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土星行き最終便は何時ですか

作者: とろろ

ど田舎の日々はゆっくりと過ぎる。

夕方5時の帰り道は学生と近所のお年寄りに少しすれ違うだけ。

ドラッグストアで100円しないカップ麺とビールと、その食べ合わせの罪悪感を軽減する袋野菜を買う。

袋のまま野菜を電子レンジに投げ込み、電気ポットでお湯を沸かす。

ビールは缶のまま。

普段はあまり飲まないから、発泡酒なんてケチなことはしない。カップ麺は100円だけど。

録画したバラエティーを流しながら、カップ麺に野菜を投入。

野菜だけ先に食べる。ささやかな抵抗でも、しないよりましだと自分に言い聞かせた。

食事は5分もかからず終わった。

パソコンを立ち上げて、途中まで見た海外ドラマの続きを見る。

ゾンビって、銃じゃ死なないのかと思って、そもそも死んでるんだったと思い直す。

2話見て、シャワーを浴びる。髪もろくに乾かさずに寝た。

どうせ明日は休みだった。


平和で無刺激な日々。

多少の波はありつつも、ずっと続くと思っていた。

アレが来るまでは。


春もだいぶ夏に近づいていて、暑さに目を覚ました。

携帯を見る。10:58。

午前中は大体終わっている。いつもの休日だった。

昨日乾かさずに寝たせいで寝癖がひどい。

おざなりに顔を洗って、少し目を覚ます。

さて何を食べようかと、リビングにつながるドアを開けた。

「あ、起きたかい? おはよう」

「は?」

アラブの貴族みたいな服を着た男が堂々とテレビを見ながらトーストを齧っていた。

どうりで美味そうな匂いがすると思った。

君の分も焼いておいた、と言う男を無視して携帯のロックを外す。

「あ、警察ですか? 起きたら家に不審者が……」

「ちょっと待ちたまえよ!!!」

さっきまでの優雅な態度をかなぐり捨てた男に携帯を奪われる。

しまった。逃げるのが先だったか。でも、こんな半分裸みたいな恰好で外に出るのは躊躇われる。

男の方を窺うと奪った携帯を持ってあたふたしている。警察の人の声が、かすかに聞こえていた。

こちらを見た男は涙目で言った。

「これはどうやって切るんだい?」

途方に暮れる男の手から携帯を奪い返す。

「出てけ。変態野郎」

人の尻を蹴るという行為を人生で初めて経験した。


冷静さを装えた割にどくどくとうるさい心臓を抑えながらグラスに牛乳を注ぐ。

まったく、土曜の朝から犯罪の被害に遭うなんてついていない。

不審者情報として後で警察に届けるべきだろうか。

冷たい牛乳を一気に飲み干して、ようやく人心地ついたときだった。

「いきなり蹴りだすとは酷いじゃないか」

目の前の壁にアラブ貴族。

そのまま壁をすり抜けた男は、サビの浮くワークトップに腰を掛けて優雅に足を組んだ。

「私はこれでも名のある土星人なのだよ」

どうでもいいが、土星人は壁抜けの術が使えるらしい。


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