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第3話 第5章 結界の街(2)

イースファリア王国の王都を目指し旅をするアイーシャ達は、街道の街ミロスに立ち寄る。

街の異変を察知したアイーシャ達は異変を解決する事に。


 「おいおい、すぐに出発するんじゃないのかよ?」

  しばしミロスに留まると告げると案の定ダグは不満をあらわにした。


 「事情が変わったのよ、用事が出来たの。大丈夫すぐに済ませるわ」

  アドニカはそうダグに告げた。


 「街の様子もなんだかおかしいしよ。…俺、また妙な事に巻き込まれちまったのか?」

  そう言いながらダグは肩をがっくりと落とした。



 「話し合いで解決…はできないの?」

  三人は街の中央広場にいた。昼間にも関わらず人影はまばらで活気に欠けている。

  メアは話し合いでの解決を提案したものの、


 「こんな結界張ってるような奴とまともに話し合いができるとは期待しない方がいいわ」

  メアに言葉を返すアイーシャ。


 「そも話し合おうにも街のどこにいるかも分からないしね。結界の中の魔力で術者の気配が隠蔽されて

 るから探すのも一苦労よ」

アイーシャに続けてアドニカが言葉を続けた。

 

 「結界を壊して回れば向こうから何かしら反応があるはず。そこから術者様を辿れるかもしれない」

アイーシャが空を見上げながら言った。


 「まずはこちらが動いて、向こうの出方をうかがうという事ですね」

納得した様子のメア。


 「手荒な事には…ならないといいけど」


 「まあそれは、相手次第」

アイーシャは刀の鯉口を切りながら言った。


 「いやいやアイーシャ完全にやる気よね!?もっと平和的に行きましょ?ね?」

アイーシャをなだめすかすメア。


 「二手に分かれましょ。アイーシャ、あなたはメアと一緒にいてちょうだい。あたしは街の西端から北

 回りで潰して回るる、あなたたちは東端から南回る形でいいかしら?」

アドニカが役割配分と周り方を提案した。


 「それでいいわ」

アイーシャは二つ返事で応えた。


 「…で、分かれる前に」

  アドニカはそう言うと自分の髪の毛を二本抜きアイーシャとメアに渡した。


 「持っておいて。この街の中ぐらいなら通じるはずよ」


 「『念話』ですね」

 メアが髪の毛を編み込みながら言った。


 術者の間にパスを通し離れた者同士の意思疎通を可能とする「念話」。専用の術具もあるが髪の毛など術者の体の一部でも代用は可能だ。


 「何が仕掛けられてるか分からないし、お互い何かあったらすぐに合流できるようにしときましょ」

単純な術だが離れた者同士の思念思考を通わせる事が出来る便利な術式だ。


 「じゃあ行きましょう、メア」

アイーシャとメアは街の東側に向かって歩き出した。



ミロスの街はイースファリアの典型的な街道沿いの街並みを形作っている。東西をアリアトス街道が貫

 き、街道を中心に宿が家屋が居並んでおり、その外側には畑が広がっている。

アイーシャとメアの二人は畑まで足を伸ばしたが、畑に踏み込んだ瞬間に結界の気配が消えた。

どうやら街の外郭に沿って結界が張られているようだった。


 「…結界を形成する基礎としては符や魔石がありますよね。自分を中心に『四つ角』に配置するのが基

 本ですけど」

 街の裏路地をアイーシャと並んで歩きながらメアが言った。

 

「そう、それに街の「境界」に合わせて結界を張ることで強度を高めている」

アイーシャが言葉を続ける。


 「もしメアが結界を張るとしたらどこに基礎を置く?」

  アイーシャは足を止めてメアに問いかけた。


 「わ、私ですか?えーと…」

 右手をあごに当て思案するメア。


 「出来るだけ人目に付かない所を選んで、四つ角の端となると…街の広さからして今いる辺りだと思

 う。でも隠蔽の術を掛けていて、そう簡単には見つからないようにしてるはず」


「そうね。結界の基礎は簡単には見つからないけど、基礎を置いたことで周囲のマナの分布の()()()が出来ているはず。それを感じ取れば探し当てられるわ」

アイーシャがそう言うとメアは目を閉じて、周囲の魔力の気配を感じ取ろうとしている。


やや時間を置いて、メアは目を開けて住居の間の細い道に歩いていく。

向かって左、陽の当たらない壁の一点に手をかざす。するとぱりんとガラスが砕けるように空間が砕けた。砕けた向こうには赤い紋様が露わになった。


 「当たりだわ」

そう言いながら、アイーシャはメアの魔術の才能に素直に感心していた。既にメアは非凡な才能を表し

 つつある。


 「これは、…血印ですか?」

二人の目の前には赤黒い紋様が現れた。


  その時二人の頭に声が届いた。

『こちらアドニカ。お二人さん、基礎は見つかった?あたしは早速見つけたわ』

「こっちも見つけたわ。今削るわ」

  アイーシャはそう言うと、手に持った石で壁をガリガリと削っていく。


血の紋様を半分ほど削っていくと、

 「バリッ」という音が鳴るのを感じた。血印の効果が失われたのだ。


「まずは一つですね」


 「今のところ邪魔は入っていないけど、今ので結界のほころびに気づかれたはず」

アイーシャはメアが結界の基礎を探している間周囲を警戒していたが、特に変わった様子はない。


 『こっちも一個潰したわ。相手が動き出す前になるたけ潰しておきたいところね』


 「次に行くわ」

  二人は再び路地裏を西に向かう。


  ◆


「さて、こっちもぼちぼち行きますか」

アドニカも次の基礎を探すべく歩き出した。


周囲のマナの流れに気を集中させる。

アドニカの見立てでは結界の張り方は基本に忠実なものだった。教科書通りと言ってもいい。

(はて、もう少しひねったものかと思ったけれど…)


こうした術式を組む場合周到に配置を練り結界の効果を最大にすべく用意する。

あえて分かり易くして解除する者を待ち構える罠でも仕組まれている?それとも…

(急ごしらえで配置を工夫する余裕がなかった?)


今ひとつ術者の意図を掴みかねる。


アドニカが思案しながら歩いていると、

「おっと、危ねえぞ」

危うく人にぶつかりそうになる。


「あら、ごめんなさい…って」

アドニカの前にはのは先程食堂にいた禿頭の男、モレスだった。


「なんだ嬢ちゃんまだいたのか。こんな所で何やってるんだ?」


「まあ、食後の散歩よ散歩」

咄嗟にそう答えたが、それを聞いた男は特に訝しむ様子も無いようだった。


「散歩でもなんでもいいけどよ、なるべく早くこの街から出て行く事だな。あんたもいつ病気がうつるか分からねえ」


「あら、随分心配してくれるのね」

見知った仲という訳でもなし、不思議な顔をするアドニカ。


「まあなんだ、嬢ちゃんたちを見てるとラナと重ねて見ちまうんだよ」

頰を掻きながらモレスはそう言った。


「ラナ?ああ、さっきの食堂の」


「あの子も色々大変でなぁ、母親を早くに亡くして親父と二人で切り盛りしてる。あの子自身も体が弱くて最近まで体を崩して寝込んでいたしなぁ…」

男は腕を組んで


(まずい、このままだと延々長話に付き合わされる感じだわ)


「あーあたしはは大丈夫!大丈夫よ!この通りピンピンしてるし。散歩が終わったらすぐに出発するわ」

声を張り上げ話を畳もうとするアドニカ。長話に付き合っている場合ではない。


「ああ、それがいいさ。まぁ、達者でな」

そう言うとモレスはアドニカがやってきた方向に向かって去って行った。

ほっとため息をつくアドニカ。



「ほいっとこれで二つ目」

アドニカがヤスリで血印をガリガリと削りながら呟いた。


アドニカが次の基礎を探すべく周囲に注意を払おうとしたその時、

『アドニカ、聞こえる?気をつけて、相手が()()()()()()

アイーシャの声が届いた。


「やっとお出でなすった訳ね…」

程なくこちらにも敵の手が迫るだろう。アドニカは腰から杖を抜き出し臨戦態勢に入った。


  ◆


アイーシャとメアは「敵」に挟まれていた。

「グルルルル…!」


 犬の集団である。一本道の路地にアイーシャ達を挟んで8頭いる。

 いずれも身が締まり大柄である、猟犬のようだ。猟犬達は敵意を剥き出しにしてこちらを威嚇している。


  三つ目の基礎を探し出し紋様をまさに削ろうとした時のことだった。

 猟犬の数とそのタイミング、偶然にしては出来過ぎている。

「まさに番犬って訳ね」


 犬は人に身近な動物ではあるがその力は侮れない。子犬ならまだしも大型の成犬ともなれば生身の人間が簡単に倒せるものではない。

 一瞬でも隙を見せれば今にも飛びかかって来るだろう。

「メア、あたしの近くに!身を伏せて!」


 メアがアイーシャに身を寄せ姿勢を低くする。

 それを確認したアイーシャは、

「…疾れ!」

 アイーシャの周囲に突風が巻き起こった。

 風は狭い路地の中で圧縮され、猟犬の群れに襲いかかる。

 

 猟犬の群れがたちどころに吹き飛ばされていく。

「やったの?」

 メアが立ち上がりながらつぶやく。

 

 だが数頭がむくりと起き上がりアイーシャ達に顔を向ける。

 後ろにいて直撃を免れたのだろう。


 「くっ、仕損じた!」

 間髪置かず猟犬が迫ってくる。

 

 アイーシャは左手を向け風の刃を繰り出す。

 しかし猟犬の俊敏さが勝った。風の刃をかいくぐりなおもアイーシャ達に殺到する。

 

 「このっ!」

 真正面に飛びかかってきた犬に対しとっさに膝蹴りをみまう。

 猟犬は蹴りを食らい後ろに飛びすさる。

 

 なおも猟犬がこちらに走ってくる。

 剥き出しにした犬歯をアイーシャに向ける。


 猟犬はアイーシャに牙を剥くかに見えたが、アイーシャの脇を素通りした。

 (っ…これは…!)

 アイーシャは即座に猟犬達の意図に気づいた。


 メアに狙いを絞っている。

 「風よ!」

 瞬時に二人の周囲に風が巻き上がる。

 すんでの所で猟犬の牙を回避したメア。


 アイーシャは片方の猟犬の群れに向けて風を放ち動きと止める。

 「ひとまず囲いを抜けるわ、反撃はその後!」

 二人は風の結界をまといながら路地を走って行く。

 

  ◆


 「このっ!このっ!」

 アドニカが杖に火を灯し空に向けて振り回している。

 彼女の周りにはカラスが群がっていた。


 猟犬に比べれば獰猛さは低いが、

 「あーうざったい!」

 数十羽が群がっているのだ、彼女の視界は真っ黒である。


 もちろんアドニカが本気を出せばどうという事はない。爆炎で一気に散らすことが出来るだろう。

 しかし、

 (せめて街の外だったら…!)

 彼女のいる路地の周囲には家が立ち並んでいる。むやみに炎の術を使えば大火事になるだろう。


 アドニカは小さな爆炎を起こそうとした、術に集中して小さな炎を…

 「ガァーッ、ガァーッ!」

 カラスのくちばしに突かれ集中が途切れる。


 「小さな爆発」となると繊細な魔力の制御が求められる。

 無論一人前の魔導士ともなればさして難はない事であるが…

 (修行をサボったツケね…)

 爆破、炎上などの乱暴な、もとい大規模な術を得意とする彼女は繊細な術は大の苦手なのだった。



 『アイーシャ、そっちはどうなってる?こっちはカラスがうざいのなんの…、あ痛っ!』

  アイーシャの頭にアドニカの声が響く。余裕はあまり無さそうだ。

 「犬の群れに追われてるわ。…このっ!」

  猟犬の数はさらに増え、十数頭はいる模様だ。迫る犬の一頭に対し風を打ち出す。直撃を受け跳ね飛

 ばされる。

 

 『多勢に無勢ね…』

 さすがにアドニカも気が削がれている様子だ。

 

 跳ね飛ばされた猟犬の陰からもう一頭がメアの喉元めがけて襲い掛かる。

 アイーシャが咄嗟に右腕を前に出しメアの喉を庇う。アイーシャの腕に牙がずぶりと突き立てられる。

 「ぐっ…!」

 左手から犬の腹に向け風を叩きこむ。それと同時に右腕をねじり牙を振り払う。


 「アイーシャ!」

 一瞬の出来事に青ざめるメア。

 

 「大丈夫、問題ないわ」 

 右袖をから血で染めながらアイーシャが応える。


 「…打つ手はある」

 メアの手を引いて走りながらアイーシャが言う。

 

 「使い魔を一々相手にしていても埒が開かない。なら直接術者を叩けばいい」


 『頭を叩くのはいいけど、どうやって探すの?』

 叩こうにも居場所が分からない。使い魔を使役している魔導士は未だ姿を隠したままだ。


 「使い魔と術者の(パス)を辿れば術者に辿りつく事が出来るはず」


 『成程。その作戦はいいけど、誰がやるの?かなり集中しないといけないわよ?片手間にできる事じゃないでしょ』

 使い魔はなおも襲い掛かってくる。使い魔の攻撃を避けながら集中して術を行使するのは至難の業だ。


 アイーシャとメアは中央通りに飛び出した。それでも追いすがってくる猟犬の群れ。通りを行きかう馬車の馬が驚きいななき馬車がぐらりと揺らぐ。

 

 「私がやるわ、アイーシャ」

 メアが意を決して言った。

 

 メアの目を見やるアイーシャ。その視線に応えるようにメアが小さく頷く。

 二人は猟犬の群れに囲まれた。

 「…分かったわ。お願い、メア」

 メアの決意を認めたアイーシャ。

  

 「はい、背中を預けます!アイーシャ」

  

 「風よ、壁となれ!」

 アイーシャとメアの周りを風が取り囲む。


 猟犬たちは突破を試みるも風の壁に阻まれる。

 だが―


 「…くっ…」

 肩で息をするアイーシャ。結界でマナの使用が制限され、内気(オド)-彼女の体内の魔力のみで術を行使せざるを得ない。そのため疲労の色が濃い。

 風の壁は長くは保たないだろう。


(速く…でも焦らず…)

 深呼吸するメア。猟犬の群れに目を向け意識を集中させる。


 じっと猟犬を見据える。


(まだ…)


 群れを組んで突破を図る猟犬たち。あわや風の壁が突破されそうになる。


「させるか!」

 

 ひときわ風を強めるアイーシャ。しかしどれ程保つか分からない。


(…もう少し…)


 身を伏せじりじりと風の中を進む猟犬達。風の壁の半ばまで到達する。


「…!見えた!」

 猟犬達の頭から登る赤い線が見えた。猟犬と術者を繋ぐ(パス)だ。

 (パス)は猟犬達の頭上でひとまとまりになり、一直線に東へ伸びている。


「東よ、アイーシャ!」

 メアが声を上げる。


「分かった!」

『おうさ!』

アイーシャとアドニカが答える。

 アイーシャは風の壁を解くと東の一群に向けて風の余波を浴びせかける。

 風の勢いで包囲が解けた隙を突き東へ向け走り出すアイーシャとメア。

 

 (パス)は大通り沿いに真っ直ぐに伸びている。

 猟犬の群れが背後から迫っている。今にも追いつかれてしまう。


 次の瞬間、猟犬達の眼前で火球が爆ぜた。

 左手に杖を構えたアドニカがカラスの大群を引きずるように姿を現し、アイーシャ達に合流する。よほどついばまれたのか髪がぼさぼさである。


 「もう少しで術者の元に…!」

 やがて(パス)がある建物に繋がっているのが見えた。


 「…あの建物です!…え?」

 思わず声を失うメア

 

 「ここは…」

 アイーシャもその建物を驚きの目で見た。


 そこは、先程までアイーシャ達が食事をしていた宿であった。

 メアの目には宿と軒が連なった食堂の建屋に(パス)がピンと伸びている様が見えた。


 「事情はどうあれ開けるしかない!」

 「でしょ!」

二人は食堂の扉を開け放ち、中に転がり込んで杖を構える。


「どうした、まだ夕飯には早い時間だぜ?」


後から続いたメアははっきりと見た。

椅子に座り悠然と構えるモレスに(パス)が連なっている様を。


 

 

モレスの狙いは一体!?

続く。

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