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短編小説

こんな記憶とか想定外

作者: 黒田明人

切欠は幼い頃の体験と最近見た夢。

 

実はさ、この前、不思議な記憶が蘇ったんだけど、それがどうにもまともじゃないんだ。


隣の県にかつて住んでいた彼は、幼い頃に近所のパーキングの塀に垂れ下がっていた縄を使って塀をよじ登ろうとしたんだ。

するとだね、その縄が切れて後頭部から転落して脳死状態になったんだ。

つまり、霊的に言うなら魂が抜けた状態な。

そんな身体を見つけたある存在……これがどうやら僕のようなんだけど、彼に憑依してこの星の存在として生きようと思ったらしいんだ。

だけど、ここでタイマーみたいなのを使ったんだ。

それはさ、50年後に当時の記憶が蘇るようにして、ひとまずは彼として生きていくようにってセッティングだったんだ。


んで、そんな記憶が蘇ったとして、どうすれば良いと思う?


地球人として生きてきて、いきなり異星からの漂流で、精神体で憑依して救助を待って50年とかって記憶。

そんなの要らなかったと、当時の僕を責めても仕方が無いよね。

当時はまだ救助が来ると信じていたんだけど、よく考えたらパンピーな僕にそんな手間、する訳が無かったんだ。

だからすっぱりと諦めてこの星の存在になり切って生きて死ねば幸せだったのに、途中で変な記憶が蘇るからすっかり慌てる羽目になった。


本来ならやれていたはずの更なる記憶の封印も、この星の存在として50年も過ごして来たからすっかり使えなくなっていて、今更どうにもならない状態。

これを妄想と決め付けようにも色々な記憶がついでに浮かんできて、隠してある救命ポッドの位置まで思い出す始末。

んで先日、そこに行ってみたんだけど、手順を踏めば現れるんだよね。

まあ、元に戻しておいたんだけど。

でまぁ、これが妄想じゃないって事になったんだけど、だからと言ってどうしようも無い訳だよ。


アパートに戻って今までの事をつらつらと考えるんだけど、ぼっちだったのはこういう理由なのかとも思ったね。

異性に対してあんまり興味が持てなかったけど、そりゃ異星人と美的感覚が合うはずもない。

牛のオスが馬のメスに欲情するかどうかって、考えれば分かる話だ。

周囲の奴らとも色々と価値観が違っていたけど、それもそういう理由なら分からなくもない。


だけどさ、こんな記憶、要らなかったよ。


救助が来ないまま忘れられて消えるのなら、こんな記憶とか蘇らないほうが幸せだったんだなと思う。

当時の僕は自分の価値を高く見積もっていたけど、そんなのただの願望に過ぎなかったんだと今ならそう思える。

世間一般の存在が遭難したからと言って、わざわざ救助に来る訳が無い。

第一、そんな事をされたら後の支払いが大変な事になるじゃないか。

だから見捨てるのが最善って事になるんだけど、どうして救助が来るなんて思ったかな。


でもどうしよう。


この身体はもうじき朽ちるけど、そうなった時にどうすれば消えられるかって話だ。

聞くところによると、精神が朽ちた存在に対して、記憶の封印を施せば大気に溶けて消えるらしい。

だけど自意識があれば溶ける事無く、漂ったまま存在は継続していくらしい。

そうする存在も多く居るけど、大抵は人形のような存在に憑依して暮らしていたんだ。


いくら他の星に来たからと言って、この星の流儀で消えられるとは限らない。

なまじ変な記憶があるせいで、自然に消えられる自信すら無い状態だ。

身体が死んで精神も同時に滅びるならそれで構わないと思っているけど、そうじゃ無かった時にどうすれば良いのか。

他の存在の身体に潜り込むにしても、その手順すら忘れているようではどうにもならない。


本当に要らなかったよ、こんな記憶。


忘れたままで彷徨い、大気に薄れて消えたほうが幸せだったのに。

なまじ知っていれば存在は崩壊しないけど、知らなければいずれ崩壊してしまう。

だから忘れたままで崩壊になったほうが良かったのに。


何とか思い出したいね、記憶の封印の仕方を。

そうしてこの星の存在として朽ちて崩壊して消えたいんだ。

もう、時の猶予は余り無いけど、何とかならないものかな。


でもさ、真の願いは元の星に戻る事なんだ。

あんな朽ちた星でも故郷なんだし、生命体じゃなくても身体には違いない。

この星の感覚から言うと人形みたいなものだけど、それに憑依している状態を生きていると表現するのがあの星の流儀。


それにしても、この星の感覚で考えると変な星ではあるんだよな。

産まれてすぐに人形みたいな存在に憑依して生きていく。

そして身体が朽ちたら新しい身体に憑依し直して、精神が朽ちるまで数千年生きるのが普通だと思い込んでいた。

だけどもうあの星の感性には戻れないのかも知れない。

だって本当に歪な世界の話に思えるから。


僕は現在、何星人なんだろうね。


この星にも馴染めず、故郷の星にも馴染めない。

こんな中途半端な事になるのなら、そのまま消えたかったよ。

故郷で800年過ぎて、退屈の余りに無謀な事をやらかした結末はとても愚かな結果になった。


これだけでも後輩達に伝えたい。


そして誰か僕を消滅させて欲しい。

この身体が朽ちる前か、その後に。



後悔ばかりはしていられないと、前向きに考える事にした。

とりあえずは救命ポッドの中のあれこれに、何かのヒントはないかと探してみた。


『遭難マニュアル』


こんなのがあったのか、知らなかったな。


ええと……ああ、なんとか読めるな。

かつて使っていた言語だけに、記憶が蘇った今なら何とか読めるけど、50年ぶりに読む故郷の言語は最初は少しとまどった。

図らずもバイリンガルになった僕だけど、使い道が無いのがなんだよな。


ともあれ、内容を見てみよう。


ああ、そうか、そうだったな。


現地の存在への憑依方法が書いてある。

知性の無い存在への憑依方法とか、動物への仮憑依の方法とか、確かに読めば納得できる。


さて、どうするかな。


憑依方法は思い出したものの、この法治国家での憑依は中々に難しい。

確かにこの身体はもうじき朽ちるけど、だからと言って往来での憑依は難易度が高い。


しかも、新たなる生活環境に慣れる必要があるうえに、元の存在とあまりにもかけ離れていると何かの病気扱いにされそうだ。

となると芝居の必要があるんだけど、あんまり幼い身体では芝居が大変そうだ。


だけどこの星の生命体の寿命は短く、50年ごとに交換しないといけなさそうで、そうなると次の憑依のことも考えて、それなりの家のほうが良さそうだ。


確かに浮浪者に憑依なら簡単にやれそうだけど、そのまま浮浪者暮らしなどやりたくもない。

現在の資産は多少あるものの、このまま憑依したのではそれが無駄になる。


さて、現金化して隠しておくか。



とりあえずの目星が付いたので、財産を全て現金にして救命ポッドの中に入れておく。

まあついでに裏社会の金貸しから可能な限りは借りたけど、もうじきこの身体とおさらばするのだから、葬式の会場で好きに騒げばいいさ。


いやはや、かつては両親への想いも多少はありはしたが、記憶が蘇った今となっては綺麗サッパリ霧散したようだ。


所詮は育ての親だしな。


確かに身体は実子でも、その中身は異星人だ。

その記憶が蘇り、また憑依方法も思い出した今となっては、未練の欠片もありはしない。


とりあえずは家賃未納で放置して、家の中で離脱する。

そうすれば餓死か病気かで死んだと思われるだろうから、そのまま葬式になるだろう。

かつては幼子だった憑依体も、すっかり老齢になったものだな。

本当にこの星の住民は短命なのだな。


さて、行こうか。



かつての存在の葬式に出る為に、母親は故郷の土を踏む。

それに連れられたぼくも、そ知らぬ振りをして同行している。


そう、かつての存在の妹の子に憑依したのだ。


かつての存在でも幾度かは会った妹の子の存在は、懸念の親の性格の熟知と言う利点を鑑み、候補としては最適に思えた。

ちょうど長期休暇の頃にやったので、学校が休みになっていたのもあり、行きたいと言えば同行を許可してくれたのだ。


中学2年生。


来年には進学も考えないといけないが、三流高と言えどもかつては卒業した身。

確かに進学校は無理かも知れないけど、それなりの県立高校ならば合格する自信はそれなりにある。


親は葬式の後ですぐに戻るようになるものの、ぼくはしばらく滞在を希望した。

親は少しごねたものの、昔なら元服と言うぼくの懇願に折れたのか、いくつかの約束事と交換で滞在が可能になった。


・毎晩電話で声を聞かせる事。

・実家で寝泊まりする事。

・おじいさんとおばあさんの言う事を聞く事。

・お小遣いは無駄遣いしない事。

・夜は暗くなる前に家に戻る事。

・帰る時は直前に連絡すると共に、家の近くの駅に着いたら連絡する事。


ちょっと過保護じゃないのかな、うちの親。


確かに憑依存在に憑依した時、対象の精神を食って成り代わる際の記憶の統合でしばらくぼんやりしていたけど、だからと言って病院のはしごはやり過ぎだと思う。


ひとつの病院で異常無しと言われたら納得しろよな。



親が帰っての翌日、朝から出かけるとおばあさんに言い、電車やバスを乗り継いで救命ポッドのある村外れに行く。

旅行カバンの中にはかなりの額があるものの、全部持ち出すのは拙い。

さすがに中学生に数千万の金など、犯罪行為が疑われるからだ。


とりあえず500万だな。


イマドキの通信ツールであるところのスマホのアプリの中の、ネットバンクに入金しようとあちこちのコンビニで50万ずつ6軒で入金し、そのたびに何か買い物をしたので残金は190万ぐらいになっている。

本当はもっと入金したいのだけど、戻ったら欲しい品がある。


周辺機器の高いのをこっそり購入したいのだ。


それは145万の品であり、いわゆるVRゲーム機器の高級品と呼ばれるものだ。

スマホの充電も可能なそれは、スマホを差し込んでの課金も可能とするシステムを内蔵しており、それはそのままネットバンクからの引き落としとなる。


本当は無課金じゃないとやれない学生生活だけど、クラスの連中はお年玉はもとより、毎月の小遣いもつぎ込んでいると聞く。

本当ならぼくもそれをやりたいのだけど、生憎と親が煩いのだ。


お年玉は貯めておいてあげるからと言い、もらったら即座に渡さないといけない。

本当なら通帳と印鑑は欲しいところだけど、親が管理していて渡してくれないのだ。

小遣いも出納帳を付けろと言われ、余分な金は遣えそうにない。


だからこれは緊急避難になる。



おじいさんとおばあさんは引き止めてくれたけど、そろそろ帰ると家にも連絡をした。

帰省費用は出してやるとおじいさんに言われ、懇意の旅行代理店でいくつかの切符をもらったので、直接現金をもらったわけじゃない。


だからと言って土産を買わないわけにはいかない。


元々の小遣いは救命ポッドまでの交通費に消えたものの、それを使ったと言う名目でお菓子の土産をいくつか買った。

妹には貢がないと、最近どうにもよそよそしいのだ。

バレるはずはないと思うものの、かつてとは微妙に違う雰囲気。

それを成長期や反抗期などという話で両親は乗り切れたものの、そういうのに理解の無い妹は、自らの感性のみで判断するので、かつてとは異なる雰囲気で変だなと思っているのかも知れない。

それでもオカルトは嫌いみたいなので、憑依とは気付かないかも知れないな。


まあ、何とかするしかあるまい。



夏休み後半、妹の宿題なんかも見てやりつつも、妹の悩みを聞く。


どうやらよそよそしい理由が分かった。


4つ違いの妹が、少女から女になったからだった。

道理で祝日でもないのに、赤飯の日があったと思ったよ。

あれからなので、恐らく間違いあるまい。


そして悩みはクラスの男子の事。


いやらしい目で見られるのが困ると言う話。

確かに妹は小学生にはあるまじきでかい胸なので、そういう被害に遭うのも判らなくはない。


とりあえずいやらしい目で見られるのは防げないかも知れないけど、それがエスカレートした場合の用心の為に、防犯ブザーを買って渡しておいた。

最初にちょっとした接触で音を出してやれと言い、それで脅してやればいやらしい目も止まるかも知れないと告げたのだ。


妹の表情はそれで明るくなり、やってみると言っていた。


まあ、小学生のタッチならからかい半分だろうけど、それででかい音がすればかなりの影響だろう。

下手をすると同じクラスの女子の必需品になったりすれば、その手のハラスメントは全くやれなくなるに違いない。


人は慣れる生き物なので、軽いハラスメントを我慢していると知らずエスカレートするものだ。

だけど尻を触られてはブザー、スカートめくりでブザーとやっていれば、クラスの男子はかなりの抑圧になるだろう。

だけどそんなのは知った事ではないので、精々他の存在へのアタックで性犯罪者にでもなってしまえばいい。


そうすればヤバそうなのが抜けて、それなりのが残ればまだましだろう。


義務教育の弊害で、どんな犯罪者予備軍も義務として正常な者達と共に学ぶ事になっているからだ。

そういう輩を放置すれば、いずれは何かしらの犯罪を犯すだろうから、今の内に煽って脅して鬱憤を溜め、そこいらの存在への犯罪を誘発させればいい。


そうして転校なり服役なりすればいい。


所詮は他人の未来なので、どんな結果になったとしてもぼくには関係が無いからだ。



思惑通りにクラスの女子の必需品となったようで、いやらしい目も止まったらしい。

なんせそんな目で見られたと、授業中にも関わらずにブザーを鳴らした女子が居たらしく、その場で先生に訴えたらしい。


そういうのが何度かあり、すっかり折れたクラスの男子は、女子を腫れ物か何かのように扱うようになり、うっかり接触でもした日には、平謝りになっているらしい。

そうすると図に乗るのが人間なのだが、妹にはやり過ぎには注意しろと伝えておく。


そうしないと男子を下僕にしかねないからな。


とりあえず家族が災いに巻き込まれないのなら、他の存在がどうなっても構わないので、エスカレートしないように注意はするものの、他の女子への警告は控えさせた。


あんまりやると男子の反撃がヤバくなるけど、そういうのは自分で気付く事であり、下手に言うと苛めに発展するかも知れないと言うと、黙っていると言っていたので無難に過ごせるはずだ。


発端は妹なので、逆恨みの可能性があるからだ。



寒い時期となり、また次の年が近付いてくる。


またもやもらった金を親に渡す行事が始まりそうだけど、もう諦めているのでそのまま渡すつもりだ。


金の無い頃の収入を親に取られるのでは、働き出した頃にもらっても仕方が無い。


まあ、ぼくにはへそくりがあるので問題無いので、足りない小遣いの補填は随時やっている。

もちろん妹も足りないと言っては親にねだっているけど、そうそう何度もはやれないらしく、時々小遣いを回している。


そのせいか、微細な雰囲気の違いは気付かれないまま、すっかり兄妹の関係の中にある。


実はアルバイトをやったという触れ込みで、タンス貯金ならぬ机貯金を持っている。

現実にアルバイトはやったので、それを水増ししただけだ。


5万の給与を8万にしたり、10万の給与を15万にしたり、もちろん実際にやったアルバイトは数ヶ月に留まるけど、それから先の時間を自由に使い、それをアルバイトと思わせての収入の額を出納帳に付け、そのまま机貯金になっている。


だけど、そいつを親に盗まれた。



貯めておいてやったと言われ、机の中から持ち出したのだ。


事前の通告無しのそれは、窃盗と何も変わりはしない。

実際、小学の頃からの収入は、貯めておくという話で搾取され続けているものの、その通帳など見た事もない。

なので本当に貯金しているかは分からず、いくら渡したのかは一応帳面に付けてはいるものの、成人になって請求してみても、戻るかどうかは定かじゃない。


用心の為に金は分けてあったので、机の中の端数が消えたものの、そういう事なら金の管理はもっと厳重にしないとな。


去年の教科書の中に1枚ずつ、45ヶ所に分けて万札を挟み、そのまま押し入れの中のダンボールの中に収めておく。

本当はネットバンクがあるから現金は必要無いのだが、近所の駄菓子屋では使えないのだ。


え、ネットバンク引き落とし? 

そんなのないない。

うちは現金商売だ。


そう言われたら仕方無いよな。


まあ、コンビニという手もありはするが、そこでのアルバイトの経験もあるので、店長から親にバレる可能性もあり、給与の水増しがバレると拙いのと、よく買い物をしているという話をされての金遣いの荒さから、余計な疑惑は困るのだ。


なので裏路地の小さな駄菓子屋を使う。


まあ、後数年の我慢だな。



新年のお年玉という世間とは反対の、親に金を渡す行事も終わった。


母親はまたぞろ実家に戻ると言われたけど、今度は残留を希望した。

妹はおじいさんとおばあさんに懇願されているとかで、顔を見せる必要があるらしいけど、去年の夏に顔を見せているぼくは、残留でも構わないらしい。


なので戻ったら既に祖父母からもらったはずの金は両親のものとなり、言葉のみでの貯金の話をされたので、そのままスルーしておいた。

ちなみに妹はそれに酷く反対して、机貯金になっているらしい。


実際、家出騒ぎにもなったし。


まあその分、ぼくの収入が親に渡っているので、妹は自由にやっているみたいだ。

なんせアルバイトの金も渡しているからな。


もちろん水増しは無しだ。



いよいよ受験の年だと言われ、勉強三昧の日々となる。


確かにテストは半分ぐらいしか正解を書かないので、県立が危ぶまれる事もあり、休日も勉強しろと喧しい。

なので図書館に通う習慣として、休日の外出の機会を捻出する。


実はさ、そろそろ救命ポッドを処分しようと思うのさ。


でもそこらに捨てる訳じゃない。


緊急避難対策として、地中深く送り込む手法があり、現地の住民に悪影響が出ないようにする為に、マントル層まで潜らせて、そのまま高熱で溶かして処分する方法を実行しようと思うからだ。


本当は成人まで放置の予定だったけど、近くで高速道路の工事が始まるらしいのだ。

それが救命ポッドの直近を通るらしく、数年後には立ち入り禁止になる可能性が出て来たのだ。


なので仕方が無い。


異星の残留物などと言われては、不必要に世間を騒がせる事にもなり、綿密に調べられたら、本星の位置すらバレかねない。

もちろんこの世界の科学力では到達出来ないので当分心配は無いだろうけど、どんな事がブレイクスルーするか分からない科学世界なので、余計な情報は与えたくない。


下手をすると放射性物質を投棄する為の目標星に指定されたりして。


何をするか分からないこの星の住民なので、侵略の尖兵の乗り物とか言われ、その報復にあり余る核兵器を投棄を名目に、送り出さないという保障も無い。


故郷に錦は飾れないけど、放射性物質は困るからな。



良心的な弁護士というのも探すのには苦労するが、小さな事で試せばその信頼度は判るものだ。

親に内緒にしてくれと、宝くじが当たったと告げ、内緒にしたいから田舎の土地を100万円で買ってその登記と書類を預かって欲しいと告げた。


そうして何度か親に連絡され、そのたびに金は没収となりはしたものの、遂には内緒にしてくれる弁護士を発見し、追加の金を渡して小さな住まいの建築を依頼しておく。


妙にカンが優れていると、宝くじの代理購入もさせられたけど、タネが無いのだから当たるはずもなし。

ぼくは単にかつての生での金を少しずつ出しているに過ぎないのだから。


結局、400万は親に取られたものの、田舎にそれなりの小屋は完成した。

預かり証と引き換えの登記証は、現在弁護士の手にある。

高校を卒業したらそこの市への就職として、そこに住まうつもりだ。


親は大学に行けと言うが、小屋から遠いので却下の予定だ。



どうしても大学に行けと言う親。


就学中に成人になると言うのに、そこまで親に従わないといけないのか。

憑依先を安易に決めたのは失敗だったかな。


まあ、何とかするしかあるまい。


何度もやると怪しまれるけど、ナンバーズで当選したという触れ込みで、ネットバンクの金を表沙汰にする事にした。

それと言うのも、貯めておいてやると言う親の言い分なら、既にバンクにある金は渡す理由が無いからだ。


親に残高を見せる。


途端に下ろせと言い、ちゃんとした銀行じゃないと心配と、訳の分からない理由を付けた。

大手の銀行のネット版なので、ネット銀行と言えども通帳も印鑑もある。

なのでそれを預かってやると言い出した。


お前ら、いい加減にしろよ。


放浪民族じゃあるまいに、この法治国家の世の中で、家の中にある通帳と印鑑を探しての家捜しとか、やる者は親しか居ないと思われるのに、用心が悪いなどと言われても、そんなに治安が悪いのかと言いたくなる。


子供部屋のタンスの上の通帳とか、コタツの延長足の中の印鑑とか、そこまでの家捜しなど、知っていなければやるはずもなし。


まあ、そいつはダミーだけどな。


やれやれ、印鑑と通帳が消えており、ダミーの預金も消えていた。

まあ、500万の預金だったので、消えても特には困らないものの、そこまでして子の資産を管理したいという、ここの親にはいい加減、愛想が尽きた。


スマホ経由のネットバンクの中には、まだ数千万の金はあるものの、そいつは絶対にバレる訳にはいかない。


いやね、バレると犯罪なのよ。


やった事は大した事じゃないものの、普通の存在ではやれそうにない事。

つまりね、金持ちに憑依して金を下ろし、そいつをコインロッカーに入れた後に憑依を解いて、その鍵で金を抜いただけなのだ。


本人は眠っているようなものだけど、夢でも見たかも知れない。

まあ、現物の鍵が無ければ、金が減っていたとしてもどうしようもあるまいが、それと同額が入金されていた事実が判れば、窃盗の疑いを掛けられるかも知れない。

だけどね、北海道の金持ちから近所の自宅警備の奴に金が渡り、そいつが都会に出た後にコインロッカーに金を入れ、そこから抜いた額は豪遊した記憶を持たせれば、うやむやになりそうだろ。


まあ実際、あぶく銭という認識になっているので、本人は何かのギャンブルでの大当たりのつもりで、都会に出て豪遊のつもりでの旅行の中で、何かしら楽しんだという記憶があれば、あらかた消えていても後悔はしても諦めるしかないだろう。


まあ、それで金が尽きてギャンブル狂いになるかも知れないけど、多少の報酬は渡したから文句は言わせないさ。



やれやれ、いよいよ大学生か。


学費は出してやるが、生活費は自分で稼げと言われて現在に到る。

だけど入学式は欠席、そのまま講義も欠席で、自然退学になるだろうな。


親に言われたままの生活も終わりだ。


田舎の小屋住まいの中、VRゲームに明け暮れる。

資金は残り7800万なので、無くなるまで自由に過ごせるだろう。

近隣のコンビニで預金を時々下ろし、小さな裏庭の片隅の地中の金庫の中に足していく。


大した事をやった訳じゃない。


ダミーの排水用の石の箱を埋めて、あたかも雨水の為のものと思わせてそれを金庫代わりにしただけだ。

まあ実際に雨が入るので中は水浸しになるだろうけど、札の入る密閉容器をいくつか購入し、中に落とし込んでいるので問題は無い。

そうして水が溢れないように、雨の後は水をくみ出しているので、今のところは溢れてはいない。


まあ、庭石をその上に置いてあるので、余り溜まりはしないけど。



勘当だそうだ。


その時に預かっていた金の話をしたが、養育費だと言って返してくれなかった。

なんだ、最初から盗るつもりだったのか。


そうじゃないかと思ったよ。


まあいい、これでひとまずは自由なので、

朽ちるまで生きていくとするか。

妹とも縁は切れたが、連絡先は教えておいた。


そうしたら高校卒業後、妹が尋ねて来た。


どうやら家を出たらしい。


妹はVRゲームに熱中しており、親がそれを止めろと何度も言い、嫌になったとの話だけど、ぼくに依存されても困るんだけどな。

そんなの依存先が変わっただけで、やっている事は変わらないじゃないか。


そうして食費が2倍となり、預金の減りが早くなった。


あんまり課金するなよな。



銭湯が遠いから内風呂が欲しいと言われ、増築工事をする事になる。

小屋とは言ってもそれなりの広さがあるので、寝る場所に苦労はしないものの、トイレしか無い暮らしは我慢できないらしく、何かと金が掛かるようになった。


えー、システムキッチン? 冗談だろ。


料理をするからという触れ込みで、システムキッチンの増設となる。

やれやれ、既に縁の切れた妹なのに、どうしてここまでしないといけないのか。

かくして、風呂とキッチンが増設されたものの、妹の料理は食えたものじゃなかった。

結局はぼくが使う事になるようだ。


えー、献立? 勘弁してくれよ。


どうにも主夫な生活になっているが、縁が切れたと言っても血の繋がった妹なので、進展は全く無い。

そればかりか最近では召使いのように扱われ、次第に嫌気が差してきた。


どうしてこうなった。



庭の隠し金が3000万になった頃、遂にネットバンクの残高が怪しくなる。


妹もアルバイトをしてくれと言うものの、お兄ちゃんの稼ぎがあるからとやりそうにない。

とことんまですねをかじるつもりかよ。

親のすねを嫌がってぼくのすねになっただけとか、もう縁の切れた妹なのにまだまだ尽くされないといけないのか。


ホントは好きな子がいたけど、ブザーのせいで振られたと言われても、そもそもはお前の悩みに対してのアドバイスであり、喜んで採用したのは自分だろう。

なのにそれを迷惑と言われ、それで結婚できない理由とされ、損害賠償みたいにぼくから金をせびっての悠々自適な暮らしとか、いい加減に愛想が尽きた。


妹は風俗に永久就職した。


家の借金返済の為だと、オーナーにお願いして生涯契約にしてもらい、その金をぼくの口座に振り込ませたからだ。

もちろん憑依しての事だけど、記憶を少しいじってやったので、自分の借金の返済の為に思い切ったつもりになっており、そのまま就職になりそうだ。

まあ、組織に飼われて売春をやってれば、もうそのまま継続にするしかあるまい。


さらばだ、妹よ。



小屋は近所の人に買い取ってもらい、荷物もあらかた処分した。

リュックサックに全ての金を収め、放浪の旅に出る事にした。

まあ、妹から逃げる為なのは明白だけど、バンクの金も下ろしたし小屋も売ったから連絡の取りようも無かろう。


ちなみに小屋はかなりの高額で売れました。


もちろん憑依しての取引なので、本人の意思はともかく書類は正式なしろものだ。

だからうっかり訴えもやれないはずで、やりたいならその手の疾患の疑いは掛かるものと覚悟してくれよ。


老人だしな。


結局、また7800万か。


全国の高級旅館のはしごって手もあるな。

北海道から全国観光巡りでもするかと、まずは旅客機で札幌に向かう。

そこからススキノやら時計台やらを巡り、高級旅館やホテルをはしごする。


なんせ金はまだまだあるのだ。



北海道の名所巡りも終わり、いよいよ本州に戻る事になる。

新山や畑巡りもいい加減飽きていたので、牧場を最後に本州に渡る事にした。


なんせこれから寒くなるんだしな。


初夏から初秋までを過ごした北海道に別れを告げ、いよいよ青森に到着する。

恐れる山に同類がいるかと思ったけど、何も出なくて拍子抜けした。

居たら憑依のコツを教えてやったのにな。

一時は忘れていたものの、800年の憑依経験はそこらの死にたての幽霊さんよりは経験が深い。

だから居たら自縛の解き方から始まり、取り殺さないタイプの憑依の方法とか、記憶の引き継ぎのちょっとしたコツなんかを教えてやろうと思っていたのに、全然居なくて残念だったな。


まあ、強制憑依解除という技を持っているので、盗り殺すタイプの憑依を剥がせはするが、そんな需要があれば良いがな。


やる事は簡単だ。


何かで叩けば良いだけだ。


まあ、精神力を込める必要があるので、そういう力の使い方を知らない人がやっても、単なる冷やかしで終わるだけだけど。


禅寺で使うような、平たい板を用意した。


そいつを持ち歩き、ヤバいタイプの憑依を見つけたら、叩いて逃げようと思っている。

それはつまり、悪徳同業者の排除という本来の目的を隠し、ぼくの憑依人生を安全足らしめる意味がある。


ある旅館の女将に変なのが憑いており、話のついでに聞いてみたところ、最近どうにも肩が重いと言われ、ならばと精神の力を板に込めて、掛け声と共に肩を叩く。


よし、浄化完了だ。


軽くなったと言われて宿代が割引になった。


商売になりそうだな。



観光巡りのさなか、どこから聞きつけたのか除霊の指名依頼が来た。

誰に頼んでも無理だったと言われ、藁をも縋る思いのようだ。


連れられて行ってみると、確かに何か居るようだ。


おや、同業者……と言うか、同星人かな?


もう記憶は無いみたいだけど、現地語で何やら呟いている。


帰りたい……奇妙な住民……どうしてこんな事に……ああ、憧れの故郷……。


うん、それはぼくも最初は思ったけど、もう諦めたからさ。


とりあえずは強制憑依解除を試みるか。


バシッと叩けば剥げたものの、込めた精神の力が多すぎたのか、そのまま人格が崩壊しちまった。

もったいないから吸収しちまおうか。


ごちそうさま。


消えたあいつの救命ポッドは既に朽ちて証拠隠滅プロセスがやれなくなっており、仕方が無いので手動分解プロセスに則って小分けにした後、予備燃料で焼却して土に埋めておいた。


どうやらぼくの前にもこの星に来た人が居たようだ。


吸収した僅かな記憶の断片からしてみると、どうやら江戸時代かと思われる。


そりゃ嫌だろうな、そんな時代とか。



あの一件からその手の専門家のお墨付きを得たようで、観光の合間にその手の依頼が来るようになった。

いずれも金持ち関連なのは、それだけ人に恨まれているからなのかも知れない。


まあ、金になるなら構わんよ。


どうせ余分に精神の力を注ぐので、大抵崩壊しておやつになるんだし、そいつを得ていれば長生きもするとなると、やらない理由にはならない。

旅行をしているうちにマンションが手に入ったので、新しい住処はそこに決めた。


つまり、出る、安い、買う、なのだ。


もちろん、その日に除霊したよ。


なのでお買い得物件になったのでした。


自縛の解き方を教えてやったのに、ぼくに憑依しようとするからさ、退治したのが実際のところだ。

ここはぼくが入っているんだから、諦めてと言ったのに。

精神体での攻撃は、さすがに耐えられなかったらしい。

まあ、本星800年の経験は伊達じゃないしね。


そこいらの新米には負けないさ。



テレビ局の人間が来た。


ギャラをはずむからテレビに出ろと言われたが、そういうのは偽者が宣伝の為に出るようなものなので、ぼくには出る理由が無い。

それにあれは食事も兼ねているので、大っぴらにはしたくないのだ。

そうしたら偽者って噂を流すと脅し、それでも断ったら本当に流しやがった。


全国生放送でお邪魔しまーす、なんてね。


やったのはただ、精神体でそこいらをうろつき、放送可能な濃度に時々していただけだ。

なので時々半透明な存在がうろつく、変わった生放送になったはずだ。


しかもそれが除霊の実演って番組なのに、ぼくの存在を誰も言及しないんだ。

それで現地のだれだれさんって夜中の神社のロケとかやっている癖に、番組中の半透明な存在を誰も気付かないと、ヤラセ100パーセントなエセ番組として、逆の意味で視聴率が伸びたらしい。


まあ、出演者の霊能力者は全員、ガセ扱いされたけどな。


まあ、目の前で手を振って、それを無視するような言動をするんだから、それを見た視聴者は偽者と思うだけだ。


ある霊能力者がテレビ局を訴えたとか。


録画していたのかな。


だからそれを見てテレビ局の陰謀と思ったのかも知れないけど、無断出演だから単なる濡れ衣だぞ。


まあ、言わないけどな。



うっかり鍵を開けたまま寝ていたら、泥棒さんが入ってきた。


昼間だから留守だと思ったのかな。


既に何件かやらかしたみたいで、意外と金を持っていた。

まあ、憑依して自発的に身包みを剥いだ状態にして、そのまま表を走ったんだ。


他人の身体でやるストリートキングが意外と楽しくて、商店街を練り歩いていたらお巡りさんに捕まった。

なので遊びは終わりと抜けた途端、やたら騒ぎ出した。


まあ、知った事では無いけどさ、夜のニュースのネタになっちまいな。


臨時収入の650万はありがたいので、今日はうな丼の出前でも取るかな。


ありがたや、ありがたや。



治安が悪いのかな、この辺り。


コンビニに入ったら強盗がやって来たので、立ち読みの振りして憑依してトイレと思わせて汚物入れの裏に全財産を置き、そのまま出てしばらくして解除して、ぼーっとなっているうちにトイレに入り、置いた金を回収して再度の憑依。


味をしめたストリートキングと言われそうだけど、表でまたしても服を脱ぐ。

いやね、武器を隠しているといけないので、完全なる武装解除のつもりなんだけど、やっぱり癖になっちゃったのかな。


ほどなく強盗は、わいせつ物陳列罪の容疑で緊急逮捕され、余罪の強盗容疑も叩かれるだろう。


強盗が居なくなるまでトイレに隠れていたという言い訳は通ったものの、トイレに行きたかったらしい人から少し睨まれた。


ごめんね。


またしても臨時収入だったけど、コンビニの金もあるだろうから他のコンビニで買い物をした。


ちょっと贅沢な夜食となり、強盗さんに感謝したのは言うまでもない。



本当に治安が悪いのかな。


今度は銀行強盗だとかで、6人の強盗が銀行に立て篭もり、大金庫から金は出したものの、人質と引き換えの逃走のあれこれを交渉している様子。


まずは金を持っている奴からだな。


深夜のトイレの窓から、紙袋に入れた札束を落としていく。

もちろん下ではぼくが待機して、カバンの中に入れていく。

ここいらの警備の人に既に憑依して、他に行かせたから問題無い。

リーダーにバレないようにしろよ。


そいつからあらかた回収し、他の奴にもトイレに行かせて回収する。

まあ、回収と言っても銀行に戻さないので、上前を跳ねると言うべきかな。


通し番号でもさ、自動両替機を使えば良いんだよ。

癒着の賭博の会場ならさ、あちこちにあるだろう?

そこで球やらコインにしてさ、換金すれば良いだけさ。


等価交換ってロンダリングには便利だね。



出先で宿を使っての賭博会場巡りも終わり、あらかたの金はロンダリングできた。

もちろん実行者は宿の従業員なので、監視カメラに写っても問題は無い。


実は、巷の暇人にしようかと思っていたのに、留守の間に荷物の位置が変わっており、中に入れておいた10万円が消えていたんだ。


そのまま抜けて監視をした結果、犯人を見つけたのでそのまま実行者になってもらった。

バイト代は先に抜いた君だからさ、そのまま実行者になってくれるよね。


てな訳でリュックの中の大量の通しナンバーの札は、バイトをさぼった彼によって成し遂げられ、夜中にクビになった宿に潜り込み、ぼくの部屋に置いて外に出て、そのまま公園に向かってベンチで憑依を解いたんだ。


それからバイトの彼と女将とのやり取りがあったようだけど、無断欠勤でのクビなので元には戻らなかったみたいだ。

手癖が悪いのでクビは正解だよ、女将さん。


さて、帰ろうかな。



またしても悠々自適の生活となり、ぼくはのんびりと暮らしている。


生活資金には不足はなく、出前な日々でも問題はない。


それにしても、記憶が戻ってからというもの、本当にこの世界の倫理に囚われなくなったな。


バレなければ犯罪じゃないとか、かつての人生では考えられないけど、こういう性格になったのも、かつての記憶が戻ったせいだと思うので、このまま精神が朽ちるまで面白おかしく暮らしていこう。


さて、今日は何をするかな。


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