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女神様

 コラールは魔王軍幹部の中でも、最強であると自負している。

 ロンドもかなりの実力者で本気で殺し合ったことないが、そうなることがあれば苦戦はしつつも勝てるだろうと。


 そんなコラールだが、現在は防戦一方となっている。

 攻めているのは銀髪をなびかせ、拳を振るっているハラルだ。


「ふはは、面白い!」

「私は面白くないですけどね。友達をあれだけ傷付けられてますし」

「ほう、貴様もあれを友達呼ぶか」

「は?」


 ハラルが心底イラッとしたような低い声音を出すと、地面を蹴りコラールとの距離を潰す。


「あれ呼びされるのはすごく不快です」


 そう言いながら、コラールの顔面に向けて拳を振る。

 コラールは自身を守る風を纏っているのだが、ハラルの拳は風の抵抗を全く受けていない。


「ぬうっ!」


 咄嗟に槍を盾にして直撃を防いだが、勢いまでは殺せずに後ろへと大きく飛ばされた。


「弱いですね。まあ、悪魔なんてこんなものですか」

「貴様も神殺しもそうであるが……人間の真似事でもしているつもりか?」

「何が言いたいんですか」

「言葉の通りである。友情ごっこなど、見ていて滑稽であるからな」


 コラールは受身を取って素早く起き上がると、ハラルの煽りを無視し言葉を重ねる。


「神殺しよ、良いことを教えてやろう」

「良いこと?」


 ハラルから視線を外したコラールは、離れた場所にいたレクシアに話しかける。

 ハラルは攻撃するわけでもなく喋るわけでもなく、コラールの言葉を待っているようだ。


「この女神を含めた神界の神々は、人間のことを道具としか見ていないのである。その人間に作られた貴様も、当然道具としか見られていないであろう」

「…………」

「そこの女神が黙っているのが、何よりの証拠である」


 コラールの言葉に嘘はない。

 だからこそ、ハラルは否定も強く言い返すこともしない。


「さあ、これでわかったであろう? 神殺しよ、貴様はそこの忌々しき女神ではなく、我のような悪魔と共に居るべきなのである!」


 コラールはそれで言いたいことを言い切ったのか、両手を広げてレクシアを迎え入れるような姿勢をとる。


「えっと……それで終わり?」

「……なに?」


 てっきりレクシアが来るものだと思っていたコラールは、レクシアの言葉に眉をひそめる。


「別に、そんな事言われても私がハラルちゃんを嫌いになることはないよ」

「あの女神が貴様を道具として見ていなくてもであるか?」

「ハラルちゃんはそんな目で私を見てないよ。友達だからわかるんだ〜」


 ニコニコと笑いながら喋るレクシアには、ハラルに対する信頼があった。


「そういうことですから、レクシアを引き抜こうとしても無駄ですよ」

「ハラルちゃん、私ちゃんとハラルちゃんのこと信じてたよ!」

「当たり前です。むしろ、少しでも迷ってたら容赦なく殴ってましたよ」

「えぇ!? 暴力反対!」


 コラールの言葉は確かに事実だ。

 だが、それは少数の神々の話であり、ハラルを含めた大多数の神々はそんな考えを微塵も持っていない。


 笑い合うハラルとレクシアを面白くなさそうに見ていたコラールは、諦めたようにため息を吐く。


「ならば、仕方ないであるな。2人まとめて地獄に落とすとするのである」


 コラールがそう言うと、纏っていた風の質が変わる。

 2人もそれを感じとったのか、一気に表情を引き締めた。


「我直々にな」


 コラールが地面を蹴ると、纏った風が周囲の物を吹き飛ばし、嵐のようにハラルへと向かっていく。

 対してハラルは、腰を落として迎え撃つつもりだ。


 本来コラールは風を使った中遠距離に加え、槍術を習得したことで近距離にも対応できるようになり、近中遠距離全てを得意として弱点はない。

 だが、唯一苦手な距離があるとすれば、それはハラルのような素手を使った超近距離だ。


 そんな相手に距離を詰められないために風を纏っているのだが、ハラルには効果はない。

 だからこそ今まで防戦一方であったが、そのコラールが自分から距離を詰めた。

 ハラルもそのことには気付いていたが、確かめるためにあえて迎撃を選択した。


「死ぬがいい、女神よ」

「死ぬのはそっちです」


 ハラルの拳がコラールの纏う風に激突する。

 先程までならなんの意味もなかった風は、ハラルの拳を受け止め、あろうことか押し返してハラルを大きく後退させた。


 しかしハラルは最初からその結果をわかっていたようで、すぐに体勢を立て直し、スキを見せない。


「悪魔の力ですか」


 コラールが先程まで纏っていた風は、この世界の魔法であり、完全耐性を持つハラルにとってはなんの意味もないものだった。

 それが今はコラールが本来持つ悪魔の能力による風に変化している。

 ハラルも悪魔の能力までは耐性を持っておらず、結果力負けすることとなった。


「これが我と貴様の実力差である」


 コラールの表情には、普段のような余裕が戻っている。


「それと貴様……制限を受けているのであろう? 今まで力を使わなかったであるからな」

「それはお互い様でしょう」

「我は違う。貴様らに我の力を使うのはもったいないと思っただけである」


 ハラルは否定しない。

 ここで否定しても、恐らくコラールはハラルが力を制限されていると判断してくるだろう。


「だがまぁ、貴様のような最底辺の女神でも我の力を見て殺されるのであるから、感謝すべきであるな」


 勝利を確信したコラールは笑い、槍を構えて再び地を蹴る。

 狙うは心臓。

 纏った風で体勢を崩し、確実に殺しに行く。


「……貴方はいくつか勘違いをしています。私は別に、力を使えないわけじゃありませんよ」


 迫るコラールを前にしても、ハラルは慌てることなく右手を振り上げる。

 その手をコラールが眼前まで迫った瞬間に、斜めに振り下ろす。


 すると文字通り、ハラルとコラールの間の空間が歪む。

 槍も纏っていた風も、歪んだのだ。


「なに!?」


 コラールは初めて動揺して声を出した。

 目の錯覚かとも思ったが、歪んだ槍と風はハラルに当たらず、脇を通り過ぎていた。

 今コラールが見ている光景は、間違いなく現実なのだと自覚したが、もう遅い。


「まだ力を使うタイミングじゃなっただけです」


 攻撃を防ぐための槍も風も空間ごと歪まされ、コラールは無防備な体を晒してしまった。

 そこへ、ハラルが渾身の拳を叩き込む。


「がっ!?」


 相当な威力だったのか、コラールは地面と平行にかなりの速度で吹き飛ばされる。


(何だ、何が起きたのである!? いや、追撃はない。となれば、まずは体勢を整えて)


「レクシア!」


 そこまで考えたコラールは、ハラルの言葉に思考を中断される。

 ハラルの追撃は確かにない。

 なぜならコラールが吹き飛ばされる先には、両目を茶色に染めたレクシアが待機しているからだ。


「まっかせてよ、ハラルちゃん! ヘルゲ・神罰」


 レクシアは腰を落とし、近付いてくるコラールの背中へ掌底を打ち込む。


 ハラルが今まで女神の力を使わなかったのは、レクシアの回復を待っていたからだ。

 存分に力を使えないハラルよりも、神の力を全開で使えるレクシアの方が攻撃力は高い。

 コラールに反撃の隙を与えないためにも、ハラルはレクシアの攻撃でトドメを刺すことを選んだ。


「ごっ……はっ」


 体をくの字に曲げたコラールは、力なく前のめりに倒れる。


「うえ、ヘルゲの力を吸収してましたか。えげつないですね」


 ハラルとしては雷帝の力を使った攻撃を予想していたが、レクシアが使ったのはハラルの旧友の攻撃だった。

 ヘルゲとは大地を操る男神で、万物を粉砕するという攻撃方法を持っていた。


 レクシアが放ったのはそれだ。

 今のコラールの体内は、内蔵や骨などが全て粉砕され、ぐちゃぐちゃになっている事だろう。


「ぐ……我は、我はまだ負けていないのである!」


 ボロボロになったコラールはまだ戦意はあるようだが、体が端から消え始めている。

 肉体が限界を迎え、地獄へと戻り始めたのだ。

 そんなコラールを見下ろすように、ハラルとレクシアが歩いて近づいていく。


「貴方は負けたんですよ。潔く地獄に帰ってください」

「貴様のような……女神ごときに……」

「言っておきますけど、私は最底辺の女神なんかじゃありませんから。空間を司るハラル様、神界の重鎮ですよ。覚えておいてください」

「ハラル……その名は忘れん。必ず殺しに行くのである」

「返り討ちにしてあげます」


 憎悪のこもった瞳を向けたコラールを、ハラルはふふんと笑って答えた。

 その言葉を最後に、魔王軍幹部の悪魔、コラールは姿を消した。


「ふぅ……勝ちましたね」

「勝った、勝ったんだよ! ハラルちゃん、やったよー!」

「わ、ちょっと、暑苦しいですってば!」

「えへへー」


 喜んで飛び跳ね、抱きついてきたレクシアを、鬱陶しそうにハラルが引き剥がす。

 口ではそう言いながらも、内心では友達とのスキンシップを喜ぶように、ほんの少し笑顔を浮かばせながら。

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