2
「あああああむりーーーーーーもう無理いやだちょっと聞いて下さいよお猫さんーーー」
もふもふ、ぐりぐりわっしゃわしゃ。目の前に横たわる魅惑の肢体を本能の赴くままに撫でまわす。むしろ捏ね回す。
時刻は夜中、場所は道端。他人様に見られたら変な目で見られる可能性はあろうが構うものか私の癒しタイムは何者にも奪わせぬ。いや冗談だけど。
「また失敗した……。今度は出来上がった書類の上にコーヒー……どうしてこうもそそっかしいを通り越して愚かなのか私は」
溜息をつきながらもふにふにと白い毛の腹を撫でまわす手は止めない。柔らかい。癒される。
「気を付けてるつもりなんだよ? 気を付けてるつもりなんだけど所詮はつもりって事であって根本的にもう何か色々足りていないというか粗忽者というか駄目なのでは」
なぁん、と相槌を打つかのように鳴き声。
「確かに凡ミスというかボケミスは多いけど再三再四確認しているのにどうして別の場所でミスするの……つらい……どうして……ところでお猫さん君はそろそろ野生を思い出してはどうかねいやでも撫でさせてくれないのは困るからそのままで」
人懐っこい茶虎のノラは何のことですかねと言わんばかりに私の手の下でややでっぷりとした身体をくねらせて尻尾を巻き付けて来る。本当に野生はどうした。
日々申し訳なさでお腹が痛い。そんな帰り道で時折出会うこの猫はノラだろうにとても人懐っこい。体型的に誰か餌付けしているのだろうか。丁度タイミングが良いのか、出会う頻度は割と高い。
そして誰かに言いたくても結局自分の至らなさが原因であって人に漏らすのも情けない胸の内を零す間こうして嫌がりもせず撫でまわされていてくれるので、見かけるとついついしゃがみ込んで構ってしまうのだ。出会えないと地味にしょんぼりしながら真っ直ぐ帰宅する事になる。
「はああ……明日も仕事だ……。あ、今日も聞いてくれてありがとうねー」
途中のコンビニで買って来たカニカマを取り出す。ごろごろと転がっていた猫が即座に起き上がる。
この子、これ目当てでここに居座っているのだとしたら実は出来る子なのでは?
小さくちぎってやりながら、はぐはぐと食べる様子を見下ろす。最後の一欠けらを口にしたのを見届けて家に帰る為立ち上がった。