第3話 第5章 結界の街(4)
モレスとの戦いを制したアイーシャ。
しかしその時街に異変が起こる。
そしてアイーシャ達の前に立ちはだかる<塔>の魔導士とは――?
「霊脈が氾濫?」
異常な街の様子を見ながら怪訝な表情をするアイーシャ。
「この街には霊脈が通っていない筈では?」
疑問を口にするメア。霊脈から離れているからこそモレスは結界を張り街の人間の精気を奪っていたのだ。
「説明が足りなかったわね、遠くない距離に霊脈は通っているの。この辺りはアリアトス街道沿いに霊脈がある。でも霊脈もずっと真っ直ぐな訳じゃない、所々曲がったりしているの」
「この街の近くで曲がっているって事?」
「そう、霊脈はこの街を避けるように蛇行して通っている。この街は遠巻きに三方を霊脈で囲われている事になるわね」
街の光を見やりながらアドニカが答える。
「それがどうして今この街に流れ込んでいるの?」
「マナ同士は引かれ合う性質がある。ある一箇所にマナが集積されればマナの塊である霊脈もそのマナに引っ張られるのよ。――おっちゃん、結界を張って今日で何日目になる?」
「…七日目だ」
うなだれながらモレスが答えた。
「…まとまったマナが集まるには十分な時間だわ。今この街には三方向からマナが濁流のように押し寄せている」
突如ラナが胸を押さえてくずおれる。
「ラナ!」
モレスがラナの肩を抱く。
「その子と街の結界は繋がっているんでしょ?街にマナがあふれかえって結界からの魔力の供給が過剰になって体の中で暴れている」
体への過剰な魔力の供給。魔力の制御が出来ない普通の人間に起これば魔力が『暴発』して命を失いかねない。
「このままマナが街に流れ込んだら<竜>の出現だってあり得るわ」
「アドニカ、<竜>って、まさか――!」
アドニカの言葉に青ざめるメア。
「そう、霊脈のマナの集積が生み出す超常の力の具現体。制御されずに暴走すれば周囲の命を奪う大災害になり得る」
魔導士にとって<竜>とは特別な意味を持つ。無尽蔵の魔力を振るう霊脈が形を成した存在。<竜>を操る事は魔導士達としての最大の到達点と言える。
「一刻も早く霊脈の氾濫を止めないと取り返しがつかなくなる。おっちゃん、結界の要石はどこにある?」
アドニカはモレスに問い詰める。
「…ウチに地下室がある。そこに陣を敷いて設置してある」
「すぐに行くわ。アドニカ、あなたは休んでいいてもいいけど?」
「あーあたしも行くわよ…ちょっぴりあばらが痛いけど…つっ」
あばら骨付近をさすりながらアドニカが答える。
「善は急げ、すぐに参ろう」
言うが早いか三人は丘を下り街へ駆け出していった。
街に近づくにつれ、光はますます強くなっていく。
「段々マナが濃くなっていく、<竜>が現れるのも時間の問題ね」
もうすぐ街に着く。その時街の入り口に、人影を認めた。
背は低く、マントをはおりフードを目深に被っている。
アイーシャ達の行く手を阻むように道の真ん中に立っている。
「お姉さんたち、街に何か用?」
立っているのは少年だった。あどけなく見えるその表情からアイーシャよりも年少に見える。
「ええ、急用よ。そこ、どいてくれないかしら?」
「アドニカ、こいつは」
アイーシャは左手を少年に向けてかざし、魔術を放つ構えを取る。
「ええ、黒幕登場って所ね。あなたが<塔>の魔導士様ね?」
「うん、お姉さんのご明察のとおり」
少年ははっきりと認めた。その様子は快活であったが、アイーシャは少年がただならぬ魔力を纏っている気配を感じ取っていた。それも尋常な量ではない、静かでそれでいてはっきりとした存在感のある黒い塊があるようだった。
「お主がモレスに結界術を教示したのか?」
ゲンプが少年に問い詰める。
「ああ、あのおじさんとっても困っているようだったから」
笑みを浮かべる少年。
「その結果がこの霊脈の氾濫。詐欺もいい所ね」
「人聞きが悪いなぁ。あのお姉さんは死なずに済んだ。まぁその後どうなるかは説明はしなかったけどね」
「そこをどけ。結界の要石を破壊させてもらう」
アイーシャが殺気を放ちながら言う。今にも術を繰り出さんとしている。
「うーん、それは困るな。とっても困る」
少年は顎に手を当てながら言った。言葉とは裏腹に薄ら笑いを浮かべその様は空々しく見えた。
「せっかく『竜』が顕現しようとしているんだ。ゆっくり眺めさせてもらいたいな」
まるで植物観察を見とがめられているかのような口ぶりだ。
「こんな霊脈を乱す真似をして何が目的?」
さしものアドニカも苛立ちを隠せないようだ。
「実験さ」
無邪気に答える少年。
「…実験だと?」
アイーシャの少年を見る目つきが鋭くなる。
「マナの集積による霊脈の流れの誘導と<竜>の発生を見届ける事。僕としては、お姉さんたちには何もせず街から離れて欲しいんだけどな」
「そう言われて素直に立ち去ると思う?」
アドニカも杖を構えて言った。
「そうだよね、お姉さんたちはそういう人たちだよね。じゃあ――通ってみてよ」
少年は両手を広げそう言った。
「そうさせてもらうわ!」
そう言い終わるが早いかアイーシャとアドニカが術を放った。
風と炎が少年めがけて殺到し、爆炎を上げた。
「どう?」
直撃させた手応えはあった。無傷では済まないはずだ。
爆炎が消え去るとそこには――
「お姉さんたちの魔術、どんなものかと思ったけどちょっと拍子抜けかな」
少年が変わらぬ様子で立っていた。
「なっ――」
無傷で攻撃を防がれアドニカは絶句する。
防護術を展開した様子はない。
「そのマントが結界という訳か」
マントの類は魔導士にとって一つの世界であり、外部からの干渉を遮断する効果を持つ。
「そうだよ。その程度の魔術なら十分に防げる」
それでも二人がかりの魔術を遮断するのは並大抵な結界ではない。魔導士としての実力はアイーシャ達に勝っているとみられる。
「――なら、もっと強烈なやつをお見舞いしてやるわ!」
アドニカが杖に魔力を集中させる。
「そうはさせないよ」
少年は手をかざすとそこに三つの黒い刃が生まれ、地面を走りアイーシャたちへ向かってくる。
「――ちっ」
すんでのところで刃をかわすアイーシャ。
術に集中する暇は与えてくれそうにない、ならば――
「直接叩くのみ!」
アイーシャとゲンプが左右から少年との距離を詰めて行く。
刀と拳が少年に向け繰り出される。
「やっぱり、そう来るよね」
少年はそう言うと、手を左右にかざす。すると黒い正方形の板状の『盾』が展開される。
『盾』は乾いた音を立て、二人の攻撃を防いだ。
(直接攻撃も防ぐか、しかし――)
「防いだ」という事は盾さえかいくぐれば攻撃が通じる証左でもある。問題は簡単にそんな隙を与えてくれる相手ではないという事だが。
「刀が通じないなら!」
アイーシャは左腕をかざし風の刃を繰り出す。風の刃は黒い障壁を切り裂き、相殺される。
改めて打ち抜きの構えを取るアイーシャ。
しかし――
「ッ!」
アイーシャは咄嗟に体を横に倒す。その瞬間、アイーシャの顔があった場所を黒い刃が走った。
「盾」を展開していた裏で術を練ってていたのだ。
「くっ…!」
魔術と剣を駆使してで迫ろうにも隙がない。
黒の刃は同じく魔力で「盾」打ち砕いたゲンプにも襲いかかる。
ゲンプは一瞬反応が遅れ肩口を刃がかすめる。
肩から鮮血がほど走る。
「なんのこれしき!」
傷にも怯まず拳を振り上げようとするゲンプ。しかし、
「…ッ、肩が…!」
刃を受けた右肩が動かない。前腕が震えるほど力を込めているようだが、肝心の肩がピクリとも動かない。
「…不随の呪詛か」
魔術攻撃に呪いを乗せて放つ術。少年が放った術には体を麻痺させる呪いがかかっているようだ。
「ただの刃じゃ味気ないでしょ?こっちの方が面白い」
少年はそう言いながら次々と刃を繰り出してくる。
「ほら、避けないとどんどん動けなくなっちゃうよ。あのお姉さんみたいにね」
アイーシャははっとして背後を振り返る。
そこにはうつ伏せに倒れているアドニカの姿があった。
彼女はゴーレムから攻撃を受けたまま回復せずこの場に来てしまっていた。ろくに避けられないまま直撃を受けてしまったに違いない。
「…あたしに構わないで!大丈夫よこのくらい」
確かにアドニカに構っている余裕はなかった。呪詛を孕んだ刃は今も少年から次々と放たれている。
「くそっ…」
突破口がつかめず苛立ちを募らせるアイーシャ。
「ちっ…、杖が…」
アドニカは倒れた際に杖を取り落としてしまい手元から離れてしまっている。
彼女は体の大半が麻痺してしまっている。満足に動かせるのは右腕だけだった。
杖は彼女の右手のわずか先に落ちているが、今の彼女には遠い距離だった。
それでも、
「あんのガキ…、一発、くれてやらにゃ気が済まないわ…!」
歯を食いしばりながらアドニカはつぶやく。
必死に右腕に力を込め杖に向けて体を這わせていく。
ゲンプは焦りを感じていた。
(拙者は接近せねば攻撃できぬが…)
一度は近づき攻撃をしたものの、防がれたうえ逆に傷を負ってしまった。右肩は未だ動きそうにない。
下手に近づけば術の餌食になってしまう。これ以上手足が動かなくなれば避ける事もままならなくなる。かといって距離を置いたままでは攻撃出来ない。
(手詰まりか…)
ふとアイーシャに視線を向ける。
彼女は攻撃を避けながら、左手をもどかしげに握り込んでいる。
その時、アイーシャと目が合う。
アイーシャは左手首の腕輪をゲンプに見せるような仕草をした。
アイーシャとゲンプは念話では繋がっていない。しかし、
(…承知した!)
彼女の意図を察し、一足飛びにアイーシャのもとに駆け付けた。
そして、少年に対し正対した。
「ふうん、そう来るんだ。じゃあお望みどおりに」
少年はそう言うと黒の刃をゲンプに放った。
「ぐうっ…」
腕、腰、足とゲンプは刃を全身に浴びせかけられ、血を噴き出す。
たちどころに膝をつき、まともに体が動かなくなっていく。
「大方お姉さんの術を練るための時間稼ぎかな?でもそんな隙は作らせないよ。あなたが倒れればもうお姉さんを守るものは何もない。これで――終わりだ」
少年が術を放つ構えをしたその刹那、少年の頭上に巨石が落ちてきた。
少年は攻撃の構えを解き、防護壁を展開する。
「…この術は!」
アイーシャ達の後方、そこにはモレスの姿があった。
「娘の命を繋ぎとめた事は感謝しているが、俺もお人好しだな。外道は見過ごすわけには行かねえ」
「くっ…!」
少年は最大限の魔力を展開し巨石を撥ねとばす。
それと同時にモレスに黒の刃を放つ。モレスは術の直撃を受けくずおれるように倒れる。
全身に麻痺が及んだのか、ゲンプは前のめりに倒れ込んだ。
そして倒れたゲンプの後ろには――
「アイーシャ殿、今こそ機なり…!」
左手を少年に向けたアイーシャの姿があった。魔力を練る時間は十分に取れた。
ありったけの魔術を少年に向かって放つ。
「風よ、猛れ!」
たちどころに風が集まり竜巻が生まれる。
そして竜巻は少年に襲いかかり、飲み込んでいく。
「立派な風だね」
彼はフードを抑えながらつぶやいた。
短時間で練ったにしては大した術だった。
ただの竜巻ではない。風の刃が幾重も束ねられた暴力的な力の塊である。
「…でもそれだけだ」
彼にとっては強い風に過ぎなかった。防護術を展開し、マントの対魔術力を強化する。
風の刃はマントの表面を上滑りしていき――
――次の瞬間、マントはズタズタに引き裂かれた。
上手くいった。
全力で風の術を放っても、本気で防御されれば攻撃が通るか分からない。
少年の魔術的な防護は完璧といっていいだろう。
だから、物理的な攻撃を加えた。
やがて竜巻が止むと少年が姿を現した。マントは引き裂かれ、全身に傷を負い血を流している。
「…本命はナイフ。竜巻は目くらましだった訳か、やられたね…」
アイーシャは手持ちのナイフ十数本を竜巻の中に放り込んだのだ。
暴風の中にあっては木の枝でさえ十分な凶器となる。
そんな中をナイフが舞ったのだ。魔術的防護は完璧でも物理的な暴力にはひとたまりもなかった。
少年はそれでもよろめきながらも術を放つ構えを取る。
「まだやれる、ぎりぎり僕の勝ちだ。終わりだね、お姉さん」
アイーシャは全力で術を行使したばかりで疲労困憊している。このままでは術をまともに喰らってしまう。
――が、
ぼん、と少年の頭が炎に包まれた。
突如火球が飛んできたのだ。飛んできたのはアイーシャの後方――
「終わるのはお前だっつーの、クソガキ」
そこにはうつ伏せになりながらも杖を構えたアドニカの姿があった。
彼女の頭上には無数の火球が浮かんでいた。
アイーシャ達が攻防を繰り広げている間、必死に体を引きずり今さっき杖に手が届いたところだ。
「――喰らえ!!」
火球群が次々と少年に殺到する。少年は頭の炎を振り払って防御術を展開し、必死に炎を防ぐ。
攻防の主導権は先に仕掛けたアドニカが握っているようだった。少年は後手に回っている。
アドニカは隙を見つけるや、続けざまにひと際巨大な火球が落とさし、爆炎が巻き上げる。
爆炎はボロボロになったマントを焼き払い少年は丸腰になる。
そして爆炎が収まると、少年の背後にアイーシャの姿があった。
「くっ…」
少年は術を繰り出そうとするが、アイーシャの打ち抜きが早さで勝った。
剣戟一閃、雷のような衝撃が少年を襲う。
しかし刀をを当てた瞬間アイーシャは違和感を覚えた。少年の体を打った手応えが生身のそれではない。カンと高い音が響いた。
少年の体がぐったりとくずおれ、四肢があらぬ方向に折れ曲がった。肌の色が変わり、木目があらわになる。
「アドニカ、こいつは…!」
「…木偶人形って訳ね」
人だと思っていたそれは人形だったのだ。木製の顔に描かれた目が虚空を見つめている。
「人形を操って魔術戦闘をしていた?そんな事が…」
その時、アイーシャ達の周囲に声が響いた。
「なかなか楽しめたよ。ここまで手酷くやられるのは想定外だったけどね。次は僕自身が直接相対してみたいな。その時までにもっと力を付けてね。一方的な戦い方じゃつまらないから」
あざけるように声が響く。
「あ、自己紹介を忘れていたね。僕はジョシュア、ジョシュア・アーガイル。以後お見知り置きを。またね、お姉さんたち」
その言葉を最後に声は途切れた。
「ちっ、いけ好かないやつ」
アドニカは人形に火球をぶつけ、吐き捨てるように言った。
「人形を通してあれだけの魔術を操る、恐ろしい使い手ね」
「あのガキ絶対一発殴る…って、そんな事言ってる場合じゃ無いわ。アイーシャ、早く要石を…」
アドニカはそう言いかけ、はっとしてモレスを見やった。そばには今駆け付けたのか、ラナとメアの姿があった。
「ラナ、あなたは…」
「お気遣い、ありがとうございます。でも、私のために誰かが犠牲になるのは見たくないんです。私は一度死んだようなもの。もう、十分なんです」
モレスはうつむいて言葉を出せずにいる。
「皆さんのお話だともう時間が無いはずです、だから――」
「…分かったわ。メア、手伝って」
アイーシャが答える。
「アイーシャ…」
メアが不安げにアイーシャを見つめる。
「あたしは一人の魔導士としてなすべき事をする…それだけよ」
アイーシャは光の溢れる街へ向かい歩を進める。
そして、アイーシャはそれをした。
◆
ミロスの街の近くの丘の上、モレスと戦いを繰り広げた場所にアイーシャの姿があった。昇り来る朝日を眺めている。
「あら、奇遇ねアイーシャ。おはよう」
アイーシャの後ろから声が聞こえた。アドニカが姿を現した。
「ここまで歩いて来られたという事は回復したみたいね」
昨日は戦いが終わってからが一苦労だった。ろくに動けないアドニカやゲンプを宿まで担ぎ込まなければならなかったからだ。一行は結局ミロスの街に一晩泊まる事になった。全てが終わる頃には夕方に差し掛かっていたし、何よりも疲労困憊していて休まざるを得なかった。
「アドニカ、<塔>の魔導士とはどういう意味?」
しばしの沈黙ののち、アイーシャはアドニカが度々口にしていた言葉の意味を尋ねた。
「…アイーシャ、あなたも知っておいた方がいいわね」
アドニカはアイーシャの横に並び言葉を続ける。
「<黒の塔>を名乗る魔術結社があるの。魔導の禁忌に手を染めた連中よ。イースファリア各地に出没しては外法を広めて、今回のような厄介事を引き起こしている。あのジョシュアもその一人って訳。」
「なるほど、危険な連中なのね」
「そ、あいつらにはあたし達も散々手を焼いて…っと、何でもないわ。まぁ覚えておいて、あなたがこの先イースファリアを旅するなら先々に現れるかもしれない。今回みたいに見過ごせない事象に首を突っ込めば連中とやり合う事になるわ」
ジョシュアは戦いを楽しんでいる様であった。アイーシャが<黒の塔>に関われば戦いとなることは必至だろう。
「そう、事情は分かったわ。つまり今まで通りという事ね」
アイーシャは表情を変えず答えた。
「今まで通り?」
「身に降りかかる火の粉があれば払うまでよ」
◆
「おはよう、アイーシャ。早かったのね」
アイーシャが宿に戻って来るとメアが朝食を取ろうとしている所だった。
隣にはゲンプも座っている。昨日の戦いでは一番の重傷を負っていたが、本人の頑健さもあってかすっかり元通りのようであった。
「おお、おはようでござるアイーシャ殿。ささ、朝食と参ろう」
ゲンプが皿に肉を乗せているのを見るとさすがにアイーシャも腹がすいてきた。
「じゃあ、あたしにも朝食をお願い、ラナ」
「はい、分かりました」
そこにはてきぱきと配膳をするラナの姿があった。
「それにしてもよく気付いたわねー」
アドニカがパンにぱくつきながら言った。
「霊脈とラナを直接繋げる、まさにあの状況だからできた事よね」
アイーシャが要石を破壊する前に行った事、それはラナの命を繋ぐ事だった。街に流れ込む霊脈の流れと要石とラナの間を通っている道を繋げる。
「メアが手伝ってくれたおかげよ。濁流のような霊脈の流れの中から一本の道を手繰るのはあたし一人じゃ難しかった」
「私こそ…役に立てたのはアイーシャのおかげです」
気恥ずかしそうにメアが言った。
「とりあえず、一件落着って所ね」
「…恩に着る。いくら礼を尽くしても足りねぇぐらいだ」
宿を立つ際にモレスが頭を下げながら言った。
「過ぎた事よ。それよりも娘さんを大事になさいな」
あっけらかんとアドニカは言った。戦いあった仲ではあるがもはや終わった事と彼女は割り切っているようだった。
「ラナも達者で」
「そなたらにアウラの恵みあらんことを」
アイーシャとゲンプも別れの言葉を告げた。
「メア…ありがとう」
ラナが感謝の言葉を口にした。感極まったのか目には涙をたたえている。
「また会いましょう、ラナ」
メアはラナの肩を抱きながら言った。
「思わぬ寄り道だったけど人助けになって結果良し、かしらね」
ミロスの街並みを見ながらアドニカが言った。
「情けは人の為ならず。今日の行いが巡り巡って明日の幸運をもたらす事でござろう」
「そうですね、これもアウラ様のお導きだったんでしょう。ラナと出会えて本当に良かったです」
感慨深げにメアが言った。
「じゃあ行きましょう、オルバルトへ」
暖かな風が吹いている。青空の元、オルバルトへの道は真っ直ぐに続いていた。
いよいよオルバルトへ到着します。
アイーシャ達を待ち受ける運命やいかに!?




