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満月

「マリー、リナさーん!」


 ロンドが倒れたことで戦闘が終了したのだと悟ったマリーとリナは、ワタルに大声で呼ばれて急いで駆け寄る。


「勝ったんですね!」

「当たり前じゃろう。なんせワタルじゃからな」


 ふふん、と本人ではないのに無い胸を張るマリーに苦笑いを向け、ワタルは倒れているロンドに近付く。


「師匠、生きてますよね?」

「あぁ……生きてる。お前が手加減したからな」

「手加減なんてしてませんよ。死んでほしくなかったんです」


 ワタルの最後の攻撃は一見致命傷のようにも見えたが、ギリギリで急所を外しており、ロンドが死ぬことはなかった。


「マリー、俺と師匠の治療お願いしていい?」

「うむ、任せておくのじゃ」


 杖をロンドに向けたマリーは、魔法陣を浮かび上がらせ、2人の傷を癒していく。

 治療を受けながら、ワタルはロンドに本題を話す。


「師匠、今の魔王からの支配ですけど」

「残念ながら解けていない。早く殺せ」

「いえ、解けるかもしれません」

「なんだと?」


 まだ動けないようだが、辛うじて仰向けになりながらロンドがワタルへ顔を向ける。


「詳しく頼む」

「はい。リナさん、お願いします」

「わかりました」


 説明は自分よりもリナからした方が良いと思ってか、ワタルはリナに場所を譲る。


「初めまして、私はリナ。禁忌の魔女です」

「禁忌の魔女……セレナーデと同じか」

「はい。それで私の能力なのですが、魔法を消し去るものでして、貴方の呪いも消せるかもしれません」

「本当か」


 リナの説明を聞き、ロンドの声音が明るくなる。


「ですが、デメリットもあります。呪いというのは魔力回路に作用するものが多いですから、魔力回路を破壊しなければなりません」

「魔法が使えなくなる、と」

「その通りです」


 セレナーデにもしたように、リナの力は魔力回路を破壊できる。

 そうすることで呪いは解除できると言うが、魔法が使えなくなるというのは大きなデメリットとなるだろう。


「それなら問題ない。この呪いは俺の今着ている鎧に込められているはずだ」

「鎧に、ですか?」

「そうだ。おかげで俺はこれを脱げない」

「そういうことなら簡単です。スペルブレイク!」


 リナが張り切って両手をロンドに添え、禁忌の力を使う。

 すると、硝子が割れるような音が響いた。


「これで呪いは解けました。鎧も脱げるはずですよ」


 マリーの回復魔法である程度動けるようになったロンドは、それを聞いて鎧を外していく。


 中から現れたのは黒髪を短く刈り、鍛え上げられた健康的な肉体を誇る30代ほどの男性だった。


「ふむ。リナだったか」

「はい?」

「ありがとう、感謝する」


 ロンドはリナに体を向けると、座り込み深く頭を下げる。


「ワタル、そしてその仲間よ、お前達にも感謝を伝えさせてほしい」

「うむ、感謝の気持ちは大事じゃぞ」

「いいんですよ師匠。あ、それだ。師匠の種族ってなんなんですか?」


 師に頭を下げられるという状況に焦ったのか、ワタルは咄嗟に話題を変える。


「俺か。俺はゾンビだ。といってもノクターンのような生まれながらのゾンビじゃなく、元人間だがな」


 ロンドは頭を上げ、ワタルの問いに答える。

 それから何度か体を動かし調子を確認すると、折れたシュトルムを鞘へと収める。


「なにからなにまで、この感謝は言葉では伝えきれない。だが……すまない。俺は行くべき場所がある」

「師匠もラースっていう魔王を倒すんでしょう? なら一緒に」

「いや、俺の目的は別だ」


 ワタルの言葉にも聞く耳を持たず、ロンドは急ぐように準備を整えた。


「この借りは、いずれ必ず返す。ありがとう」

「師匠が何するかは知りませんけど……また会いましょう」

「もちろんだ」


 ロンドはそう言って初めて笑顔を見せると、走って魔王軍の陣地へと去っていった。


「よし、俺達も行こう」

「そうじゃな。途中でハラル達にも会えるじゃろう」

「うん。リナさんは劣勢な場所の援護をお願いします」

「……わかりました。2人とも、ご武運を」


 ここから先では自分は足でまといになる。

 リナはそれをわかっているからこそ、ワタルの指示に何も言わずに従う。

 自分に少しでもできることをし、ワタルたちの勝利を願いながら、リナは2人と別れた。


* * *


「どうした? 動きが鈍っている」

「はぁ……はぁ……」


 肩で大きく息をしながら、エレナはカプリースと距離をとり、機を伺っていた。

 上腕部の2本の大剣は爆発、下腕部の2本の大剣は風を操る。

 これらに邪魔され、エレナの自慢の速度も近付く前に牽制され、距離を詰められない。


 中腕部の大剣の効果もわからないというのに、劣勢に立たされてしまっている。

 これが魔王軍幹部の実力なのだと感じながら、エレナは再度カプリースへと突っ込む。


「芸がない」


 つまらなそうな声音と共に、カプリースは大剣の力を使わずにセリカの攻撃を避けた。


「くっ」

「失望したぞ。意味の無い突撃を繰り返し、結果として相手の目を慣れさせている。武人にあるまじき悪手だ」


 ため息を吐きながら、カプリースは大剣を構える。


「もういい。これ以上待っていてはお前への侮辱にもなる。終わらせてやろう」


 白夜を握りしめ、鞘へと収めたエレナはその言葉を聞いて笑みを浮かべる。


「ふふふ、今の私ではお前に勝てそうにないな」

「……狂ったか?」


 突然笑いだしたエレナを不気味に思ってか、カプリースは攻撃しようとした手を止めた。


「カプリース、今のが私を殺す最後のチャンスだった。ピアニ!」

「はいはーい」


 エレナが名前を呼ぶと、後方からサキュバスのピアニが現れる。

 エレナは魔女の里での事件を聞いた時から、ピアニの能力に興味を持っていた。

 それはピアニにも事前に伝えており、打ち合わせもしている。


「可愛い私の援護を受けるんだから、負けたら許さないから」

「任せておけ」


 そう言って、ピアニが使うはサキュバスの洗脳能力。

 対象はカプリース……ではなく、セリカだ。


「なんのつもりだ」


 ピアニが洗脳をかけていることに気付いたものの、カプリースはその目的がわからずにいた。

 味方に洗脳をかけるメリットなどないはずだ。


「綺麗な満月が見えるな」

「満月だと?」


 現在の時刻は正午を回った頃、月が出るには早すぎる。

 だというのに、エレナの言葉はまるで今が夜のように話している。


 だが、エレナと目が合ったカプリースの全身が悪寒が走り、カプリースは2人が何をしたのかを察した。


「そうか、お前は人狼か」


 エレナの目は真っ赤に輝き、ピンク色の髪は伸びて艶が増している。

 何よりも、纏う雰囲気は先程までとは別格だ。


 ピアニの洗脳は、エレナを満月の夜へといざなっていた。


「今宵はとても良い夜だ。満月は私に力を与え、全力で力を発揮できる」


 スラリと引き抜いた白夜は、そんなエレナに同調するように刀身を白色に輝かせている。


「決して瞬きはするな。今の私は昼間とは別人だ」

「いい、いいぞ! 面白い!」

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