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魔法剣士1

「はあ……はあ……」


 ワタルは片膝をつき、肩で大きく息をしている。

 体は悲鳴を上げ、魔力もかなり消費しており、もう余裕など微塵も感じない。


「どうした? もう終わりか」

「ぐっ……まだまだ!」


 ロンドは追撃の手を止め、ワタルを見下ろしている。

 ワタルはどうにか立ち上がると、何度目かもわからない攻撃をロンドに仕掛けた。


* * *


「まずはお前がどこまでできるかを確かめる」


 荷物をロンドに案内された部屋に置いたあと、唐突にロンドがそう言った。


「確かめるって、冒険者カードでも見せればいいんですか?」

「戦闘だ」

「ああ、この森の魔物を倒してこいとかですか」

「違う。俺とだ」

「は?」


 ロンドの発した言葉に、ワタルは思わず素で聞き返してしまう。

 ワタルの聞き間違いでなければ、ロンドは今自分と戦えと言った。


「俺と戦えと言ったんだ。そっちの方がわかりやすい」

「いやいやいや、本気ですか?」


 聞き間違いではなかった。

 ワタルは慌てて、ロンドに本気で言っているのか問いかける。

 ロンドは魔王軍幹部であり、おそらくその実力はワタルと天と地ほども離れていることだろう。

 歯が立たないのは目に見えている。


「お前は相手が自分より強いとわかれば、戦う気はないのか?」

「それはそうですよ」

「仲間を守るため、だとしてもか?」

「それは……」


 ワタルは言葉に詰まる。

 ワタルは仲間とためとならば、相手がロンドでも間違いなく戦うだろう。

 仲間を助けるために。


「幹部にはお前より強いやつは他にもいる。そいつらを前にした時、お前は逃げるのか?」

「わかりましたよ。やってやりますとも」


 ワタルはデュランダルを構え、ロンドを見据える。


「それでいい」


 ロンドも剣を真っ直ぐに構えた。

 次の瞬間、ワタルの背筋を悪寒が駆け抜けた。

 殺意とはいかないまでも、明確な敵意。

 それをロンドに向けられただけで、ワタルの足は震えてしまう。


 だが今は、そんなことで時間をとるわけにはいかない。

 ワタルは自分を奮い立たせ、盾を真上へと放り投げる。

 と同時に、不意打ちとしてロンドの知識にない魔法、兵器魔法の閃光弾を真似た、土の球体を投げつける。

 ロンドは土の球体を切り上げ両断すると、次の瞬間ロンドの視界は真っ白に染まった。

 同時に強烈な音が弾け、ロンドの視界と聴覚は塞がれる。


「水よ、弾丸となり、貫け!」


 そこへ、ワタルの水の弾丸が大量に放たれる。

 回転により貫通力が上がっているそれは、ロンドの鎧を貫通し致命傷を与える。

 ……はずだった。


「見たことのない魔法だな」


 水の弾丸はロンドの体に触れた途端、弾かれたように全て辺りへと飛び散った。

 いや、正確にはロンドが弾いたのだ。


「なっ」

「視覚と聴覚を塞ぐか。使い勝手の良い魔法だ」


 水の弾丸がロンドの体に触れた瞬間に、ロンドは手に持つ剣の背でそれらを全て弾いたのだ。

 視覚と聴覚が塞がれようとも、水の触れた感覚だけを頼りに防ぎきった。

 次元が違った。


「何を惚けている」

「がっ!?」


 ショックで動きの止まったワタルへ、一瞬で距離を詰めたロンドが大上段から剣を振り下ろす。

 ワタルは咄嗟に盾で防ぐものの、ロンドの力は想像を絶しており、盾を横に向けることでどうにか受け流す。

 もしもこれがデュランダルでなければ、ワタルは今頃真っ二つになっていただろう。


「召喚【デスペリアスライム】」


 ワタルは横に大きく飛び退き、自分とロンドとの間にデスペリアスライムを召喚する。

 デスペリアスライムであれば、物理攻撃も魔法攻撃も効かない。


「天災と呼ばれる魔物か」


 ロンドはデスペリアスライムを見ると、腰を落とし剣を後ろに振りかぶる。

 それを大きなモーションと共に振り切ると、風圧がワタルにまで届き、デスペリアスライムはその風圧によって四散する。


「言っておくが、幹部にこの程度の魔物を倒せないやつはいない。魔力の無駄だ」

「召喚【アンデッド】」


 ロンドの忠告も聞かず、ワタルは再び召喚魔法を使用する。

 召喚したアンデッドの数は20。

 かなりの数で、魔力の消費も激しい。


「聞いていなかったのか」

「まだ終わってませんよ。水よ、剣となれ」


 ワタルは続けて2言詠唱によって、水の剣を20本作り出す。

 アンデッドたちは水の剣を手に取ると、一斉にロンドへ襲いかかった。


「なるほどな。アンデッドの特性を活かしたか」


 この世界では、自分の魔法では自分は傷つかないなどという、ご都合設定はない。

 魔法によって作られた火や水は触れるだけでダメージを受けるため、ハラルのように特殊な手袋などが必要になる。

 だが、アンデッドならば優れた再生能力があるため、その制限を受けることがなくなる。


 ロンドは大きく一歩踏み込むと、水の剣を振り上げて迫るアンデッドたちの頭部に向け、横薙ぎに剣を振り抜いた。

 先頭にいた数体のアンデッドは頭部を上下に両断され、倒れるとそのまま動かなくなる。

 ロンドは剣を振りきった勢いのまま、左足を軸に体を回転させ、再び横薙ぎに剣を振る。


「だが、無駄なことだ」


 それが数度繰り返されるだけで、アンデッドはみるみるうちに数を減らしていく。

 アンデッドの知能では、回転しているロンドの隙をつくなど、考えつくわけがない。

 いや、仮に考えついたとしても、無理なことだろう。

 ロンドの回転する速度は非常に早く、背中を晒している時間など、1秒にも満たない。


「無駄じゃありませんよ!魔法剣!」


 そのロンドが背を向ける、まさに一瞬の間に、ワタルは魔法剣によって伸ばした刀身を、ロンドに向けて突き出す。

 ロンドは回避できず、水の刀身はロンドの胴体を貫いた。


「伸縮自在か。便利な魔法だな」


 ロンドは腹を貫かれると、ピタリと動きを止める。

 勝負は決したと見たのか、ワタルは魔法剣を解除し、デュランダルを鞘へ収める。


「お前は面白い魔法を使うな」

「どうも。それより腹の治療はいいんですか?」

「問題ない」


 見ると、貫かれた部分の鎧は小さな穴が空いているものの、血は出ていない。

 ワタルはそのことについて聞こうとするが、それよりも早くロンドが喋り出す。


「今ので1本だ。俺から、そうだな……まずは10本取れるまで戦闘を連続でやる」

「マジですか……」


 今の1本でも、魔力を惜しみなく使い体も心も消耗している。

 それを10本取れるまで続けるなど、ハードなどというレベルではない。


「できるまで休憩はなしだ。やめるなら出て行け」

「……やってやりますよ! 10本なんて余裕ですね!」

「そうか」


 ワタルは自分に言い聞かせるようにして、再びデュランダルを抜剣する。

 ロンドはワタルの返事を聞くと、剣をゆっくりと正面に構えた。


 それからワタルは奮闘するも、結局はその後1本しか取れず、過労で倒れるまで戦闘は続いた。

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