表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/74

狂想曲

「ふんっ!」


 カプリースの右上の剛腕が唸り、風を切りながら大剣が地を駆けるエレナに振り下ろされる。

 狙いは完璧で、カプリースはエレナの動きをしっかりと視界に捉えていた。


「加速」


 エレナの速度が変わらなければ、カプリースの大剣が直撃していただろうが、そうはいかない。

 エレナが白夜を引き抜いて呟いた瞬間、その姿が残像を残すほど加速した。


「ぬぅ!?」


 カプリースの大剣は地面を抉るが、そこにエレナの姿はない。

 急いでエレナを探そうとしたカプリースだったが、右足に痛みが走り思わず顔をしかめる。


「ほう……速いな」


 一瞬でカプリースの股下を通り抜け、その右足を斬りつけたエレナに向け、カプリースは賞賛を送る。

 だというのに、当のエレナの顔は晴れない。


「手応えはあった。確実に斬り落としたと思ったその足……ほとんどダメージがないな?」

「そんなことはない。しっかりと傷は付いているだろう」


 カプリースの右足からは、その言葉通り黒い肌から血と思われる紫色の液体が流れ出ている。

 だが、出ている血の量は多くない。


 エレナの先程の攻撃は、速撃と加速のスキルの組み合わせに加えて白夜の斬れ味もあり、普通の魔族なら10人重なっていたところで両断するのは容易なはずだ。

 それがカプリース相手では骨にすら届いていない。


 特訓の成果で幹部も圧倒できるかもしれない。

 それなセレナの淡い期待は打ち砕かれたが、動揺はない。


「ふーッ……加速」


 セレナは大きく息を吐き出し、再び抜き身の白夜を構えて疾走した。

 今度は最初から全速力で。


「やはり見えんか。ならば……」


 カプリースは目を凝らすが、エレナの姿を捉えることは出来ない。

 ここで大剣を振り回しても、先程の繰り返しになるだけだ。

 そこでカプリースは、自らの大剣に込められた力を使う。


「爆ぜるがいい」

「なっ!?」


 カプリースが両下腕部に持っていた大剣を地面に突き刺しそう言うと、大剣が淡く赤色に輝き、爆発した。

 2本の大剣を中心とした爆発は広範囲の地面を割り、エレナは突然の足場が崩れたことにバランスを崩す。


「速度さえ無くなれば当てるのは簡単だ」


 足の止まったセレナに、カプリースの中腕部に持った2本の大剣が迫る。

 横薙ぎに振るわれたその大剣の攻撃範囲は広く、避けるのは難しい。


「なめるな!」


 だが、エレナはその攻撃は上体を限界まで逸らしながら、白夜で大剣の軌道をほんの少し上に向けることで回避する。

 力では圧倒的に劣るエレナでも、軌道を変えるぐらいならば可能なのだ。


「受け流したか。刀の腕もなかなかのものだ」

「余裕のつもりか?」

「いや、そうではない。この大剣の力を使うに値する相手だと、再確認しただけだ」


 素早く上体を起こして攻撃態勢に入るエレナに、カプリースはそう言って笑うと、今度は上腕部に持った2本の大剣をエレナに振り下ろす。


「同じ手だなんて、芸がっ!?」


 最小限の動き……白夜で大剣の軌道を逸らし、紙一重で避けようとしたエレナの言葉は遮られる。

 体を正面から殴られたような衝撃と共に、視界が前へと流れていく。


 吹き飛ばされた。

 そう気付いたのは、岩に背中から激突してからだった。


「げほっ。う……ぐ……」

「言ってなかったが、俺は魔王軍の鍛冶師をしている」


 咳き込みながらも立ち上がったセレナは、今の状況を理解した。

 カプリースの上腕部の大剣2本が、風を纏っている。

 大剣自体に当たらなくとも、纏った風で吹き飛ばす、ということだろう。


「これで終わりじゃないだろう? さあ、もっとやり合おう」

「ぐぅ……もちろん」


 カプリースは獰猛に笑い、大剣を構え直し、エレナはそれに応えるように、笑みを浮かべて白夜を持ち直した。


* * *


「敵もかなり押し返したようじゃな。もうわしの攻撃も必要ないじゃろう」


 後方から高火力の魔法により、多くの魔族を葬ったマリーは、前線へと向かうことにした。

 問題はどこに向かうかだが、


「さっき見えたのはレイの魔法じゃったが……レイがあそこまで魔法を行使するとは」


 マリーはレイのものと思われる、毒魔法を視界の隅に収めていた。

 普段のレイは毒魔法を使うことは少なく、もっと他の危険度の低い魔法を使う。

 つまり、それだけの相手が現れたということ。


「大丈夫じゃとは思うが、念の為向かうとするかのう」


 マリーは後方支援を終え、中央から左側の戦場へと向かうことにした。


* * *


「エレナちゃん、大丈夫かな」

「相手は幹部ですから、大丈夫ではないでしょうね」

「もう! ハラルちゃん、不安になること言わないで!」

「どう言えば正解なんですか……とはいえ、セレナが大丈夫だと言ったんです。私たちは信じるしかないでしょう」

「……それもそうだよね! うん、私はエレナちゃんを信じるよ!」

「それがいいと思います」


 ハラルとレクシアは、敵を倒したながら一直線に敵陣へと切り込んでいた。

 ハラルの耐久力に加えてレクシアの高火力、広範囲の攻撃により2人を止めることの出来る魔族はいない。


「このままなら、簡単に奥まで行けそうだね」

「油断しないでください。こういう時が1番やられ……え?」


 突如、前を走っていたハラルの足が止まる。

 不思議に思うレクシアだったが、その疑問はすぐに解消された。


 ハラルの左胸を槍が貫いていた。


「ここで……来ます……か」


 ハラルが前のめりに倒れ、動かなくなる。


「え? 嘘? ハラルちゃん、嘘だよね?」


 突然のことにレクシアは頭の処理が追いついていないのか、呆然と立ち尽くしている。


「ふはははは! その表情、とても愉快である! その女神もどきも、我に殺されてさぞ悔しいであろう」


 レクシアの耳に、聞き覚えのある声が響く。

 そちらを向けば、忘れることは無い、圧倒的な力を持った魔王軍の幹部……コラールが後方から歩いて来ていた。


「風を槍に纏わせることで、不可視にして音も無くす……ここまで上手くいくとは思わなかったであるがな」


 コラールが槍に手を向けると、ハラルの胸から槍が抜け、その手元へと戻る。

 槍を振るって血を払うが、コラールはその槍を見て眉をしかめた。


「殺したはいいが、汚らわしい血がついたのは不快であるな。まあ良い……さて」


 コラールが槍を振るうと、凄まじい激突音が辺りに響き渡る。


「いつぞやに見た魔剣であるな」

「殺す!」


 笑ってそう言うコラールを無視し、レクシアは何度も剣を打ち込む。

 コラールをそれを余裕の表情で槍で受け続けるが、レクシアの両目が青く変化したのを見て、その表情が曇る。


「腕を上げたであるが、やはり弱い」

「うるさい、黙れ! 雷帝・神罰!」


 ゴォン!


 思わず耳を塞いでしまうような大音量と、大気を震わせる衝撃波がと地響きが鳴る。

 レクシアが力を使い、雷をコラールに向けて落としたのだ。


 いや、それはもう雷などという生易しいものではない。

 神の力を十分に使ったその攻撃は、当たれば塵も残らないだろう。


「……驚いた。まさかこれほどの攻撃を持であるとは」


 コラールはレクシアが攻撃する素振りを見せた瞬間、本能に従って風を操り自らを後方へ吹き飛ばした。

 その判断は正しく、コラールは危うく文字通り消し飛ばされるところだった。


「絶対に……貴方だけは殺すよ」

「面白い。楽しめそうであるな」


 憎悪の瞳で睨みつけるレクシアとは対照的に、コラールは新しいおもちゃを見るような瞳でレクシアを見るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ