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第二話 非日常と日常には女の子を

霊義団の団長を待つことにした蒼空たちだったが、すでに待ち始めて一時間が経つ。


「…………おい白凪。一時間を待つのは少々お待ちくださいの部類に入るのか?」


「ハハ……。いえまあ時と場合によっては入るんじゃないですかね」


「時と場合だぁ?」

 蒼空の体がプルプルと震える。それを見て白凪は準備するように耳を塞ぐ。そして蒼空は爆発する。


「もう夜中だぞ! 真夜中! 深夜三時十八分! 俺は中学生なの!? なのになんでこんな時間まで外であのアホを待ってなきゃいけねぇんだよ! 俺は不良中学生か!」


「そう言われましても……」


「俺は明日っていうか後五時間後には学校に行かなきゃなんねえんだぞ! もう寝る時間すらねえよ!」


 白凪に怒鳴る蒼空に周丸は落ち着かせるように声をかける。


「おいうるせえぞ蒼空! 落ち着かんかやかましい。今やっとお兄ちゃんと妹が禁断の行為を初めて行うとこなんじゃぞ。空気を読まんか!」


「てめぇは空気以前になんてもん読んでんだ!」


「ワシか? ワシは鈍感兄貴とツンデレ妹、ヤンデレ幼なじみ、クーデレ眼鏡委員長の三人が繰り広げる甘くも切ない恋愛エッチラブコメディー『お兄ちゃんにお尻を叩かせたい!』を読んでるだけじゃけど?」


「最後のタイトルで台無しだな! 変態!」


 言いたいだけ言うと蒼空は拗ねたように座り込む。

 そんな蒼空を見て周丸は蒼空の肩に手を置き、諭すように言う。


「元気出さんか」


「……出さんかって言われても出す気力もねーし」


「ないなら作りゃあいい。霊能者は常に死と隣り合わせじゃ。それなのにお前はくだらんことで拗ねてしょげるなんてもったいねえじゃろ。そんなことよりまずは自分が生きている内に何を成し遂げるべきなのかを考えろ。そっちの方が人生愉快じゃぞ」


 蒼空は周丸の言葉を聞いて自分の行いを反省する。


「まあ…………そうだよな。ごめん。んなくだらねぇことでしょげてられねえよな。でもさ生きている内に成し遂げるべきって例えばどんなこと?」

 蒼空の問いに周丸は悟りを開いたように答える。

「そうじゃな。とりあえず『お兄ちゃんにお尻を叩かせたい!』二十四巻買ってこい!」

「…………変態タイトルのくせに意外と長期連載なんだなそれ」

 もう蒼空には突っ込む気力はなかった。


 そしてさらに一時間が経過する。


 いい加減アイツ来ないんじゃね? みたいな雰囲気が充満してる中、突然何もない空間から光で出来た『扉』が次元を裂けるように現れる。

 その扉から可愛らしいリボンが付いたキャミソールとミニスカートを着た赤毛で小学校中学年くらいの女の子が登場する。


「やっほー。ちょっと遅れちゃったごめん」

 わざとらしくてへっと舌を出し、頭を自分でコツンと叩くぶりっこポーズで少女は謝る。


「やっと来ましたか。団長」

 白凪は呆れたように言う。どうやらこの少女こそが白凪の上司であり、霊義団の団長である。


 また先程の『扉』は霊界から人間界に行くために必要な扉である。

これによって幽霊は人間界に行くことが出来る。また逆に霊能者などの人間もこの扉を使い、人間界から霊界に行けることが出来る。


 しかしこの扉を造るには熟練した技術が必要であり、『扉』を作成出来るものは幽霊や霊能者の中でもあまり居ないので、『扉』を造ることが出来る者は貴重な存在だ。


「おい全然少しじゃねえからな。テメーは一体人をなんだと思ってやがる」


「あー蒼空じゃんー。相変わらずチビだね」


「うぐっ!」

 少女は蒼空の抗議も気にすることなく、あっさりと蒼空が気にしていることを言う。


「ち、チビ言うな! テメーだって見た目は完全に小学生じゃねぇか。何百年も生きてるババア……グホッ!」

 ドバァ! という打撃音が聞こえる。蒼空がババアと言った瞬間少女は蒼空の腹にするどい蹴りを炸裂させていた。


「蒼空女の子にババアなんて言っちゃダメだよ。お仕置きしちゃうよ?」


「もう……してんじゃん……」

 蒼空は地面に膝をつきながら指摘する。


 先程からかなり横暴に振舞っている少女の名前はかみ。完全に偽名だが、霊界や霊能者の間ではこの名で通っている。というより無理矢理神と呼ばせている。


「そんな事よりお前程の奴が一体何の用じゃ? 新しい仕事か」

 周丸は神に用件を聞くが、神は首を横に振る。


「ううん。違う違う。今回アンタたちには仕事の依頼じゃなくてアタシ個人のお願いよ」


「お願い? お前個人のお願いを俺に? どうせろくでもないことだろ。ちっ」

 蒼空はすでに神の言うことをろくでもないことと決め付けて舌打ちしている。


「あれっ? もしかして蒼空のアタシへの信頼度ってゼロ?」


「蒼空だけじゃなくワシもお前への信頼度はゼロじゃからな」


「あっ僕は団長の信頼度はゼロを超えて余裕でマイナスですから」

 三人は口を揃えて言う。どうやら神以外の全員が深夜に長い時間待たされたことを根にもっているらしい。しかし神は一瞬オーバーにガーンとした顔を後に笑顔見せて言う。

「まあ結局はアタシの言うことさえ聞いてくれればそれでいいんだけどさ」


「何そのガキ大将的発言!?」 

 とにかく横暴な女の子であった。



「で、お願いってなんだよ?」

 蒼空は神の暴虐ぶりにうんざりしながらも早く家に帰るためにとりあえず用件を聞く。


「ああ、大したことじゃないけど今度蒼空にまた一人幽霊を取り憑かせることにしたからよかったね仲間ゲットじゃん」

 途中からすごい早口で神はお願いを言い終え、そのまま『扉』をまた造り、白凪と一緒に手を振りながら帰ろうと――

「待て待て待てぃ! 何しれっと帰ろうとしてんだよ。また幽霊を取り憑かせるってなんだよ! 決定って一体どういうことだ。説明しろ!」


「んもう! これだからお子ちゃまは。しつこい」


「誰がお子ちゃまだ。ぶっ飛ばすぞ!」


「はいはい。口だけは威勢がいいんだから。まあ今度その子連れて来るからその時に説明する。楽しみにしてて。バイバイ」

 そう言って神と白凪は『扉』を使い、霊界に帰ってしまった。まさに早業である


「マジか……。マジで帰ったぞアイツら。なあ、周丸また俺幽霊に取り憑かれるのか!?」

 蒼空は唖然とした後に周丸に不安そうな顔を見せる。


「いやワシに聞かれても知らんよ。んなことよりももっと大事なことがあるじゃろうが」


「もっと大事なこと? なんだよ?」

 周丸は真面目な顔で蒼空の肩に手を回し、耳元ではっきりとした声で言う。

「かわいい女の子だったらいいね!」


「もう黙れよお前!」

 こうして日は昇って行き、蒼空の睡眠時間は消えていくのだった。




 数時間が経ち、蒼空は現在学校の昼休みの時間にグダッーと机にうつ伏せて、周丸や神の文句を思い浮かべていた。


 あれから蒼空は完全にへそを曲げている。

 悪霊に追いかけられて真夜中に二時間も待たされるわ、おばさん少女に蹴られて訳の分からん話を聞かされるわで本当に散々な目にあった。これが自分の日常だと思うと泣けてくる。

 大体霊能者ってこと自体が納得出来ない。どこの少年漫画だと突っ込みたい。というかもう地球になんでやねんと突っ込みたい。


「はぁー」

 蒼空は考える。もし自分が霊能者になっていなければ今ごろ部活に励んだり、もしかしたら彼女が出来たりしていたかもしれない。


 そんな夢物語を思い描いているといきなり脳天チョップが炸裂する。

「イタッ! なにすんだいきなり!」

 チョップされた方向を睨み付けるとそこに居たのは蒼空もよく見知った顔だった。


「なんだ月歩つきほか」


「なんだとは何よ。人がせっかく昼休みに一人で寂しく俯いているアンタに話しかけてあげたのに」


「人を友達が居ないみたいに言うな! それに別に寂しそうになんかしてねえ。ただ昨日からあんまり寝てないから眠かっただけだ」


「昨日は霊能者の仕事だったの?」

 月歩と呼ばれる少女は当たり前のように霊能者という単語を口に出すが、蒼空は気にしない。


「半ば強引的にだけどな」


「怪我はしてない?」


「大丈夫。結構余裕だった」


「そう良かった。まあどうせ周丸さんに任せて、蒼空は逃げてただけだと思うけど」


「う、うるさいな」


 先程から蒼空と話している少女の名は、片山月歩かたやまつきほ


 肩を通り過ぎる程の長さの髪に、活発そうで気の強そうな少女で、顔立ちは可愛いというよりは綺麗の部類に入り、蒼空から見てもとても魅力的な少女だ。


 そんな片山月歩に現在、蒼空は絶賛片思い中である。

 しかし蒼空が片思いの月歩にそっけないのは小学生が好きな子に意地悪するような照れ隠しなのだ。澄ました表情をしているが、蒼空の心の中ではもう踊り狂っている状態である。


「でもなんか眠たいというよりはなんだか友達の保証人になって借金が九百万程出来て、会社にも奥さんにも見放された顔してるけど?」


「無駄にリアルティな設定で人の顔を例えるなよ。つーかもうそれどん底じゃねえか」


「いやいつもどん底って顔してるよね蒼空って」


「……月歩にとって俺はそう見えんの?」


「まあそうね」

 月歩は笑顔で断言した。


「……同級生にどん底に居ると思われる中学生ってなんなんだろうな」


「……負け犬?」


「負け犬言うな!」


 この月歩という少女は蒼空同様幽霊が見えたり触れられるのである。

 この事を自覚したのは彼女が小学六年の冬だったらしく、その当時は大変悩んでいたらしい。しかし蒼空に出会い、蒼空が月歩と同じく幽霊が見えることを知ってからは、月歩は幽霊が見えることに悩まなくなった。むしろ幽霊である周丸や神とも仲良くなったくらいだ。


そんな月歩は蒼空にとって自分が霊能者だということを知っている数少ない人間で、霊能者としての愚痴を聞いてくれる存在なのである。


 今日も真夜中に起きたことを話すと月歩は面白くなさそうな顔で、

「…………蒼空に取り憑く幽霊って女の子なの?」


「お前周丸と同じこと聞いてんな。そんなこと知らねえよ。……あっでも神が取り憑く幽霊のことをその子とか言ってたからもしかしたら女かもしれないな」


「そう。じゃあ可愛い女の子だったら蒼空は嬉しいの?」


「そりゃあそうだろ」

 当たり前のように蒼空は頷く。誰だってむさくるしいハゲたじいさんに取り憑かれるよりは可愛い女の子の方がいいに決まっている。


 それを聞いた月歩は、

「……へえー」

 と優しい声色で優しい表情なのに、なぜか蔑んだ感情を蒼空は感じるのだった。


「なんだよ? なんか怒ってるお前?」」

 

 蒼空が聞くと、月歩は穏やかな顔で、

「別にー。ただ蒼空って周りが変態が多いし、最近ちょっと蒼空も周丸さんに似て来たから心配だなと思って」


「似てねえよ! 失礼なこと言うな。俺はそんな軟派じゃねえ」


「はいはいどうだかどうだか」

 捨て台詞のように吐き捨てると月歩はいかにも機嫌が悪そうにどこかに行ってしまう。


「なんでアイツあんなに怒ってるんだ」

 蒼空は考える。そして昔周丸に教えられたことを思い出して、一つの結論を出す。

「これが生理って奴なのか……。すげえな生理」

 その発言自体が酷くセクハラ的だと蒼空が気付くのはまだまだ先のことであった。蒼空は朴念仁であるのだった。


 そんな無自覚のセクハラ男蒼空の前に一人の男子生徒が周丸のようにニヤニヤと笑いながら近づき、声をかけてくる。

「おい沢崎。お前また月歩ちゃんと夫婦喧嘩でもしたのかよ。昼間から羨ましいことやってんな」

 その男子生徒は周丸の変態的な笑みに似た割にはなかなか整った顔をしていた。


「早坂、俺と月歩はそんなんじゃねえって何回も言ってんだろ」

 早坂と呼ばれる男子生徒は蒼空とは小学校からの付き合いであり、フルネームで早坂海人はやさかかいとという。


 海人が蒼空と月歩をからかって来ても、蒼空はクールに否定しているが、実際心の中ではもっと言ってくれと騒いでいる状態である。というか顔が緩んでいる。


「いや沢崎お前ニヤけてるからね。完全にニヤけてるからね」

 海人はそう突っ込むと言葉を続ける。


「でも確かに月歩ちゃんは可愛い。つーか綺麗だ。しかもおっぱいも中学生にしてはデケーし、あとあの気の強そうな目もいいよね。『アンタこんなんで喜んでんの。変態!』みたいなことを言われて、蔑まされながら攻められたい。あっ! もちろん逆に攻めるのもそれはそれで燃えてくるな。正直週一回のペースで俺は月歩ちゃんをおか……」


「はいストップーーー!」

 蒼空は海人を半分程の力で殴り、とりあえず黙らせる。


「沢崎お前いきなり何すんだよ! 俺を殴っていいのはばあちゃんと女王様気質の女の子だけだぞ!」


「もういいからお前喋んな! 何とんでもないことを教室の中で大声で宣言しようとしてんの!?」

 この早坂海人という少年、顔こそなかなかカッコイイのだが、変態である。変態というかもうゲスである。


 変態度なら周丸を軽く凌駕してしまっているんじゃないかと思える程の性欲の持ち主だ。海人は変態であるが故に、学校の女子たちに中年部長も真っ青のセクハラをする。


 そのせいで学校中の女子からは『歩く生殖器』という二つ名で呼ばれ、敵対視されている。ついでに海人といつも一緒に居る蒼空も『歩く生殖器二号』と呼ばれ変態扱いされてしまっているが、蒼空はまだその事実を知らない。


「……沢崎、お前は一つ間違っている」


「なんだよ間違いって? お前を友達だと思ってることか? そのことなら結構前から考えてるから安心しろ」

 蒼空がそう言うと、海人は机を叩き、大きな声で否定する。


「違う。そんな小さいことじゃない!」


「じゃあなんだよ?」


「お前は俺たちの年頃の男なら誰でも行っている魅惑の行為をとんでもないことって言ったな。バカ! むしろ男なら誰でもやる行為だろ! だって気持ちいいから!」


「おーい早坂くん。今クラスの女子全員が殺すような目つきで俺たちを睨んでるんだけど。小さな声で死ねとかキモッとか言ってんのが聞こえるんだけどっ! すごい傷つくんだけど、テメェはどう責任取ってくれんだ!」


「これはまさか! ついに俺にセクハラしたいという痴女が現れて来てくれたのか! ありがとうエロの神様!」


「出てくるかぁぁぁぁ!」

 蒼空は一生懸命突っ込むが、それでも海人は延々とエロトークを話し続ける。少し変な友人が居たりもするが、沢崎蒼空はこの普通の学校生活を楽しんでいた。


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