07 矛盾の盾は貫けない
このDCPは自由度の高さが売りである。
そもそもプレイヤーが魔物と言う事もあり、当たり前の様に種族が多種多様と存在。
そこから更に初期ステータスのランダム要素。技術選択の自由も相まって、完全に同じキャラクターは作れないと言っても過言である。
だが、勿論其れだけではない。
「ねえ、ティティラ。」
農村から体感時間6時間。
まあゲーム内時間の進行速度は3倍なので、実質リアル時間は2時間程。
「何?リコリス。」
距離的にはかなり歩いただろう。
農村から行商の馬車に乗せてもらう駄賃をケチったが故に今尚進む事になっているのだが。
「幾ら何でも此処は道じゃ無いよね?」
「うん。」
彼女達は道に迷っていた。
時間は遡り街道。
取り敢えず先に進むべく、更に西へ進む事を決意した1人と1匹。
乾き、固まった土を音を立てながら歩いて居たが、偶然にも可の憎き相手である『小狼』と出会ってしまう。
そう、彼女は未だ諦めきれて居なかった。
農村で見せつけられる、廃人達の種の異なる者が付けるあの犬耳を。
然し、此処でとある仕様が彼女達の狩を阻んだ。
このDCPに置いてストレス値と呼ばれる隠しパラメータが存在する事は前回に話しただろう。
このストレス値だが、主の一つでもある復讐者の出現条件に関わるだけには止まらない。
まず1つは『怒り』。
これはRPG等ではよく存在するもので、此処近年では当たり前と化した物。
簡単に言えばAIの上昇である。
例えば、とあるRTAの通常エンカウントにて、小鬼と悪霊が現れたとしよう。
攻略情報を見ない、初見プレイをしているとした時、プレイヤーはまずどちらから倒す事を考えるだろうか?
そう、普通なら魔法や状態異常など、厄介な攻撃をするだろう悪霊を攻撃する。
其れは先入観かも知れないが、確実に面倒な相手や弱っている相手。見た目が貧相な相手等己の持つ知識を元に攻撃対象を決める事だろう。
そう、其れを相手魔物が同じ事をする様になる。
回復魔法を使用できる味方を優先的に狙う様になったり、アイテム使用中の無防備な隙、生命を削られた状態の味方を狙うなど、魔物が戦略を練る様になるのだ。
因みに、この「弱そうな相手を狙う」を逆手に取った狩りをする者も存在するらしい。
まあ、直ぐにAIが学習してしまうのだが。
そしてもう1つ。
生物として当たり前の行動。『逃げる』様になる。
通常ならば魔物は他の生物を見かけると何らかの行動を取る。
其れは種族によって異なるが、ほぼ全て『撃退』を視野に入れた行動を取るだろう。
だが同族を百と、千と狩る相手。確実に勝てぬ存在に『挑戦』するだろうか?
そう、まずしない。戦わぬ事を選ぶだろう。
そう、彼女達はそのレベルに迄到達していたのだった。
小狼は当然、自身のホームグラウンドで有ろう道外へ、プレイヤーも魔物とは言え、町暮らしの種の異なる者。
慣れぬ林道は彼等の行く手を阻んでしまう。
そして、現在に至る。
リコリスは、どうにかこの状況を打破する方法を考える。が、飛竜とは言え、高さ制限が存在する木々の上は飛ぶ事が出来ない。
然し、だからと言って獣道を歩くのは、図体がずんぐりむっくりフライング大蜥蜴の彼女には少々難がある。
すっかり忘れられているで有ろう能力一覧の中にある、持久の項目は、慣れぬ足場も相まって、既に50%を切っていた。
つまり、今が引き返す最後のチャンスなのである。
「んーーー…」
「どうしたの?リコリス。」
彼女が器用に翼の付いた前脚を顎に。ダイナソーレッグを組んで考える像ポーズで悩んで居れば、当然相棒、種の異なる者のティティラは何時もの様に首を大きく傾げた。
相棒の能力は閲覧する事が出来るが、彼女の方は顔色の通りまだまだ元気そうでなのが救いである。
持久が尽きても、完全に動けなくなる訳では無い。
だが、もう一つの能力。行動を連続して行えたり、走る時間に大きく関わる瞬発の最大値の減少と言う、大きなデメリットが存在するのだ。
今は敵とのエンカウントはしていない。
だが、連続攻撃回数の減少は、総合的な火力の減少。強いては、只でさえ火力の無いリコリスが足手まといになってしまう危険性がある。
其れだけはどうしても避けたい。
「最悪、死に戻りを視野に入れるべきかな。」
其れは言葉の通り死んで拠点に帰る事を指す。
通常。戦闘などで死亡した場合は戦闘前の状態に戻ると云う、デメリットが一切存在しないオンラインゲームに有るまじき状態なのだが、当然戦闘以外で死亡した場合は他のゲーム以上のデメリットが有るのだ。
基本的に、該当するのはイベント以外の餓死。そう、今の彼女達の状態である。
持久の回復手段は基本的に食事+安眠出来る状態での休息のみ。
片方のみだけでは多少の減少を抑える程度で、回復は微塵も行われない。
旅支度で、美味しくない非常食を多少用意しているリコリス達も、不眠不休で進軍する事は不可能なのである。
因みにプレイヤーの休息は安全地帯でのログアウト。
変態の責めてへの若者のVRMMO依存対策だろうか。
近年はそう言った団体が煩いのである。
話を戻すが、餓死でのデメリットは大きく分けて2つ。
1つは能力の永続減少。
もう1つはイベント等で必要な貴重品以外の全てのアイテムの喪失。つまり0となる。
当然、所持金や装備も該当する。
重過ぎるペナルティだろうか?いや、MMOに置ける死亡率を考えれば、基本的に戦闘、罠、落下、そして飢餓なのだ。
このゲームでは、ヒューマンエラーで起こり得る罠や落下は許容している辺りまだ優しいだろう。
だが、餓死はプレイヤーの行動次第では絶対に起こり得ない。食事と休息と云う、生物にとって最低限取らなければいけない行動を取らなかった、本人が悪いのだから。
MMDとは言え、ヘッドギアを通じて送られてくる空腹と疲労の信号。
彼女の精神を蝕むが如く、それは一種の悪魔の様に語りかけるのだ。
パンが無ければ魔物を食べれば良いじゃない。
彼女の中で、一つの思考が稲妻に打たれたかの様に、全身を痙攣させ、鳥肌が立ち、毛孔からは変な汗が出る。
少し臭く、ティティラは己の鼻を摘む。
そう、このゲームは変態達が手塩を掛けて作り上げた最高の欠陥品。
一部のトチ狂った輩が、迷宮飯ならぬ魔物飯を用意しているのも不思議では無い。
そもそもな話、ファンタジー小説では当たり前の様に魔物の肉を食べる文化や風習があるのだ。
このゲーム上にファーストフード店が進出している故の思い込みをしていただけの可能性もある。
そう、魔物肉は肉なのだ。
「未知なる味を求めて探求する事も、吝かでは無い!」
まあ、問題はその魔物にすら遭遇していない事、
更に、大切なものを忘れている事なのだが。
「よしティティラ、この近くに魔物の気配はない?!」
「え?戦闘しないようにするんじゃなかったの?」
惚けるティティラに対し、深み笑いをするフライング大蜥蜴を見れば、完全な悪役にしか見えないリコリス。
自身の咄嗟のアイデアを得意げに、中身が女性と言う事を忘れたかの如く、鼻の穴をフンスと広げたドヤ顔で語るのだった。
「此処から右斜め前に行った先に魔物っぽい影あるよ!」
「よーし、突撃じゃぁああ!!」
彼女はそう高らかに叫ぶと、勢い良く飛び出した。
其れは飢えた狼の如く、鮫の歯の様に、鈍色に連なる鱗は血に興奮した鰐は、獰猛な牙を剥き出しにして襲い掛かる。
今迄の疲れなど何処へ行ってしまったのか。エリマキトカゲも驚愕するキモい二足歩行を披露したのだった。
獲物が居たのは林を抜けた開けた場所。
何かしらが原因で偶然開けた場所では無い。
明らかに生物の手が加わった、石畳の壊れた遺跡。
其処には、
ピッ キュインキュインキュインキュイン
「………」
形状するならば、それは一種の製材の塊、だが一概に「其れ」と片付けてしまうには異形過ぎた。
赤錆びた金属は、雨風によって本来の姿から、恐怖を駆り立てる憎悪の化身と化す。
球体に連なる無数の穴。まるで全ての穴から此方を覗き込む瞳が見える。
女性の悲鳴を彷彿とさせる軋み。排気音は獰猛な肉食獣達の唸り声にも聞こえるのだ。
『集合体恐怖症』
かつては『守護者』と呼ばれたカラクリの成れの果てである。
此処にしか出現しない固有魔物で、サービス開始から約3年間、数多の魔物図鑑コンプ厨を挫折へ追いやった1機である。
当然、リコリスには完全に無関係な存在。
そして何より。
「食える、場所が、、無いじゃ無い!!」
見た目がゲテモノな上、完全に機械。
魔物を食べれば良いと考えたリコリスだが、栄養を吸収出来ない物を胃に入れても、持久が回復しないのは明白と考える。
さすれば何をするか。そう、八つ当たりである。
「こんにゃろぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
戦隊モノのお約束を知らぬかの如く、起動準備中の集合体恐怖症の頂上に、彼女のハルバードが炸裂した。
そう、この魔物。見た目の隠しボス臭の割には、老朽化故の耐久性紙装甲なのである。
当然の事と言えば当然の事。
かと言って、漢の浪漫と起動待ちをしてあげれば、砲弾の雨霰で此方が文字通り死ぬ。
MMDとは基本死に覚えゲーなのだ、文句を言う事は出来ない。
因みに、起動時に金剛体が無いボスはこの敵のみであったりする。
製作者曰く、
「他のボスが金剛体持ちだから、元々引っ掛けるつもりで作った。後悔はしていない。」
との事である。
なので、これが偶然にも正攻法。
ドロップは固定で頭装備の『トライポフォビア』。
見た目はかなりグロテスクで自主規制が必要なレベルである。
完全な嫌がらせの為だけの敵であった。
因みに、この遺跡自体には何も無かったりする。
「で、何で突然魔物を探して何で言ったの?」
後から追いかけて来たティティラが問う。
その顔は完全に行動を理解出来ないかの如く、純真かつ無垢の眼差しでリコリスを射抜くのだった。
「安全地帯じゃないと、食べ物を食べても回復しないよ?」
「あ、」
AIによってより自然に構築された文面が、的確に彼女の認識の甘さに突き刺さる。
「其れに、さっきの奴に倒されたら帰れたんじゃないの?」
「………あ、」
何故魔物から逃げていたのか。
其れを全否定されたリコリスは、燃え尽きた灰の如く、真っ白になって崩れ落ちる。
その後の捜索も虚しく、彼女達は見事初の餓死を経験したそうな。
お久しぶりです。
黄泉の国にWi-fiが通ったので更新しました(大嘘)
補足、と言うよりは後書き
今回"2019年1月)前日(2018年6月)まで書いてた内容を見て、ふと思ったんですよ。
戦死によるデメリットがない。
餓死はデメリットあり。
あれ?これ餓死の方が難しくない?と、
元々かなり前の書き掛けでしたし、何をどうする目的で書いてたのかも覚えてませんですし、読んだら読んだで、矛盾しか感じない。
………。
だったら開き直ってネタにしちゃおうぜ!ってノリで書きました大変申し訳有りませんでした。
まあ、こんな感じで矛盾とか…無くしたいんですが、明らかに無理だと悟ったので気楽に行こうと思います。
では、また再来年!!