表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/74

サキュバス

バキンッ!


 金属が折れる音が響く。

 これも何度目か、ハラルは既に覚えていない。

 夜想曲の剣は、破壊するたびに再生していき、ワタルが盾でハラルの攻撃を防いでいる間に復活する。

 そして、それを折る。

 数分前からその繰り返しだった。


「ちょっと不利ですかね……」


 夜想曲の剣を折るために、ハラルは常に音魔法を発動し続けている。

 ハラルが使う音魔法は魔力の消費は少ないものの、塵も積もれば山となる。

 今ではかなりの魔力を削られていた。


 さらに、ハラルはワタルへ直接的な攻撃はできない。

 今の状態のワタルへ、音魔法の振動によって強化されたハラルの拳が直撃すれば、命を奪いかねないからだ。

 そのため、ハラルは決定打に欠けていた。


「え」


 どうしようかと考えるハラルに、ワタルが向かってくる。

 その手に持っている夜想曲の剣はまだ刀身が再生の途中で、それを振ろうとしているのがわかった。

 行動パターンの変わったワタルを警戒し、ハラルは大きく後ろへ飛ぶ。


 それは正解だった。

 先程までハラルがいた場所を、水によって刀身を伸ばされた夜想曲の剣が、ハラルの服を切り裂き、音を立てて通過する。


「魔女を操れるんですし、そりゃ魔法も使えますよね」


 ワタルが魔法を使う素振りを見せなかったため、無意識に魔法による攻撃はないと思い込んでいた。

 ハラルは今のワタルに対する認識を改める。

 ワタルの周囲には拳大の大きさの水球が浮かんでおり、攻撃もさっきより多彩になるだろう。


「時間稼ぎにしますか」


 いくらハラルとはいえ、魔法と物理的な攻撃を受け続ければ、ダメージも蓄積されいつか倒れる。

 ワタルを無力化することを諦め、自分は時間稼ぎに徹する。

 それが今、1番勝率が高いとハラルは結論付けた。


***


「……どこじゃ?」


 マリーは迷っていた。

 最初に入った扉の先は、四方に扉がある部屋だった。

 それから、いくつか扉を開けて回ったが、どこの部屋も殺風景で、まるで迷路のようだった。

 そして、マリーは完全に自分がどこにいるかを見失ってしまった。


 頼りになりそうだった音も、四方八方から聞こえており、相手の場所を特定することはできない。

 ハラルは今この瞬間も、ワタルと死闘を繰り広げているはずだ。

 早く見つけなければならない。

 マリーは考えた末、ある方法を思いつく。


「ハラルにもできたんじゃから、わしにもできるじゃろう」


 その方法とは、ハラルの行った音魔法によるソナー探索だった。

 ハラルは簡単にやってのけたこの方法は、非常に高い難易度を誇る。

 だが、スキルによって全ての魔法に適正を持ち、魔女であり魔法の扱いに長けたマリーであれば、可能であった。


 早速マリーは地面に手を当て、音魔法を発動する。

 音は一瞬にして広がっていき、この地下の全体図をマリーへと伝えた。

 地下は最初の大きな広場以外、同じような小部屋が続いていた。


「……あそこじゃな」


 ここから右へ2つ、前へ5つの部屋の下に、地下のようなものがある。

 その下に1つの部屋があり、そこ以外に怪しい場所がないことから、そこに洗脳をしている人物がいると考えわマリーは走り出す。


 その部屋にはすぐに着き、よく目を凝らすと、この地下への入口と同じように、細く見逃してしまいそうな線が入っていた。


「砕けよ」


 マリーは土魔法によって岩の塊をその入口へぶつけ、入口に穴を開ける。

 やはりその中に人がいるようで、入口を壊した音に驚いたのか、歌が止まる。

 マリーはいきなり中へ入るようなことはせず、ゴーレムを2体作り出し、扉の先の階段へと向かわせた。

 それからしばらくして、


「わー! なに、なんなの!」


 中にいる女の子の声が聞こえてきたため、マリーは杖を構えて警戒しながら、階段を降りていく。


「し、侵入者!? 可愛い私をさらいに来たの!?」


 その部屋は大きさこそ、他の小部屋と変わらないものの、椅子や机という生活用品があった。

 その中心に、2体のゴーレムに捕えられた少女が、マリーを見てじたばたともがいている。

 力はないのか、ゴーレムの拘束から脱出できず、しばらく眺めていると大人しくなった。


「殺すべきかのう?」

「ひいっ!」


 マリーの呟きに、少女は素早く反応して再び暴れ出す。


「冗談じゃ。少し聞きたいことがあるんじゃが」

「私の可愛さの秘密とか?」

「次ふざけたことを言うと、お主を殺す。いいな?」


 少女は両手で自分の口を抑え、コクコクと何度も頷く。

 抵抗の意思はないとみたマリーは、少女からゴーレムを離すと、少し下がらせる。

 マリーはてっきり魔王軍の手の者だと予想していたが、どうもそうではないらしい。

 そのため、まずは自分に敵意がないことを示そうとする意図もあった。


「まず、お主の素性を聞きたい」

「私? 私はピアニ。アイドルを目指す可愛いサキュバスよ!」


 少女はゴーレムの拘束を解かれ戸惑っていたが、マリーから質問されると、右手で横ピースをしながら声高らかに名乗った。

 身長こそマリーと変わらないが、その体は豊満で、マリーとは似ても似つかない。


「魔王軍じゃないんじゃな?」

「魔王軍? あんなところ絶対行きたくないわ!」


 嘘をついているようにも感じられず、どうやら本心で魔王軍を嫌っているらしい。

 それがわかり、マリーは質問を変える。


「魔女を洗脳した目的はなんじゃ?」

「え、洗脳? 私が?」


 マリーの質問に対し、ピアニはきょとんとして小首を傾げる。


「お主の歌で魔女が洗脳されておる。言い逃れはできんぞ?」

「それってつまり、私の歌に魅了されたってことね! やっぱり私はすごいわ!」

「わしの質問中じゃ」


ズドンッ!


 マリーのゴーレムが地面を殴ると、鈍い音とともに地面にヒビが入る。

 ピアニはビクっと体を震わせると、すぐに黙った。


「でもでも、本当に私は洗脳なんて知らないわ!」

「なら、なぜこんな地下にいるんじゃ?」

「言ったでしょう。私はアイドルを目指してるの。そのために、今は里を飛び出して偶然見つけたこの地下で過ごしてるのよ」


 ピアニは胸を張り、堂々と言い張る。


「ふむ……」


 マリーはピアニの発言を整理する。

 まず、ピアニは故意的に洗脳をした訳では無い。

 この地下は、ピアニが作ったものではない。


「お主、この竹林に来る途中で歌を歌ったか?」

「もちろん。練習は移動中でも欠かさないわ!」


 今のピアニの発言で、合点がいった。

 ピアニの歌は音魔法の1種で、洗脳効果がある。

 ピアニには魔女の里が見えないため、歌が聞こえた魔女たちが洗脳された。


 洗脳された魔女達は、ピアニが命令を下さなかったため、近くの魔女を攻撃し主となったピアニの元へ向かったのだろう。

 ワタルの洗脳が早かったのは、サキュバスとして生まれ持つ能力で、男性に対して効きやすい、といったところか。


「悪気はないんじゃな?」

「も、もちろん!」


 即答したピアニを見て、マリーは頭を悩ませる。

 悪気がないならば、これから歌を歌わないよう、注意すればいいことだ。

 だが、魔女の里には連れていかねばならない。


「洗脳はどうやったら解けるんじゃ?」

「もう歌ってないから、多分すぐに解けると思うわ」

「そうか。よし、ならばお主を殺す必要もないじゃろう」

「本当!?」

「じゃが、洗脳した者達には謝ってもうらうぞ?」

「わ、わかってるわよ」


 マリーが睨むと、ピアニは怯えながらも首を縦に振った。

 マリーはそれに納得し、ピアニをゴーレムに運ばせその部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ