04 トン!トン!!トン!!!
自分がもし、この世界にいない時に自分の身体はどうなっているのか考えた事が有るだろうか。
種の異なる者は当然ながら相棒でありDCPのキャラクターの1人である。
02にて簡単に種の異なる者はNPCと同じく休息や食事を取る事は説明しただろう。
勿論、目撃情報のある事実である。
しかし、其れだけがこのDCPの変態の遊び心ではない。
種の異なる者はAIでありながら趣味を持っている。
正確にはランダムで割り振られているだけなのだが、彼等はプレイヤーが『此方側』に居ない時は其れらを堪能しているのだ。
例えば、公園のベンチに腰掛け、ペンとスケッチブックを持つ少年がいる。
彼が書いている絵は実は『プレイヤー』の設定画なのだ。
もう1人、橋の下で横笛を吹く少女がいる。
彼女が吹いている曲はプレイヤーが行った事のある場所のBGMなのだ。
ただ、残念な事が1つ。
プレイヤー自身の目で彼等の趣味を目撃する事は出来ない。
種の異なる者はプレイヤーを待っているのだから。
リコリスが欲した『犬耳』は入手出来ず、翌日になる。
今は本来収まるべきであった場所には、支給装備であるツバを補強されたキャスケット帽を装着している。
民族衣装も可愛いが、小さな頭に乗る大きな帽子も可愛い。いや、美人には何でも似合うと改めて実感したリコリスであった。
いや、そんな事はどうでも良い。
現在、彼女達は西の森を抜けた先。
当たり前だが、彼女がスポーンした街であるアヴァロニオンから西に位置する農村にやってきた。
近くに森がある為か、木造建築が主で、家の形状はログハウス風が多い。
他には、アヴァロニオンから来た西門から、真っ直ぐに村道が延び、丁度真東に位置する東門の場所迄飲食店や宿屋が多いのが特徴だろうか。
そんな事を頭で考えつつ、協会へと足を運ぶ。
グラシオに言われた危険な魔物討伐の依頼についてだ。
因みに、この依頼は最初にグラシオに話された時に受注した訳ではない。
ちゃんと受付で受注登録を受けなければ完遂したと見なされないものである。
まあ、受けなくとも西の森は踏破出来るし、この農村に踏み入れる事はできる。
只、報酬が貰えないだけだ。
そう、リコリスはあざとかった。
「うわぁ、此処の協会も凄い人だね!」
人間の9割は聖人君子ではない、あざとい人間だと思うが。
そもそも、この農村はあまり多くの種の異なる者を受け入れる様に作られて居ないのだ。
人口は約3000人。
農作業をして生活をするにも、働き盛りの10代は種の異なる者という制度に貴重な労働者を取られる。
若者は矢張り都会に憧れるものだ。
この様な辺鄙な場所よりも、西の森を抜けたすぐ先に大量のプレイヤー達がスポーン出来る程、種の異なる者を受け入れる体制の整った街があるのだ。
当然ながらこの村の設備では直ぐに容量オーバー。
巨大な魔物プレイヤーが協会に20人も陣取れば、いとも簡単にこの様な状況になる。
では、此処から彼女達が取る行動は何だろうか?
答えは既に一度出ている。
「じゃ!ちょっと行ってくるっ!!」
「あ、はい。」
協会の玄関の前で棒立ちしているリコリスにドヤ顔を決めてから、ティティラは文字通り混沌の坩堝へ飛び込んだ。
まるで魔女が混ぜる鍋の如く、流れる人混みや長い時間を待たされる故に溜まる熱気を物ともしない。
魚が泳ぐのと同じ様に、中から受付嬢を拉致してくるのだった。
「初めてだからって、こういう事は今回限りにして下さい!」
リコリスが既視感を感じるのは気のせいではない。一瞬仕様かと疑う程だ。
今回出てきたのは芋顔と言うべきか、正に田舎っ子を彷彿とさせる顔も、胸も、スタイルも、普通の女の子。
セミロングの霞んだ金髪を中程から三つ編みにした、田舎で農業してても違和感を感じない、麦藁帽子の似合いそうな、18歳くらいの娘だった。
「49点。」
「何ですか!急に点数を着けないで下さい!」
49点。その点数は覆らない。
ティティラという美人のお陰で目の肥えたリコリスには、彼女の評価は厳しかった。
尚、ネットでも彼女の評価は普通である。
いや、そんな事はどうでも良い。と言いたげな様子でリコリスは喋り出した。
「魔物を倒して来たこれが依頼状と討伐証明。」
面倒と思われるかもしれない。
実際はゲーム故に面倒な処理は省かれて、簡単に依頼の受注、処理ができるのだが、変態の妙な拘りで、勝手に受けた依頼が紙媒体化。討伐証明部位が自動ドロップする仕組みがある。
リコリスが提示したように自ら出す事も出来れば、勝手に取り出してくれたりもする。
要は気分である。
不要などと言う異論は認めない。
「あ、はい。確かに。では報酬を持って来ますね!」
話を戻して、そんなこんなで依頼は完遂。
平凡受付嬢は極く有り触れた笑顔を見せて協会へ戻っていった。
その足取りを見ても、色気も一切感じないのが非常に不憫である。
「うーむ、矢張り49点か。」
「聞こえてますからね!!」
トントントンは、このゲームに生まれた事を後悔するのだった。
と、言う事で賃金を受け取りホクホク顔をリコリスの横目に、ティティラは歩く。
いや、実際には対等な関係な筈だが、どう考えてもティティラが主人にしか見えない故に、敢えてこの様な表現をする。
「ふふっ、今日はお姉さんが何でも奢っちゃうぞ☆」
まるでキャバ嬢に貢ぐオッサンの如く、鼻歌を歌いながら上機嫌で歩くリコリス。
今、彼女達は初めて来たこの村を満喫していた。
と、言ってもそこまで大規模な村ではない。為に、大通りに建ち並ぶ店を冷やかしだけであるのだが。
「あ、あの服可愛い。ティティラ着てみない?」
「イエ、遠慮ナク…」
流石は女(子?)。
AI故に本来ならば疲れる筈のないティティラを、精神的に疲れさせるのだった。
その様はまるで、大型百貨店で買い物に付き合うカップルかの如く、一緒に歩く男をげんなりさせる女の如く。
話が変わって、この村を簡単に表すならば、駅の近くの商店街と言うべきだろうか。
都心から西に行く際、ほぼ確実に通る道。其処に丁度いい所にある村。正にと言っていい。
建造物は劣化が激しいながらもアヴァロニオンに酷似しており、販売している商品の類もほぼ同じ。
唯一勝っている点は、食べ物と空気が新鮮な事ぐらいだろう。
何が言いたいかといえば、ティティラからすれば「見所がない。」である。
なので、彼女から行動を起こす事にした。
「ねぇ、リコリス!」
「あ、ぅえぇ?何?」
いや、間抜けな反応を期待した行動をした訳では無いのだが。
突然の呼び掛けに肩をビクッと撼わすリコリスは置いておいて。
ティティラが指差す前方。商店道から外れた、少しばかり目立つ建物の前。
まるで東京の歩行者天国を思わせる奇抜な人(?)だかりが存在した。
「何だろうね?あれ!」
「さあ?」
住民と思われし人の他にも種の異なる者達が多く集う場所。
様々なゲームを乗り越えて来た(自称)ゲーマーのリコリスは直感から、そこでイベントが発生する事を理解する。
思ったが吉日。どうせ暇だった彼女達は、その場のノリで野次馬の如く群に突っ込んだ。
「お願いします!娘を、娘を探してください!お願いします!何でもしますから!」
「ん?今何でもt...」
其処は、どうやらこの村の駐屯所の様な立ち位置の建造物らしく、全身鎧の大男(?)に若そうな女性が何やら訴えていた。
因みに、女性の訴えに対して反応したのは、野次馬の種の異なる者である。
リコリスも反応したが。
「奥さん、我々の兵力では北の渓谷、『ニータナンケキ』に立ち入る事は出来ません。其れこそ協会にて捜索依頼を出すしか...」
「何とか、ならないんですか?」
女性は訴えるも全身鎧の男(?)はただ首を横に振るばかりであった。
「リコリス。可哀想だよ?助けてあげない?」
そして其処に魅力は2しか無いが、顔面偏差値18の美少女からのお願いのポーズ。
リコリスはどうする?
▶︎YES/はい
「仕方ないわねぇ!やってやろうじゃないの!」
彼女に断るという選択肢は存在しなかった。
だが、
「おっとぉ→其処の飛竜。やる気になってるのは良いがぁ↑、残念だがこの依頼はぁ→俺が受けるんだぁ↑。」
「あ゛ぁ゛↑?」
声の方向には妙に下衆な顔をした豚鬼の姿が。
横に、ティティラには見劣りするものの、気が弱そうで可愛らしい女の子がいる事から、彼も種の異なる者と推測できる。
「何?ウチの子のお願いを聞き入れる為に、アンタなんかと構ってる暇ないんだけど?」
と、さっきまで暇人だった者が語る。
「ウッセェなぁ↑!ウチのベぇ↑イビーちゃんのお願いを叶える為にもぉ↑この依頼は受けなきゃ→ならねぇ↑んだよぉ↓!」
と、暇人と同類が語る。
「そっちで勝手に話進めんじゃねぇ(鼻声)!ワシやてこの依頼受けるんやさかい(鼻声)、ウチのヒロインのお願いを叶える為にも(鼻声)、アンタらにゃ此処でリスポーンしてもらうで(鼻声)。」
と、割って入った同類小鬼が語る。
「いや、拙者が!(萌え声)」
「オイラも!(イケボ)」
「ぶーん!(モスキート音)」
「汝も!(ハスキーボイス)」
と、同類種の異なる者が語る。
駄目だ、変態しかいない。
「あの、皆さん探してくれるのは嬉しいのですが、その...」
無論、これには女性もドン引きである。
「これゃぁ→数が多えなぁ↑おい、鎧の旦那ぁ↑?この近くに暴れられる広場はあるかぁ↑?」
「せやな(鼻声)!此処は種の異なる者同士拳で決着つけようじゃねぇか(ズズッ)!」
「村の中での戦闘は禁止されている。」
「「「「「「「「・・・・・・・。」」」」」」」」
「オメェら表に出ろやぁ↑!」
「ぶーん!(モスキート音)」
「オイラワクワクしてきたっぞ(イケボ)!」
「うぉぉぉぉおおおおっ!!(萌え声)」
「あの…早く娘を探して……」
話の趣旨が変わり、各々が戦闘準備を始めて村から外に出る。
そう、その場に残るのは母親ただ1人。
皆より面白そうな方に着いて行ってしまった。
走る、走る、走る。
何度転んだか分からない。
だが、それでも涙を堪えて走らなければ、次の瞬間には自我を失ってしまう事だろう。
戦う術を持たぬ彼女は、宛てが分からないゴールを目指し、只々迷路を彷徨い続ける。
其処に、助けは来るのだろうか。
次回「少女 死す」
デュエルスタンバイ!(嘘)
すみません、この少女捜索依頼はその場のノリで勝手に作っちゃいました。あの流れなら乗らざるを得ない(同類)。
はい、頭の中の構成を思いっきり無視した話ですね。
まあ、何とかなりますよ(多分)。
え?49点?
そんな人は知りませんね。
では、再来年に!(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎