08 今迄蔑ろにして来たもの
「リコリス?少し大事な話をしましょ!」
発言は辛気臭さに脚を生やして走らせたかの様な字列なのに、表情は真夏に咲く向日葵の如き輝きを振り撒くティティラ。
濃紺のセミロングは、長旅からの帰省(餓死)により、初めて会った時の柔らかさを取り戻し、少し吊り上がった海色の目元は細められ、頬は花の様に赤く染まる。
大きく開いた口には白濁色に輝く八重歯が、幼さと無邪気さを感じさせるのだ。
と、更新頻度が空いた為一応紹介がてら記す。
まあ、メタな描写はさて置き、唐突に大事な話を持ちかけられた彼女事リコリスは、フライング大蜥蜴の絶妙な表情で、間抜け面を表現するのだ。
具体的には、鰐の様な大顎は半開きになって涎が垂れ、獰猛な鷹の目は睡魔に犯されたかの如く垂れ下がり、顔面の鱗からは変な汁が出ているのである。
完全に女性としての尊厳は失っているであろう。
これでも、立派かはさて置き社会人なのだから、大人の威厳を醸し出して欲しいものである。
そんなダメな大人の描写はさて置き、そのダメ大蜥蜴の思考の海は、荒れ狂う大海原の如き大災害。曰ばパニック状態になっていた。
心理学的思考で、物事とは2つの論理から成り立つとされる。
まずは原因論。
「物事の成り立ちには全て原因が存在する。」と物理学者ならば考えそうな思考が1つ目である。
今回の例で言うならば、ティティラが「大切な話」を持ち掛ける「何か」が存在するのだ。
そう、リコリスには其れが分からない。
分からないから悩んでいるのだが、当然ながら相手の思考を、更に言うならばAIの思考を読むなどエスパーかハッカーでも無ければ不可能なので、完全な無駄である。
そしてもう一つである目的論。
アドラー心理学と言う著書は、書店では良く見かけるのでは無いだろうか。
これがその一つ、ティティラは「何か」の為に「大切な話」を持ち掛けた。と言う思考。
まあ、此方もリコリスにはティティラの思考を読む手立てが無いので、完全な無駄である。
つまり、何が言いたいのか。
それは、リコリスの混乱した脳での情報整理は、無駄でしか無い。と言う事である。
ではどうするのが正解なのか。
「えっと…何の話?」
分からないものは聞く。
無知は恥だが知ったか振りの方が恥なのである。
「あのね、」
ティティラは一呼吸を置いた。
その瞬間、リコリスの口の中の唾液は、スポンジに吸われてしまったの如くカラカラに乾く。
緊張が彼女の身体を強張らせるのだ。
「物語進めない…?」
そう、このゲーム、『異なる共存者』だが、路線を脱線しまくり、何も進んでいないのである。
ゲームのリリースから早1週間。
スタートダッシュと言うビッグウェーブに乗る事が出来た者、もう既にソロを突破し、次のゲームコンテンツに取り掛かろうとしている。
或る者は厳つく、或る者は可愛く、或る者は奇天烈な装備を相方に装備させ、公式主催のイベント。衣装グランプリに応募するのだった。
大半の種の異なる者が美形なだけ有り、まるで様々な額縁に飾られた絵画の如く、美術館に居る様な雰囲気を味わうのだった。
そして、その賑やかで且つ癒の空間に、一際の異彩を放つ存在がいる。
当然、リコリスである。
彼女とて週休2日の社会人、更に元々エンジョイ勢たる彼女はあくまでも眺める専門なのであった。
だが、タダでは終わらない。
この大会の入賞者の自分好み且つティティラに似合いそうな衣装を、片っ端から記憶媒体にスクショの嵐。
其れを眺めるティティラは、今後の己の運命を悟るのであった。
さて、これからが本番。
リコリス自身も強力な敵や対人に不安しかないのは承知の事。
スキル構成も若干の変更はあるものの、矢張り生産職を初期に選んだ為なのか、非効率的なのはどうしようもない。
幸いにも、初心者狩りをする様なクズを除いたのガチ勢は、既に各々の攻略に勤しんでいる。
今ならば、週末に入って新たに始めた、装備の整っていない新規組や、彼女と同じくエンジョイ勢、生産職組しか居ないとも考えられるのだ。
「と、言う事でまた来た訳だけど、」
彼女達はコスプレ会場でもあったアルバロニオンの西、既に2chにてネタにされているトンが居る農村へとやって来たのだった。
因みに、美形が多いMMDにて、逆に普通の芋顔であるトンが、運営の予想外から人気上位ランキングの4位にランクインしてる。
この結果に自称専門家は、
「美形ならば、自身では見向きもされないだろう。
逆に其れに劣る並の顔であれば自身にもチャンスがあるかもしれない。という心理学的思考故の人気と考えられる。
また、芋顔は日本人に多い特徴。至近感から齎される安心感も影響があるのではないか。」
と語っていた。
飽く迄もどうでも良い話だが。
「もう、協会の外で受け付けるのもこれっきりですからね!本当にこれっきりですよ!!」
これは虐めではない、だが、
こうしていじられキャラが生まれ、愛されるのもまた事実なのである。
そんなこんなで、西の森でのサブクエストを報告し終わったリコリスとティティラは、本格的なストーリーの進行を目指す。
とは言うものの、このDCPは、近年に多い完全な道標を示されたレールの上を走るだけのゲームでは無い。
種の異なる者と言うお助けキャラはいるものの、彼等が助けるのは飽く迄も進行に著しい滞りが見られた時。
其れも、何らかの別イベントをこなしている時などは一切の口出しを行わず、プレイヤーに焦りや怒りと云った感情が募った時のみに、さり気無くかつ的確なサポートをAIが判断して行うのである。
で、小規模の村を30分程彷徨いて見つけたのが、
「まさか、西出口だとは…」
そう、この村は飽く迄も通過点でしかない。
規模的にも重要なイベントを準備する様なギミックも一切ない。
其の儘通り過ぎる事がフラグなのである。
不親切なのは確かにそうかも知れない。
だが、東から来て東に戻る事は普通考えないだろう。
さて、本筋へ戻そう。
リコリス達を待ち受けていた、と言うよりも、偶然にも出会い話し掛けてくるコミュ力の化身の様な人物が居た。
見た目は細身の好青年。15、6歳だろうか、少年から青年へと変わる、子供と大人の狭間。
言動は柔らかく自然体な、爽やかさを感じさせる大人の魅力。
ただ、未だ残ったはにかむ笑顔からは幼さを感じさせ、一部のお姉様達からは絶大な支持を得るのだった。
彼は自らの名をラースと名乗る。
薄い黄緑の髪は新緑の様に若々しく、自然の力を感じさせた。
「すみません、僕の種の異なる者を見かけてませんか?抱き抱えれる位の、バールブって言う球根みたいな植物族なんですが。」
彼はそう述べると、胸の前に円を作る様に手を重ねた。
表情は半分の呆れが見える。恐らくは迷子の常習犯なのだろう。
当然、リコリス達は其れと思わしき魔物を見ていない。
見落としも有るかも知れないが、PLとNPCは表示されるアイコンが違う。
挙動不審なNPCなど、小さな村ならば当然目立つで有ろうし、そのイベントで群れるで有ろうPL達のスクランブル交差点も存在しない。
嘘を付いても何の得にもならない。記憶の本棚を簡単に漁ってから非を唱えるのだった。
ラースはその整った顔の眉間に皺を寄せ、軽く溜息を吐きながら困り果てるのだった。
さて、此処でPL達のコミュ力が試される。
このDCP、何を今更と言われるだろうが、自由度が暴走してリアルSAN値を削りに来るRPGゲーム。
当然の権利の如く、有無を言わさず正規イベントに参加させる「はい/YES」選択肢方式など採用していない。
NPCが「ああ、どうしよう。」などと狂った様に独り言を呟く事も無ければ、主人公が目の前に立ってAボタンを連打しても、唯白い目で見られるだけで有る。
当たり前の事だ。
つまり、自分から話しかけなければならない。
当然の事で有る。
そして、既に忘れられて居るだろうが、リコリスは当初ティティラと言う年下の幼女に、たじろぐ程の圧倒的コミュ障。
表情から少し弱まっているものの、イケメン特有のキラキラオーラに怯まない筈がない。
「あ……ぅ……」
此処で話し掛けねばイベントが進まぬ事は明白、だが其れは本当に『自分の』役目なのだろうか。
彼女の右脳と左脳は、理想的な逃避場所を求る。脳ではなく、顔の皺が深くなる程に。
まぁ、当然変態達もコミュ障に嫌がらせをしたかった訳ではない。
ちゃんとした逃げ道を用意してくれて居る。
「あの!もし良かったら私達も手伝います!」
そう、この為に存在しているかの如く主張する種の異なる者。
AIからすればPL達のサポートをすることが存在意義である為、感情はない筈なのに、何故か意気を感じさせる勢いがあった。
正確には、PLを上手く誘導する為の、運営の回し者も言うのが正解。
故に敢えて、庇護欲を駆り立てられる幼児の容姿をしているのだが、それは本人達が知る必要は無い。
まあ、この絶好のチャンスを不意にする程、リコリスは愚かでも天邪鬼でもなかった。
「m…もし宜しければ、あの、っお手伝い…しましょう、か?」
滑舌が死んでいる。
が、そんな事はどうでも良い。
本人からの参加表明が為された事によってイベントの進行フラグが立つ。
ラースの呆れた表情は一気に明るくなり、青少年特有の色気を醸し出すのだった。
「ありがとうございます、僕が捜して居ない場所は、この先の『日沈み高原』と云う場所のみになります。
御二人の準備が出来次第、僕に声を掛けて下さい。
これでも種の異なる者の端くれ、多少ならばお役に立つ筈です。」
日沈み高原
村から更に西に向かった先にある、言葉の通り標高が有る平地の名である。
此れは意味通り、アルバロニオンから見た際に、日没時に日が隠れる事が由来となる。
高原とは言え、登山等の対策が必要な程ではない。
が、日沈み高原を迂回する街道ができた事で、旧街道は荒れ、背丈ある潅木(樹高3m以下の低木)が群生する地と化しているのだった。
生息する魔物は草木を主食としながら、身を隠す事の長けた草食獣。其れを捕食せんと息を潜める食獣植物。
不意打ちや急な接敵を警戒しなければならない、序盤にしては厄介なエリアとなっているのだ。
まあ、だからと言って対策する術がある訳ではないのだが。
リコリスは頭を悩ませる。
このラースと云う青少年の処遇、ぶっちゃけた話自分達の領域に他者が介入するのが嫌。
戦力的に全く足りていないのは分かる。が、
オタサーの姫に変な虫を近付けて、余計なフラグでも立とうものならば、恐らく彼女はゲーム内で切腹する。リアルではする勇気がない。
そう、無駄に無理のある無茶で無謀な対抗心により、餓鬼の様な幼稚且つ陰湿な無視をする事を決行する。
実に馬鹿で有ろう。
「探す手伝いはすると言った。だが、お前の手伝いをするとは言ってない!」
その行為が産むのは、只の自己満足である。
此れにはティティラも呆れて物も言えない様子。
製作陣からすれば、イベントの無駄な遅延行為はバグの発生源にしかならない為、止めて欲しいのが事実。
今回は残念ながら無視する輩が居てもおかしくないと其の儘ストーリーが進む様にしている。が、
当然、デバックを探す悪い子にはお仕置きが必要である。
太陽を背に、とある影はほくそ笑むのだった。
更新してると思った?
残念!冒険の書1はきえてしまいました▼
冗談はさて置き、前回の中途半端な更新は、本当に申し訳ない(メタルマン)。
ネタが無い。本編は考えてるけど私の脱線したい発作が悪性新生物と脳卒中と心筋梗塞を引き起こしまして(大嘘)。リアルで死に掛けました、親父が(他人事)。
まあ、父が三大疾病フルコンプしてる以上、私もその遺伝子を継いでる訳でして、病院行って検診受けなきゃなぁ〜面倒くせぇ〜、が本音。
まあ、何とかなるっしょ(楽観視)!
余談はさて置き、遂に本編を進めます。
8話にしてネタが無いからね。ん?今迄が閑話みたいな扱いだから問題ない?ハハッ、私は脱線が好きなんだ。
え?本編進めてもどうせ閑話みたいなのが挟まるって?ハハッ、エスパーかこの野郎。
故に、更新速度が上がるなんて事はないです。
本編が出来てると言っても頭の中でですし、リアルも春は基本忙しい。
更に突発的発作で閑話を挟みたくなる症候群が発病するかもです。
故に、来年迄に1話更新すれば良いなぁくらいに思ってて下さい。
私がリアルで病院入りしたらペース上がるかもだけど。
此処から本編。
はい、ラース君登場。
ストーリー進める上で絶対出すと決めてたキャラ。
頭の良い方は既に8割展開を察してる筈。
因みに脳内ではソロのラスボス戦、クリア後ダンジョン迄は考えてる。デュオ(種の異なる者2チーム)とパーティ(4チーム版)、師団(8チーム版)のストーリーは考えてないけど。
つまり今後何度も登場する。
何方かと言えば西洋系の堀が深いイケメンのイメージ。韓流系のノッペリスラー(擬音語)でも良いけど。其処は個人の自由で。
感想で本編だけでも良いのよ?と言われても閑話は絶対挟む。異論は認める。