第2話 序章
第2話序章、目的地まではまだまだかかるので気長にお付き合い下さい。
アイーシャの戦記 第2話「戦士と僧侶」
序章
うららかな春の日差しが街道を照らしている。街道脇の草花は咲き乱れ、木々の蕾も今や遅しとほころび始めている。それらは新たな春の訪れを祝福しているようだった。
そんな中、街道筋を並んで歩く旅人の姿が二つ。いずれも年端もいかない少女に見える。一人は金髪に碧眼、髪は肩まで伸び緩く波打っている。左腰に下げた異国風の刀に思わず目を奪われる。もう一人はやや背は低く銀髪に灰色の目、髪は後ろで編み上げていてその上に金縁の黒い帽子を被っている。
先の戦争から数年が経ち治安も回復しつつあるとはいえ、女二人で旅をするというのも珍しい事である。
金髪の少女が口を開く。
「メア、次の街まではあとどれくらいかかりそう?」
「ええと…地図からするとあと小さい峠を越えた先なのでもう一踏ん張り、というところかな…何か気がかりでも?」
「水がそろそろ無くなりそうでな…どこかで汲んでおきたい」
「それだったらご心配なく。この先の峠のふもとに水場があるそうです」
しばらく歩くと峠のふもとに差し掛かり、件の水場に到着した。
山からの湧き水が岩をくり抜いた甕にたたえられている。甕には女性と竜の姿が彫られており、霊験あらたかな雰囲気を醸し出している。
メアは甕の前で膝をつき、両手を握り合わせた。
「主よ、大地の恵みをいただきます」
それを見ていたアイーシャも見よう見まねでメアの作法に倣った。
二人は水筒に水を汲み、ついでとばかりに手と足も洗い、小休止をとる事にした。
「こういう水場は落ち着きますね。落ち着きすぎてこのまま眠ってしまいそう」
メアは水場の脇に腰掛け、のんびりとした声でつぶやいた。
「確かに落ち着く、落ち着いて思わず警戒を解いてしまいそう」
「え、それって…」
メアが言葉を終えるのが早いか、周囲の茂みがガサガサと音を立て、彼女達を囲むように男達が姿を現した。手にはそれぞれ得物を握っている。
「水場に立ち寄った旅人を狙った追い剥ぎ…というところか」
「へへっ嬢ちゃん察しがいいじゃねえか。察しがいいついでによ、金目のもんを置いてってくれや」
「アイーシャ…」
メアは不安そうな目をアイーシャに向け声をかけた。
「心配しないで、メア」
「いや、私が心配なのは…」
メアは気の毒そうな目を野盗達に向けた。女二人で楽そうだと完全に油断している様子だ。
「あまり、やりすぎないで下さいね…」