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切り札

「とっておき……はったりのつもりか?」

「さあ、どうだろうね」


 ロンドの知る限り、ワタルの魔法剣の完成度は素晴らしく、あれが切り札なのだと思っていた。

 実際真正面から斬り合えば、ロンドの魔法剣など容易く霧散してしまうに違いない。


「どちらにしても、そんな暇は与えない」


 ワタルの言うとっておきが本当かはったりかは知らないが、それをさせるほどロンドも甘くはない。

 一瞬で距離を詰めると、勢いをそのままにワタルへ袈裟斬りを仕掛ける。


「わかってるよ!」


 召喚魔法を使っても簡単に蹴散らされ、小細工を使っても容易く突破される。

 ならば取れる手はなにか。

 正面からロンドに剣術で勝ち、体勢を崩す。


 ワタルは魔法剣を使い、ロンドと切り結ぶ。

 互いに鍔迫り合いとなったが、回避すると踏んでいたロンドには一瞬次の手への躊躇いが生まれた。

 そこを見逃すワタルではない。


「迷ったね!」

「ちぃッ!」


 攻守逆転し、今度はワタルがロンドへ苛烈な攻撃を仕掛ける。

 剣だけではなく盾も使った攻撃に対して、ロンドは反撃の機を伺っていた。

 だが、そんなスキが微塵もない。


(技量では勝っていたと思ったが……)


 魔法剣の使い方もワタルに一日の長があり、ロンドは大きく後退せざるを得なかった。

 ロンドはここで退くべきではなかった。

 ワタルのとっておきは、はったりではなく本当なのだから。


「水よ、呑み込め!」


 ワタルが詠唱を行うと、2人の体が水に包まれる。

 いや、2人だけではなくその周囲一帯が水に包まれた。

 重たい鎧を着ているロンドは地に足がついているが、ワタルは浮力によって浮かんでいる。


 自分を中心として水をドーム状に展開する魔法は、消費魔力も尋常ではなく、ワタルでも5分間維持するのが限界だ。

 味方も巻き込む可能性があり、今回のように1対1でなければ使用する機会もない。

 ただしそれによって得られる効果は、それ以上。


「止めてみなよ!」


 ワタルが水中を蹴り、真っ直ぐにロンドへと向かっていく。


「正面からだと? 環境を変えた程度で俺を倒すつもりか?」


 水中となったことでロンドの動きは多少鈍るものの、大した戦力の低下にはならない。

 とっておきとはこの程度か。

 その考えは、次の瞬間消え去る。


 今しがた上段からの振り下ろしで迎撃しようとしたワタルが、突然急停止してそれを避けると、再び加速してロンドに突きを放った。

 体を回転させてどうにか回避したロンドだが、反撃する暇もなくワタルは既にロンドの頭上へと移動していた。


「思ってるよ」


 この舞台を構成する水は、全てワタルの支配下にある。

 このドーム状に空間は、ワタルにとっての絶対領域。


「ここでは俺は、誰にも負けない」


 水流を操り自由自在に駆け回るワタルは、たとえロンドであっても捉えることはできない。 


「さて……覚悟はいいね?」

「ほざけ」


 上から襲いかかるワタルを、ロンドが迎え撃つ。

 不規則な動きをするワタルの攻撃を何度か受けるものの、その全てを直撃にはさせず、防御に徹している。


「……時間切れ狙い」

「これも戦術だ。悪く思うな」


 ロンドはこれほどの大規模魔法が長続きしないことを知っていた。

 魔女のような魔法特化ならばまだしも、ワタルは人間だ。

 残る勝ち筋はこの魔法が解けるまで耐え凌ぎ、魔力のなくなったワタルへ渾身の一撃を見舞うことぐらいだろう。


「くっそー」


 攻めきれずにいるワタルは歯痒い思いをしていた。

 水流を操りロンドの体勢を崩し、逆に自分は思い通りに動いているというのに、未だに決定打となる攻撃がない。


 防御に徹しているロンドの技量が凄まじいというのもあるが、魔法剣がかなり面倒になっている。

 何度かやれたと思った攻撃も、魔法剣を少しだけ解放することで水流を乱され、上手く回避されてしまっている。


「負けはしないけど……勝ちもないな」


 今も攻撃を仕掛けようとしているが、ロンドは一切スキを見せない。

 ここまで粘られると思っていなかったワタルは焦りを浮かべる。


(あと1分くらいかな。でも崩せなさそうだし)


「どうした? 動きが鈍いな」


 ワタルの意識が逸れたその瞬間を狙い、ロンドが鎌鼬を放つ。


「うおっと」


 水流を操作して辛うじて避けたワタルだが、余裕がなくなっていた。


「焦っているな。この領域、もう長くはないのか」

「いやー、それはどうだろうね」

「とっておきと聞いて警戒したが……この程度だったか」


 ロンドのその言葉は、若干の失望の色を含んでいた。


「ふーん……よっしゃ、覚悟決めた!」


 その言葉にワタルも黙っておくことはできず、ビシッとロンドにデュランダルを突きつける。


「次の一撃で決める」


 途端、ワタルの雰囲気が激変する。

 今までロンドに対して、どこか敵意や殺意というものを向けられなかったワタルだが、今はロンドを殺すことも辞さないほどの覚悟を持って言葉を発していた。


「来い」


 ロンドも短くそう応え、防御のために構える。

 これを防げば、自分の勝ちだろうと、ロンドは半ば確信していた。


「荒れ狂え!」


 ワタルの言葉に応え、ロンドの周囲の水が不規則な水流を生み出す。

 上下左右からの水流に普通ならば投げ出されるだろうが、ロンドは風を上手く操り、体勢を少し崩すものの持ちこたえる。


「今ッ!」


 その間にロンドの真上へと移動したワタルは、そう言ってデュランダルを構えてロンドへと向かっていく。


「体勢を崩して上から奇襲……奇襲?」


 声に反応して反射的に防御姿勢をとったロンドだったが、違和感を感じる。

 もしも奇襲ならば、ワタルは声を出す必要などなく、背後から一刺し、という手もあった。

 そこでようやく、ロンドは自分が防御の姿勢を取らされたのだと気付いた。


「気付いたところで遅いよ! 魔法剣・三重奏(トリオ)


 ワタルがニヤリと笑い、そう叫ぶ。

 その瞬間周囲にあった大量の水は、ワタルの手のデュランダルへと収束していく。

 デュランダルの刀身は深く、濃く、まるで深海を連想されるかの如く青色に染っていく。


 この魔法剣の形態は大量の水を消費する上に、今のワタルでは数回振るだけで限界を迎え、暴走してしまう。

 デュランダルでなければ、とっくに剣が破壊されている。

 それほどの魔力を込めたこの剣は、なんびとたりとも防げない、必殺の一撃となる。


「はああああああああああああああッ!!」


 自由落下していくワタルは、気合いと共にデュランダルを渾身の力で振り下ろす。

 ロンドは防ごうとシュトルムを盾のように構えたが、無駄だった。


 シュトルムは真っ二つに斬られ、ロンドも頭から股まで、真っ直ぐに斬り降ろされた。


「はぁはぁ……解除」


 魔法剣を解除したワタルは、斬られた状態のまま立ち尽くすロンドへと体を向ける。


「ワタル」

「はい」

「……見事だった」


 その言葉を言い終わると、ロンドはどさりと前のめりに倒れ伏す。


「ありがとうございます!」


 自分を鍛えてくれた師へ全身全霊の感謝を込め、頭を下げて礼を言う。

 魔族と人間の奇妙な師弟の対決は、決着となった。

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