける。若干呆れた風にこちらを見たけど剣を取り出してくれた。
「お前ら何してるんだ?」
だが振りかぶる前にやおら声を掛けられた。庭の管理者か誰かかな。王子は作業することを伝達してないの? だめ上司ね。
と思いつつ振り向くとそこにいたのはミラージュさんだった。
「って、あれ? なんでこんなところにいるの?」
「そりゃお互い様だろ」
それを言われると何も言えないなあ。しかし部外者に言っていいのか考えもの。どうするか。
「私たちは石碑を壊しに来たのよ」
「ちょ、あっさりバラさないで」
「……どうして急に破壊活動なんか始めるんだ?」
「え、そ、それは」
言い訳しようとした途端、足の下で何かが動く。
「なんだ? もぐらか?」
なんか嫌な予感がしますな。
あちこちの土がもこもこと動き出し、何事かとみなで注視すると土を押しのけて出てきたのは骨の腕。
「え、これって……うぎゃあああああ!! スケルトンだああああああ!?」
出るわ出るわスケルトン。みるみる内に石碑の周りにスケルトンが現れる。真昼間なのに何なの。この前もだし、この国スケルトンやらゾンビやらアンデッド多すぎでしょ。
「なんだこいつら。城の敷地内にスケルトンとか呪われてるんじゃないか?」
「私、聖水持ってるから安心してね」
「いやどう安心するんだよというか2人とも落ち着きすぎだろ!」
焦るローダーを余所にミラージュさんとエルテは平静そのものだ。強いからなの? 俺らは雑魚だから後ろに下がるよ。
「って、もう足を掴んでらっしゃるうううう!?」
下を見れば地面から生えてきたまま俺の足をがっしりと掴んでいるスケルトンがいた。目玉のない顔はこっちを見ている。やーめーてーよー。
「うるさいわよ」
言うなり勇者の剣でスケルトンの頭を叩き割ってくれた。が、依然俺の足には腕が残ったまま。エルテはそんなことを気にせず他のスケルトンを叩きに行った。ローダーはものすごい勢いで遠くに走って行くしミラージュさんは周りを眺めている。誰も助けてくれないから自分で足に残った腕を頑張って外す。気持ち悪いよぉ。
「本当、なんでお城にスケルトンがいるのかしら。昼間だから召喚者はいないはずで、しかも石碑の周りっていうのが、ね。こんなところに人骨が埋まってるのは変じゃない?」
剣をフルスイングしながら息も切らさず考察している。いやエルテって人間だよね?
「もうこれ無理だろ一回帰ろうぜ!」
「ほんとだよエルテでも無理でっしゃろ! どうすっぺ!?」
「んー確かに面倒ね。でもここで引いたらスケルトンたちが人を襲うでしょ。だったら逃げるわけにはいかないわよ」
逃げるように促がしても引く気は無いようだ。エルテの言うことも一理あるけど勝てなきゃ意味ないっていうか絶賛俺らが襲われてますよね?
「頭外したら動かなくなるんだな。ちょっと面白いな」
と、呑気な声がすると思えば、ミラージュさんがスケルトンの頭を両手でパコパコ外している。外す度、スケルトンの身体は電池の切れたロボットみたいに膝から崩れていく。え、なにしてんの? スケルトンはオモチャじゃないよ?
「前もだけど、なんであなたは襲われないの?」
「ん? まあ、いいじゃないかそんなことは」
あまりの所業に流石のエルテも気になったようだ。
というか気付けばスケルトンは残るは3体ほどになっていた。最初は……何体いたのかな? 数えてないけど。
「はいこれで最後」
と言いエルテが頭蓋から骨盤まで叩き割り兜割りってレベルじゃねーぞ攻撃で止めを刺せば、動いているスケルトンはいなくなった。意外とあっさり終わったやん。
念のため周囲を警戒して剣を亜空間にしまうエルテ。ほんとどこに入れてるんだろ。そのまま腰の袋に手を入れて何か出す。
「はいはい聖水」
「おうわ」
また本人に確認せずに急にかけてくるし。びちょびちょです。
自分にもかけた後めっちゃ遠くにいるローダーを見る。
「お、俺は大丈夫だぞ。触れてないし」
「あ、そ。じゃ、ミラージュも一応」
と、かけた途端。
「うわああああああああああああ!?」
聖水の掛かったミラージュさんの右腕が激しく煙を噴き出し焼け爛れた。ちょ、こわい!
「え、なにが起こったんだよ!?」
俺は慌てるしかない。うわー。あたふた。
なんてしていると左腕で右腕を落とした。すると数秒で生え始めた。マジ!?
「あ、焦ったぁ。なんで効くんだよ。マジでびっくりした」
「へー、異世界の不浄者って人間と変わらないんだ」
なんでエルテは冷静なの!? ていうかどういうことなの!?
「てかミラージュさんってアンデッドだったの!?」
「ま、まあ一応アンデッドになるけど別に気にする事でもないだろ」
「そうよね」
「そうよね!? てか躊躇いなく腕千切ったり生えてきたりするのはおかしいっしょ!」
「お前が……」
ローダーが何か言いかけて止めた。なんだその顔は。
「まあそんなことは置いといて、結局なんで石碑を破壊しようとしてるんだ?」
置かれちゃったよ。
「これは勇者の召喚装置なのよ。だから壊すの」
「あ、あのーエルテさん? 言っちゃっていいの?」
「別にいいでしょ。どうせ分かることになるんだろうし」
あ、そっか。いずれ表に出るなら今言ってもいいってことだな。いやよくない気がするぞ。しかし全部暴露するエルテ。
「正確にはこれだけで召喚するわけじゃないけど、これがないと召喚出来ないんだって」
「そうなのか。じゃあ……ふん!」
ミラージュさんはそう返事をしながら突然グーで殴ると石碑は砕け散った。元あった場所にはパラパラと瓦礫が落ちる音だけが残った。
「いや、ふんってなんすか!? なんでモニュメントが消滅したんすか!?」
「ふんはただの息だろ。消滅したのは殴ったからだろ」
そういうことではなくてぇ。
ともかく摩訶不思議すぎる。これもアンデッドだからなの?
「まあこれで無事に壊れたしスケルトンももう現れないようだし終了だな」
1人で頷いて満足しているミラージュさん。いや色々おかしいよね。
石碑とスケルトンの残骸を見下ろしながらローダーがぽつりと言う。いつのまに側に来てたんや。
「結局何でスケルトンがいたんだ? その、勇者関係を調べていた時にそれっぽい情報なかったのか?」
「うーん、召喚の儀式と関係あるんじゃない? 確か魔王の召喚でも色々必要だったじゃない」
色々……つまり……生贄ってこと? 怖い。魔王はともかく勇者の召喚でそれはないだろ。ないよね?
「もしそうだったらエグすぎるぞ……」
「もちろん分かんないけどね」
宰相に聞いたら分かるだろうけど、本当だったら怖いし聞けないよ流石に。
「で、君らのんびりしてていいのか? どうやってここを離れるんだ?」
「んん?」
俺たちを黙って見ていたと思ったら、ひと段落した途端めっちゃこっち見ながら言ってくる。懸念が分からん。答えられずにいると今度は、城と来た道のほうを一瞥してから言う。
「というか結構な騒ぎだったのに誰も来んのも変だな」
「いや、だって王子からの依頼で壊しにに来たんだし……」
それを聞いてさらに疑問符まみれの顔をする。
「は? なんだって王国のやつがそんなことするんだ? 国王も勇者も、過去の勇者も一人もいないのに、どうやって国を維持する気なんだ?」
「いや、え? うん、まあ国政は勇者じゃなくて宰相とか大臣とかそういう政治専門の方々がしてるし? 勇者いないくらい大丈夫なんじゃないかな? って」
俺らに言われても分からんけど。どうにかすんじゃね?
その答えに納得、はしてないけど「そうか」と答えて話は終わった。終わったんだからもう城に帰ろう。あー疲れた。
ところでスケルトンたちの残骸、お城の人が片付けるのかな。
次回投稿は6/6(日)にします。




