第2話 終章
終章
「アイーシャ、ごめんなさい、迷惑をかけてしまって」
「過ぎた事は仕方ないわ、でも注意を引いてくれて助かったわ」
「一瞬でも隙を作ればアイーシャがなんとかしてくれるんじゃないかって思って」
「信頼してくれてありがとう。今回はうまく行ったわね」
「それにしても、こんな広い浴場があるなんて驚きだわ」
アイーシャは浴場を見回して言った。アイーシャ達はメアがかねてから見てのお楽しみと言っていた施設である公衆浴場に来ていたのだ。
ここでは老いも若いも集まって日頃の汗を流すというのだ。
「わざわざ水道の水をこんな風に使うなんてね。イースファリア人はよっぽど風呂好きなのね」
「気に入ってくれましたか?」
「ああ、悪くない」
アイーシャは湯船に肩まで浸かり、まんざらでもない様子だ。
「それにしてもアイーシャ、いい体してますね…」
メアは羨ましげに言った。アイーシャは無駄な肉の付いていないすらっとした体型だが、鳩尾から腹部にかけて腹筋の筋が入り、鍛え抜かれた体である事を主張している。
それ以外にも、出るところはそれなりに出ている。
「まあ、職業柄動きやすい体を心がけているから」
「いや、そーいうことじゃなくて…」
対するメアは、体が小さいこともあり、出るも引っ込むもない体型をしていた。
「そういえば、アイーシャは何歳なんですか?」
今まで何となく気になっていた疑問を尋ねてみた。
「あたしは15歳よ。イースファリアでは15で大人とみなしてくれるのよね?」
「え、私と1歳しか違わないなんて」
メアは信じられないと言った顔でアイーシャの体と自分のほっそりした肢体を見比べ、がっくりうなだれた。
「メア、あなた14歳だったの?てっきりもっと…」
「そ、それ以上言わないで〜〜!」
メアは気恥ずかしさからか湯船に頭まで潜り込み、出てくるまでしばらく時間がかかってしまった。
「それで、アイーシャ、あの僧侶さんどうします?」
メアは先程のゲンプの申し出についての話題を切り出した。
しばらく考えさせてくれと言う事で答えは保留しているのだ。
「あたしとしては大所帯で旅するのは好きじゃないんだが…」
アイーシャは一貫して渋っている様子だ。
「アイーシャのこと、まるで崇拝しているみたい。アイーシャの行いの中に何か、アウラの教えに通じるものを見出したのかも」
「あたしはアウラ教義はよく知らないんだけどな…」
「きっと断っても後から追いかけてきそう」
その様子がありありと浮かび苦い顔をするアイーシャ。
「仕方ない、これもアウラのお導きと言うものかしら」
アイーシャはそう言うと湯船から上がり、浴室内に飾られているアウラ像を見つめた。
◆
「改めましてアウラ僧侶ゲンプ、アイーシャ殿に付き従いまする」
翌日、旅立ちの朝。同行が決まって、僧侶の顔はからりと晴れている。
「まあよろしく頼む」
素っ気なく返事するアイーシャ
「よろしくお願いします、ゲンプさん」
メアもゲンプに挨拶をする。
メアの存在を認めたゲンプは彼女の顔をしげしげと眺め、
「…メア殿。よくよく見ればそなたのお顔、髪の色正に御子アウラに瓜二つ!」
「え、またそれですか?」
「メア殿、ここはひとつ祈りを捧げさせていただく」
いきなり本格的な礼拝を始めるゲンプ。
「ア、アイーシャ…どうしましょう」
「…やれやれ、前途多難な旅立ちね」
こうして戦士と魔導士と僧侶はヒルトの街を後にした。
彼らを待ち受ける運命も知らずに。




