03 殲滅と乱獲は基本
種の異なる者は面白い事に皆違った顔立ちをしている。
大体が平凡な顔立ちではあるが、一部の種の異なる者は顔面偏差値が異常に高かったりするとの事。
DCPが始まって直ぐに立てられた掲示板での、変態達の統計データで細やかにランク付けがされており、いつのまにか評論家(自称)迄居るとの事。
『ウチの子を自慢するスレ』で自分の種の異なる者の可愛らしさを自慢する事が流行ってるらしい。
尚、リコリスは見る専門である。ウチのティティラを変態達の目に晒すつもりは一切ない。
何故、この様な変態の様な事を考えているのかは、まったりと通行者を眺めながら、人気チェーン店でお茶をしているからなのだが。
そんなことはどうでも良い為話を戻そうと思う。
彼女達にとって初めてのPvPだった訳だが、その内容はボロボロと言っても良い。
主にリコリスのスキル構成が残念過ぎるのもあるが、対戦相手との明確な違いが存在した。
戦闘方法を全く理解していないのだ。
スキル構成云々の前に、どの様に戦うのが最善なのかも理解していないのに、PvPなど出来る訳もなく。
「まずは、オフラインストーリーを進める事をお勧めするよ?」
と、AIである筈のティティラに真面目な顔で言われれば従うしかなかった。
この自由度の高いDCPで、唯一のストーリーと呼ばれるのが、このオフラインストーリーである。
ただ、オフラインとは云えど、ストーリー上で他のプレイヤーと戦闘や交流する機会があるので、一概にはオフラインとは言えない。
なので、ネットの掲示板ではソロクエストと表される事の方が多い。
尚、解析班によってこのDCPではソロクエストの他に、多人数でパーティを作るマルチクエや、組織として物事に挑む師団クエが存在すると解析されている。
一先ずはソロに人が流れるのだから、彼女自身も流れに身を任せるのも悪くないと判断した。
当然、ネタバレは閲覧していない。
因みに、どうやら先程の場所は、西の森ではない別の場所だったらしい。
「リコリス!此処が西の森だよ!」
何時もの如く元気が有り余ってるティティラは、耳元でもそのボリュームを下げる事はしない。
ゲームの仕様上、索敵範囲外の音は修正が入るので、余程の近くに敵が居なければ気付かれる心配は無いが、ゲームに感情移入してしまうリコリスは内心気が気でない様子。
自分よりも技術の整った相棒が居るにも関わらず不意打ちを警戒し続けていた。
辺り一面は広葉樹の密集地帯。
辛うじて大型の魔物は通れる隙間はあるものの、リコリスが翼を広げ飛ぶ程の空間は無く、状況からすれば不利である事は間違いない。
其れが、彼女の心配を駆り立てるのもあるのだろう。
また、視界が悪いのも侮る事が出来ない要因の一つである。
索敵系の技術が有れば視覚、聴覚など役割に応じた五感に修正があるが、その類の技術を持たないリコリスには只の林しか見えない。
ゲーム内時間が昼にも関わらず、視界は暗く、彼女の心も真っ暗であった。
「あ!リコリス、正面からやや右寄りに魔物が居るよ!!」
「よ、よし。」
暫く進むと、ティティラが敵影を知らせる声を上げた。
何気にだが初のエネミー戦である。
先ずは体力、敏捷、筋力の高さを活かしてリコリスが敵影に向かって突っ込んだ。
背負っていたハルバードを口に咥え、茂みに向かって振り下ろす。
何か硬いものを弾き飛ばす様な衝撃が、鉄の棒、歯、彼女の骨へと伝わった。
それと同時に、視界の端でド派手に輝くダメージエフェクト。つい先程まで存在しなかった場所に緑色の生命のバーが現れた。
茂みから強制的に弾き飛ばされたのは、このゲームのキングオブ雑魚とも呼ばれる『頭種』。
硬い甲殻に覆われて、隙間から黒い身を覗かせている、意外に可愛い生物である。
ただ、その身体は人間の頭程の大きさであり、勢い良く突っ込んでくる攻撃はかなりの威力を秘めている。
油断さえしなければ雑魚なので、初心者の操作感覚を身につける為などに利用されている。
そんなモンスターが勢いよく飛んで行ったのだ。
一定以上の威力が無ければ破壊されないオブジェクトの岩石が、土埃を巻き上げながら抉られた事を考えればその威力も察する事ができるだろう。
「っチーーーーッ!!」
然し、飛び過ぎた故に追撃が追いつかなかった。
奇襲を受けた頭種は見た目に反する俊敏な動きで逃げてしまった。
「逃げられちゃったね。」
本来であればリコリスが強力な一撃を加えた後、ティティラがトドメを刺す予定だったのだ。
逃げられてしまえば経験値にもならず全くの意味をなさない。
能力が物を言う世界で波に乗り遅れてしまうのはリコリス自身にとっても辛いものがある。
「気を取り直して行こ!もうちょっと先にも何が居るから!」
そんな落ち込むリコリスを慰めるティティラ。
肩を落とす彼女(?)の頭を撫でる姿は非常に微笑ましいのだが、側から見れば対等である筈の種の異なる者に主従があるかの様な、幼稚園児を引率する教員と生徒の様にしか見えない。
客観的に考えて更に落ち込むリコリスであった。
深夜。
現実で有ればそろそろ夕飯の支度を始める時間帯だろうか。ゲームを始めて初日の内に3日目を体験する、奇妙な出来事に違和感を感じるリコリス。
日を跨いだ筈なのに、システムカレンダーの日付が変わらないのは、2日目を跨いだ時迄バグかと思った程だ。
そんな初日にして3日目の午前0時。
彼女達は未だ西の森に滞在していた。
理由は単純。現時点での最強装備を整えれて居ないからである。
このDCPは、倒した魔物からドロップした素材を使用し、某狩ゲーと同じ様に装備を作る事が出来るのだ。
此れは、種の異なる者である相棒も。プレイヤーである魔物も同様に頭、胴、腕、、脚の計4種の防具を作る事が出来る。
更に細かく同じ魔物の装備で、頭に該当される部位でも殻、革、鱗、の計3種類のメイン素材シリーズ。更にはデザイン迄ちゃんとバラバラにされており、同種魔物の防具ならばシリーズが違えど違和感のないという気合の入った防具である。
で、現在彼女達、いやリコリスは愛する種の異なる者の為に西の森にて出現する雑魚。『小狼』のレア素材。
『ゴワゴワな鬣(小)』を求めて彷徨っているのである。
この素材さえあれば街の防具屋でプリフシリーズ(ゾンビ)を作成する事が出来るのだ。
尚、このDCPでは素材シリーズを統一していない同種魔物防具を、ツギハギなイメージから『ゾンビ』と2chの民より呼ばれている。
更に言えば同種魔物すら揃えていない防具は、合成モンスターに、例え『キメラ』と呼ばれている。
話を戻す。今ティティラが装備しているのは頭以外のプリフシリーズ。
胴と脚は革ベースで腕が殻ベースの、打撃耐性と斬耐性持ちの防具である。
そう、彼女は残りの装備である革ベースの『プリフ耳』を装備させたいのだった。
「鬣が出ないよぉ〜っ。」
リコリスは悲痛の叫びを上げる。
そう、某狩ゲーでも有名な欲求感知装置。「物欲センサー」に引っかかっているのだった。
「元気出して行こ?ねっ!」
数時間前と状況は違えど、客観的には同じにしか見えない状態。
ティティラは何も装備されていない頭を傾げ、満面の笑みを向けながらリコリスを励ました。
そう、リコリスは不純な動機で相棒にプリフ耳もとい「犬耳」を装備させたいのだ。
尚、彼女と同じ病に掛かったDCPプレイヤーは数多く居ると云う。
「あっ、リコリス。近くに何かの気配がするよ!」
無能な彼女が自分の世界に入っている中、AIはしっかりと自身の仕事を行う。
彼女の持つ技術が、又もや害意ある存在の気配を察知したのだ。
当然ながらリコリスも我に帰る。
黙っていれば男の子の憧れの的、飛竜なのだが。
「どっちの方向?」
「位置的には2時の方向で、距離は未だ分かんない。」
「じゃあさっきと同じ感じで行くよ。」
リコリスは相棒に目線を送ると、ティティラも」理解した」と頷きを相棒に返す。
伊達に西の森で魔物を乱獲した訳じゃないのだ。
リコリスも、飲み込みが悪い女ではない。
幸いながら此処はネットの世界なのだ。例え彼女が見付けれなくとも他の誰かが情報を流してくれる。
「行くよ。不意打ち!」
薄暗い林の中、巨体に似つかぬ可愛らしい声と共に巨大な物体が空を切る轟音が鳴り響く。
音の主は地面に衝突する音を立て、同時に獣の悲鳴を上げた。
彼女の大斧を叩きつけた茂みの中には、狙いの獲物小狼が毛に血を滲ませていた。
そう、リコリスは必殺技を習得したのだ。
実は必殺技を含め、技術の習得には制限がない。
能力上に存在する技術ポイントを消費さえすれば獲得する事が出来るのだ。
そう、そのポイントを消費して、初動に限定されるものの『強撃』よりも初動が早く隙も小さい『不意打ち』を習得したのだ。
只でさえオーバーキルなのだ。どちらかと言えば威力よりも小回りを優先したと云うのが正しいだろう。
その思考が功を奏したのか、強烈な一撃によって頭種の時の様に弾け飛ぶ事は無くなり、上手く連携を取れる様になったのだ。
「やぁぁぁぁあああっっ!!」
其処に、ティティラの『踏込み』からの一撃。
彼女のショートソードが怪しげな光を放つと同時に、剣がプリフの胴体を切り裂いた。
プリフに表示されていた生命バーも、死神に動作も無く狩られるが如く一瞬で吹き飛んでしまった。
「良し!ドロップは………!」
戦闘不能に陥ったプリフはゲームらしく消滅し、その場では何事もなかったかの様な静寂が訪れる。
勿論、それを破るのがプレイヤー。
リコリスは己の目的であるレア素材のドロップ確認を行った。
無論、世の中そんな甘くは出来ていない。
話が脱線して、このDCPでは当然ながら魔物が存在する。
この魔物だが、設定上種の異なる者の魔物と野生で生息する魔物に個の種として違いは存在しない。
其処に存在するのは、この世界に混沌を齎す神を信仰するか否かなのだ。
更に掘り下げれば、この神。魔物と動物による1500年前の大戦迄は世界的に信仰される存在だった。
その神の名をナイア。彼は試練を与え、進化を促す存在である。
そう、彼の存在はプレイヤー達を大きく巻き込んで行くのだった。
失踪したかと思った?
残念!失踪してました…
いや、また失踪する予定です。
そして気が向いた時にひょっこりと更新してたりします。
話は変わりまして。
前回の特攻蜂との戦闘でも言いましたが、基本的に一撃必殺は出来ない仕様にしています。
これはあくまでも、このゲームは種の異なる者と言う相方が存在し、協力して戦う意味合いを含めてです。
後は、PvPが強めのオンラインゲームで、無双ゲーや理不尽ゲーは面白くないからですかね。
あ、因みにですが、能力値が大量に有りますけど、あれちゃんと計算してないです。
計算式とかは準備してるんですけど、計算するのが面倒です。
では、再来年に会いましょう!
(`・ω´・)+キリッ!