ゾンビを倒す簡単なデスゲーム
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通常ではまずする事がない格好で逃げていた。
Tシャツの上からフード付きジャンパーを羽織り、ジーパンにスニーカーそして、防弾チョッキとヒザ当てを付けた格好。
さながら武装した市民だ。
1メートル程ある段差から飛び降りる。
「いっ!」
たい、と続かない。
息を吸う間もなく振り返る回転を利用して追撃者の頭を斧でかち割る。
「……」
追撃者が崩れ落ちる。
一度大きく痙攣をした後動かなくなった。
死んだらしい。
「ウグッはぁはぁはぁ」
飲み込めなかったヨダレのせいで息がうまく吸えない。
肺が痛い。
苦しい。
そして手に残る人の頭をかち割った感触。
重くなった斧を退き取るときの圧迫感。
慣れないな。
まだ肺が痛い。
「いっちゃん」
「みつっ(はぁ)る」
「相も変わらず体力無いね
でも、なんとか倒せたじゃん」
そう、倒した。
今日もノルマを達成する事が出来た。
「おめでとう」
「ゲホッありがとう
ミツルは開始5分でできてたよね。」
「素直に喜びなよ」
「ゾンビがいなくなる日って来るのかな?」
「来るよ」
お決まりのやり取り。
生きてる事を実感するやり取り。
何故こんなことになっているか。
何も最初からこんな殺したり殺されたりする荒廃とした世界ではない。
始まりは1ヶ月程前だ。
いわゆるゾンビがでたらしい。
映画とかで観る噛んで感染するアレ。
人型で、っていうか人の死体が襲ってくるアレ。
ニュースでやってた話によると、
ある日降ってきた隕石がゾンビウイルスを運んできてしまったらしい。
もちろん引きこもった。
外に出ようとは思わなかった。
だって、怖いもん。
助けを求めるためにシーツで作った旗を挙げて、後は引きこもり。
電気なし。
水道なし。
ガスもなし。
まぁ水は天然水の貯蓄があったし、食料は災害用のやつ。ガスは卓上コンロでなんとかなった。
でも、引きこもりにも限界が来る。
主に食料面でだ。
んで、警戒がしやすい明るい昼に外に出た。
幸いゾンビも人も見なかった。
誰もいないコンビニから(勝手に)食べ物を調達した後のことだ。
コンビニの外に、
「…?」
女の子がいた。
まだちいさく三輪車に乗って道路の真ん中をゆくっりヨチヨチ進んでいく。
危険だ。
親は何をしているんだ?
咄嗟にそう思って、
「どうしたんだい?」
と、声を掛けてしまった。
キイ、キイ、
こちらに三輪車の向きを変えた女の子の目は、
「!?」
白濁していた。
よく見れば髪も血のようなもので固まっていて、肌は土色をしていた。
つまり、
ゾンビ…?
初めて見たナマのゾンビに思わず足が竦む。
小さい顔に似合わず大きな口を開けた女の子の顔がズームアップして、
意識が途切れた。
目が覚めると、知らない施設にいた。
体育館程の広さがあり、1面だけ壁の上の方に窓がある。
出掛けたときのままのジーパンにスニーカーでTシャツにフードジャンパーといった格好で床に倒れていた。
真っ白な広間には、他にも10数人は人がいる。
全員、自然と窓を見上げていた。
「ハローハローマイクテスト
ちゃんと入ってる?ボクの名前はこの際どーでもいいんだ。本題に入るね。」
全員が起きたタイミングで誰か、人影がガラス越しに話しかけてきた。
ひどく軽い声だった。
SFに出てくるようなスーツを着た少年がマイクを持って立っている。
「単刀直入に言うと、君たちはゾンビに噛まれました。歯型があるでしょ。でも悲観する事はありません。ボクが治してあげました。」
確かに、首には噛み跡が残っている。
皆んなも色々なところに噛み跡が残っている。
ゾンビにならなかった事にホッとした。
でも、治るんだったらこの世からゾンビはいなくなる筈だ。
そして、天才学者だというにも有り得ないくらい幼い。
少年という言葉がぴったりだ。
どうも胡散臭い。
「一応言っておくけれど、噛まれてから10分すると手遅れなんだ。君たちは運が良いよ。
ボクが偶然に襲われている君たちを助けてあげたんだから!
そして、世の中にテイクがないギブは無いのさ。君達にはボクを手伝ってゾンビを殺す仕事に就いてもらうよ。」
「…!……!」
抗議の声を出した筈なのに声が出ない。
ふざけんな!
他の人も口をパクパクしてるから、同様に声が出ないのだろう。
「それに君達はもはや人間の社会には戻れないのさ〜」
「!!?」
「何を驚いているの?君達が逆の立場だとして、噛み跡がある人間を保護するかい?撃ち殺すか、騙して実験体にするでしょ。」
ぐうの音も出ない。
「だったら、影からゾンビを倒して恩を得るでしょう。そしたら世界からゾンビが消えたとき、君達は英雄だ。悪い話ではないと思うんだけどなぁ。」
「やる人〜?」
仮に噛まれても10分以内に治療すれば治るのだ。
誰かが手を挙げた。
1人挙げだすと皆んな挙げだす。
そしてこの場にいる全員が少年の話に乗った。
少年が何者なのかどうでもよかった。
ただ安定した生活を送り、最後に英雄と崇められるなら万々歳じゃないかと思った。
しかし、現実ば非情だ。
少年が、
「モチベーションを上げたいよね〜」
と言い出し、ルールを決めた。
ルールはシンプルに、1日に1匹ゾンビを殺すこと。
夜0時までに1人でも達成出来なかった場合連帯責任でそれぞれが身に付けているアクセサリー(足輪)から毒が注入され皆んな死ぬ。
もちろん抗議したが声が出なかった。
ちなみにノルマ以外、つまり1匹以上殺すとボーナスポイントも出る。
ボーナスポイントは1匹倒すと1ポイント。
10ポイントでノルマが達成出来なかった場合にノルマを達成した事にできる。
さらにポイントに応じて備品と交換が出来るらしい。
防弾チョッキとヒザ当てといった防具や、斧なんかの武器もそうだ。
ちなみに、死んだ人はノルマ無し。
「死人に口なしノルマ無し〜」
だ、そうだ。
皆んなで相談した結果、2人1組で動く事になった。
監視しあい助け合うパートナー。
「それじゃあ時間外労働と行きますか。」
「ほどほどにね。ミツル。」
明日もつづくゾンビを殺すデスゲーム。
既に仲間は何人か死んでいる。
いつか英雄と褒められる日を求めて、死ぬまで戦い続ける。
「ううん、順調、順調。」
SF映画に出てくるようなスーツの少年が、画面を眺めながら呟く。
手では小さな女の子型のアンドロイドを弄っている。
地球人達は今日も仲良く殺しあっているようだ。
「ボクのノルマ達成も、もうスグかな〜?」
少年は微笑みながら画面を眺め続けた。