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魔法の鏡と王妃  作者: 民間人。
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白雪姫

 醜い老婆の姿に化け、腰帯を持って七つの山を越えます。魔女のサバトにぴったりの、明るい虹彩の輪が山頂に上る中、ローブに身を包んだ王妃様は、道なき道をかき分けて小人の小屋へとたどり着きました。


 ようやくたどり着いたときには、小人は出払っているようでした。それというのも、彼らは仕事の為に外に出てしまうことが多く、白雪姫が留守番をしている時間が存在するのです。王妃様は私を移した手鏡をローブの中に隠しながら、ほくそ笑むのを何とか穏やかなものに戻して、ドアを叩くので御座います。


「腰帯はいらんかね?とても良いものだよ?」


 扉は開かれてしまいました。白雪姫は冷めた視線で王妃様を指すように見ています。王妃様は老婆らしく腰を曲げ(一か月もかけて、相当に練習をしたものです)、自然な姿で微笑みます。白雪姫は警戒心を解いたのか、さらに扉を開きます。王妃様は笑みを浮かべ、腰帯を差し出しました。


「サンプルね。ルートは?」


 王妃様も私も目を丸くします。白雪姫だけが真剣な面持ちで腰帯を見ていました。


「ルート……?」


「生産ルートが安定していないならば、買い取っても稼ぎにならないわ。どこのギルドのものかもわからない、証明書もない腰帯など私は興味がないのだけれど」


 王妃様は口をパクパクとさせます。鬱蒼とした森に狼の遠吠えが聞こえ、小鳥たちが飛び立ちます。私でさえ予想もできなかった状況に、小屋は凍り付きました。深緑に満たされ、一陣の風が吹きます。


「……では、櫛はどうかね?交渉の時には身だしなみを整えることも必要でしょう?」


 王妃様は咄嗟にそう言って櫛を差し出します。毒の塗られた、とても悍ましい代物で御座います。白雪姫は鼻を鳴らします。


「なおのこと要らないわね。小人が交渉してくれるもの。おばあさん、申し訳ないのだけれど帰っていただけるかしら?私も家の事で忙しくて、暇じゃないの」


 白雪姫はその麗しい姿を扉の奥に引っ込めてしまいました。固まった王妃は暫く口を半分開けて間抜けな表情を見せましたが、我に返ると何度も戸を叩きます。白雪姫は出てくる様子もありません。森がざわめき、空に雲がかかり始めます。王妃様はそれに気づいて何度も呼びかけましたが、ちっとも反応がありませんでした。一層雲は厚くなり、やがて獣が草をかき分ける音が聞こえてきます。


 これはまずい、私は直感でそう思いました。白雪姫のいる前で私がしゃべっては、王妃様であることがばれてしまう。しかし雨が降り出せば、王妃様は城へ帰れなくなってしまうかもしれません。私は王妃様にだけわかるように、自らの体を揺らしました。王妃様はローブの中の異変に気づいたのか、最後の手段を取りました。


「ではおいしいリンゴをあげよう!私の農園で取れたものだ!これなら大量に出荷することもできるし、自分で食べられるだろう?」


「帰って頂戴」


 万事休す。王妃様は一旦城に帰ることにしました。



 部屋に戻って早々、王妃様は奇声を上げてベッドにうずくまります。白雪姫の名前を叫び、私に向かって櫛と腰帯を投げられました。


「鏡、鏡!あれは何なの?あれは白雪姫なの!?」


 私には、真実を伝える事しかできません。


「間違いございません。白雪姫で御座います」


 王妃様は用意した毒リンゴを床に叩きつけると、頭を抱えて目を見開きました。化粧台は暫くがらんとしており、以前の王妃様からは比べようがありません。


「では明日にでも毒リンゴを直接見せてやりましょう!これでだめなら毎日毒リンゴを送り付けてやるわ!」


 王妃様は私に向かって叫びます。私は黙って王妃様の様子を見つめます。リンゴは白雪姫の大好物だったと、王はそう言っていました。王妃様はそれを聞き、綿密に計画を練ったのです。それほどまでに入念に立てた計画が崩れ去ったために、王妃様は錯乱してしまったのです。部屋には最早臓物や化粧品の後もなく、微かに毒の臭いが漂うばかりでした。


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