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ドジっ子。こういわれると愛される可愛い女の子を思い浮かべるだろうか。
ちょっと抜けていて、しょっちゅうやらかしてしまっていて、でも回りの人から「またかよ~」「気を付けなよ?」「仕方ないなあ」なんて声を掛けてもらったりして。「えへへ、ごめんね…」なんてちょっと申し訳なさそうで恥ずかしそうにはにかんでみたりして。なんだかんだ、周りに許容されてしまう子。
わたしだ。
いや、流石にいくらなんでもそこまであざとくは無かった。しかしドジっ子という称号は間違いなく私のものだった。もう、10年も前の学生時代の頃の事だけど。
20も後半、そろそろ~子とつく呼称は世間の目も自分の心も痛々しい。
そして弁明させて欲しい。いや、弁明など何もない。ただ一言、言わせてほしい。
「申し訳ありませんでした!!!!!」
直角90度に最敬礼。頭を下げた対面には困ったように上着を脱いで腕に掛けている取引相手。いっそ私を殺して欲しい。もういやだ。今度こそ死んだ。殺せ。
「いや、気にしなくていいから顔を上げてくれないか。幸い、染みになるような物でも無かったし」
「でもっ」
「いいから。僕も時間が限られているし、早い所本題に入った方が助かる」
「……誠に、申し訳ございませんでした……」
心が痛すぎて日本海に沈みたい。しかし液体では無くて本当に良かったと、思う。そもそもなんでここはスティックじゃなくてシュガーポットなのか。そして何故私はよりによってお盆を勢いよくぶつけてしまったのか。
とんだ粗相をしでかしてしまったのに帰らず話を進めてくれるだけでもありがた過ぎる。
そっと残りが入ったシュガーポットをひっくり返さないように自分から離れ、かつ机の端になり過ぎない位置へと移動する。ここなら資料もぶつけるまい。
「ええと、それでは早速なのですが……」
いたたまれない気持ちのまま話し始めたその商談は、まとまりはしたものの予定していたよりもかなり譲歩したものとなってしまったのは言うまでもない。
正直に申し上げて死にたい。